ポルシェ タイカン クロスツーリスモがトップギアのエレクトリックアワード最優秀賞に選ばれた理由

ラリーカーの下で飛び跳ねている砂利の音を、どう表現すればいいだろうか? チリンチリン?ガタガタ?バタバタ?

猛烈なリアブレーキの4ポットの音の壁に隠れ、ノイズはほとんどない。ソフトで穏やかな音しか聞こえないのだ。そして、背後からすさまじいガソリンエンジンの咆哮が聞こえてくることもない。ポルシェ タイカン クロスツーリスモの走りは、勢いがよく、激しく降りしきる雹の嵐に遭遇するようなものだ。爆撃と言ってもいい。弾幕のようだ。マシンガンさながらである。これは、全部私が言ったことで、ビデオグラファーのクリスは、エンドウ豆大の石が、ドロップショットのような勢いで後頭部に当たった衝撃で何も言えなかった。石は、その後、彼の足元に落ちていく。

グラベルは脅威である。一面に広がる砂利が、弾丸のように飛び散る。砂利が、このクルマの1,050Nmものトルクではじき飛ばされると、一瞬にして凶器となる。弾道学のエキスパートにとっては、格好の研究材料となるだろう。スタッフには、爆弾処理用の服を着せるべきだったかも。

だが、このクロスツーリスモにはグラベルモードがある。このモードにすると、エアサスを搭載した車高が30mm持ち上がって、トルクやアクセルのレスポンスが路面の状況にふさわしいものとなる。ポルシェの言葉を借りれば、「悪路走破性の向上」をもたらすものなのだ。ポルシェはこう言っているが、私が考える悪路への適応性と、ポルシェが想定しているものが同じとは思えない。1,161ポンド(17.5万円)のオフロードデザインパッケージを選択すると、ホイールの前後に小さな泥よけが付く。我々は、このパッケージ装備車をテストに使用した。もし、みなさんが同じことをしようと思うなら、付けられるプロテクターは、すべて付けた方がいい。

それでも、このオプションを選択する人は少ないだろう。我々は、以前、タイカンをドライブしたことがある。だからこそ、このオプションを装着したのだ。その理由の主なものは、警戒心を抱かせるほど、このクルマは、スタンダードのタイカンとほとんど変わらないからである。同じモーターが使われているのでパワーは同じだし、同じ93kWhのバッテリーを搭載している。シャシーやオプションも同じ。このターボ Sを頂点とする4つの強力なラインナップも同じ。同じアダプティブエアサスペンションを装備しており、駆動方式も同じ4WDである。変わった点は、新造されたホイールマウントとストラットサポート、そして、自動水平システムが見直されたことである。また、ボディにクラッディングが施され、後部の荷物スペースも広がっている。

「このクルマは明らかに元の部品の合計以上の価値を持つもののひとつである」

私は、ポルシェが、アウディA4 オールロードクワトロの良さをこのクルマにも受け継がせることを期待していた。言わずもがなだが、天井を高くして、荷物スペースがさらに大きくなった。だが、それ以上に進化を遂げているのだ。このクルマは、この1年に発売された中で最高のEVである。

もちろん、最上位車種であるターボ Sは、この1年で発売されたEVの中で、最も高価なものであるから、それを考慮すれば、最高のEVというのも納得がいく。とはいえ、実際には、このクルマが一番の売れ筋とはならないだろう。その意味では、約1,450万円の4Sが自分のおすすめだ。もっとスポーティで、低く構えた兄弟車と共通のパーツを拝借しているにもかかわらず、このクルマは明らかに元の部品の合計以上の価値を持つもののひとつである。

乗り心地は流麗であるとか美しいと表現するのが的確で、最高だ。誰が乗っても、最高以上の出来だと感じるだろう。ロールス・ロイスやベントレーと同じように、ソフトなモードでは、車重が気になることはない。スプリングは、路面の凹凸を完璧に吸収することができる。まるで、宙に浮かんでいるかのようだ。路面に起伏があっても、サスペンションがすべてを吸収してくれるので、何事もなかったかのように走り続けることができる。これは、いろいろな意味で重要なことであり、このクルマの最も印象的な部分でもある。スタンダードのタイカンは、終始緊張感がある。このクルマは、リラックスしてドライブすることを知っているのだ。動力がモーターだから静かなわけではない。すべてが静かなのだ。ノイズや振動、ハーシュネスなど、すべてが聞こえてこない。唯一聞こえてくるのはタイヤの走行音である。このクルマは、非常に快適なのだ。

容易に、上手に速く、苦も無く走ることができる。同乗者がそうと意識することなく、高速で移動することができる。コーナリング時の吐き気もなく、車体のコントロールを失うことがない。何よりも驚くべきことは、すべてが非凡なのに、緊張感がないことだ。私は、このクルマほど、スピードと快適さを両立しているクルマを知らない。4人乗っても、こんなに速く、余裕を持って走れるクルマなど、他にない。騒々しいメルセデスAMG E63とは比べ物にならず、アウディ RS6やポルシェ パナメーラよりもはるかに優れている。

では、あの活発なV型8気筒エンジンが載っていないことは問題なのだろうか?私は、そうは思わない。私は、ポルシェの力強い推進力を感じさせる音が好きだ。だが、それ以上に、正確でレスポンスのいいアクセルを楽しんでいる。このクルマは、ドラマ性に乏しい。だが、本当にクロスツーリスモのようなクルマにドラマを求めているだろうか?

誤解しないでほしいのだが、ドラマ性に乏しいからと言って、このクルマがつまらないわけではない。ステアリング操作は面白いし、ストレートもいい。スピードを上げると、サスペンションがしっかりとさせれば、浮遊感が消えるのだ。すばやいコントロールが要求される場面でも、緊張感がなく、粗さもない。かなりの重量を持つクルマだが、その重量配分が考え抜かれているおかげである。電子制御装置が作動していることを感じさせない。4ドアのタイカンで攻め続けると、次第にグリップが弱まって、車体がよろめくことがある。すぐに修正されるが、そのときになって、車重がいかに負担となっているか、このクルマにどれほどの負荷がかかっているかが分かる。それをうまく曖昧にして、感じさせないようにしているのだ。

要するにこれは、どんなドライビングにも対応できて、どんな道でも走れる流線型の素晴らしいクルマなのである。とはいえ、何もかもうまくいくわけではない。すごすぎる加速が悩みの種となることだってある。強烈すぎて、ハンドルのコントロールを失ってしまうことがある。その間、同乗者は、しかめっ面で耐えなくてはならない。そんなときは、パワーバンドの中にゆっくりと入っていき、調和を取った方がよい。このクルマなら、ちょうどいい速度をキープすることが容易にできる。なにも最高出力が761psで、時速100kmに2.9秒で到達できるからと言って、その能力をフルで発揮しなければいけないことなどない。

それはあくまでも、それだけの能力があるというだけなのだ。ブレーキも、このクルマの能力に見合うだけのものが付いている。420mmのセラミックコンポジットブレーキディスクに、10ピストンのキャリパーを組み合わせた。現在のEVには、石油タンカーでも止められるほどのブレーキを付けるのがトレンドだ。ブレーキディスクが温まってくると、強くブレーキをかけられる。だが、そのためには実際にブレーキを使用しなければならないが、9割がた使ってはいない。その点、このクルマなら、0.39Gまで、モーターを使った回生ブレーキが効いてくれる。それでも、必ずブレーキペダルを踏む必要があるが、それはポルシェが、ワンペダル操作を信用し切ってはいないためである。

端的に言えば、このクルマは、速く、足回りがしっかりとした、スムーズで、静か、かつ、エランバレーの道を堪能できるものなのだ。

翌日、我々は、スイート ラム ラリー コンプレックスに参加した。そして、完全に驚かされたのである。普通の電動クロスオーバー車なら、ラリーのグラベルステージでこのクルマがやったような芸当はできないはずだ。それが、このクルマの特徴を如実に示していたのである。スタビリティコントロールが効かないので、ブレーキを踏んでスカンジナビアンフリックでコーナーに突っ込んでいくことができた。一見、滑っているように見えても、ピレリ P Zeroには恐ろしいほどのトラクションがかかっている。P Zeroといっても、マッドやグラベル用のタイヤではない。

「このクロスツーリスモは、本物のラリーカーに期待されるパフォーマンスを発揮していた」

EVの欠点は、どれだけ使っているのかが、なかなか分かりにくいこと。特に、ホイールがスピンしているときにはそうだ。ガソリン車であれば、トラクションがかかっているかを示す信号があるのですぐに分かる。このクルマだと、そうはいかない。それでも、クロスツーリスモは、そのような小さな例外を除いては、本物のラリーカーに期待されるパフォーマンスを発揮していた。

今回は、最高のテストとなった。言っておくけど、今回のようなテストはここでやったので、みなさんは同じことををやらなくていい。まずはバッテリーを満タンにして、1日好き放題に走り回ったのだ。その後、50kWの急速充電器がある、48km先のランドリンドッドウェルズまで、バッテリーの残量に気を使いながら走った。クラッディングについた刺し傷一つを除くと、ホイールに擦り傷ができた程度で、他に傷はなかった。1日中、激しくぶつけたり、スレートの破片が飛んできたり、タイヤが宙に浮いたり、ひどいダートでドリフトしたりしたにもかかわらずである。そして、その後、ランドリンドッドへと向かったのだが、その間は実際、最高のドライブとなった。ランドリンドッドに到着しても、20分ほど余裕があったので、あと160kmをきちんと走れるように充電したんだ。その走りは完璧で、必要とされるすべてのことに対してオーバーエンジニアリングされていることが感じられた。

それでは、実用的な部分について話そう。このクルマとうまくやっていくために必要なことである。420リットルある荷物スペースは深い。だが、開口部は、出っ張りがあって狭いのだ。テールゲートのスロープが邪魔になることと、開口部が高いところにあるせいで、犬を乗せるには優しくない。頭上スペースはスタンダードのタイカンより34mm高くなったことで、足元のスペースが狭くなったにもかかわらず、感覚的に2倍の広さとなっていて、世界観が大きく変わっている。ドライビングポジションやシート、ダッシュボードのレイアウトに欠点は見当たらない。魅力的で使いやすく、近年まれに見る出来の良さである。そして、運転席全体が最高のデザインだ。私は、汚れていない状態でも素晴らしいと思うが、汚れているとどうだろう?それが、もっとよく思えてくるんだから、不思議だよね。

航続距離は、正味320kmだと思う。できれば、私のようにバッテリーに関するトラブルを経験してほしくはない。私の家の充電器は、この車が到着する2日前に整備された。そのほかの手段では、トラブル続きだった。チッペンハムのIonityという充電サービスでは、数分間クルマを認識しない。また、ランドリンドッドのBP Pulseでは、私のクレジットカードを認識しなかった。

クロスツーリスモのグラベルモードのスイッチにを初めて見たとき、私はため息をついた。「これは、きっと、スタンダードタイプとは違うというところをオーナーに示すための社交辞令だ」と思っていたのである。だが、真実は隠れたところにあった。クロスツーリスモは、私が思っていたよりも、タイカンとは距離があり、より幅広い能力があるのだ。スタンダードタイプは、スポーツカーとしては素晴らしい。とはいえ、いかにも伝統的なスポーツカーなのだ。このクルマは、家族でアウトドアライフを満喫できるし、より静かに走れる。スタンダードタイプよりも広い視野を持ちながらも、スタンダードタイプの素晴らしいハンドリングを99%まで取り入れている。おかげで、スタンダードタイプではいけないところでも行ける。なんてすばらしいクルマなんだろう。トップギアのエレクトリックアワードの最優秀賞を獲得したのも、納得である。

スペック: ポルシェ タイカン クロスツーリスモ ターボ S 139,910ポンド(2,115万円)/テスト車両:164,452ポンド(2,480万円)/ツインeモーター/761ps/1,050Nm/4WD/リアアクスル2速/0-100km/h 2.9秒/最高速度 250km/h/2,320kg/93.4kWh/航続距離 388km

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