いいね!デザイン、広いスペースと快適性、すべてのバージョンで充実した装備
イマイチ運転しても楽しさはそこまでなく、あまり効率的でもないため、遅い方のバージョンを選ぶのがおすすめ
BYDが放つ、スポーティな電動クロスオーバークーペが、シーライオン 7だ。BYDは、中国市場で販売台数トップを誇る巨大EVメーカーであり、その勢いは欧州にも波及。テスラを筆頭とする既存勢力に挑戦状を叩きつける存在として、業界の注目を集めている。そのシーライオン 7に試乗する機会を得た。
BYDの国内導入第4弾となる電気自動車のクロスオーバーSUV、シーライオン 7は、昨年6月に国内販売を開始したBYD SEALをベースに設計されたSUVである。後輪駆動(RWD)と全輪駆動(AWD)の2グレードで展開される。価格は、BYD SEALION 7(RWD)が495万円、BYD SEALION 7 AWDが572万円だ。BYDは価格戦略が功を奏したブランドである。今回のシーライオン 7も、日本市場での5人乗りSUVの84.43%(約30万台)を占める最多レンジ、400-550万円の中にきっちりと納めてきた。CEV補助金は、どちらのモデルも35万円で、ここに東京都のCEV補助金45万円(給電機能有り)が付けば、実質415万円からと、さらにお得に購入可能ということで、勝算はある。ちなみに単純計算ではあるが、イギリスでは約46,000ポンド(870万円)からと、決して安くはない。
モーターに電力を供給するのは、BYDが誇るブレードバッテリー(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー)。総電力量は82.56kWh。耐熱性、過充電、衝撃、穿刺強度に優れ、4500回の急速充電後もSOC 80%を維持する優れたバッテリーである。航続距離はRWDが590km、AWDが540km、0-100km/h加速は6.7秒と4.5秒となっている。
実際、シーライオン 7は速いのか?という問いに対しては、概ね、YES。BYDが誇るリアモーターは、ATTO 3より採用している8 in 1モーターを改良した、312psの永久磁石式。それ自体は珍しくないが、極めて高密度に設計されており、遠心力による損傷なく高回転に耐えられる。その回転数は、なんと23,000rpm、つまり1秒間に400回転という速度なのだ。これにより、低いギア比で強力な低速加速を実現しつつ、高速走行時に過回転にならない。シーライオン 7は、2速リアトランスミッションの重量とコストをかけずに、最高速度215km/hまで到達できるのだ。最高出力160kW (217PS)、最大トルク310Nmはパワフルだ。
今回は公道とクローズドコースにて、両モデルを試乗した。追い越し車線への力強くスムーズな加速は、高速での走行にも十分対応できることを示唆している。ATTO 3など以前のモデルよりもレスポンスが良くなったと感じたので、ついアクセルを踏みたくなる。ただし、航続距離の減少は覚悟が必要だ。AWDは530馬力ものパワーを誇るにもかかわらず、アクセルは過敏に反応しないように調整されており、さらに車両重量は2.4トン。結果として、0-100km/h加速は4.5秒。強烈というよりも、力強い。
フロントモーターは、シンプルなかご形三相誘導モーターを採用している。これは、非通電時に抵抗が発生しないため、穏やかな直進走行時にリア駆動のみで走行し、エネルギー消費を抑えるためだと考えられる。スタビリティコントロールの一部として、トルクは前後に可変配分される。滑りやすいコーナーでは、片方のモーターのトルクを反転させ、車両姿勢を安定させることも可能だ。
コーナーリング性能に関しては、とくにAWDは期待通り、非常に安定しており、安心感がある。クローズドコースでは、パイロンスラロームも用意され、そこはこのAWDが断然速くギリギリを通過することができた。コーナーをしっかりとトレースし、出口でアクセルを踏み込むと、リアが沈み込み、推進力を生み出す感覚がある。ただし、その感覚は控えめ。ステアリングからのインフォメーションは、ほぼ皆無と言っていい。
シーライオン 7は、ドライバーをサポートすることに重点を置いているが、その過程を詳細に伝えてくれるわけではない。グリップがどれだけ残っているのか、把握しづらいのが難点だと感じた。これだけのパワーと重量を考えると、もっと路面とのつながりを感じたいところである。
eプラットフォーム3.0を採用し、パッケージング、能力、効率に優れている。セル・トゥ・ボディ(CTB)テクノロジーを採用し、ブレードバッテリーをボディの構造材とすることで、40,000Nmを超える高いボディ剛性を実現し、安全性と走行性能に貢献している。ボディの高張力鋼板使用比率は81.6%だ。
足回りには可変ダンピングアブソーバーを前後輪に採用し、走行条件を選ばない減衰効果を発揮。デュアルピニオン式電動パワーステアリングにより、ダイレクトな操作感と優れた操舵性を実現した。ストッピングパワーを高めるため、4ポットのブレーキキャリパーとドリルドベンチレーテッドディスク(フロント)、ベンチレーテッドディスク(リア)を採用。AWDモデルには、走行状況に応じて前後のモーターのトルクを最適に制御するインテリジェンス・トルク・アダプテーション・コントロール(iTAC)を搭載している。
タイヤはRWDがコンチネンタル エココンタクト6でフロントが235/50 R19、リアが255/45 R19。AWDでは、ミシュラン パイロット スポーツ EVの245/45 R20を履き、スポーツとコンフォートのキャラクターがしっかりと分けられていた。
ブレーキに関しては、踏み心地が曖昧と言い切るわけではないが、ペダルのストロークが長く、スムーズなリリースが難しい。そのため、コーナーに進入するたびにノーズが持ち上がり、スムーズな走行を妨げられているように感じた。
乗り心地は、スポーティなクロスオーバークーペとしては、驚くほどソフト。これは好印象だ。周波数感応型ダンパーを採用し、コーナーでは大きなボディの動きを抑制し、荒れた路面では衝撃を吸収するように設計されている。ひび割れた路面での乗り心地は良好で、ロードノイズも低い。しかし、高速で起伏のある路面を走行する際には、もう少し制御が効いてほしいと感じる場面もあった。
インテリアは、全体的に成功していると言える。価格に見合う価値を感じさせ、他社のキャビンデザインと大きく異なる独自の個性を放っている。弟分であるATTO 3で見られたやや子どもっぽい装飾は抑えられ、より成熟した印象に仕上がっている。それでも、波のようなドアプル(オーシャンデザイン!)、ダッシュボードの美しいスピログラフ風のバックライト、そして凝ったシートの輪郭と張り地など、BYDらしい遊び心は健在だ。金属製のスイッチや、ボルボが最近廃止してしまったガラス製のセンタードライブセレクターなど、高級感のあるパーツも散りばめられている。フロント3面に防音ガラスを採用し、静かな空間で、ダイヤモンドステッチのナッパレザーを採用した室内は高級感もある。フロントシートは運転席・助手席ともに電動調整機能とポジションメモリー機能を搭載。運転席にはパワーレッグサポートも採用している。後部座席は背もたれを20度リクライニング可能で、2930mmのロングホイールベースにより広々とした室内空間を実現した。前後の4席にシートヒーター、フロントシートにはベンチレーションシートを採用し、電動3シェード付きのパノラミックグラスルーフが開放感をもたらしてくれる。荷室容量は後部座席折りたたみ時で1,769Lと広大だ(通常時はリア500L、フロント58L)。
BYDのトレードマークである回転式センターディスプレイは、もちろん搭載されている。新しいプロセッサーとソフトウェアを採用し、動作は非常に軽快だ。例えば、車の3Dモデルを指でスピンさせると、指の動きに合わせてスムーズに回転する。この画面上で車の各部をタッチすると、窓が開くなど、操作も直感的だ。
いくつかの競合他社は、このようなグラフィック機能を隠れ蓑にして、実際の窓のスイッチを省略している。しかし、BYDは賢明にも、窓、ミラー、デフロスター、ドライブモードなどの物理スイッチを維持している。その他の空調機能は、画面下部に常時表示されている。
センターディスプレイには、優れた内蔵ナビゲーションが搭載されており、分割画面モードは以前のBYDモデルよりも使いやすくなっている。ただし、ナビゲーションとスマートフォンから再生している音楽の両方を同時に表示することはできない。それでも、ほとんどのユーザーは、CarPlayまたはAndroid Autoをフルスクリーンで使うことになるだろう。空調ボタンや、ADASなどの設定を行うカーメニューへのショートカットは、画面下部に常に表示される。
ドライバーズスクリーンのグラフィックはやや雑然としており、スピードメーターは非常に小さく、デジタルファーストな車にありがちな欠点が見られる。これは、速度の制御を車に任せることを前提としているためだろう。もちろん、ヘッドアップディスプレイにもスピードメーターが表示されるが、最上位トリムにのみ装備される。ドライバーズスクリーンには、便利なトリップコンピューターの表示も用意されている。
運転支援システムに関しては、将来の自動運転を見据えた先進運転支援機能を搭載している。5つのミリ波レーダーと1つのカメラ(5R1V)で全方位を監視し、安全運転を支援してくれる。改良されたインテリジェントコックピットシステムは、15.6インチの改良型回転式マルチタッチスクリーン、7nmの高性能チップ(8155チップ)を採用し、スムーズな操作感を実現しています。車両の様々な機能を直感的に操作可能だ。アラウンドビューモニターは、フロントや左折時の斜め後方の映像をスクリーンに表示し、安全性を高めてくれる。 前方車両や人を感知するサラウンドリアリティのテクノロジーを搭載。ヘッドアップディスプレイ(HUD)は、SEALよりも多くの情報を提供し、運転に必要な情報を視線移動なしに確認できるようになっている。矢印ナビゲーションはOTAアップデートで導入予定だ。Apple CarPlayのApple Map、Android AutoのGoogle Map、メータークラスターへのマップ表示に対応し、128色のアンビエントライトは、音楽再生と連動させることも可能です。
ハンズフリー電動テールゲート、NFCデジタルキーに対応。スマートフォンやApple Watchで車両の解錠、施錠、イグニッションオンが可能となっている。パッシブセーフティとして、フロント、サイドを含む合計のエアバッグが乗員を保護している。カメラによる直接監視を行うドライバーモニタリングシステムを全車標準装備。眠気やよそ見を検知して警告を発してくれる。幼児置き去り検知機能、電動式チャイルドロックのほか、50W出力のワイヤレス充電機能と冷却機能を搭載している。デンマークのDYNAUDIO(ディナウディオ)のデュアルスピーカーを採用したサウンドシステムは、静かな室内で心地よい音を奏でてくれる。また、ウォッシャー液一体型のワイパーを採用し、洗浄効率の向上とワイパーブレードの消耗を低減している。
充電周りを見ていこう。日本のEV環境に合わせたCHAdeMO(チャデモ)規格の急速充電に対応。高圧バッテリーのため、充電時に若干のロスが発生する可能性があるものの、使用には問題ないと判断され、動作確認済み車両として掲載されている。V2L(Vehicle to Load)機能を搭載し、家電製品への給電が可能だ(最大出力1500W)。105kWの充電能力を持ち、日本で設置が進んでいる高出力の急速充電器の能力を最大限に活かせる。冬季の充電能力を高めるバッテリー充電予熱機能を搭載している。
さて、スポーティなAWDとコンフォートなRWD、どちらを選ぶべきだろうか。個人的には価格の安いRWDをおすすめしたい。AWDは確かに速いけれど、シーライオン 7を求める層に必要なのは、19インチのソフトな乗り心地、十分な加速力、長い航続距離、そしてコストパフォーマンスの高さなのではないかと思うからだ。AWDの方は、RWDに比べてスポーティではあるが、0-100km/h加速4.5秒なので、目を見張るほどではない(トップギアなので感覚が麻痺しているというのは認める)。だったら、RWDで安心なカーライフを送った方が良さそうである。それに、日常生活でパイロンスラロームをいかにギリギリで通れるかどうかなんて、試される機会はそんなにないだろう?
写真:上野和秀
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