110万円の超小型一人乗りEV、mibot(ミボット)のT1車両完成を記念して中間発表会と試乗会が開催された。予約は1,900台を超えるという人気ぶりだ。
110万円の超小型一人乗りEV、mibot(ミボット)のT1車両完成を記念して中間発表会と試乗会が開催された。2022年7月に設立された広島県のKGモーターズの代表取締役、楠一成氏をはじめ、プレゼンテーションを行ったが、前回同様に無駄なく、素晴らしい進行に感心させられる。その理由は、彼らがYouTuberでもあるからだ。【KG Motors】くっすんガレージ モーターズというチャンネル名のアカウントは、登録者数21万人を超える。発信者として活動を続けてきた強みが、今回のプレゼンテーションにも出ていたと思う。
ミボットは、1人乗りで航続距離100kmで110万円の超小型EVだ。充電はAC100Vで5時間、最高速度は60km/h。企画は原付ミニカーとなり、自動車普通免許が必要となる。2024年10月からの量産開始を目指して事業を進めており、本日試乗する車両は試作段階のものであるため、量産に向けてさらにステップアップが必要であることを強調した。2023年の東京オートサロンで、mibotの原型であるミニマムモビリティのコンセプト車両を発表。2024年8月から予約を開始し、1ヶ月で1,000台を突破、現在は1,900台を超える注文が発生している。
mibotのミッションは、小型モビリティロボットで持続可能な移動を実現すること。目指す世界として、誰もが安全に快適に手頃な価格で自由に移動できる社会を掲げ、特に地方における公共交通の衰退と移動困難な人々の存在を問題提起している。現在の車の使われ方として、7割の人が1日に1人で10km未満を移動しており、軽自動車でも大きすぎると感じたことがコンセプトのきっかけであると説明した。OTAアップデート搭載予定されている。法規上の扱いとしては、道路運送車両法上は原付自転車のブルーナンバーに該当し、維持費が非常に安い。道路交通法上は普通車と同じ扱いで、普通自動車免許が必要となる。原付一種のような30km/h制限はなく、自動車専用道路と高速道路を除く一般道(バイパス含む)は60km/hまで走行可能。また、二段階右折は不要だ。
前回(8月)のメディア向けイベントからの3つの主要な進捗トピックについて報告があった。1つ目は、量産工場が確定したこと。広島県東広島市に本社機能と共に移転し、量産準備に入っている。2つ目は、T1車両が完成したこと。前回はT0と呼ばれる試作車1号機だったが、量産性や内外装のコンセプトは固まっていたものの、モーター、バッテリー、インバーターは独自のものではなかった。そこからステップアップし、T1車両1号機が完成。現在は3台のT1車両が存在し、本日はT1車両に試乗する。3つ目は、予約状況。9月時点で1000台を突破後も順調に伸び、現在1911件の予約があり、1月から一部法人受付も開始しているが、9割以上が個人の予約となっている。予約者の車両所有構成の特徴は、mibotが1台目の車である人は3.9%未満で、95%以上が1台以上車を所有。65.7%が2台以上の車を所有しており、セカンドカーとしての期待が高い。住居区分は、戸建ての割合がモニター時と比較して10ポイント以上伸びており、mibotの置き場とAC100V充電環境が整っている人が中心と見られる。利用用途は、モニター募集時は趣味利用が3割を超えていたが、予約購入段階では10ポイント以上下がり、生活や通勤といった実用的な用途が伸びている。これはmibotが単なる珍しいものではなく、生活者の利便性向上に貢献する乗り物としての兆しを示していると評価した。
量産までのスケジュールを見ていこう。2025年10月から300台規模の体制で量産開始。初年度(2026年6月まで)に300台をユーザーに届ける目標。その後の3000台の量産に向けて、量産ラインの自動化・効率化を進める計画。現在はまだT1車両の開発段階で、2025年9月までに終えて量産に入る予定だ。
試作開発の進捗として、原付ミニカー規格は法規上の認証義務はないが、安全性と信頼性を確保するため、独自に4段階の試作開発ステップ(T0→T1→T2→T3)を設けている。先述したとおり前回はT0だったが、今回はT1フェーズに入っているが、T0からT1へのステップが最もハードルが高く、法規がない中で独自の基準をT1車両で確立してきた。T1車両で様々な実験評価を実施し、T0の課題をT1に落とし込んでいる段階だ。今後はT1で評価を継続し、T0の課題クリア状況を検証し、T2フェーズを目指す。T2はほぼ量産品と同レベルの完成度を持つ車両であり、このステップ完了で量産と同等の品質を確保できる。T3フェーズは量産パイロットのような位置づけで、T2で確立したものを量産ラインと量産部品で製造する段階だ。現在の進捗状況から、2025年10月の量産開始は十分可能であるとの見解を示した。
車体開発リーダーの久保昌之氏より、mibotの車体開発のコンセプトと最新状況について報告があった。開発コンセプトの3点は次の通り。
1. ワクワク感: 独自性のあるデザインと運転する楽しさの実現。
2. 安全性: 法規上の要求はないが、市場の他車をベンチマークし、一つ上の超小型モビリティの衝突安全基準も視野に入れ開発。
3. 快適性: 毎日無理なく乗り続けられる快適性を追求。従来のミニカーで妥協されてきた点を改善。
これら3点を高い次元で両立させ、手の届きやすい価格で仕上げるのが開発目標としている。3つの要素はトレードオフの関係にあり、空間マネジメント(衝突安全性と居住空間の両立)、重量(軽量化と走行安定性の確保)が課題となる。課題解決のための取り組みとしては、モノコックフレーム: 軽量で強度・剛性が高く、スペース効率が良い。T1の最新コックフレームを紹介した。もう一つがポリカーボネート。ルーフウィンドウとクォーターガラスに採用し、軽量化と低重心化を図る。そして、EPP(発泡ポリプロピレン)。バンパーやドア内装に配置し、樹脂製外板の面剛性確保と衝突時の衝撃吸収に貢献。一つの部品に複数の機能を持たせ、空間効率を高める。
T1車両による最新の評価状況としては、足回りジオメトリーの最適化により、直進安定性と旋回時の安定性を向上。北海道での凍結路面や悪路走行試験の様子が紹介された。低重心化により、バッテリーケースや乗員を可能な限り低く配置することで、低μ路での安定性を確保し、前後対称のデザインによる重量配分の最適化を図っている。ブレーキ評価としては、制動力の向上と前後バランスの見直し。ABS非搭載のため、フロントからロックするように制御。高μ路と低μ路での制動試験の様子が紹介された。回生ブレーキは後輪のみに作動する。北海道テストを通じて確認された課題としては、デフロスターの性能向上(フロント・クォーターガラスへの効果的な作動)、寒冷地走行における排気配管への着氷箇所の見直し(着氷自体は問題なし)が挙げられた。今後の開発としては、T1での信頼性評価を本格化し、完成度を高め、T2で量産相当の仕様に仕上げることが目標だ。
量産計画の進捗についても気になるところだ。新しい量産拠点「Mibot Core Factory」が決定。場所は以前の本社所在地と同じ東広島市内だが、やや東側に位置し、総面積2万平米、建物面積約3300平米。ボディ生産から組み立てまでを一貫して行う。「Mibot Core Factory」という名称には、ここからmibotが生み出され、ワクワクする体験を生み出すという意味が込められている。最大で年間10万台程度の拡張が可能との試算だ。工場内の様子を動画で紹介された。元家具工場を転用しているそうだ。ボディ製造、組み立てライン、検査・出荷の流れを想定し、レイアウトは今後も検証する。設備はこれから整備するが、メイン7工程、サブ4工程で生産を行う予定だ。mibotは一般的な自動車製造より組み立てが簡素化されている(例:塗装工程は着色済み樹脂パーツの組み込みが主体)。モノコックボディ自体の塗装も簡略化された仕組みを検討する。将来的には自動化を推進する方針。初期段階(300台量産開始時)はほとんど手組みで行いながら、自動化の方法を検討していく。
KGモーターズに新しく加わったSDV(Software-Defined Vehicle)開発リーダーの上田貴之氏と代表の楠一成氏によるトークセッション「進化するmibot」が行われた。
上田氏は、前職は広島県の自動車メーカーに25年以上在籍しており、パワートレイン制御開発部門のマネージャーを務めていた。楠氏は、自動車業界、特に大手自動車メーカー出身者の知見が、量産化や信頼性向上に不可欠であると強調した。SDVの考え方がmibotの将来にとって非常に重要になるとの見解を示した。各社で定義が異なるSDVだが、小型モビリティ領域で本格的にSDVを目指している例は少ないと指摘し、mibotの独自性を説いた。
SDVの定義については、上田氏が、mibotにおけるSDVの定義として大きく4つの要素を挙げた:
1. OTA(Over-The-Air)アップデートによるソフトウェア更新が可能。
2. 車両データのオンライン取得が可能(将来に向けて)。
3. 取得したデータとOTAアップデートを活用し、車両機能のバージョンアップや追加が可能。
4. 最終的な目標としての自動運転。
楠氏が、従来の自動車業界におけるモデルチェンジのサイクル(6年ごとのフルモデルチェンジ、3年ごとのマイナーチェンジ)に対し、顧客目線ではないのではないかという疑問を呈した。mibotは超ロングセラーモデルを目指しており、基本的なデザインは変わらないものの、SDVの考え方、特にOTAアップデートを通じて常に新しい価値を提供していきたいと述べた。上田氏も、楠氏の考えに非常に共感していると述べ、KGモーターズでmibotのSDVを具現化することにワクワク感とやりがいを感じていると語った。
小型EVでSDVを実現する難しさについては、楠氏は、コストが最も大きな課題であると指摘した。SDV化に必要な部品自体が少ないため、調達コストが高くなるほか、ソフトウェアを実装するためのコンピューターや通信機能もコスト増の要因となる。ハードウェアにおいては汎用品を活用することでコスト削減を図っているが、ソフトウェアにおいては共通化できるものが少ないという認識を示した。上田氏もコストの難しさに同意し、特にスタートアップ企業にとっては厳しいと述べた。ハードウェアとソフトウェアの連携の難しさにも言及。ハードウェアの制約がある中で、ソフトウェアでどこまで機能拡張できるかの見極めが重要とした。ソフトウェア開発は常に進化し続けるため、開発者の負担が大きい点も課題として挙げた。リソースが限られたスタートアップ企業において、知恵を絞ってSDVに取り組む必要性を強調した。コストの問題は、量産台数が増えればソフトウェアに関しては一台あたりのコストを大幅に下げられる可能性があると楠氏が説明する。小型モビリティ市場への新規参入のハードルにもなり得ると指摘した。予約台数がどの程度まで伸びればコストを吸収できるかという質問に対し、楠氏は1万台を目標ラインと答えた。コスト以外の技術的な難しさとして、上田氏は、OTAアップデートを実現するための車内システムの構築が、既存のSDV搭載車(テスラなど)と同レベルのものを目指す必要があり、コストを抑えながら実現する点が課題であると指摘。楠氏は、サイバーセキュリティの確保が非常に難しい点も挙げた。実験的な遠隔操作やアップデートは可能でも、一般ユーザーが利用する環境でのセキュリティ対策は大きな課題となる。
SDV化がもたらす小型EVの未来像として、楠氏は、一人乗り閉鎖空間の移動体が一定数普及することは、これまでの人類の歴史にはなかった新しい概念であると述べた。自動車はユーザー一人ひとりにベストフィットしたものが提供できていない現状に対し、ソフトウェアであればそれが可能になるのではないかと期待を示した。特に、mibotのような極めてパーソナルな空間での移動であり、航続距離が限定される日常利用であるからこそ、ユーザーの利用状況に合わせたカスタマイズが可能になるという、小型モビリティならではの利点を強調。上田氏も、機能進化の可能性について、例えば、北海道での走行試験中に判明した回生ブレーキの特性を、ユーザーの走行環境に合わせて遠隔で調整した事例を紹介。個々のユーザーのライフサイクルや走行環境に合わせて、電動性能や走行特性を最適化できる可能性を示唆した。単なる機能追加だけでなく、もっとワクワクするような演出もSDVで実現できるのではないかと語った。楠氏の壮大な構想に対し、上田氏は技術的な実現可能性や安全性の確保など、ハードルが高いと感じた部分もあると率直な感想を述べた。しかし、初期段階で走行データを収集し、それを分析することで、これまで見えていなかった新しい価値が見出せる可能性にも期待を示した。楠氏は、自身の構想はプロの技術から見ると無茶な部分もあるかもしれないが、その無茶さが進化を生む原動力になると信じていると語った。従来の自動車メーカーの常識にとらわれず、新しい発想で挑戦することの重要性を強調した。上田氏も、従来のOEMにいたのではなかなか出てこなかった発想が、KGモーターズのメンバーにはあると感じており、自身もその考え方に染まりながら、0から1を生み出す開発に貢献していきたいと決意を新たにした。
質疑応答が行われた。
―SDVの程度について
mibotは主要な部分(モーター制御、バッテリー、充電器など)はCANバスネットワークで制御しており、VCUとシングルボードコンピューターを介して通信機能を備えている。
―通信機能の搭載と課金について
通信機能は最初から搭載されているが、データ通信量に関しては、ユーザーの利便性向上に繋がる機能については課金制とする方向で検討中。
―ソフトウェア開発の内製化について
内製と外部協力の両方で開発を進めている。
―スマートフォンアプリの開発について
専用のスマートフォンアプリを開発しており、段階的に機能を実装していく予定。スマホキーも開発中。
―自動運転機能の搭載計画について
現在のmibotのスタンダードモデルに自動運転機能を後付けする計画はない。将来的には、自動運転のためのデータ収集に協力してもらう形で、カメラなどのセンサーを搭載したモデルを検討している。
―車両の想定対応年数と通信環境の変化への対応について
設計上の対応年数は最低でも10年以上を想定。ソフトウェアのバージョン管理の考え方を導入し、ハードウェアの一部互換性を持たせることで、将来的なアップデートや通信規格の変更に対応していくことを目指している(自作PCのようなイメージ)。
―予約状況の地域属性と年齢層について
地域別では、優先納車を予定している広島と東京の予約が多い。その他地域も全国的に予約が入っているが、北海道や東北、沖縄など送料負担が大きい地域はやや少ない傾向。都市部より郊外の、複数台車が必要な地域からの予約が多い。年齢層は、現在は40代、50代が中心。モニター予約時は20代、30代の反応も良かったが、製品化への不確実性から予約には繋がっていない。製品の市場投入と情報公開が進めば、若い世代の動きも期待できる。
―ABSやトラクションコントロールなどの車体制御機能の搭載予定について
現時点での搭載予定はないが、将来的にハードウェアを更新する形で搭載する可能性はある。
発表会終了後、ミボットに試乗した。コースは、王子自動車学校内の外周、クランク、坂道だ。操作方法はとてもシンプルで右前にあるダイヤル式のシフトをDにスライドさせれば発進できる。アクセルを開けても加速は遅めで、回生が強いのでアクセルを離せばすぐに減速してくれるので、ワンペダル操作が可能だ。ステアリングも重ためで、安定感のある走りだ。クランクは、1人乗りというその車体の小ささゆえに、お手の物。視界も良いので、難なくこなせる。上り坂でも問題はない。ストレートでは目一杯踏んでも50km/h超くらいだったが、車体や重心の位置で、速く感じた。見た目からはもっと不安定な乗り心地かと思って試乗したが、予想とは良い意味で逆に、安心・安全に配慮された、しっかりとした乗り心地の超小型EVだった。今後、試乗によって予約者も増えそうに思われる。
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