Hyundaiが日本に導入するZEV(ゼロエミッション ビークル)第5弾、「インスター(INSTER)」が4月10日から発売を開始した。まずは、そのファーストインプレッションをお届けしよう。
FCEV(水素電気自動車)のネッソ(NEXO)、BEV(バッテリー電気自動車)のアイオニック5(IONIQ 5)、コナ(KONA)、そしてアイオニック5 N(IONIQ 5 N)とZEVのみを日本に導入しているHyundai モビリティ ジャパン(以下、HMJ)。そんなHMJのZEV第5弾、BEVとしては第4弾となるモデルが、スモールコンパクトEVの「インスター」だ。
今年1月の東京オートサロン2025で発表され、先行予約が開始された。日本の5ナンバーサイズに収まるコンパクトなボディに2,849,000円からという、インポートBEVとしてはリーズナブルな価格設定で発表直後から注目を集めていた。この4月10日から発売が開始されたが、既に受注は300台以上に達しているという。
そんなインスターに短時間だが試乗する機会を得た。今回の試乗地は横浜みなとみらい地区をベースに、市街地と首都高速を少し走った程度だが、そのパフォーマンスの一端を味わうことができた。結論から言ってしまえば、「コレ、なかなかイケるんじゃない?」といった印象だ。
イベント会場やショールームなどで何回かインスターの実車は見ていたが、公道上で見ると、そのコンパクトさを実感する。全長3830×全幅1610×全高1615mmというサイズは、日本車でいえばスズキ ソリオより少し長く幅が狭いといったところ。
HyundaiのBEVに共通のピクセルグラフィックを用いた前後のターンシグナルに丸型ヘッドランプを採用し、前後にはスキッドプレートを装着したコンパクトSUV風のボディスタイルは、コンパクトカーらしい可愛らしさにSUVの力強さ?も携えて、なかなかいい雰囲気だ。
ドアを開けて乗り込むと、センターダッシュ上には10.25インチのナビゲーション用ディスプレイ、ステアリングホイールの向こうには同じく10.25インチのLCDメータークラスターが備わる。
ATセレクターはコラム式で右側、ウインカーのレバーも輸入車ながら右側に備わる。日本車から違和感なく乗り替えられそうだが、ATセレクターレバーとウインカーレバーの位置が近いことと、ATセレクターは手前に捻るとD、奥に捻るとRなのが慣れるまで気を遣う。まあ、このあたりは自分のクルマとしていつも使うようになれば気にならなくなりそうだが。
走りっぷりは、コンパクトカーとしては十分以上のレベルにある。高出力モーターを搭載したハイパワーEVのようなスゴい加速力はないけれど、市街地でも首都高速でも普通に走っていればまわりの流れをリードできるほど、そこそこ速い。しかもEVゆえ、室内は静かだ。
乗り心地も悪くない。じつはHMJはインスターを日本に導入するにあたり、日本向けにさまざまなチューニングを施している。足まわりではサスペンションを柔らかめに設定し、街中などでの乗り心地を改善しているという。
運転支援技術も、HAD(ハイウエイ ドライビング アシスト)ではコーナリング中に早めにイン側に向くようにセッティングするなど、タイトなコーナーの多い首都高速などでも扱いやすくしている。実際、首都高速でHADを使ってみると、問題なくレーンをトレースしてくれた。
ドライブモードを変えるとメーター表示が変わる。普通に乗っているなら「ノーマル」で十分。「エコ」は発進や加速が少しマイルドになる。「スポーツ」は少し元気に走るが、パワーの出方は極端には変わらない。また、ブレーキの回生はステアリングホイールのパドルで変えることができ、ワンペダルでの走行も可能だ。
コンパクトなサイズながら室内は意外に広い。リアシートは2人掛けと割り切り、スライド&リクライニング機構付きだから、おとな2人で座ってもけっこう快適。またフロントシートバックを倒せばテーブルになったり、全席フォールディングすれば車中泊も可能だから、RVとしての使い勝手もかなり高そうだ。
ウインカーを出すとメータークラスター内に映像を表示するブラインドスポット ビューモニターやペダル踏み間違いセーフティアシストなど、安全装備も充実。今回は試さなかったが、高速道路でナビゲーションと連動してカーブなどの道路状況に合わせて速度を維持するNSCC(ナビゲーション ベースド スマート クルーズコントロール)など、なかなか優れものの装備もある。
WLTCモード航続距離も458kmだから、首都圏からの一泊旅行くらいなら途中の充電は不要だろう。日本の街中でも扱いやすいサイズに安全&快適装備は充実、しかも価格もリーズナブル。市街地での使用が中心で、多人数で乗ることが少ないのなら、ファーストカーでも問題ない。
日産 サクラと三菱 eKクロスEV以外、コンパクトな乗用EVは見かけなかった日本のEV市場だが、このインスターの登場が大きなインパクトを与えるかもしれない。(文/写真:篠原政明)
■ Hyundai インスター ラウンジ 主要諸元
●全長×全幅×全高:3830×1610×1615mm
●ホイールベース:2580mm
●車両重量:1400kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力:85kW(115ps)/5600-13000rpm
●最大トルク:147Nm(15.0kgm)/0−5400rpm
●バッテリー総電力量:49kWh
●WLTCモード航続距離:458km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:205/45R17
●車両価格(税込):3,575,000円