【試乗】アルピーヌ A110S:驚嘆の シャシースポール


8,970,000円

路面に吸い付きながらのコーナリング、この感動はアルピーヌじゃなきゃ味わえない。マイナーチェンジをしたばかりのアルピーヌA110 GTとSに試乗する機会を得た。アルピーヌは創業者ジャン レデレによって設立され、今年は彼の生誕100周年となる。限定車のGT ジャン レデレバージョンも日本への導入が決定し、アルピーヌ熱が盛り上がっているように感じている。
アルピーヌは1955年からスタートしたが、1995年に一旦ブランドは途絶え、2017年に復活。旧型のA110は15年間の生産だったが、合計で7,500台のみだった。しかし、復活後は3年間で10,000台以上を販売し、好調に推移している。日本でアルピーヌの人気は高く、世界の中で10%程度のシェアを占めている。今年、1,000台目の登録が予定されているそうだ。
試乗した第一印象は、とにかく軽いこと。ロータスの軽さでありながら、毎日のドライブに必要な快適性を備えているところもポイントだろう。どのくらい軽いのかといえば、3つのバージョンのうちどれを選ぶかによって異なるけれど、約1,100kgである。これは、ポルシェやアウディよりも300kg、25パーセントも軽いのだ。ロータス エミーラとの競争は厳しくなるばかりだろう。
では、なぜアルピーヌはこのような軽量化を実現できたのだろうか?それは、A110をゼロから設計し、キャリーオーバーを少なくしたこと、そして、小さなことにこだわったことだ。つまり、アルミボディ、アルミシャシー、アルミサスペンションのスポーツカーに、控えめな1.8リッター・ターボ4気筒エンジンを搭載しているということになる。
アルピーヌのシャシー・テクニカル・リーダー、ティエリー アンネキンは、次のように述べた。「我々は、コーリン チャップマンの原則に従おうとしました。この重量を実現するために、各コンポーネント、各システムであらゆるグラム数を追い求めたのです」
そのこだわりは、どこを見ても感心させられる。例えばリアホイール。電動パーキングブレーキ(EPB)用のセカンダリーブレーキキャリパーがなくなり、プライマリーブレーキに統合された。これにより、2.5kgの軽量化を実現している。また、ブレンボに、別のコントロールユニットと配線を取り付ける代わりに、ソフトウェアをボッシュのECUに統合してもらうことで、さらに1kgの軽量化を実現。EPBのケーブルやホースを固定するブラケットもアルミ製だ。「これは貴重なことですが、7グラム、12グラムの節約になります」とアンネカンは主張する。
サベルトシートは13.1kgと現行メガーヌRSのレカロシートの半分、ボールジョイントは別体ではなくアッパーコントロールアームに内蔵することでコーナーごとに300gの軽量化を実現するなど、さまざまな工夫が凝らされている。22年前にディエップの門をくぐったA610以来のクルマを作るアルピーヌからのメッセージは、軽量であることが重要である、ということだ。1955年にアルピーヌを設立したジャン レデレは、自分のクルマが得意とするドライビングスタイルからアルピーヌと名付けたが、きっと誇りに思うことだろう。
GTとSともに、ボディを含む重量の96%がアルミという軽さ、前後重量配分は44:56、前後ともにダブルウィッシュボーンサスペンションで、コーナリングが楽しいクルマだ。パワートレインは直列4気筒1.8リッターターボとなり、ミッドシップレイアウトである。フロントに燃料タンクとラジエターが置かれ、重心が低く、中央に固定されており、ドライバーが中心になってコーナーの出口に向かっていけるのである。マイナーチェンジ後は、シンプルに3タイプに整理され、より好みのグレードが見つけやすいようになっていると感じた。
だが、車体が軽いので、多少は揺さぶられることは覚悟が必要だ。高速道路では、横風だけでなく、路面そのものからそれを感じる。A110で最もエコに配慮した設定であるノーマルモードでスタートすると、早めのシフトアップとエキゾーストノートが特徴的だ。スポーツに切り替えると(あるいはトラックも同様だが、スタビリティコントロールがさらに解除される)、1.8リッター4気筒ターボははるかに明確な個性を放つようになる。
ルノー スポールの新型メガーヌと共通で(エアインテーク、ターボ、排気システム、エンジンチューンは独自だが)、シフトアップする重量が少ないため、驚くほどの加速が得られるのだ。ノーマルではややもたつくが、スポーティモードにして高回転を使えば、1.8ははるかに熱狂的で頼もしい存在となる。オーバーランでは弾け、フル加速ではエキゾーストノートを存分に楽しめ、ペースは素早く、簡単に得ることができる。
また、4気筒のケイマンが陥りがちな、音量と個性を取り違えるようなこともない。十分な音量がありながら、不快に感じない。とくにA110Sでは、このすべてが向上し、少しスピードが増し、高回転域ではより激しくなる。
例えば、アダプティブ・サスペンションのボタンを探すのは無駄なことだ。ホイールが垂直方向に動くとキャンバー角が大きく変化するため、両端にはダブルウィッシュボーンサスペンションが採用されている。ホイールが直立すればするほど、路面との接触面積は向上する。横置きエンジンで小型化する場合、ダブルウイッシュボーンの搭載は容易ではない。
走り出したら、すぐにノーマルから切り替える方がいいかもしれない。7速トランスミッションがギアをシャッフルし、スロットルレスポンスが鈍る中、何をしていたのだろうと思った。ただひとつ驚いたのは、その経済性だ。13-14km/Lは出せていた。そんなホットハッチはそうそうない。とにかく、もしあなたがこのクルマを買ったとしたら、最初の興奮が冷めやらぬうちに、その効率のよさに感心すること請け合いだ(そちらに興味が移ったら、おそらく、ノーマルモードのままでもいい)。
スポーツは、エンジンやギアボックス、ステアリング、スタビリティ、エキゾースト、そしてダッシュボード・ディスプレイまでシャープにする。アルピーヌ A110が本領を発揮するのはここからで、美しく流れる様が味わえる。これはスポーツカーとは違う感覚だ。硬質でもなく、過酷でもなく、攻撃的でもなく、威圧的でもない。その代わり、素晴らしい構成力と流動性を備えているのだ。路面がどんなに凸凹していても、アルピーヌの柔らかいスプリングをわずかな重量で圧縮し、轍や段差を滑るように越えていく。まるでロータスのような乗り心地とコントロール性、しかしサスペンションのトラベルは長く、より洗練されたものになっている。
とくにA110Sなら、より力強く、よりしっかりとしたセットアップが可能になる。荒れた路面でも動揺することはないけれど、低速域では少し揺さぶられ、ボディのロールは最小限に抑えられている。マニュアル変速機がないのは残念だって?そうでもない。ツインクラッチはメガーヌよりずっといいのだが、シフトアップは問題ないが、シフトダウンはときどき遅れてソフトすぎるように感じるほどだから。
試乗する前は自分にはきっとGTの方が好みだろう、と予想していたのだが、全く逆の結果となった。A110 Sの方が断然楽しい。GTとついているからには長距離を走っても疲れない設計になっているだろうからGTのが楽ではないかと思っていたのだが、Sの方が余裕を感じられたのである。そもそも、A110は2人乗りだし、あまりグランドツーリングしよう、という気が起きなかったというのも一因かもしれない。エンジンをかけるとクルマと一緒にドライバーも覚醒し、ワクワクして来るのがA110である。コーナリングを抜けるだけではなく、起動時からずっと、真の意味での人馬一体感が味わえる。SはGTと同じ300psの最高出力で、0-100km/hは4.2秒だが、最高速度が260km/hと、GTより10km/hプラスされている。なお、エアロキットを装着すれば275km/hになるという。その大きな違いが、S専用のシャシースポールにある。スプリングレートがフロント47N/mm、リア90N/mmとGTに比べて強化され、ダンパーもチューニングされている。欧州参考値ではあるが、最低地上高も4mm低い。ショックアブソーバーとバンプストップにシャシー専用チューニングが施され、GTよりもロールが押さえられ、スピードを出しても安心感があった。タイヤがGTよりも10mmワイドになっているところも、余裕を感じさせてくれるところだ。

ほとんどないのだが難点を挙げるとすれば、確かにトランクは小さい。だけど、A110の走りの感覚を邪魔するような重たくてデカいものは積みたくなくなるっていう不思議。なんなら、助手席の人さえ軽量化には邪魔になってしまう、なんて考えも出てくるかもしれない。それほど、クルマと真剣に向き合おうという気にさせる。
昨年からのF1参戦にも見てとれるように、将来的にアルピーヌは、ルノーグループのモータースポーツ分野を代表するポジションになるということ。日本では当初14店舗だったのが、19店舗まで増えている。大量に売るのではなく、熱心なファンのもとに届けるという戦略が功を奏し、アルピーヌブランドは今後良い未来を切り開いていくように思える。

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