マセラティは単なる高級車ではない ブランドが伝える「イタリアンラグジュアリー」の真髄とGTの魅力

マセラティジャパン代表・木村隆之氏によるブランドプレゼンテーションから、マセラティの真の姿が見えてきた。単なる高性能車ではない、「アートとクラフトマンシップ」を核とするイタリアンラグジュアリーブランドとしてのこだわり、そしてグランツーリスモの哲学。進化するショールームや電動化戦略、日本市場での挑戦と、ポルシェやフェラーリとの違いまで、マセラティの奥深い世界を紐解く。

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マセラティジャパン代表の木村隆之氏によるブランドプレゼンテーションが、マセラティ 横浜港北で開催された。会場に置かれていたのは、パープルとブルーが光の加減でさまざまな表情を見せるGT2 ストラダーレ(43,940,000円)。マセラティというブランドは、自動車好きであれば誰もが知っているメーカーだが、どのようなブランドかを実は良くわかっていない、という人もいるかも知れない。そんな人達の参考になれば幸いだ。

マセラティ 横浜港北は、新しいコーポレートアイデンティティ(CI)のショールームだ。マセラティは、従来の「ガラス張りのショールームに複数台の車が並ぶ」という自動車業界の常識から脱却し、「ラグジュアリーブランドのブティック」のようなコンセプトを目指している。これは、高級品を扱う店舗として、顧客がリラックスして買い物できる空間を提供し、外部から内部が見えにくい(ルーバー構造など)設計を採用することで、プライベート感を重視する。横浜港北は、日本では3店舗目の新しいCIショールームであり、初の新築CI店舗である。

マセラティジャパン代表の木村隆之氏は、トヨタ/レクサスで20年勤務後、ユニクロでの異業種経験を経て、日産、ボルボカー・ジャパン、ステランティスを経てマセラティに至る。インドネシア、タイなど、海外子会社社長としての経験も豊富で、現在はマセラティジャパンとマセラティ韓国の社長を兼任しており、月に2〜3回ソウルと東京を往復している。代表が社内(通称「木村塾」)向けに作成した「マセラティブランドについて」の資料が、今回のプレゼンテーションの基盤となっている。これは公式見解ではないとしつつも、ブランドの本質を分かりやすく伝えるための工夫が見られるため、今回、メディア向けにアレンジがなされた。

イタリアン ラグジュアリーとしてのマセラティ

イタリアは「国」としてより「都市国家」が産業発展の中心であり、各地域で特定の産業クラスターが形成されている。例として、コモのシルク(エルメスのスカーフもコモ製)、ゼニアのテキスタイル、パルマのチーズ・プロシュート、皮革製品の町などが挙げられる。多くの企業がファミリービジネスとして始まり、創業当初から世界市場を意識したビジネス展開を行っている。製造プロセスの外注(中国など)を行いつつも、例えばアパレルのラベル付けなど最終工程をイタリアで行うことで「メイド・イン・イタリー」のブランド価値を維持している。ファミリーネームをブランド名として世界に売り込む」戦略に長けているのも特徴の一つだ。

マセラティは、イタリアの「モーターバレー」の中心に位置する。マセラティのルーツであるボローニャから移転したモデナは、フェラーリ、ランボルギーニ、パガーニ、ドゥカティといったスーパーカーブランドが集積する「モーターバレー」と呼ばれる地域である。技術と人材の集積: 戦前の航空機産業の部品製造技術や人材の集積が、この地域の自動車産業発展に寄与したと考えられている。代表はマセラティの車を初めて運転した際に「すごい人たちが作っているな、チューニングしているな」と感じたことを強調しており、この地域の歴史的背景が品質に寄与していることを示唆している。マセラティ、フェラーリ、ランボルギーニ、パガーニといったブランドは、現在は大資本傘下に入っているものもあるが、元々はファミリーネームを冠した企業であり、互いに近接した地域で連携・競争しながら発展してきた。

ラグジュアリーの定義と市場におけるマセラティ

マセラティが地元の大学と共同で研究した「ラグジュアリーの定義」は、以下の要素で構成される。
中心: 個人主義
商品特性: 排他性、クラフトマンシップ、品質、イノベーション、パーソナライゼーション
顧客の求めるもの: ステータス、経験、自己表現、購買、自己向上
製品カテゴリーを超越: ラグジュアリーは「産業や製品の枠を超えて」適用される概念である。
ラグジュアリー市場の規模と自動車の立ち位置:
グローバルラグジュアリー市場は約1.4兆ユーロ(23兆円)規模(2022年データ)。その中で「自動車」は最も大きなセグメントであり、95兆円規模を占める。顧客は「車」を他のラグジュアリーグッズや会員権などと同列で選択肢として検討していると捉えている。

各国で「最も人気のラグジュアリーブランド」を尋ねたアンケートでは、ディオール、ルイヴィトン、ポルシェ、ランボルギーニ、メルセデス・ベンツなど、カテゴリーを問わず様々なブランドが上位に挙がる。これは顧客がブランドをカテゴリーでなく「ラグジュアリー」という横軸で捉えている証拠である。

では、ラグジュアリーとプレミアムの違いとはなんだろうか。プレミアムとは、経済用語であり、「同じサイズの車でも高く売れるブランド」(例:MINI、メルセデス・ベンツCクラス)。「ライフスタイルを買う」といった側面がある。対してラグジュアリーとは、経済的な世界ではない面がある。「喜びや楽しみのために購入するが、実際には必要ではないもの」性能や商品だけではない付加価値が重要だ。

ドイツのメーカーが「性能を高めたラグジュアリー」を謳うのに対し、マセラティは「車自体の性能・パフォーマンスで圧倒的に優位」というより、「希少性、刺激的なもの、感性に訴えかけるもの」を重視する。「車体性能で圧倒的に立つ」ブランド(ポルシェなど)とは異なる。マセラティが考えるラグジュアリーには「アート」と「クラフトマンシップ」が不可欠である。この世界観を感じられるブランドや商品のみがラグジュアリーとして認められる。LVMHの新たなラグジュアリー定義(クラフト、カスタマー、クリエイティビティ、カルチャー)も、マセラティが言う「アートとクラフトマンシップ」に近い。また、自動車という特性上、パフォーマンスとスタイルはラグジュアリー要素に加えて当然必要であると認識している。

マセラティは、1947年のA6 1500により、グランツーリスモ(GT)というセグメントを早期から開拓してきたブランドである。代表は、GTの条件として「長い距離を走って楽しく、帰り道で『もう少し走りたい』と思わせる車」と表現している。マセラティの車は「味や趣」があり、長く乗っても疲れない、飽きない乗り味を提供している。新世代モデルであるMC20(現在はMCプーラ)や新しいグランツーリスモにも、このGTの要素が強く継承されている。

海外では富裕層以外には知られていない国も多い中、日本では、他の国に比べてマセラティブランドの認知度自体は高い。ただし、ブランド名「マセラティ」の認知度は高いものの、個々の製品名やモデル名(例:グレカーレ)の認知度が低いことが課題。エルメスのバーキンやケリーのように、モデル名もブランド名と同等に認知されることを目指している。新しいデザインやGTのコンセプトを持つ新世代モデル(MCプーラ、グランツーリスモなど)のポジショニングを明確にし、販売を促進していく必要がある、と語った。

コルセ(レーシング)のDNA

マセラティとレース活動は切っても切り離せない密接な関係だ。来年でレース開始から100周年(途中7年間の空白期間あり)を迎える。1926年にTipo 26型でレース活動を開始した。トライデントマークは、当時レーシングカーにシンボルマークを付ける規定があったことから、レースのために生まれた。ネプチューン広場の三叉の槍から着想を得ている。MC20の新世代モデル登場と連動し、レース活動を本格的に再開。現在、フォーミュラEでは、電動化技術のアピールと連動し、市街地レースの楽しさを提供している。また、GT2はヨーロッパを中心に市販されているサーキット走行専用モデルで、レース参戦が可能だ。MC Xtremaは、世界限定62台(日本には1台)の究極のサーキット専用モデルである。

マセラティといえば、モデナ工場が有名だ。1914年にマセラティ兄弟がボローニャに建て、1939年にモデナへ移転した。モデナ本社にある工場は、外観はマセラティ創業当初からの古い煉瓦造りのままだが、内部は最新鋭の設備を備えている。シティセンターから徒歩10〜11分という、現代では考えられない立地に工場があることが、その歴史の深さを示している。MC20専用工場であったモデナ工場は、現在MCプーラ、グランツーリスモ、グランカブリオといったフラッグシップモデルの生産拠点に移行中である。古いものを残しつつ、最新の車を作るというブランドの誇りが込められている。

新型車GT2 ストラダーレは、レース専用のGT2モデルと市販車のMCプーラの中間に位置するモデル。サーキット走行も可能な「ストラダーレ(公道用)」モデル。GT2のレーシングマシン開発チームと連携して開発された。ベースのMC20と比較して59kg軽量化されており、GT2の部品や設計思想を多く採用している(例:バネ下、ブレーキ、ホイールなど)。バロッコでのテスト走行でベース車より5秒速いという驚異的なパフォーマンスを達成した。リアスポイラーやエアダクトなど、GT2の技術を応用した強力なダウンフォースを発生させる設計となっている。

インテリアは、MC20/MCプーラとは異なる専用デザインを採用。センターコンソールやステアリングホイールにレーシングの雰囲気を取り入れ、シフトアップインジケーターも装備。シートベルトも3点式から4点式まで選択可能だ。ドライビングモードは「コルサ」モードなど、電子制御の介入を減らす4段階のパフォーマンスパッケージが用意され、マニアックな走りも可能。ADS(先進運転支援システム)レベル2を標準装備するなど、街乗りでの安全性や快適性も犠牲にしていない。小さなトランクも備え、1泊2日の荷物も積載可能だ。

ベース価格は43,940,000円と、4,500万円を切るが、展示車両はリアスポイラーマットカーボン仕上げ(129万円)や、パフォーマンスパック プラス(258万円)などオプション満載で65,380,000円。MCプーラより約1,000万円高い価格設定となる。

質疑応答が行われた。
―電動化戦略について
以前は2027年までに100%電動化を目指すと発表していましたが、この計画は見直しがされており、現在は「マルチプルパワートレイン」の方向で検討が進められています。将来的に発表される新モデルには電気自動車(EV)バージョンも用意されますが、全車種の電動化を目標とはしていません。今年中には、具体的な発表と共にパワートレイン展開の変更について公表される予定です。日本市場では、充電規格であるチャデモ(CHAdeMO)の問題により、EVモデルの「フォルゴーレ」を展開できていない現状があります。多くの自動車ブランドが100%電動化の目標を再検討している中で、マセラティも同様の状況です。

―他のラグジュアリーブランドにはない、マセラティにしかない個性とは何か
「第一に「イタリアンラグジュアリー」という特徴があります。マセラティの製品を通じて顧客に感じてほしいのは、「アレグリア(Allegria)」という言葉で表現される、南の国らしい「明るさ」の要素です。そして、自動車としての独自性としては、「圧倒的なグランツーリスモ(GT)の走り」が挙げられます。GTの条件として、「長い距離を走って楽しく、帰り道で『もう少し走りたい』と思わせる車」だと私は考えておりますので、マセラティの車は長く乗っても疲れない、飽きない乗り味と快適なインテリアを提供している点が特徴です。この「明るさ」と「グランツーリスモ」が、マセラティの際立った個性です。
―日本市場の現状のユーザー層と、今後アプローチしたい層について
現在の顧客層は、デモグラフィック(客観的、統計的)な面で、平均年齢は53歳前後、世帯年収の中央値は2,500万円程度、女性の購入者の比率は10%から15%程度です。このようなデモグラフィックデータは、ポルシェのマカンやマセラティのグレカーレなど、他の高級輸入車ブランドと非常に類似しています。今後のアプローチについてですが、顧客層の違いはデモグラフィックではなく、「サイコグラフィック」、つまり顧客の考え方や価値観、ブランドに対する好みに現れると考えています。将来的には、より多くの女性ユーザーにアプローチしたいと考えており、現在の女性比率の低さはブランドのアピール不足が原因であると認識しています。グレカーレでは女性ユーザーの2割獲得を目指したものの、まだ達成できていない状況です。日本以外の市場、特に韓国や東南アジアでは、所得格差が大きいため、マセラティのユーザーは日本よりも10〜15歳若い傾向にあります。日本では所得分配が平等な傾向にあるため、「子離れ」して自分自身にお金をかけられるようになった50歳以上の層が中心になると予想されており、この傾向は今後も変わらないと見ています。
―最近のマセラティのデザインの特徴について
マセラティのデザイン哲学は「タイムレスデザイン(Timeless Design)」にあります。これは、10年、20年経っても古びないデザインを目指しているということです。現在の世代のデザインは、2020年にデビューしたMC20を基本としており、その顔つきやデザイン言語を異なるセグメントの車両(例:SUVのグレカーレ)にも踏襲されています。過去のモデル(ギブリやレヴァンテなど)を見ても、少し手を加えれば現在の新車としても通用する新しさがあると感じており、これが「タイムレスデザイン」の成果であると考えています。
―女性ユーザーが少ない理由と具体的なアピール方法
女性ユーザーが少ないのは、マセラティ側からの「アピール不足」であると認識しています。実はマセラティの車は女性にとっても魅力的なポイントが多く、運転しやすい車であるにもかかわらず、従来の「スーパーカー的」な「マッチョな車」というイメージで捉えられている可能性があると考えています。グレカーレのデザインは女性から「キュート」「可愛い」と評価されることも増えましたが、それでも女性ユーザーの獲得は目標に達していません。アピール強化の方向性としては、グッチなどの他のイタリア高級ブランドと同様に、車もファッションやライフスタイルの一部として捉え、インテリアの質の高さや、職人技によるレザーなど素材のこだわりを訴求していく必要があるとしています。また、多くの人が自動車の高級品としてはジャーマンブランドを選ぶ傾向がある中で、マセラティのようなイタリア・フランスの高級車が、もっと身近な存在として認識されるよう、「親しんでいるブランドと変わらない世界の延長線上にある」ことを伝えていきたいです。なお、登録名義人としての女性比率は低いものの、実際の「主運転者」としての女性比率は、都心部では2割から4分の1程度いると推測しています。
―フェラーリやポルシェとのドライバビリティの違い
私の個人的見解にはなりますが、フェラーリは、ドライバビリティというよりも、「非日常」を感じさせる作りが特徴です。ポルシェは「クルマのお手本」とも言えるブランドで、ボディ剛性やエンジン性能が非常に優れており、「目を瞑っていてもポルシェとわかる」ような、乗り手にダイレクトに伝わる感覚があります。転じてマセラティは、ポルシェほどゴツゴツした感覚はなく、乗っていて「優しい」乗り味です。長距離運転でも疲れないため、日常使いにも適しています。MC20のようなスーパーカーであっても、「コンビニにも乗っていける」ほどの日常的な使いやすさや懐の深さ、優しさがマセラティの大きな特徴です。小さなトランクも備わり、1泊2日の荷物も積載可能で、GTとしての実用性も兼ね備えています。

マセラティは、単なる高性能車メーカーではなく、イタリアの都市国家とファミリービジネスの歴史に根ざした「モーターバレー」出身というユニークな背景を持つ、「アートとクラフトマンシップ」を核とする真のラグジュアリーブランドとして進化を遂げようとしている。その戦略は、ブティック型のショールーム、GTコンセプトの深化、そして電動化戦略の柔軟な見直しにも現れている。マセラティが単なる自動車メーカーではなく、独自の文化と感性を大切にする「イタリアンラグジュアリー」ブランドとしてのアイデンティティを確立しようとしていることが感じられ、車を通じて「イタリアの明るさ」と「旅の喜び」を届ける、そんな物語を紡いでいるかのようだった。

終了後にグレカーレ トロフェオに試乗する機会を得た。3.0リッターV6ツインターボというパワートレインのスペックだけ目にすると、どんなに荒々しいのだろう、と予想していたが、とても扱いやすく、アクセル開閉次第で応えてくれる。ひとたびペダルを踏み込めば、押し出されるような気持ちの良さもあり、530馬力の懐の深さを感じられる。木村代表がマセラティを「優しい」と表現した意味が、自分なりに理解できた気がした。

アルファ ロメオ 33 ストラダーレ/ランド ノリス✕R32 東京ナイトドライブ/R35日本取材:トップギア・ジャパン 068
【tooocycling DVR80】
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