50周年を迎えて新型EVにも挑戦するケータハムの伝統と革新の本質を、英国グッドウッドやダートフォードで探る

日本のVTホールディングスの傘下にあるケータハムは今年50周年を迎えている。英国のグッドウッド、オウルトンパークサーキットで開催されたレースとダートフォードの工場のようすをレポートする。

最初に、ケータハムについてあまりよく知らない人のために、簡単に紹介をしておこう。ケータハム(ケータハム・カーズ・リミテッド)は、1973年にグラハム ニアンがロータスの創始者コリン チャップマンからセブンの金型、デザイン、独占権を取得して以来、軽量で2人乗りのスポーツカーを生産している。ケータハムは、英国国内だけで生産されている。現在、ケータハムはケント州ダートフォードに本社を置き、1987年以来、組み立て式とキットビルドの両方で車を製造しており、2023年現在、ケータハムは世界の15の主要市場で30以上の公式販売店によって販売されている。
また、モータースポーツ部門の一環として、あらゆるレベルのドライバーを対象とした英国の5つのレースシリーズを運営している。

1995年以来、エントリーレベルのレースシリーズであるケータハム・アカデミーでは、1,300人以上の初心者ドライバーがレーシングドライバーとしての資格を取得した。

ケータハムは、日本の自動車ディーラーグループであるVTホールディングスが所有しており、2009年からケータハムの輸入代理店としての役割を担っている。ケータハムは2023年に創立50周年を迎え、新型EVにも挑戦している。

突如現れた美しきBEVクーペ
多くの自動車メーカーが「2030年まで」といった期限を設け、環境性能の強化と電動化に積極的に動いている。自動車の完全な電動化は難しいという意見も出てきている昨今だが、メーカーの生き残りを考えれば、あらゆる可能性に備える必要がある。

今年7月に開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで突如として新型車をアンベールし、話題を集めたブランドがケータハムだった。1973年にロータスからセブンの製造権を買い取り、以降連綿と2人乗りのフォーミュラカーのような伝統的なスポーツカーを製造してきた同社が、プロジェクトVと呼ばれるBEVのライトウェイトスポーツカーを発表したのである。

2021年4月から日本のVTホールディングスの連結子会社となったケータハム。ブランドの基盤をより強いものにしていく中で企画された1台が、セブン以外のニューモデルだったのである。プロジェクトVをデザインしたのは同社のデザイナー、アンソニー ジャナレリ。フランス人の彼はセブンのノーズコーンをフロントマスクのデザインに取り込みつつ、懐かしくも新しい未来のケータハムを提示して見せたのである。

今回の発表段階では、カーボンモノコックシャシーの前後にアルミ製のストラクチャーを配し、床下バッテリーと272psのリアモーターを組み合わせた作りになっていたプロジェクトV。2025年後半から2026年前半に実際にデビューすると言われているが、その詳細はまだ決まっていない。だがグッドウッドにおけるファンの反応は上々で、その評価が発売の実現をあと押しすることになりそうだ。

ケータハムのプロジェクトVは272psのEVクーペで価格は1,450万円を下回る可能性アリ

静かな走りで注目を集めたEVセブン

プロジェクトVは販売が予定されているモデルだが、今回のグッドウッドで実際に走行し注目を集めたコンセプトモデルがEVセブン。その名の通りセブンの動力源をバッテリーとモーターに置き換えたモデルである。

ボディに描かれたEVの文字がなければそれとわからないほど普通のセブンと変わりがないEVセブン。その開発の鍵となったのはスウィンドン・パワートレイン社との共同開発で誕生した液浸冷却のバッテリーである。EVセブンのボンネット下に、まるで大きなエンジンのような縦長のかたちで乗せられているバッテリーパック。その容量は51kWhと発表されている。

一方リアに搭載されるモーターの最高出力は243psで、インバーターやリダクションギアがセットになったコンパクトなe-Axleとして、既存のセブンのパイプフレーム内に収められている。その車重はベースとなったセブンより70kgほど度重いだけの700kg未満と発表されており、EV化されてもセブンらしい軽やかな走りを期待できそうだ。

またEVセブンはサーキット走行も視野に入れており、その場合20分サーキットを走ったあと15分の急速充電をすることで繰り返しサーキット走行が可能になるという。

すぐにでも商品化できそうなEVセブンだが、実際にはコンポーネンツの進化やEV普及によって低下するであろうパーツ価格の推移を見守りつつ、販売にGoを出すと言われている。ケータハムはプロジェクトVとEVセブンによっていきなり電動化に積極的なメーカーへと生まれ変わったことになる。

ケータハムを支えるレース、そして新工場

電動化が話題のケータハムだが、今年ダートフォードの旧工場から新工場へ移転しようとしているタイミングを迎えている同社は、伝統的なセブンの増産も視野に入れている。

普通にロードカーとして販売されるモデルも多いが、毎年56台の新車はケータハム・アカデミー・チャンピオンシップと呼ばれるワンメイクレースのために製作され、デリバリーされている。

レースを始めるための入門に最適と言われているこのレースは、メーカーがバックアップしているシリーズとしてはヨーロッパ最大級。まずレース未経験のドライバーはアカデミーカーやレーシングスーツ等のエクイップメント、ライセンス取得がセットになったパックを購入し、初年度は1回のスプリント(タイムトライアルレース)と7回のレースを戦う。そこからさらに上のクラスにステップアップする場合、車輛のパワーや使用タイヤといったものが変わっていって、より上のクラスのレースへの対応が可能になる。

もしロードカーのセブンが完全にBEVにシフトしたとしても、サーキット用の車輛はこれまでと同じICE(内燃機)車輛を使い続けるという可能性も残されているのだ。

現在のケータハムは年間500-700台弱の生産台数で推移しているが、来年早々にダートフォードXと呼ばれる新工場が稼働し、予定通りに進むと、その生産能力は現在の2倍ほどまで増加するという。

伝統的なガソリンエンジンのセブンの基盤を固めつつ、EVモデルの開発に関しても積極的に推し進める現在のケータハム。その未来に死角はなさそうだ。
文&写真 吉田拓生

オーナーが日本の企業になったケータハムの新工場が2023年末に稼働、生産能力は50%増加

ケータハムのプロジェクトVは272psのEVクーペで価格は1,450万円を下回る可能性アリ

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