優等生すぎるEV版は忘れろ。ジープには泥の匂いが必要だ。1,900Nmの狂気的なリアトルクと鋼鉄のガードを隠し持つ「アベンジャー 4xe」を、さなげの悪路へ連れ出した。洗車機が悲鳴を上げる、泥まみれの試乗記をお届けしよう。
失われた「泥の匂い」を求めて
以前、私はアベンジャーのフル電動モデル(BEV)に乗った。あれは確かに素晴らしい車だった。絹のように滑らかで、静かで、スーパーの駐車場をスルスルと抜け出すには最高の都市型コミューターだった。だが、ステアリングを握りながら、私は心の奥底で小さな不満を抱えていた。「これは本当にジープなのか?」と。ジープというバッジがノーズについている以上、どこかに泥の匂いや、岩を砕くような無骨さがあって然るべきではないか。前輪駆動のEVアベンジャーは優秀だったが、私の冒険心をくすぐるには少しばかり「消毒(サニタイズ)」されすぎていたのだ。
そんな折、愛知県にある「さなげアドベンチャーフィールド」に呼び出された。木々が生い茂り、泥と轍が支配する本格オフロードの聖地である。そこに待ち受けていたのは、アベンジャーの新しいバリエーション、「4xe Hybrid(フォー・バイ・イー ハイブリッド)」だった。四輪駆動であり、エンジンを積み、そして何より、泥まみれになる準備が完全に整っていた。
テクノロジー:バランサーの魔法と、1,900Nmの狂気
ボンネットの下に収まっているのは、ステランティスグループでお馴染みの1.2リッター直列3気筒ターボエンジンだ。それに48Vのマイルドハイブリッドシステムが組み合わされている。
エンジニアは自慢げに語る。「内部にバランサーを組み込んだことで、3気筒特有の切り揉みするような振動を打ち消しました。回せば回すほど、6気筒エンジンのような滑らかさが出ますよ」と。さらに、通常は高級車にしか使われない可変ジオメトリータービン(VGT)まで奢られているという。
実際に走らせてみると、低速域(30km/h以下)でのEV走行からエンジンが始動する瞬間は極めてシームレスだ。だが、アクセルを深く踏み込むと、3気筒特有の少し威勢のいい、悪く言えば「騒々しい(brash)」ビートがキャビンに響く。しかし、私はこれを欠点だとは思わない。完全無音のEVに乗り飽きた身としては、機械が一生懸命に火を噴いているというアナログな対話こそが、運転する喜び、「壮大な報酬」をもたらしてくれるのだから。
そして、この車の最大の狂気はリアアクスルに隠されている。
リアに搭載された電気モーターは、フロントのエンジンやモーターとは独立して後輪を駆動する。ここまではよくある話だ。だが、ジープの開発陣は、このリアモーターの減速比を「22.7」という常軌を逸した数値に設定した。結果として何が起こるか? 後輪だけで最大1,900Nmという、ちょっとした大陸を動かせるのではないかと思えるほどの強大なホイールトルクを発生させるのだ。コンパクトSUVの皮を被ったトラクターである。リアバンパーの下に鎮座する立派な牽引フックは、単なるファッションではない。「いつでも仲間を泥沼から引きずり出してやるぜ」というメーカーの自信の表れなのだ。
シャシーとアーマー:クラスを超えたオーバースペック
この強大なトルクを受け止めるため、下回りの作り込みも異常だ。通常、このクラスのクロスオーバーなら、コストと燃費を稼ぐためにアンダーガードはペラペラのプラスチックで済ませるのが関の山だ。ところがアベンジャー 4xeは、フロント、リア、そして燃料タンクの3箇所に「鋼鉄製」のガードを装着している。
さらに、リアサスペンションには欧州のプレミアムブランド顔負けの専用設計マルチリンク式を採用し、アルミ製のラテラルリンクまで奢っているのだ。
おかげで、ハイブリッドバッテリーやモーターの搭載も相まって、純ガソリン車よりも数百キロ重くなり、トランク容量は標準モデルの380Lから325Lに減ってしまった。だが、ベビーカーの代わりにチェーンソーや泥だらけのブーツを積む人間にとって、トランクが少し狭くなることなど些末な問題だ。オフロードでの圧倒的なタイヤの接地性とトラクションを手に入れられるなら、安すぎる代償である。
さなげでの激闘:泥を蹴り、崖を下る
いよいよコースへ足を踏み入れる。用意されたのは、ダカールラリーのような岩場ではなく、湖畔のキャンプ場へ向かう「軽トラが通るような獣道」を想定したルートだ。とはいえ、前日までの雨の影響か、路面は容赦なくぬかるみ、深い轍と水たまりが口を開けていた。
私はセンターコンソールにある「セレクテレイン」のスイッチを操作し、走行モードを「マッド(Mud)」にセットした。スノーモードがタイヤの空転を徹底的に抑えて優等生のように走るのに対し、マッドモードの哲学は真逆だ。あえてタイヤを空転(ホイールスピン)させ、トレッドに詰まった泥を遠心力で吹き飛ばしながら、強引に路面を掴みに行く。
ぬかるんだ深い轍に突入する。一瞬、ステアリングから手応えが消えかけるが、アクセルを踏み込むとマルチリンクサスペンションが四輪をしっかりと地面に押し付け、リアの1,900Nmのトルクが泥を激しく蹴り上げながら車体をグイグイと前に押し出す。全く躊躇がない。
コースの途中で、インストラクターから「この急な上り坂の途中で、わざと一度停車してください」という指示が飛んだ。普通ならスタックの恐怖に冷や汗をかく場面だ。急勾配の途中でブレーキを踏み、完全に停止する。そして、再びアクセルペダルに力を込めた。
するとどうだ。エンジンが唸りを上げるよりも一瞬早く、リアモーターの強烈なトルクが瞬時に立ち上がり、重い車体を何事もなかったかのように斜面の上へと押し上げてしまった。タイヤがスリップする気配すらない。この「22.7の減速比」がもたらす再発進のトラクションは、まさに物理法則を無視した魔法のようだった。
頂上を越えると、今度は崖のような下り坂が待っていた。ここで「ヒルディセントコントロール」のボタンを押す。システムが介入し、「あとは任せろ」とばかりに一定の低速を維持してくれる。私はペダルから完全に足を離し、ステアリング操作だけに集中した。機械が各車輪のブレーキを緻密にコントロールし、滑りやすい急斜面を安全かつ静かに降りていく。ドライバーはただ、木々の間から差し込む光を楽しむ余裕すら与えられるのだ。
溺れないアヒルと、機能美の極致
コースの終盤には、泥水が溜まったセクションが待ち構えていた。この車は標準モデルよりも最低地上高が10mmアップして210mm確保されており、アプローチ角22度、デパーチャー角35度という立派なオフロード・ジオメトリを持っている。
さらに、渡河性能は400mmに達する。フロントバンパーをよく見ると、地上からちょうど400mmの位置にメモリが刻まれ、可愛らしい「ダック(アヒル)」のマークが描かれている。ジープのオーナー同士がアヒルのおもちゃを車に置いていく「ジープ・ダッキング」の文化を取り入れた粋な遊び心だが、これは同時に「このアヒルが溺れない高さまでは、水に突っ込んでも生還できる」という実用的な警告でもある。
バシャリと豪快な水しぶきを上げて泥水を渡り切り、私たちのテストドライブは終了した。
泥だらけになった車から降りる前、キャビンを見渡してみる。ダッシュボードやドアパネルには、確かに少し硬くて安っぽいプラスチック(scratchy plastic)が使われている部分もある。高級セダンのようなレザーの温もりはない。だが、オフロードを走破した今ならわかる。この硬いプラスチックは、泥のついた手で触っても濡れた雑巾でサッと拭き取れるという「正義」なのだ。
シートも同様だ。4xe専用のファブリックシートは高い撥水加工が施されており、濡れたレインウェアや泥だらけのズボンのまま座っても全く問題ない。
エクステリアに目を向けると、ヘッドライトや美しい塗装面は、分厚い無塗装の樹脂クラッディングよりもわずかに内側に引っ込んでいる。これは、木々の枝や岩(あるいはショッピングモールの乱暴なカート)から高価な部品を守るための「犠牲的バンパー」なのだ。ジープの伝統であるスクエアなボディと7スロットグリルを現代的に解釈しつつ、道具としての機能美を一切妥協していない。
結論:泥を被って完成する「本物」
試乗を終え、広場に戻ってきたアベンジャー 4xeは、オケナイト・ホワイトのボディの下半分が泥で真っ茶色に染まっていた。スタッフが高圧洗浄機を持ち出し、勢いよく泥を洗い流していく。
その光景を眺めながら、私は確信した。泥まみれになり、それを高圧水流で吹き飛ばされているこの小さな車は、紛れもなく「本物のジープ」の顔をしていた。
街中では、マイルドハイブリッドの恩恵で静かに、そして洗練された振る舞いを見せる。全長約4.1mという史上最もコンパクトなボディは、東京の狭い路地でも完璧に取り回せるだろう。しかし、その内側には、1,900Nmのトルクを生み出す狂気のリアアクスルと、鋼鉄のアンダーガードが隠されている。
「普段は都会的な生活を送っているが、週末にはスノーボードやキャンプで泥だらけになりたい」。そんな大人たちにとって、これほど完璧な「デュアルソウル」を持った相棒は他にいない。
前輪駆動のEVアベンジャーは、クリーンで退屈な日常の最適解だった。だが、この4xe Hybridは違う。機械との対話があり、泥の匂いがし、冒険へと駆り立てるアナログな報酬に満ちている。
ジープ誕生85周年を飾るにふさわしいこの小さな巨人が、一体いくらのプライスタグを下げて登場するのか。この記事を目にするのは、正式な価格発表が発表されている頃だ。だが、どれほどの値段がつこうとも、週末の泥遊びを愛する者にとって、それは決して高い買い物にはならないはずだ。
写真:上野和秀
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