125年途絶えない大英帝国の遺産。ロイヤルエンフィールド責任者に訊く、新型「BULLET 650」と“時間の質”を愛する理由

今年の東京モーターサイクルショーには約12万人ものファンが訪れた。各ブランドは満を持して新型車の発表を行い、どのブースも黒山の人だかりであふれていた。もちろんロイヤルエンフィールド(Royal Enfield)のブースも例外ではない。新型の「Bullet 650」とブランド設立125周年を記念した「Classic 650 125周年記念スペシャルエディション」がステージ上に飾られ、CUSTOM WORKS ZONによるカスタムモデル「VITA(ヴィタ)」やその他10台の最新モデルがブースに並ぶ。今回、このイベントに際して来日したロイヤルエンフィールドのアジア太平洋地域事業責任者であるマノジ ガジャルワール氏とお話しする機会を得られたので、ロイヤルエンフィールドのブランド戦略をお聞きしてきた。

このTop Gear Japanのサイトに立ち寄られる読者の皆さんはとりわけ英国車好き、そして2輪、4輪を問わず乗り物にはかなり詳しい方ばかりなのではないだろうか。釈迦に説法とは思いつつも、まずはロイヤルエンフィールドというモーターサイクルブランドの成り立ちについて簡単におさらいしておきたい。

最も長い歴史をもつモーターサイクルブランド
ロイヤルエンフィールド は1901年に英国で最初の市販オートバイを製造した、世界で最も長い歴史を持つモーターサイクルブランドである。「Made Like a Gun(銃のように頑丈に作られている )」という精神を掲げ、銃のような精密で壊れにくく、どんな環境でも動くシンプルで頑丈なバイクを作り続けてきた。1950年代以降はインドでの生産が本格化し、Bullet をはじめとする象徴的モデルが世界中で愛される存在になっている。現在は、発祥の地であるイギリスのロンドン近郊と、現在の拠点であるインドのチェンナイに構えた2箇所の世界最高レベルのテクニカルセンターを軸に開発が行われている。世界80カ国以上で事業を展開し、グローバルで16,500名以上の従業員を抱える、まさにモーターサイクル界の巨大帝国へと成長を遂げているのだ。全世界で年間約120万台のオートバイを販売する、世界第9位のオートバイメーカーである。

継続的な成長こそが目指すもの
ロイヤルエンフィールドの日本での販売も右肩上がりに成長している。昨年の数字を見ると販売台数は1,996台となり、前年比で約25%の成長を遂げている。とりわけここ数年はブランド認知度もあがり、街で見かける機会の多くなった印象である。この数字に満足しているかをアジア太平洋地域事業責任者であるマノジ ガジャルワール氏に質問したところ意外な答えが返ってきた。

まず、ロイヤルエンフィールド は国際的な市場においてここのところの不安定な経済状況の影響をほとんど受けていないという。そして販売モデルが偏ることなくどのモデルも満遍なく販売され、結果として安定した成長を実現しているというのである。まさに企業としては理想的な姿であるが、多くの国の中型モデルセグメントのなかでTop3にはロイヤルエンフィールドが必ず位置しているという、地域における不安定性がない点がこのブランドの強みとなるのであろう。多彩なモデルラインナップが世界各国の顧客のニーズにきちんとマッチしていると言えるのではないだろうか。

日本での販売に満足しているか昨年の販売実績の数字を見せつつ少ししつこく聞いてみた。ガジャルワール氏の表情には「なんでそんなこと聞くんだ?」というやや怪訝な様子がうかがえる。
「私たちは125年の歴史を持つブランドです。そして125年で1度も事業が途絶えたことがないことも誇りの1つです。目指すべきことは毎年成長を続けることで、単年の結果を見て一喜一憂するようなことはしません」

「日本のディストリビューターであるPCI社との素晴らしい協力体制のもと、先月さらに1店舗がオープンし、全国に50店舗まで販売拠点が増えました。そして、現在5000人を超える顧客がロイヤルエンフィールドにお乗りいただき、レンタルバイクも200台以上が稼働しています。結果として日本は販売を始めた当初に比べ400%の成長を見せるなど重要なマーケットだと認識しています」

短期的な利益は求めず、顧客のための環境づくりを第一とすればおのずと利益が付いてくるという考えなのだろう。「自分たちが果たすべき役割を長く続けること」を是とするヒンドゥー教のダルマの思想に由来するものなのだろうか、はたまた外的な成功より内的な誠実さを重視する英国的ストイシズムの表れなのか、このブランドのユニークさはそんな言葉の端々から感じることができる。

PURE MOTORCYCLING
日本には世界を代表する2輪ブランドが数多く存在する。そんな日本市場で輸入バイクを売ることは「エスキモーに氷を売る」ほど難しい行為にも思える。ロイヤルエンフィールドの今後の日本市場での戦略について、ガジャルワール氏の口から頻りに出てくるのが「Pure Motorcycling」という言葉であった。

「Pure Motorcycling」という言葉はブランドを貫く理念である。その中には5つのピラーが存在する。1つ目は「時代を超越した個性的なスタイリング」であること。丸目ヘッドライト、ティアドロップ型タンクなど英国 Redditch 時代の DNAをどのモデルでも色濃く残している点を指す。2つ目は「英国発祥の豊かな歴史」。先にも述べたが125年途切れることなくブランドを継続できている点である。すなわち企業買収など他の影響を受けずにロイヤルエンフィールドの考える理想のモデルを製造し続けられているという純粋性である。3つ目は「カスタムがしやすいモデル」であるということ。これはシンプルゆえに顧客のイマジネーションをより反映できるポテンシャルを各モデルが持っていると解釈できる。4つ目は「アクセスのしやすさ」このアクセスという言葉は物理的な乗りやすさに加えて販売拠点の多さやリーズナブルな価格で手に入れやすいという意味も含む。そして最後はそれら4つの価値を体験できる「ライドイベントの提供」である。
この「Pure Motorcycling」という理念を突き詰めることこそが競合メーカーとの差別化となり、そしてそのブランドの価値観を多くのライダーと共有することが彼らのゴールとなるのだという。
販売台数やスペックなどの数値的なゴールではなくブランドが本来あるべき姿という理想をどこまでも追い求める姿に他ブランドとの大きな違いを感じることができる。

ロイヤルエンフィールドでしか得られない喜び
ロイヤルエンフィールドのオーナーが一番色濃くそんなブランドの考えに触れられる機会のひとつはおそらく「モト ヒマラヤ」と呼ばれる公式アドベンチャーツーリングであろう。標高5,000mを超えるヒマラヤの峠を2週間に渡り縦断するツアーで、日本からも昨年は22名のライダーが参加したという。また世界中のロイヤルエンフィールドオーナーが同時に同じ体験をする「One Ride」というツーリングイベントも毎年 される(2025年は9月開催) 。世界中のライダーがロイヤルエンフィールドから提供される揃いのTシャツを着てツーリングをすることが特徴的なイベントで、昨年は何と日本で1200名ほどの参加があったという。さらにはインドのゴアで毎年11月に開催される「モトバース」と呼ばれるイベントは音楽xカスタム×ライドxカルチャーの総合フェスティバルでロイヤルエンフィールドの世界観を体現し国境を越えて多くの人が集まるという。

ロイヤルエンフィールドに乗ることは、“速さ”ではなく“時間の質”を追求することだと感じる。風の音、エンジンの鼓動、シフトの感触、路面の変化をバイクと純粋に対話しながら楽しむ時間、コミュニティの中で過ごす時間、そして125年の歴史を継承するタイムレスでクラシックなデザインの美しさに浸る時間。そんな贅沢な“時間”を愛するすべての大人に、強くおすすめしたいブランドである。

【編集後記】
「日本には豊かなカスタム文化がありますね。ロイヤルエンフィールド もカスタムを楽しんでもらえることを推奨しており、そういった点も日本でこのブランドが受け入れられている理由ではないでしょうか。販売規模だけでなく、顧客からいろいろなフィードバックをいただけるという点でも日本は重要なマーケットです」

今回お話を伺ったマノジ ガジャルワール氏はアジア太平洋地区の事業責任者となる。これまで多くのトップの話を伺ってきたが、ここまで販売の話をされない方も珍しい。一連のインタビューを通じて、数字はあくまでも結果であって、ブランドとしてあるべき姿をきちんと追求するプロセスのほうが重要と考えられているのであろう。より多くの人がロイヤルエンフィールド の世界に入ってこられるように販売拠点を充実させ、リーズナブルな価格で製品を提供し、さらに再びロイヤルエンフィールド を選んでいただけるようなコミュニティ作りに力を注ぐ。PCIが輸入を開始してから11年、この本質を追求するブランド作りの成功は、モーターサイクルショーのブースに集った数多くのファンの笑顔が何よりも雄弁に証明していた。

ロイヤルエンフィールド は周りの風潮に流されず信じた道を愚直に突き進むブランドだと感じた。そこに派手さや突飛さはないが、価値観を共有してくれた顧客を置いていくようなことはない。世界で最も長い歴史を持つオートバイメーカーとしての誇りと風格、そして余裕を感じられるインタビューだった。

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