【試乗】ルノー ルーテシア:アルピーヌの魂を宿す新生コンパクト。走りのE-Techと劇的進化のデザイン

マイナーチェンジで大胆に進化した新型ルーテシア。「エスプリ アルピーヌ」は、走りのE-Techとクラスを超えた質感が融合。フレンチコンパクトの新境地を切り拓く、その実力を徹底レポート。

クラシックCASIOなら公式CASIOオンラインストア
外車限定の車買取サービス【外車バトン】


1990年の初代登場以来、5世代にわたり世界で累計1600万台以上を販売し、ルノーの屋台骨を支え続けてきた基幹モデル、ルーテシア(欧州名:クリオ)。欧州Bセグメント市場の覇者として君臨し、2度のカー・オブ・ザ・イヤー受賞歴を誇るこのフレンチコンパクトが、大幅なマイナーチェンジを経て日本市場に再びその姿を現した。

今回の刷新は、単なるフェイスリフトに留まらない。デザインフィロソフィーの抜本的な見直し、そして日本市場においてはアルピーヌの名を冠したスポーティーかつ上質な「エスプリ アルピーヌ」グレードへの一本化という、極めて大胆な戦略を伴うものだ。パワートレインは、独自の革新的な機構を持つフルハイブリッド「E-Tech」のみ。

本稿では新型ルーテシアがBセグメントの勢力図をどう塗り替えようとしているのか、その核心に迫る。これは、新たな時代の到来を告げるフレンチコンパクトの、詳細なインプレッションである。

デザインの変革――調和から「際立ち」へ
新型ルーテシアを目の前にして、まず誰もが息を呑むのは、その表情の劇的な変化であろう。ローレンス ヴァン デン アッカーが提唱した「サイクル・オブ・ライフ」という、温かみと官能性を重視したデザイン言語の時代は終わりを告げた。新たにデザイン部門を率いるジル・ヴィダルは、よりシャープで、より主張の強い(アサーティブな)造形をルノーの新世代モデルに与えている。

新型ルーテシアは、その変革の象徴だ。フロントマスクは全面的な刷新を受け、従来モデルの面影はほとんどない。薄く研ぎ澄まされたフルLEDヘッドランプと、ルノーのロゴマーク「ロザンジ」をモチーフに縦に分割されたデイタイムランニングライトが、強烈な視覚的アイデンティティを形成する。このデイライトのデザインは、先に登場したキャプチャーと共通の意匠でありながら、よりアグレッシブな印象を与える。

従来のC字型デイタイムランニングライトは廃止され、全く新しいシグネチャーランプが採用された。また、グラデーション処理が施されたチェッカーフラッグパターンのグリルは、躍動感とスピード感を巧みに表現している。F1マシンからインスピレーションを得たというフロントバンパー下部のエアインテークブレードは、視覚的な重心を下げ、スポーティーな佇まいを決定づける重要な要素となっている。トップギア誌は、この新しいグリルデザインを「プジョー(e-208)の模倣に見える」とやや皮肉を込めて評しているが、それもまた、今日のBセグメントにおけるデザイン競争の激しさを物語っていると言えよう。

リアセクションの変更はフロントほど劇的ではないものの、効果的だ。コンビネーションランプのレンズがクリアタイプに変更され、内部のグラフィックがより鮮明になった。さらに、新デザインのリアバンパーには、トップギア誌が「(フェイクの)エアベント」と呼ぶディテールが追加され、ワイド&ローな印象を強調している。これら一連のデザイン変更の狙いはただ一つ、「スポーティーであること」。新型ルーテシアは、もはや誰もが微笑むフレンドリーなコンパクトカーではない。周囲と調和しながらも、自らの存在を強く主張する「際立ち」をその身にまとったのだ。

アルピーヌの精神を宿すインテリア
日本市場に導入される新型ルーテシアは、「エスプリ アルピーヌ フルハイブリッド E-Tech」のモノグレード展開となる。これは、単なる上級グレードの追加ではなく、ルノーがこのクルマに込めた明確な意思表示である。すなわち、新型ルーテシアは、アルピーヌが持つスポーツシックな世界観を日常で味わうための、最も身近な選択肢なのだ。

ドアを開けると、そのこだわりは細部にまで貫かれていることがわかる。トップギア誌が「このセグメントでお気に入りの一つ」「スーパーミニに乗っていることをほとんど忘れてしまう出来栄え」と手放しで絶賛するインテリアは、先代から格段の進化を遂げている。

まず目を引くのは、ドライバーに向けてわずかに角度がつけられた、9.3インチの縦型センターディスプレイだ。レスポンスは良好で、Apple CarPlay(ワイヤレス対応)とAndroid Auto(有線接続)にも対応する。重要なのは、ルノーが多くのメーカーが陥る「すべての機能をタッチスクリーンに集約する」という過ちを犯さなかった点だ。スクリーン下には、空調を直感的に操作できるロータリーノブと、その他の主要機能にアクセスするための物理的な「ピアノボタン」が美しく配置されている。これは日々の運転における使いやすさを大きく向上させる、見識ある判断と言えるだろう。ただし、オーディオの音量調整などはステアリングコラムから生えるサテライトスイッチで行う必要があり、これには少々の慣れを要するかもしれない。

エスプリ アルピーヌ専用の設えは、空間全体の質感を飛躍的に高めている。サポート性が向上した専用シートは、身体をしっかりとホールドし、長距離ドライブでの疲労を軽減してくれるだろう。ルノーの伝統ともいえるシートの出来の良さは、ここに来てさらに進化している。表皮には、環境負荷に配慮した合成皮革(ルノーは「お手入れザー」と呼称)やリサイクル素材が積極的に用いられ、ブルーのステッチやシートベルト、ヘッドレストのアルピーヌロゴ刺繍がスポーティーな雰囲気を盛り上げる。ステアリングホイールにも、フランス国旗を模したトリコロールのステッチが施されるなど、遊び心を忘れない。

ペダルはアルミニウム製、フェンダーには専用エンブレムが輝き、足元はオリジナルデザインの17インチアロイホイールが引き締める。BOSEプレミアムサウンドシステム(9スピーカー)も標準装備となり、Bセグメントの常識を超える上質な移動空間を提供する。
一方で、実用面ではトレードオフも存在する。「痛ましい打撃」と表現したくなるのが、ハイブリッド化に伴うラゲッジスペースの縮小だ。ガソリンモデルの391リットルというクラス最大級の容量に対し、E-Techハイブリッドモデルではバッテリー搭載位置の関係で301リットルへと減少する。これは決して小さい容量ではないが、クラストップレベルの積載性を誇っただけに、惜しまれる点ではある。また、荷室開口部の下端(ローディングリップ)がやや高い点も、重い荷物を積み込む際には意識する必要があるだろう。

「走りを極めた」E-Techの真価と成熟のシャシー
新型ルーテシアの心臓部は、日本市場では1.6L自然吸気エンジンに2つのモーターと、F1の技術に着想を得た電子制御ドグクラッチ・マルチモードATを組み合わせた「E-Tech フルハイブリッド」システムのみとなる。マイナーチェンジによりシステム最高出力は3馬力向上し、燃費も0.2km/L改善、さらに車両重量は10kg軽量化された。カタログスペック上の変化はわずかだが、その走りの質感は着実な進化を遂げている。

ルノーは、このパワートレインに「走りを極めたフルハイブリッド」というタグラインを与えた。これは単なる燃費スペシャルではなく、運転する楽しさを追求した結果であることを示唆している。その主張を裏付けるのが、加速Gの立ち上がりの鋭さだ。プレゼンテーションで示されたデータによれば、ドライバーが「気持ち良い」と感じる目安の0.25Gに到達する時間が、同クラスの競合ハイブリッド車よりも明らかに速い。特にスポーツモードを選択すれば、その差はさらに広がる。この特性は、ストップ&ゴーが続く市街地での運転において、ストレスのない軽快な走りとして体感できるだろう。アクセルペダルを踏み込んだ瞬間から、モーターが力強く、そしてスムーズに車体を押し出す感覚は、このシステムの大きな魅力である。

ドグクラッチを用いたトランスミッションは、ダイレクトな伝達効率を誇る一方で、その振る舞いには独特の個性がある。トップギア誌の評価では、通常速度域では完全に満足できるものの、フルスロットルを与えるとシフトチェンジに若干のもたつきを感じることがあるという。また、バッテリー充電のために、ドライバーの意図とは無関係にエンジン回転数が上昇する場面があることも指摘されている。これを「独自の意思がある」と表現しているが、これは効率を最大化するためのシステム制御であり、慣れれば気にならなくなる範囲かもしれない。

減速フィールもまた、新型ルーテテシアの走りの特徴を際立たせる。シフトレバーを「B」レンジに入れると、強力な回生ブレーキが作動する。その減速Gは最大0.15Gに達し、これは軽くブレーキペダルを踏んだ時と同等の制動力だ。競合モデルの多くが0.1G程度の回生力に留まるのに対し、ルーテシアはアクセルペダルの操作だけで速度を自在にコントロールする、いわゆる「ワンペダル走行」が極めて行いやすい。これは、ドライビングの楽しさだけでなく、燃費向上にも大きく貢献する。

そして、これらパワートレインの性能を支えるのが、日産・三菱アライアンスで開発されたCMF-Bプラットフォームの卓越した基本性能だ。運転するのに最適なスーパーミニであり、その乗り心地を「驚くほど成熟している」と称賛したくなる。フロントにマクファーソンストラット、リアにトーションビームというBセグメントの標準的なサスペンション形式でありながら、そのチューニングは絶妙だ。やや柔らかめに設定された足回りは、荒れた路面からの衝撃をしなやかに吸収し、乗員を不快な突き上げから隔離する。

プレゼンテーションで公開された、路面の突起を乗り越える際の車体の揺れ(前後・上下G)や騒音レベルのデータは、この主観的な評価を客観的に裏付けている。競合車に比べて揺れが小さく、特に前輪と後輪が突起を通過した際の揺れの差分が少ないことが、フラットで快適な乗り心地に繋がっているのだ。

この卓越したシャシー性能と、レスポンスに優れるE-Techパワートレイン、そしてキャプチャーより約120kg、アルカナより約170kgも軽い車重。これらの要素が組み合わさることで、新型ルーテシアは、シリーズの中で最もスポーティーで俊敏なドライビングプレジャーを提供する存在となっているのだ。

価格戦略と先進安全装備
新型ルーテシアの日本仕様は、前述の通り「エスプリ・アルピーヌ フルハイブリッド E-Tech」の単一グレードで、価格は399万円と発表された。一見するとBセグメントのコンパクトカーとしては高価に感じられるかもしれない。しかし、その背景を知れば、この価格設定が極めて戦略的であることが理解できる。

近年の急激な円安を考慮すれば、本来この仕様を日本で販売する場合の価格は500万円弱に達してもおかしくないという。そこを399万円に設定できたのは、ルノー・ジャポンの並々ならぬ努力の賜物であろう。さらに、このモデルはエコカー減税(100%)の対象となり、約13.5万円の優遇が受けられるため、実質的な負担はさらに軽減される。装備内容を考えれば、そのコストパフォーマンスは非常に高いと言えるだろう。

先進運転支援システム(ADAS)については、マイナーチェンジに伴うアップデートが行われた。後退時に後方を横切る車両を検知して警告する「リアクロストラフィックアラート」が新たに追加された。一方で、従来モデルに搭載されていた高速道路での車線中央維持を支援する「レーンセンタリングアシスト」は非搭載となった。

これは、欧州の新しい安全規制「GSR2」に対応する過程で、現在のハードウェア構成では要求される精度を満たせないため、グローバルで共通して機能が削除された結果である。単なるコストダウンではなく、より高度な安全基準への移行期における仕様変更と理解すべきだろう。なお、車線逸脱を抑制するステアリングアシスト機能は引き続き搭載されており、その介入感度は3段階で調整が可能だ。

新たな高みに到達したフレンチアイコン
マイナーチェンジを経て生まれ変わった新型ルノー ルーテシアは、Bセグメントにおける自らの立ち位置を再定義する、極めて野心的なモデルである。

ジル ヴィダルによる新しいデザイン言語は、ルーテシアにこれまでにない「際立ち」とスポーティーなオーラを与えた。もはや、ただの「お洒落なフランスのコンパクトカー」ではない。そのマスクは、見る者に強烈な印象を刻み込む。

「エスプリ アルピーヌ」の名を冠したインテリアは、Bセグメントの常識を覆すほどの質感と装備を誇る。日常の移動を、心豊かな時間へと変えてくれる上質な空間がそこにはある。そして、独自のE-Techフルハイブリッドシステムと成熟を極めたシャシーが織りなす走りは、爽快なドライビングプレジャーと驚くべき経済性を両立させている。時にはモーターの力で静粛かつ滑らかに、時にはエンジンとモーターが協調して力強く加速する。ワンペダル感覚で操れる回生ブレーキも、このクルマならではの楽しさだ。

もちろん、ハイブリッド化によるラゲッジスペースの減少や、レーンセンタリングアシストの非搭載といった、トレードオフも存在する。しかし、それらを補って余りある魅力が、このクルマには満ち溢れている。

399万円という価格は、絶対額だけを見れば躊躇するかもしれない。だが、その中身―デザイン、質感、走り、そしてアルピーヌというブランドが持つ特別な価値―を考えれば、むしろバーゲンプライスとさえ言えるだろう。

新型ルノー ルーテシア エスプリ・アルピーヌ。それは、実用性と経済性だけでは満足できない、知的なクルマ選びを求める大人たちへの、ルノーからの実に魅力的な回答である。このフランスの小さな巨人が、日本の輸入車市場に再び大きな波紋を広げることは間違いない。

400号記念:UK400マイルロードトリップ/フェラーリ F80/フェラーリハイパーカー:トップギア・ジャパン 069

このクルマが気になった方へ
中古車相場をチェックする
ガリバーの中古車探しのエージェント

今の愛車の買取価格を調べる カーセンサーで最大30社から一括査定

大手を含む100社以上の車買取業者から、最大10社に無料一括査定依頼

新車にリースで乗る 【KINTO】
安心、おトクなマイカーリース「マイカー賃貸カルモ」
年間保険料を見積もる 自動車保険一括見積もり

【tooocycling DVR80】
箱バン.com



トラックバックURL: https://topgear.tokyo/2025/10/81394/trackback

コメントを残す

名前およびメールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ピックアップ

トップギア・ジャパン 069

アーカイブ