【試乗】フィアット 600 Hybrid:”ドルチェ・ヴィータ”の再来 峠道で評価したキビキビした走りと実用性

フィアット初のハイブリッド、600 Hybridに御殿場で試乗。500の愛らしさとSUVの実用性を両立し、峠道ではラテンの血統を感じさせるキビキビした走りが光る。デザイン、走り、燃費、使い勝手をレポート。

クラシックCASIOなら公式CASIOオンラインストア
外車限定の車買取サービス【外車バトン】


2025年5月、新緑が目にまぶしい静岡県・御殿場。その地に、フィアットの新たな歴史の1ページを刻む一台が用意された。その名は「フィアット 600 Hybrid」。昨年発表された電気自動車「600e」に続き、ついに日本市場へ導入されたブランド初のハイブリッドモデルである。
フィアット「600(セイチェント)」の名は、ブランドの歴史において重要な意味を持つ。1955年に登場した初代600は、かの有名な「Nuova 500(ヌオーヴァ チンクエチェント)」に先駆けてイタリアのモータリゼーションを牽引した立役者であった。コンパクトなボディに大人4人が乗れる実用性を詰め込み、多くのイタリアンファミリーの足となった大衆車だ。その名を現代に復活させた新型600は、単なるノスタルジーではなく、電動化という大変革期にフィアットが示す未来への回答である。

プレスリリースには「かわいい顔して、しっかりモノ」という、実にフィアットらしいキャッチコピーが躍る。アイコニックなイタリアンデザインに、快適性、革新性、テクノロジーを融合させたコンパクトSUV。 それが、この600 Hybridの立ち位置だ。御殿場の試乗会でステアリングを握る機会を得た筆者は、期待に胸を膨らませていた。果たして現代の600は、我々にどのような”ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)”を見せてくれるのだろうか。そして、その走りは。結論から言えば、峠道で体験したその走りは、フィアットならではの「キビキビ感」に満ち溢れた、心から楽しいものであった。

デザイン - 血統と革新が織りなすスタイリング
目の前に佇む600 Hybridは、紛れもなく現代のフィアットファミリーの一員であることを主張している。その表情は、多くの人を虜にしてきた「500e」のかわいらしさを受け継ぎながら、より大きく、伸びやかなプロポーションを持つ。 フロントフェイスは「BIG SMILE」をコンセプトとし、円形のヘッドライトはどこか愛嬌がありながらも、グロスブラックのアクセントが全体を引き締める。

このクルマは、スーパーミニでもなく、SUVでもなく、その中間あたりに位置する。500Xの後継という位置づけながら、単に500を大きくしただけの車ではないという強い意志が感じられる。初代600からインスピレーションを得たというヘッドライトからサイドへの柔らかなフォルムや、リアナンバープレート上部の造形は、歴史への敬意の表れだろう。車の随所に散りばめられた「600」のロゴが、これが500の派生モデルではないことを明確に示しているのだ。

ボディサイズは全長4,170mm×全幅1,780mm×全高1,525mm。日本の道路環境でも持て余すことのない、絶妙なサイズ感である。それでいて18インチのダイヤモンドカットアルミホイールが足元を引き締め、コンパクトSUVとしての力強さも感じさせる。試乗車のボディカラーは、強い日差しを跳ね返すようなホワイト。他にも、イタリアの海をイメージしたというハイブリッド専用色シー グリーンやオレンジ、スカイ ブルーも用意されていた。どれも快晴の御殿場によく映える、鮮やかで美しい色合いであった。

ドアを開けて運転席に乗り込むと、そこにはエクステリア同様、レトロとモダンが巧みに融合した空間が広がる。2スポークのステアリングホイール、円形のメータークラスター、そして水平基調のダッシュボードパネルは、初代600の象徴的なデザイン要素を受け継いでいる。特に試乗した上級グレード「La Prima」のアイボリー色のダッシュボードは、室内を明るく、開放的な雰囲気に演出していた。

内装は、500とジープ アベンジャーのダッシュボードを混ぜ合わせた感じで、空間の色使いとダッシュボード中央部分の楽しいiPadスタイルの7インチフルカラーTFTマルチファンクションディスプレイは、気に入っている。このディスプレイで各種設定ができるが邪魔にならないサイズで、デザイン性と実用性を両立した見事なアイデアだ。フロント周りには合計30Lもの収納スペースが確保されており、日常の使い勝手への配慮がうかがえる。

シートは「La Prima」専用のFIATモノグラムがエンボス加工されたエコレザー製で、座り心地も良好。 ドライバーズスクリーンは円形のポッドに収められているが、ディスプレイ自体が長方形である点に若干の違和感があった。しかし、視認性に問題はなく、グラフィックも明瞭だ。中央に鎮座するタッチスクリーンは反応が良く、Apple CarPlayとAndroid Autoに標準で対応しているため、スマートフォンのナビアプリなどをシームレスに利用できる。エアコン操作用の物理スイッチが残されている点も、運転中のブラインドタッチを容易にし、安全運転に貢献する美点と言えるだろう。

全体として、インテリアのプラスチック素材は耐久性を重視した選択であると感じられたが、巧みなデザインとカラーコーディネートによってチープさは感じられない。まさに「かわいい顔して、しっかりモノ」というコンセプトを、内外装のデザインが見事に体現していると言える。

パワートレインとシャシー - 御殿場の峠道で証明された「楽しさ」の本質
600 Hybridの心臓部は、フィアットブランド初となる新開発の48Vマイルドハイブリッドシステムである。1.2リッターの直列3気筒ターボエンジンに、16kWの電動モーターを内蔵した6速デュアルクラッチトランスミッション(e-DCT)を組み合わせる。システム合計出力は107kW(145ps)、最大トルクは230Nmを発生する。

市街地を抜け、箱根へと続くワインディングロードへステアリングを向ける。アクセルペダルを穏やかに踏み込むと、モーターのアシストによって極めてスムーズに、そして静かに発進した。このハイブリッドシステムは低速時に100%電動走行が可能で、その速度域は最大約30km/hに達するという。信号待ちの多い都市部では、走行時間のうち約50%はエンジンを停止させることが可能で、これがクラストップレベルのWLTCモード燃費23.2km/Lという驚異的な数値を実現する大きな要因となっている。

エンジンとバッテリー、そして6速ギアボックス自体の統合は、全体として非常によく調整されておりスムーズ。エンジン始動時のショックは皆無に等しく、モーター走行からエンジン走行への移行は実に滑らかだ。ドライバーは、今どちらの動力源で走っているのかを意識させられることがほとんどない。

そして、勾配がきつくなる峠道でアクセルを深く踏み込む。すると、3気筒ターボエンジンが快活なサウンドを奏でながら目を覚まし、力強い加速Gが背中を押した。145psという出力は、このクラスのコンパクトSUVとしては十二分にパワフルだ。モーターによるトルクの上乗せが低回転域から効いているため、ターボラグを感じさせることなく、淀みない加速がどこまでも続いていく感覚である。これこそ、試乗前に抱いていた「フィアットならではのキビキビ感」の正体であった。6速e-DCTも小気味よくシフトアップを繰り返し、走りのリズムを途切れさせない。

シャシーの挙動についても触れておきたい。600は、ステランティスグループの「e-CMP2」プラットフォームをベースとしており、これはプジョー 208やジープ アベンジャーといったモデルと共通だ。数々の受賞歴を持ち、実績のあるプラットフォームだけに、その素性の良さは確かなものがある。

過去に乗った、EVモデルの600eの乗り心地にも触れておこう。比較的柔らかいサスペンションは、大きな凹凸によく対応し、ほとんどの場合、あまりフワフワすることはない。ハイブリッドモデルもその傾向は同様で、路面の細かな凹凸はしなやかにいなし、快適な乗り心地を提供する。しかし、コーナーが連続する区間では、決して腰砕けになることはない。ステアリングを切ると、ノーズはスッとインを向き、適度なロールを伴いながら安定した姿勢で旋回していく。

一方で、ステアリングフィールについては、過度に軽く、ハンドルからの唯一のフィードバックは強いセルフセンタリング感覚で、ブレーキペダルフィールでは、回生ブレーキと実際のブレーキの間のスムーズな移行ができず、走り始めに、ややそこはがっかりした。でも、走り続けるうちに考えが変化した。確かに、ステアリングは現代の車らしく軽めの設定だが、御殿場のタイトなコーナーが続く道では、この軽さがむしろリズミカルな切り返しを助け、運転の楽しさに繋がっていると感じられたのである。ブレーキに関しても、今回の試乗では回生とメカニカルブレーキの協調制御に違和感を覚える場面はほとんどなく、踏力に応じた自然な減速フィールが得られた。このあたりは、日本仕様への最適化や個体差、あるいは慣れの問題もあるのかもしれない。

むしろ印象的だったのは、その回頭性の良さだ。コンパクトなボディと相まって、まるで一回り小さなハッチバックを操っているかのような軽快感がある。これこそが、数字上のスペックだけでは測れないフィアットの伝統的な”味付け”なのだろう。合理性や効率だけではない、運転すること自体の喜び。600 Hybridは、電動化時代にあってもそのラテンの血統を失ってはいなかった。

ユーティリティ - 500からの大きな飛躍
フィアット 500がその愛らしいデザインと引き換えに、後席や荷室の広さという実用面である程度の割り切りを必要としたのに対し、この600はファミリーユースにも十分応えられるキャパシティを備えている。これこそが、このモデルの最大の存在意義と言っても過言ではない。

後席に乗り込んでみると、頭上にも膝周りにも、大人2人が快適に座れるだけの空間が確保されている。身長156cmの筆者が座った限りでは、窮屈さは感じられなかった。 確かにウィンドウラインは高めだが、閉塞感を感じるほどではなく、むしろ適度な包まれ感が心地よい。500と比較すれば、その差は歴然だ。そして、特筆すべきはラゲッジスペースの広さである。リアゲートを開けると、そこにはクラス最大級となる385Lの容量を持つ荷室が広がる。これは、週末の買い物はもちろん、家族での小旅行にも十分対応できるサイズだ。さらに後部座席の背もたれを倒せば、最大で1,256Lものフラットな空間が出現する。これだけの積載量があれば、趣味の道具を積んだり、大きな買い物をしたりといったシーンでも困ることはないだろう。

試乗した「La Prima」には、先進の運転支援機能も充実している。全車速追従機能付きのアダプティブクルーズコントロール(ACC)や、車線の中央を維持するようにステアリングをアシストするレーンポジションアシストは、高速道路での長距離移動におけるドライバーの疲労を大幅に軽減してくれるだろう。さらに、キーを持った状態でリアバンパー下に足先をかざすだけでゲートが開閉するハンズフリーパワーリフトゲートも、両手が塞がっている際には非常に便利な機能だ。デザインの魅力だけでなく、日々の生活を支える「しっかりモノ」としての実用性。600 Hybridは、この二つの要素を極めて高い次元で両立させている。

現代のライフスタイルに寄り添う、新たな”ドルチェ・ヴィータ”
御殿場での試乗を終えて、フィアット 600 Hybridは、実にクレバーで、そして魅力的な一台であると確信した。すべての合理的な条件を満たしているが、ライバルも多いのも事実だ。しかし、「楽しさ」の定義は一つではない。サーキットのラップタイムや、極限状態でのハンドリング性能だけが車の価値を決めるわけではないのだ。フィアットが600 Hybridで提案する「楽しさ」とは、明るいボディカラーや個性的なスタイリングがもたらす所有する喜びであり、日々の移動を少しだけ特別なものにしてくれる軽快な走りであり、そして、優れた実用性がもたらす生活の豊かさそのものなのではないだろうか。

この車は、かつてフィアット 500のデザインに惹かれながらも、家族構成やライフスタイルの変化によって、そのコンパクトさ故に選択肢から外さざるを得なかった人々にこそ、強く響くはずだ。愛らしいイタリアンデザイン、優れた燃費性能と十分な動力性能を両立した先進のハイブリッドシステム、そして、ファミリーユースにも応える広々とした室内空間とラゲッジスペース。

600 Hybridは、単なる移動の道具ではない。それは、日常に彩りを与え、人生を豊かにするパートナーとなり得る存在だ。現代の価値観とライフスタイルに寄り添いながら、イタリア車ならではの陽気さと情熱を失わない。これこそが、フィアットが導き出した、新たな時代の”ドルチェ・ヴィータ”の形なのである。御殿場の峠道を駆け抜けるその姿は、実に生き生きとして、輝いて見えた。

写真:上野和秀

アルファ ロメオ 33 ストラダーレ/ランド ノリス✕R32 東京ナイトドライブ/R35日本取材:トップギア・ジャパン 068
このクルマが気になった方へ
中古車相場をチェックする
ガリバーの中古車探しのエージェント

今の愛車の買取価格を調べる カーセンサーで最大30社から一括査定

新車にリースで乗る 【KINTO】
安心、おトクなマイカーリース「マイカー賃貸カルモ」
年間保険料を見積もる 自動車保険一括見積もり
【tooocycling DVR80】
箱バン.com




トラックバックURL: https://topgear.tokyo/2025/08/78884/trackback

コメントを残す

名前およびメールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ピックアップ

トップギア・ジャパン 068

アーカイブ