マクラーレン初のシリーズ生産ハイパフォーマンスハイブリッドスーパーカー、アルトゥーラが日本でお披露目された。発表会当日は、マクラーレン・オートモーティブ アジア 日本支社代表の正本 嘉宏氏によるプロダクトプレゼンテーションのほか、スペシャルゲストとして、義足を使って走り幅跳びに挑戦されているプロアスリートの山本篤 選手、MCにはキャスターの安藤優子氏でトークセッションも開催され、双方に共通する、その飽くなき チャレンジングスピリットについて語り合った。
さて、何よりも気になる価格は、2,960万円からと、思ったより買い求めやすい設定になっている。スポーティーで機能的な美しさを特徴とする「パフォーマンス」、テクニカルでラグジュアリーな要素を中心にした「テックラックス」、よりアバンギャルドで大胆なルックスと印象の「ビジョン」の3つの仕様がある。5年間の車両保証、6年間のバッテリー保証、10年間のボディ保証が標準で付帯される。
アルトゥーラは完全なプラグインハイブリッド(PHEV)機能を備え、標準的なEVSEケーブルを使ってわずか2時間半で80%充電ができる。また、選択した走行モードに応じて、走行中に内燃エンジンからバッテリーに充電することも可能になっているのだ。そして、30kmは電気のみの走行ができる。早朝、深夜の入出庫には心強い味方となってくれるだろう。
パワートレインは、新しいツインターボ3.0リッターV6ガソリンエンジンと、Eモーター、高エネルギー密度バッテリーパックで構成され、合計で最高出力680PSと、最大トルクは720Nmを発揮する。新型V6エンジンは最高出力585PSでリッター200PSに迫り、最大トルク585Nmである。新しい計量発足トランスミッションに当店マクラーレン初の電子制御ディファレンシャルを搭載している。最高出力95PSのEモーターが最大225Nmのトルクを瞬時に発生させ、0-100km/h加速はなんと3.0秒。0-200km/h加速はわずか8.3秒でハードコアな600LTとたった0.1秒の差しかない。ハイブリッド化により、マクラーレンのスーパーカーで最もシャープなスロットルレスポンスを実現している。なお、最高速度は330km/hに制限。アルトゥーラはマクラーレン史上最高の燃料効率5.5L/100km(18.2km/L)を誇り、CO2排出量は129g/kmと、良い意味でマクラーレンらしからぬ数値を出している。
これまでのマクラーレンにはなかったのがEモーターの部分だ。これはコンパクトな アキシャル・フラックス Eモーターで、トランスミッションのベルハウジング内に搭載されている。一般的なラジアルフラッグスモーターより小型で電力密度が高く、最高で95PS、225Nmを発生させる。その1 kg あたりの電力密度はマクラーレン P1のシステムを33%も上回るほど。モーターによる瞬時のトルクデリバリーは「トルクインフィル」と呼ばれ、これが極めて鋭いスロットルレスポンスの鍵となっている。
Eモーターの動力となるバッテリーパックは、5個のリチウムイオンモジュールからなり、使用可能な最大電力量は7.4kWh、純粋なEVの航続距離は30kmとなっている。バッテリーは冷却レールを使った冷媒冷却方式。バッテリー電力を車両後方からフロントの補機類に転送する配電ユニットも含めたアッセンブリーは、構造の一部をなすカーボンファイバー製フロアにマウントされた。これをモノコックのリア底部にボルト付けすることで、合成や重量配分、衝突保護性能を最適化している。
ハイブリッド化という新たなステージに踏み出したマクラーレンの一台に関して、マクラーレン・オートモーティブ・デザイン・ディレクターのロブ メルヴィル氏にインタビューをする機会を得られたので、以下、内容をご紹介しよう。
ゴールが明確に決められていました。マクラーレンとして、ハイパフォーマンスハイブリッドカーかつ、マクラーレンのスーパーカーでなければならない、ということです。これはデザインだけではなく、マクラーレンというブランドにとっての使命なのです。アジリティーが高く、ドライバーズエンゲージメントの高い、最高峰のハイブリッドを作らなければなりませんでした。
デザインでは、とにかく、不必要なものはすべて取り去るようにしました。違う面から申しますと、ウェイトをとにかく抑えることが、デザインの要件となったのです。そして私は審美的な分野で仕事をしていますが、テクニカルな部分やエンジニアと協力して作業を進めなければなりません。
その中で三つ重要な鍵があります。まず、ピュアであること、「純粋さ」ですね。クルマのラインがピュアであること、重量がピュアであることのほかに、コンポーネントを一体化させることでもピュアでなければならないのです。具体的には、可能な限り部品点数を減らすということで、例えばパ、ネル点数を減らす努力をしました。アルミニウムのスーパーフォーミングという工法を使ったのですが、この工法を使うことによりパネル一点一点を大きくすることができるのです。パネルが大きくなるとギャップなどが減っていき、ブラケットも少なくて済みます。
二番目のガイドラインがテクニカルスカルプチャー、「技術的造形」です。自然界に存在するものは全て理由があってその形になっています。様々な外的要因によってその形に作り上げられてきたと考えられるのです。アルトゥーラの場合は、例えば車両を流れるエアフロー、空気の流れによってあの形ができてきたと考えていただければ幸いです。そしてアルトゥーラの形を見ていただくに当たって、どのようにこのクルマが進化してきたかということをアルトゥーラ自体が語ってくれるというものに仕上がっているのではないでしょうか。ビジュアルストーリーを見る人が感じていただけるのではないかと思っています。
三番めはファンクショナルジュエリー「機能的ジュエリー」と呼ばれるものです。日本語ですと、機能として宝石のように輝いていることと訳せば良いでしょうか。美しさを表現するために何かを追加するのではなく、機能を追求することによって美しさを表現しています。この機能的ジュエリーは、アルトゥーラの随所に見ていただけると思います。エンジンベイ、バンク形状、ボディのシェイプ、その辺のところをご覧いただければお分かりになるかと思います。
その要件について聞いた時の私は「まさに完璧だ」と思いました。と申しますのも、新時代のマクラーレンのあるべき姿がこのデザイン要件としてして著されているというふうに感じたからです。このクラスで最もアジリティーが高く、ドライバーズエンゲージメントが強い、さらに最軽量であること。新しいテクノロジーをたくさん使ってはいますが、そのテクノロジーがドライバーのエクスペリエンスを低下させるものではなく、逆にエクスペリエンスを高めるものになっていると思いました。その意味でパーフェクトだと申し上げました。アルトゥーラは、新時代のマクラーレンの幕を開ける一台なのです。
重量に対しての目標というのは明確にありました。デザイン面だけではなくエンジニアリングと一緒になって重量のターゲットを設定しました。そのターゲットが基本となって私たちはクルマを開発しましたが、ハイブリッドにも拘らず1,498kgにすることができ、モダンマクラーレンとしてふさわしいものができたと感じています。
最初に1チームであること、デザインチームとエンジニアリングチームが一つのチームになって機能することが求められました。これはアルトゥーラだけではなく、マクラーレンの精神として、基本理念として非常に重要なことです。
まず私はデザインチームの面々に、このマクラーレンの企業文化を刷り込むことから始めました。全てのメンバーに「あらゆることに理由がある」、何かをやるのだとしたらそこに理由がなければならないという刷り込みをしました。なぜなのか、という点に徹底的にこだわりました。例えば1枚のスケッチをあげるときも、なぜそのスケッチが必要なんだろう?と、とにかくなぜをテーマにしました。そしてそのスケッチや何か提案するものがあったとしたら、それはファンタスティックであるのか?空力的に優れているのか?またマクラーレンとしてのユニークさは出ているのか?そのようなことを全て考え、それを総合して行ったというのが私たちのやり方でした。おかげでより軽量化されたクルマもできましたし、より強いエンゲージメントを持ったものができました。ここで大切なことがあります。私はデザインというものは、主導的な立場になって全てのものをまとめていくのではないかというふうに考えています。クルマを作っていくには、様々な要因がありますよね。デザインももちろんそうですし、エンジンやパフォーマンス、空力、歩行者安全に至るまで、細かいジグソーパズルのピースをまとめていくのがデザインの力ではないかと思っています。美しさだけではない、様々な要素を全てまとめていくのがデザインチームなのです。
二つの例を挙げたいと思います。エクステリアでボディパネルに注目してください。まず私達はボディパネルについて、素材をどうするのか、その物質の特性がどうなのかということを検討しました。また製造のプロセスをどうするのか、ここでも全てに「なぜ」と言う疑問を投げかけて考えました。その最終結果としてアルミニウムボディパネルをスーパーフォーミング工法で作成しました。この工法ですが非常に安定性が高く、同じクオリティで部品が再現できるという利点があります。またこのパネル間ギャップですけれども、0.5ミリ以下に抑えています。このおかげで複雑な形状を作ることができました。そして複雑にも関わらず部品点数を減らすことも達成できました。その良い例がルーフです。ルーフと側面が1ピースの構造になっている点や、リアのリアクラムという風に呼んでいるところですが、リア全体が完全に一体化されていますし、フェンダー部分とエンジンベイの部分も1ピースでつながっています。非常に整然としたものになったと思っていますが、このような細かい工夫だけでも、ボディパネルで数キロの軽量化が実現されています。
そしてインテリアでは1ピースのシェルシートが顕著です。こちらはエルゴノミクスチームとも話し合って作りました。これは標準的なスポーツシートに比較して10kgの軽量化を達成しています。シートは座面と背面が別々ではなく一体化して動くようになっています。しかしながら快適性は全く犠牲になっていません。そして体格で言うと97パーセンタイルの人にフィットするという結果が出ているシートです。軽量化され、快適で、より様々な体格の人にフィットしたシートになりました。
今回、私にとっての一番チャレンジングだったことは、デザインチームのマインドをフレッシュに保つということです。これまでマクラーレンは、様々なモデルを非常に多様性に富むデザインをしてきています。例えば、P1、720S、エルバ、スピードテール、セナなど、多くのモデルがあります。そういった様々な車種の、極限の部分まで追求しました。私には本当に素晴らしいチームメンバーが揃っています。本当に頼りがいのあるチームですけれども、いかにデザインという仕事を楽しんでくれるのか、ファンに感じてくれているのか、というところが非常に大きいと思います。惰性になってはいけませんので、その意味でプロセスを変えるだとか、あるいは少しずつ環境など何かを変えていくということをしました。プロセスもそうですし、製造方法も然りです。また時には新しい人材を迎え入れるということも一つの対策になるかと思います。とにかく、デザインチームが、本当に心から楽しんで仕事ができるのなら良い結果に繋がります。
そしてアルトゥーラに限って言いますと、ドライバーを中心としたインテリアをどう作り上げるか、というのが私にとって非常に難しいテーマでした。とにかくクリーンであること、ピュアであることということが大切です。あまりものを詰め込みすぎにならないことというのが大切なポイントですね。インテリアでは、ビナクルで私たちが作り上げた価値がお分かりになるのではないかと自負しています。