<ドライビング>
道路ではどんな感触?
運転席から見てみよう。コンチネンタル GTに良く似ているとは思わないだろうか。包み込むような良質のシートに適切なドライビングポジション、そして想像以上に前方の視認性が良く、前後にたくさんのクルマがいることなど、微塵も感じさせない。フライングBマスコットの位置が高くなったのか低くなったのかがよく分からないほどノーズが長いというのが、新たな特徴だ。まあ、これは、ドライビングエクスペリエンスにとっては、重要な特徴ではないけれど。
まずはエンジンの紹介から。12気筒エンジンである事はご存じの通り。これは、クルーで手作業で組み立てられ、2基の5950ccV6エンジンを連結させたものである。フォルクスワーゲンが最初にVR6型エンジンをベントレーに提供して以来、多大な進化を遂げている。シリンダーのシャットオフ、コースティング走行時のクラッチの切り離しがより滑らかで高性能になったことなどが挙げられる。そのおかげで、燃費は8.9km/Lに到達した。まあ、実際は、厳密にいうと、6-7km/L程度になるのだろうけれど。急激に押し寄せるパワーと、さらに正確に言えばトルクの上昇に抗うことは難しいのだから。このクルマは、低回転のときから、ベントレーらしいドライビングエクスペリエンスが感じられる。エンジンは6,000rpmを超えると若干不安定になるものの、1,350-4,500rpmでは900Nmのトルクを生み出せるので、そのような心配はいらない。離れたエンジンルームに配置されているので、滑らかな音を響かせながら、威厳のある速さを保っている。
そして、全体的にツインクラッチギアボックスが、このクルマの持つ力を上手く統制している。街乗りでは、運転者の思い通りに動いてくれ、変速時は慎重に適切なギアを選択し、ドライブトレインはスロットルペダルだけで簡単に制御できる。速度を上げたい時は、パドルシフトを使っても良いだろう。スポーツモードに入れると、ギアボックスは遠慮なく低いギアを選択する。コンフォートモードかベントレーモードでは、ちょっと眠いが、コーナー進入時は3速で速すぎるくらいだ。しかしやはりマニュアルモードに入れて、自らの意志でギアを変えてみるのが良いだろう。3速か4速が、どんなコーナーにもちょうど対応できるギアだ。となると、スロットルの反応速度が問題になってくる。コンフォートモードであれば、自分は何もしなくても良いんじゃないかと期待するかもしれないが、実際はスポーツモードでさえ、思ったような反応を得るには、ペダルを過度に踏み込む必要がある。失敗は付き物だと理解していればどこへ運転するのも怖くないが、慎重になることで失敗は減るだろう。
もしどのモードにすべきか悩んだら、スピードを出してバンプに乗り上げてみるのはどうだろう。そうすると、コンフォートモードではスプリングが柔らかすぎてノーズを擦りそうになるので、ここはスポーツモードだと、変えたくなるだろう。
しかし、フライングスパーの欠点といえばこれぐらいしかない。他の全ての点は、徹底的にと言っていいほど深い感銘を与えるものだ。それらは全て、48Vシステムのおかげだ。これまで試してきたどのクルマよりも、アクティブアンチロールバーが合理的で優れた働きをするだけでなく(ボディロールに何の負荷も与えることなくソフトなスプリングを使える)、4輪ステアリングとの組み合わせで、クルマは本来よりも軽く俊敏に、そして扱いやすいと感じさせてくれるのだ。ミュルザンヌをSUVとして扱うように、フライングスパーをスポーツカーとして扱える。興奮できるだろう。
図体が大きいので、狭いコーナーに入るには速度が速すぎてコントロールが難しいかもしれないが、その他の点は非常に印象的だ。コーナーでの加速時は最後までアンダーステアにならず、4輪が良く動いてくれる。スポーツモードでは、さらにリアにトルクが伝達されるようになっており、フロントへはわずか31%しか伝達されない。そしてスリップしない限りは完全に後輪駆動となる。
しかしこうした性能を味わえるのは、スポーツモードだけではない。中央にあるコントロールシフトで”B”のベントレーモードでも、享受することができる。また、ドライブトレイン、サスペンションとステアリングをそれぞれ独立してカスタマイズすることも可能だ。スポーツモードでは搭載されている3チャンバーエアスプリングが硬くなるので、路面がかなり滑らかでない限り、走行時に音と揺れを感じる。
それに対してベントレーモードは落ち着いた走りと走行性能を上手く融合させている。しかしそれ以上に魅力的なのが、このベントレーモードは柔らかさと硬さのバランスを独自に設定できるようになっていることだ。他車では乗り心地の硬さを柔軟に変えることはできない場合が多いが、フライングスパーにおいてはその違いは明確で、この大型サルーンにたくさんのドライビングキャラクターを与えている。
おそらく、最も使用頻度が高いのはコンフォートモードだろう。コンフォートモードは、非常に楽だ。道のくぼみにはまった時はコントロールが問題になるが、スプリングの下にある重量物をフライングスパーが対応しなければならないということを忘れないように。なぜなら、420ミリの鉄製ディスクブレーキを搭載した21もしくは22インチのホイールに、ワイドフットタイヤが取り付けられているのだから。しかし長くうねった道においては、サスペンションが長く、深く、しなやかに動く。これが、走行時の落ち着きとリラックスを与えてくれる。もちろん車内は静かで、どのドイツ車よりも良い雰囲気だ。それは誰もがベントレーの大型サルーンに求めるものだろう。その雰囲気の上質さを際立たせているのは、バンド幅だ。ノブをひねりボタンを2回押すだけで、リムジンやスポーツサルーンのように作動してくれる。