スバル WRX STIを愛用して3年目となる私にとっても、タイヤ交換は身近に迫ったイベントだ。次の交換でも、ハイパフォーマンスタイヤを選択するつもりであったが、自身の愛車の使用環境を振り返ってみると、それがベストともいえないことに気が付いた。何しろ、走行の多くは、仕事の移動であり、高速道路と市街地走行がメインなのだ。必ずしもハイグリップが、求められる使用環境ではない。そして、走りに特化したハイパフォーマンスタイヤにも欠点はある。快適性と静粛性、そして、燃費だ。その性能の対価として、これらは犠牲となりがち。そして何よりも一般的なタイヤと比べて高価なことは、全てのユーザーに共通する悩みだろう。そこで日常ドライブに最適と思われるスポーティタイヤを検討してみることに。そこで注目したのが、ピレリの最新サマータイヤ「POWERGY™」だ。
POWERGYは、2022年春に投入された最新サマータイヤ。ピレリのサマータイヤラインアップでは、ハイパフォーマンスタイヤの「P ZERO™」シリーズを頂点に、コンフォート性や低燃費性能を重視した基幹モデル「CINTURATO™」シリーズで構成されているが、その中間に位置するのが、新タイヤPOWERGYなのだ。時代が求める安全性とサスティナビリティを重視しており、雨天ドライブの安全性を高める優れたウエットグリップ性能をはじめ、燃費を向上させる低転がり抵抗や快適性を高める低騒音化を実現させたという。またラインアップは、15インチ~21インチサイズと幅広く全66サイズを用意。タイヤサイズに合わせて、スピードレンジもH~Yを設定するなど幅広い車種を想定する。具体的には、クロスオーバー・SUV、セダン、ミニバンなどを想定している。
安全性と環境性能の高さを示す指標に、日本自動車タイヤ協会(JATMA)のラベリング制度がある。これは、路面がぬれた状態でのタイヤグリップ力をa、b、c、dの4段階で示した「ウエットグリップ性能」と、タイヤ荷重に対して、走行中にタイヤが損失するエネルギーである転がり抵抗を比率化し、「AAA、AA、A、B、C」の5段階で評価した「転がり抵抗性能」のふたつがある。転がり抵抗性能で、「AAA、AA、A」の上位3つに、さらにウエットグリップ性能も「a~d」に該当するものだけが低燃費タイヤ統一マークを表示することができる。POWERGYは、全タイヤが低燃費タイヤに該当。具体的なラベリングは、「AA/a」が16サイズ、「A/a」が47サイズ、「A/b」が3サイズとなっている。
低燃費タイヤ実現のカギは、イタリア・ミラノにあるピレリのR&D部門の最新技術にある。POWERGYの開発には、ピレリで最も進化したバーチャルシミュレーションシステムを活用。R&Dセンターでの静的なシミュレーション解析で、適正なトレッドパターン及びプロファイルを導き出し、最適な接地形状を実現。その結果、接地圧力分布が均一となり、ブレーキの制動距離を短くし、車のコントロール性や操舵時の正確性も向上。さらにウェットブレーキ性能と摩擦性能を高めるために、特殊なポリマーを使用したコンパウンドが使われている。また周方向の溝と、それに繋がる横溝を配置したパターンが、排水性を高め、ウエット性能と安全性を向上させているという。もちろん、熟練の技術者たちのよるトラックテストにより、その実力はしっかりと検証済みだ。デジタルとアナログの技術を巧みに組み合わせることで、コロナ禍でありながら、開発を円滑に進めるだけでなく、開発期間の圧縮にも成功し、全く新しいタイヤであるPOWERGYの開発が、わずか18カ月だったというから驚きだ。その成果は、コスト削減と環境負荷低減が求められる次世代のタイヤ作りの礎にもあるものだ。この流れからも、POWERGYが、ピレリの力作であることが伺える。
さて、私のWRX STIには、245/40R18サイズを装着。POWERGYでは、245/40R18 97Y XLが用意されており、ラベリングが「A/a」の低燃費タイヤとなる。まずは、タイヤデザインをチェックだ。サイドウォールには、POWERGYのロゴが細めだが、力強くデザインされる。通常の低燃費タイヤだと、抵抗を減らすべく、ショルダーが丸くなっているものが多い。その点、POWERGYはバランス良く、エッジが効いているように見えるデザインとなっており、ヤワさもない。トレッドパターンも、4本のワイドなセンター溝を中心とした力強いデザインとなっている。この辺は、欧州の高性能モデル向けタイヤも得意とするピレリのデザイン力が発揮されているのだろう。
試乗してみると、スタートから、愛車のスムーズな出足に驚く。これまでのハイグリップタイヤと比べ、ワンテンポ早く、クルマが動きだす印象なのだ。走行中の動きも軽やかで、転がり抵抗の減少を肌で感じられることに驚いた。さらに、普段、気になっていたロードノイズも減少している。元々、遮音性が高いわけではないWRX STIなので、タイヤの低騒音化は嬉しい恩恵だ。では、減速時はどうなのか。正直、日常運転レベルならば、ハイグリップタイヤと比べても大きく落ちるとは思えない。ただ車線変更やコーナリング時など、ハイグリップタイヤのような路面を掴む感覚はなく、ドライブフィールに変化が生じるのは確かだが、ステアリング操作にも、タイヤがリニアに応答するし、ブレーキング時もタイヤが路面をしっかりと捉えている感覚があるので、不安は一切感じなかった。タイミングよく雨天のドライブできたが、雨に強いと謳うだけあって、ドライよりもウエットの方が路面をしっかりと捉えている印象が強まったのは意外だった。
単なるエコタイヤではなく、スポーティタイヤとしても、デザインと性能の両面で、バランスの良さを見せてくれたPOWERGY。正直、ワインディングを攻めたくなる人には、もう少しグリップ重視のタイヤが良いだろうが、オールラウンドなサマータイヤを求めるなら悪くない選択だと思う。同じWRXでも、ツアラーであるWRX S4の方がより愛称は良いはずだ。またサイズが豊富なことから多くのユーザーにとっては、インチアップ用タイヤとしても使いやすいのではないだろうか。個人的には、ロードノイズが抑えられたことで、車内での会話や音楽がより楽しみやすくなったこと。乗り心地が向上したことは嬉しい成果であった。今後の注目点としては、低燃費タイヤとして、どのくらい燃費を改善してくれるかにも期待している。
文 大音安弘 写真 佐藤亮太