ブガッティ 東京(BUGATTI TOKYO)にて、世界限定99台の「ブガッティ W16 ミストラル」がアジア初公開かつ日本初公開された。価格は500万ユーロ(7億円)、2024年に納車が開始される予定だ。だが、全生産台数はすでに完売となっている。発表会当日は、ブガッティリマッチの本社から、マネージングダイレクターヘンドリック マリノウスキー氏とデザインダイレクターアヒム アンシャイト氏が急遽来日し、プレゼンテーションを行った。
冒頭、SKY GROUP ムーヴの取締役、笠井裕太氏から挨拶があった。「(発表会当日は大寒波の日だったので)本社からのゲストが無事到着できて良かったです。さて、このショールームは、最新CIを導入したショールームということで、2021年の4月16日に設立しました。サウジアラビアのリヤドと東京が世界で最初に導入ということになりましたが、最初の2つにアジアが選ばれたということで、ブガッティリマッチ本社から見ても非常にアジア、それから日本、東京というマーケットが非常に注目と期待を込められているということを実感しております」
ブガッティ W16 ミストラルは、BUGATTIの伝説的なW16エンジンを搭載した、エクスクルーシブでエレガント、そしてパワフルな究極のロードスターだ。W16 ミストラルというモデル名は、このロードスターの最大の特徴ともいえるエンジンの名称「W16」に、ローヌ川流域から南仏のコート・ダジュールの華やかな街を吹き抜けて地中海に向かって吹き下ろす力強い北風の名「ミストラル」を組み合わせたものだ。「W16 ミストラル」は、Chiron Super Sport 300+で採用された1,600PSバージョンのW16エンジンを搭載し、これまでのオープンカーとは一線を画す性能を発揮する。
続いて、常に笑顔を絶やさないヘンドリック マリノウスキー氏から。
「ついにこの日がやってきました。日本のマーケットはこれからどんどん伸び、急成長を図るマーケットということで、期待も込めて今日ここに来日することにいたしました。2005年からこのブガッティが、世界でハイパーカーという新しいジャンルを切り開いて確立させ、その象徴となっているW16気筒のエンジン、世界で最も進化したエンジン、そのパワートレインをもって前進してまいりました。ブガッティは長い歴史の中で40%がロードスターモデルとなります。そしていよいよ、ここがそのW16気筒の最終局面であり、最高峰のプロダクトが、いまここにあるのです。
それから未来の話をしましょう。ブガッティはですね、新しくマテ リマッチCEOが率いるブガッティリマッチという新しい組織に変わっていきます。そして、全く新しいパワートレインも開発していて、ハイブリッドが投入されて参りますが、その将来についてもこれからぜひ期待していてください」
その後、デザインダイレクターのアヒム アンシャイト氏からW16 ミストラルについて詳しい説明があった。
アンシャイト氏は2004年からブガッティにおり、それ以降すべてのブガッティのデザインを担当している。このクルマは、1930年代に発表されたブガッティのタイプ57のロードスターから、影響を受けている。1930年代というのは創業者のエットーレブガッティから引き継いだ息子のジャンがになっていた時代だ。その時代にはとても有名なタイプ57のアトランティークも作られている。ブガッティはフロントグリルではなくホースシューと呼ぶのだが、ミストラルは過去のモデルと比べてもとてもワイドなホースシューとなっている。そしてその部分にあるマカロンと呼ばれるエンブレムも象徴的だ。センターのラインはタイプ57のアトランティークをはじめ、ブガッティランゲージとなっている。ヘッドライトは縦型を採用。水平方向のシロンやヴェイロンのようなモデルではなく、フューオフと呼ばれているモデル、ディーヴォ、セントディエチ、ラヴォワチュール ノワールに用いられたもので、スペシャルなモデルの証だ。
ブガッティはフロントだけでなくサイドに特徴的なラインを入れている。ロードスターモデルということもあり、フロントウィンドウのあたりからリア、そしてCを描き、破綻することなく伸びやかなブガッティラインとなっている。フェラーリやランボルギーニのように、レーシングカーから派生してきたロードモデルのような手法をとることはない。空力などファンクションの部分もブガッティらしいデザインの中に溶け込ませているのだ。
インテリアでは、タイプ57のグランドロードスターがこのブラックとイエローの組み合わせであったことを引き継いでいる。シフトノブには琥珀を使い、その中に象が立って踊っている「ダンシング エレファント」が入っている。それも、ジャンの頃にロイヤーデという12リッターのクルマのフロントについていたもので、象というものは大きくて重たいけれどもかるがると踊れるんだということを表したモニュメントだった。琥珀は数千年から数百万年かかると言われており、ヒストリーやヘリテイジを表現するものということで選ばれた。なおこのダンシングエレファントは顧客の好みによって、他の動物であるとか、何か思い出深いものへと変更することが可能だ。
2年ほど前にボリードという、40台限定の実験的なサーキット専用モデルを発表した。それは公道走行を目的としていないのでデザインもチャレンジングなものとしやすかった。そのボリードに入っていたものがリアの X シェイプだったのである。ミストラルもそれを取り入れている。ただしミストラルは公道で走ることを目的としているので、リアウイングをはじめ、様々な用途にフィットしなければならない。車検を取るための様々な条件にも合わせていく必要があるのだ。そのような制約の中で取り入れたX シェイプだが、今後のブガッティのデザインにも積極的に採用していきたいモチーフである。その他リアではフロントから続くセンターライン、剥き出しの W 16エンジンなどブガッティらしい魅力が見て取れる。そして2本のエアスクープに関して言えば、2004年にヴェイロンがデビューした時それよりも前、1998年に東京モーターショーでコンセプトカーだった時代に、すでにこの2本の際立ったエアスクープが置かれていたのだ。ブガッティは歴史あるブランドなので過去のものを現代風に解釈してまた採用できるというのはデザイナーにとってとても幸せなこと。エアスクープに関してはエンジンの高熱を冷却する役割、それからロードスターなので万が一横転してしまった場合にはこのエアスクープが乗員の頭部を守る機能を果たしてくれる。
お二方にお話を伺った。
―シフトノブに琥珀とダンシングエレファントを採用した理由について教えてください。
「一言で言えば、ロマン、でしょうか。ブガッティ エレファントには、単に象であることやブランドのシンボルであること以上の意味があります。レンブラント ブガッティの彫刻のひとつであったことから、心に響く歴史があるのです。レンブラント ブガッティは、エットーレの弟です。そしてエットーレ自身は、母親に手紙でこう言っています。『お母さん、僕はやりたいことが何でもできるんだ。僕にはレンブラントのような才能はない。彼の手さばきのような才能は』ですから、エットーレは機械仕掛けの芸術家になりました。芸術家=技術者。これがエットーレ ブガッティでしたが、レンブラントには計り知れない才能がありました。100年以上前の彼の彫刻を見ると、模写の技術はありません。彼は動物園に座っていました。彼はただ粘土の模型を持って座り、動物を見ていたのです。動物は決して静止していません。今日のレンブラント ブガッティの彫刻を見ると、とても感情的で、ジェスチャーがあるんです。そんなエピソードがレンブラント ブガッティを特別な存在にしています。ですから、彼の彫刻はとても価値があるのです。
この15年で、ブガッティの作品には大きな価値が生まれました。クルマと同じように。ですから、私たちは彼の思い出を大切にするのです。私たちは彼を尊敬し、高く評価しているのですから、それをオマージュで入れました」
―フェラーリやランボルギーニとブガッティが異なる、というお話がありましたが、それはブガッティが建築家や彫刻家など、エンジニアからでなく、芸術家が多かったことに起因していますか?
「はい、とても正しい解釈です。ですから、アート フォーム テクニックというコアバリューがあるんです。テクニックというのは、とても簡単です。それは、最高級の技術であり、最高のエンジニアリング品質です。フォームも同様に、説明するのは簡単です。ですが、アート、これは自動車メーカーでは難しい概念です。私たちは、ジャン ブガッティと彼の遺産、そして私たちのデザインワークの起源さかのぼることができます。しかし、ベントレーやフェラーリ、ランボルギーニと比較すると、芸術は本当に特別なものだと言わなければなりません。なぜなら、ブガッティ家は1920年代に芸術家の一族として生まれたからです。すでに父親も、祖父も、家族全員がそうでした。セガンティーニのようなイタリアの有名な芸術家も、ブガッティ家と一緒にランチのテーブルに座っていたそうです。だから、彼らはミラノの芸術家一家として知られてきたのです。その後、エットーレの父親であるカルロ ブガッティが、家族ごとパリに引っ越したんです。その理由は、世紀末のパリはアート界の震源地だったからです。それがきっかけで、すべてがフランス風になり、子供たちもフランスで育ちました。これが、1920年代にすでに特殊な自動車会社であったアート フォーム テクニックの背景のすべてなのです。そして、その精神は今も受け継がれています。その精神とは、「我が道を行け」「真似するな」「ユニークであれ」「自分らしくあれ」というものです。そして、他の人がやっていることは、あまり気にしない。これは、アーティスト精神です。それは、今でも私たちの会社の中に息づいています」
―他にそのような自動車メーカーはないですね。
「ブガッティを特別な存在にしているのは、スタイル面では、ブガッティのキャラクター要素です。ブガッティは、ホースシューやブガッティライン、センターラインなど、ブガッティを特徴づける要素に強いこだわりを持っています。また、リアグラフィックも特別なもので、エモーショナルです。私たちはグラフィックDNAと呼んでいるのですが、もし、そのグラフィックDNAが非常に強いものであったなら、人々は、ああ、これなら大丈夫、安心だと思うでしょう。これはブガッティにしかできないと思わせるような強烈なグラフィックであれば、その周りのものを落ち着かせるのがデザイナーの仕事です。その間にあるものは、比較的シンプルに、美しい表面と反射だけ、そしてあまり多くの線は使いません。というのも、それらの要素がすでにすべてを語っているからです。その間にあるのは、ただ素晴らしいプロポーションと素晴らしいサーフェスがモデル化されているだけなのですから。そして、表面は何かを語ってくれます。美しい表面と、その表面に映し出されたもの。美しい表面とその反射は、車を見る人の知覚に品質という認識を与えてくれます。もちろん、ブガッティのフェンダーもそうですが、もうひとつ例を挙げてみましょう。911のリアフェンダーを見たとき、人々はその理由を知ることはできませんが、ただ純粋に美しいと感じるのです。これは、反射をうまく利用したアートであり、シンプルさを生み出すものなのです。多くの線を使うのではなく、美しい表面でそれを達成すしています。ブガッティは、長い間自由にやってきたという意味で、とても貴重な存在だと思います。ブガッティは、10年後、20年後、子供たちへ受け継がれる貴重なコレクションとして認識されるでしょう」
―そのアートを背景としたブガッティがリマッチと組んで展開する未来とはどんなものでしょうか?
「私たちの持っているアートの精神は、コアバリューとして、いつの時代にも通用するものです。これは、私たちの遺伝子であり、DNAです。そしてもちろん、それ以上に、これは私たちを他の人と区別するものです。私たちの存在の不可欠な部分であり、もちろん残ります。
また、営業部門やマーケティング部門がお客様とどのように関わっているかを理解することも、デザイン部門にとっては、重要なことです。販売部門やマーケティング部門がお客様と一緒になって、時にはキュレーターのような役割を果たすこともあります。このことは、自動車コレクターとアートコレクターの融合を意味します。ブガッティのお客様には、ある種のフュージョンがあるのです。ブガッティのお客さまの多くはアートコレクターでもあるので、ブガッティの製品はそこに浸透していけるのです。そのため、マーケティング部門と販売部門の関係は、非常に個人的なものとなっています。ブガッティの魅力はそのようなところにあり、顧客データベースを俯瞰することができる点は大きなアドバンテージです。ブガッティの魅力は、顧客のデータベースをうまく活用できること、そして、顧客のニーズに合わせて、非常にパーソナルなコンタクトをとることができることです。そして、この活動はもっと増えていくでしょう。お客様との個人的なコンタクトは、今後ますます重要になるでしょう。このことは、私たちのコアバリューでもあります」
-今後、新型車の発表予定はありますか?
「ちょっと今は早すぎてまだ詳細は言えないのですが、年内に技術的なコンセプトが出る予定です。まだ自動車になってはいませんが、技術的なコンセプトとなるでしょう。ハイブリッドカーで、新開発の内燃エンジンをベースにしているということで、もちろん、私たちも皆、とても楽しみにしています。期待していてください」
■ブガッティ W16 ミストラル(BUGATTI W16 MISTRAL) 諸元
エンジン :8.0リットルW16気筒+4ターボエンジン
最大出力 :1,600ps
最大トルク:1,600Nm(2,250-7,000rpm)
駆動方式 :4WD
最高速度 :420km/h *リミッター作動