「ジェームズ ボンドは、政府機関が使う鈍器のようなものだ」と、ボンドの生みの親であるイアン フレミング氏は述べている。「寡黙で、硬くて、冷酷で、皮肉屋で、宿命的である。ギャンブル、ゴルフ、速いクルマが好き」
このフレミング氏の人物像は、過去58年間に世界で最も注目されている架空のスパイが出演した24本の映画の中で、よく観察され、自由に解釈されてきた。
そして今、ボンドの25作目の公開が間近に迫っている。今週、映画館で公開される「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」では、ダニエル クレイグが007役を降りる際に俳優としての筋肉を鍛えることができ、彼の感情を揺さぶり、本作のスタントクルーとプロダクションデザイナーはカーチェイスの本質を再び再構築しているのだ。どうやら「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」には、ボンド映画史上最も残酷なカーチェイスが描かれているようである。そこで私たちは考えた。これまでに6人の俳優が007を演じてきたが、いずれもボンドカーという共演者を丁寧に配してきた。
実際、私たちの多くは、幼少期にテレビでボンド映画を見たことが、そもそも自動車に夢中になるきっかけの一つになっている。世界中の巨大なシェアを占める007ファンは、誰が最高のボンドなのかを延々と議論しているが、では、どのボンドカーが最もクールだったのだろうか?トップギアは、俳優ごとに1台ずつ選んで、主要なクルマを時空連続体の同じ場所に集め、その歴史を探り、準科学的だがほとんど主観的なテストを行った。ミスター ブロスナンのごとく氷のようなBMW Z8、ご起立ください…。
BMWは、ボンド映画のプロデューサーと、まだクルマが完成してもいないうちに、『ゴールデンアイ』にZ3を、『トゥモロー・ネバー・ダイ』に750iLを登場させる契約を交わしていた。このとき、『トゥモロー・ネバー・ダイ』で使われたのがE38である。見栄えがいいとは言いかねる7シリーズであったうえに、大型でシルバーのリムジンタイプが使われた。そして、1999年のヒット作である『ワールド・イズ・ノット・イナフ』でZ8が登場した。
この映画で、このクルマは大した活躍を見せず、最高出力394hpを発揮することもなかった。このFRのレトロなロードスターには十分に能力があり、ヒーローと共に活躍できたはずなのだが。その代わりに、このクルマでボンドがアゼルバイジャンの油田を走り、その後で、ヘリコプターの回転ノコギリによって真っ二つに切られてしまった。なぜこんなに出演時間が短くなったかというと、プロデューサーが必要とする時までに、Z8の開発が終わらなかったからである。そのため、初回プリプロ分の内の2台だけしか撮影に回せなかったのだ。
BMWが提供した2台以外のクルマは、ボンドのSFX担当であるクリス コーボールドと彼のチームが、このクルマそっくりのボディパネルを作り、ガラクタの山から拾ってきたシャシーに張り付けて、でっち上げたもの。エンジンは、5.7リッターのシボレー製V型8気筒である。トランスミッションは、トレメック製の5MT。サスペンションは、ジャガーのものを流用している。アルミ製スペースフレームは、あらかじめ2つに分割できるように作られていたが、痕跡が見えないようにカムフラージュされていた。Qとして最後の出演となったデズモンド ルウェリンが、Z8の特別装備を紹介しているところが印象深い。その装備とは、チタン製の装甲化、進化したヘッドアップディスプレイ、サイドベントから発射できるミサイルである。このミサイルは、Z8のワイヤースポーク型ハンドルにターゲットディスプレイがあり、『トゥモロー・ネバー・ダイ』の750iLと同様、リモコンで操作できる。
2000年の初め、私はカリフォルニアでZ8に試乗したのだが、これは最高だった。決して万人向けのクルマではない。かなり大味なのだ。そして、507風のデザインは、90年代後半に訪れたレトロブームが飽きられ始めたころの名残である。エンジンは、自然吸気の4.9リッターV型8気筒である。これは、E39のM5にも搭載されている。トランスミッションは、フィールがスリリングなアナログ式MTである。そして車重は1,585kgで、決して軽いとは言えない。LSDがないためにハンドリングには限界があるが、おかげでスリル満点。車内は外観よりもレトロだが、センターに配置された計器やハンドルを見てほしい。レイアウトのシンプルさは、レトロというより未来志向といえる。これで、Z8が2020年現在、優れた自動車遺産となっている理由が分かってもらえるだろう。購入しようと思ったら、15万ポンド(2,000万円)は必要だが。
ガジェット:77/10
スピード:7/10
牽引力:6/10
スキッド:6/10
スタント:6/10
スター性:7/10
合計:39
今週のトップギアのWebサイトでは、レーゼンビー、ムーア、ダルトン、ブロスナン、そしてクレイグについて記事を出していく予定なので、お楽しみに。
=海外の反応=
「LSDついてないの!?」