新型マセラティ MC20 チェロがリトラクタブルハードトップになった理由




ルーフ開閉はわずか12秒

マセラティの新型MC20チェロの日本での発表に合わせ、デザイン担当のアンドレア ブルーノ氏、プロダクト担当のマッシモ カパルディ氏、エンジニアリング全般を担当しているフェデリコ ランディーニ氏がMC20チェロの魅力をオンラインセッションで伝えた。

MC20チェロは、ネットゥーノV6エンジンを搭載し、標準生産車のパワーユニットとしては初となる、F1由来のテクノロジーを採用したMC20のコンバーチブルモデルだ。630ps、730Nmのパワーで、0-100km/h加速は2.9秒以下、最高速度は320km/h。価格は35,500,000円となっている。

最初に、デザイン面から、アンドレア ブルーノによる説明が行われた。
「ご存じのようにこのMC20 チェロはミッドシップ方式のエンジンを搭載しています。これにより、車のプロポーションを洗練することができました。究極のバランスを備えているからこそ先に発売されたマセラティの象徴的モデルであるMC20クーペと同様に、マセラティらしさを強く打ち出したアイコニックなモデルとなっております。

マセラティは2つのスピリットを持っています。それは、エレガントさとスポーティさです。この2つのスピリットはこのモデルのフォルムにもしっかりと反映されています。まずはボディ。その色彩と造形の美しさが魅力です。カラーが施されたボディ部分はエアロダイナミクス技術が集中する車体下部の黒い部分とは対照的です。ボディラインは造形美にあふれています。イタリア芸術にインスパイアされ、まるでスカルプチャーオブジェのようです。黒い部分はテクニカルな機能性を考えてデザインされています。
それから、フロントを見てみましょう。マセラティはMC20チェロで初めてフロントグリルの上部と下部を分解しました。まさにフロントグリルを出発点として生まれたモデルです。Centre Fuselage(中央胴体)と呼ばれる中央部分は、輪郭が彫刻的な形で車のフェンダーを収容しています。この車の機能性を中心に全てのパーツがデザインされています。
そして、サイド部分について説明します。全ての要素においてエアロダイナミクスを重視し非常に際立つスカルプチャーを創り出しています。車にはウイングや余計なエアインテークはついていません。カモメの翼のような形状のドアはこのように開きます。このモデルは隅々まで精巧に設計されています。
それから、車内をみてみましょう。ルーフの開閉をお見せします。車の外観がたった12秒で様変わりしました。素晴らしいインテリアデザインには純粋で本質的な要素を組み込んでいます」

次に、プロダクト担当の、マッシモ カパルディ氏が説明を行った。
「覚えている方もいらっしゃるかもしれませんがMC20は2020年に“THE FIRST OF ITS KIND”をコンセプトにして発表されました。MC20はこのタイプのファーストモデルとして市場で初めて発売されたのです。MC20 チェロはその第2ステップとなります。
MC20チェロの3つの側面についてご説明します。
まずは歴史、つまりこのモデルの製作の舞台裏、続いて製品の主な特長について、そしてMC20 チェロの開発にあたり、この第2ステップで導入したイノベーションについてお話しします。
最初にMC20 チェロの構想を検討したときからスパイダーを作りたいと思っていました。屋根をフルルーフにするかCieloで実現したようなリトラクタブルハードトップにするかが悩みどころだったのです。屋根をフルルーフにすると特に重さの点で大きな成果がありますが、デメリットもたくさんあります。その一つは全てのマセラティ車の重要な特長である、快適性という要素を併せ持つ高さを実現できないことでした。試行錯誤の結果、高いエンジニアリング技術を駆使して、唯一無二の非常に革新的で特長的なルーフが完成しました。これによりドライバーに快適性と周囲の環境に溶け込むほどの素晴らしい体験を提供できるのです。ルーフは12秒で開閉しこれは市場トップクラスの短い開閉時間です。
またガラスに特殊コーティングされた断熱素材の品質は業界で最高水準を誇ります。このルーフの唯一無二の特長はPDLC(高分子分散型液晶)技術を使ったガラスです。車内センタースクリーンのボタンに触れると一秒でクリアガラスからスモークガラスに切り替わります。
そして、MC20レンジに新しさを導入した最初の美学はMC20 チェロに捧げられたこの美しいアクアマリーナという色でした。装着されたMMXX(2020)という名の新しいホイールは、この車両名の20を想起させます。
次にインテリアですが新しい主な特長はドライブモードセレクターです。これはディスプレイパネルに装備されドライブモードを見ながら簡単に選択できます。さらに新しくなった点は当社のパートナーが開発しMC20 チェロ特別仕様のアルカンターラ素材のシートで内部空間をより明るく演出します。
技術面では360度サラウンドビューカメラが装備され、車の運転や駐車が容易になります。また安全装備機能も充実しており歩行者・自転車検知機能(AEB)や衝突被害軽減ブレーキを搭載しE-callという緊急サービスも提供します。
このような特長からこのモデルは唯一無二100%マセラティ車であり、100%スパイダーであると言えます。最初に述べた通りMC20 チェロは第2ステップのモデルですので数年以内に電動モデルも発売を予定しています」

最後にエンジニアリング担当のフェデリコ ランディーニによる説明だ。
「カパルディが説明したようにMC20 チェロはMC20クーペから自然に進化しました。この車両に乗る幸運な人に空と一体化するような多彩な体験を提供したいと考えました。パフォーマンス、操作性、快適性に対する妥協はいっさいありません。マセラティの特別な魂が込められています。
MC20チェロは、クーペ車の開発段階から将来のバリエーションを検討していたからこそ実現できました。シャシーの観点からみてもこのモデルはクーペと同等のパフォーマンスを提供します。さらにMC20と同じ形状を維持しながら異なる方法でカーボンファイバーを使用しています。エアロダイナミクスの観点からみてもMC20クーペからさらに開発が進み、発展しています。フォルムとルーフ仕様が異なり、MC20の最高速度325km/hというかなり挑戦的でダイナミックな課題が課せられるためです。チェロはクーペとしてのダウンフォースを保ちつつバランスを再調整しています。オープンルーフにしたときの快適性、エアロダイナミクス、サウンドは、その他のGTモデルと互角のドライブパフォーマンスを提供しています。このようにMC20 チェロはグランド・ツーリングクラスの高性能車です。
最高のパフォーマンスと運転のしやすさを提供するためにGTドライブモードのセットアップを変えました。加速や速度のダイナミクス性能もクーペバージョンから変更されていません。ですが、重量増加はおよそ60㎏に抑えられています。これによりMC20の代名詞であるクーペとスパイダー両方のパフォーマンスを維持することが可能になりました。とくに注目していただきたいのはMC20チェロにも当社の素晴らしいネットゥーノエンジンを搭載していることです。ドライブの操作性に負荷をかけることなく驚くべきパワーとトルクを可能にする比類ないエンジンです」

その後Q&Aセッションも開かれ、下記の質問をした。
―MC20 チェロのエンジニアリングにおいて、クーペモデルと比較してどのような技術的な課題がありましたか?コンバーチブルモデルにおけるエンジニアリング上の取り組みや解決策を教えてください。

フェデリコ ランディーニ:
オープントップ化により、ルーフの剛性を損なわずにシャシーのダイナミズムとの連動を困難とする課題がありました。安全性も懸念されました。しかし、カーボンの配合を見直し、剛性を損なわずにフレキシビリティを備えたチェロが最終的に完成しました。そのため様々な分野の開発を試みました主にモノコック構造の改良です。これは初期段階から検討していたためカーボン構造の質と量を変えることでアイコニックなモノコック剛性を実現しました。
安全性については、ドアが上に開くタイプのオープンカー独自の課題がありました。そこで、オープンタイプの車ならではの屋根のない構造により安全性を確保するため、ドアの設計にも工夫が加えられました。
具体的には、真ん中の部分にオープン屋根がないため、フロント部分とリア部分での剛性と安全性を強化する取り組みが行われました。これによりオープントップになることで失われる縦方向の負荷線が補強されました。またフロントガラスのアーチですがフロントガラスの構造とリアのロールバーが横転時の乗員の安全を保証します。

―MC20チェロに関して、デザイン・プロダクト・エンジニアリングのすり合わせで困難だったことはありますか?また、どのように解決を図っていかれましたか?

アンドレア ブルーノ:
デザインに関しては、プロダクトのチームとエンジニアリングチーム、そしてAチームの方々と何度も会議を重ねました。その結果、これほど強力でアイコニックな製品を相談せずにデザインすることができました。

マッシモ カパルディ:
プロダクトのプロセスでは車を一台完成させるのは大変な作業であるため何度も行ったり来たりしながらエンジニアリングとデザインチームが意見交換を重ねる必要がありました。今回の場合も全てが複雑な取り組みであり自動車市場において唯一無二のモデルを作るという目標を極めて短い期間で達成する必要があったので大変でした。さらにこのモデルの開発中にパンデミックが発生したので予定されていたプロセスがくつがえることもありました。でも、我々は協力して一体となりMC20 チェロを完成させるまでの困難を乗り越えたのです。

フェデリコランディーニ:
エンジニアリングやプランニングの観点から言うと他のモデルの開発と同様に難しかったです。我々は常にお客さまのお声を重視すべき一定期間における適切な開発プランの策定から開始することを基本としています。
そして車の開発が進むにつれて色々と問題に突き当たりますが、それは当然のことです。本当の難しさは製品のデザインと納期を両立しつつ、社内のニーズに影響を及ぼすことなくこれらの問題を解決することでした。濃密ともいえるとてもやりがいのある仕事でした。






トラックバックURL: https://topgear.tokyo/2023/05/59363/trackback

コメントを残す

名前およびメールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ピックアップ

トップギア・ジャパン 064

アーカイブ