【トップギア試乗】ポルシェ タイカン<後輪駆動>

日本でも、後輪駆動のエントリーレベルのタイカンが発表された。価格は1,171万円。

いわゆる「エントリーレベル」で、1,171万円のポルシェ。トップギアの読者からは意見が飛び交うことだろう
この「ベイビー」ポルシェ タイカンは確かに興味深い。

これはポルシェのファストバックの電気自動車で、名前の後ろに「4S」だったり、名前の前に「ターボ」といった言葉が一切ついていない。このクルマはタイカンの最もベーシックなモデルであり、これを見れば、シュトットガルトに、プラスチック製のバンパーや風切り窓がついたヒミツのプロトタイプなど存在しないのだと推測される。

1,171万円という額は、四輪駆動で馬力がさらに強い4S(名前が物語っているのだが)と比べて280万円ほど安い。ちなみに、私が初めて試乗したタイカンはモーターが1基の、実際4Sのリアモーターがついていて、後輪駆動のものだった。

ポルシェは、このクルマは通常326psだが、ローンチコントロールとオーバーブーストモード使用時に408psを発生させると公言している。しかし実際問題、そんな緊張状態でそう長くは走り続けられないだろう。

実際にどれくらいの人が1,171万円のラインを選ぶのか
割合としてはそれほど多くはならないだろうと私は予想する。もっと上位クラスのタイカンと同じように、ポルシェには魅力的なオプションがあるのだから。

だが誤解しないでほしい。精密で滑らかに開く日本製のウォシュレット付きトイレのような充電ポートの扉が450ポンド(65,000円)だと言っているわけではない。

ポルシェは、プラスアルファの装飾品、技術、機能が搭載されたこの輝かしい電気自動車に、消費者たちが10から15%ほど標準価格より多く払ってくれると見積もっている。そして、もう4,800ポンド(70万円)あれば、ポルシェはクルマのキャパシティをさらに高めることができるとも言っている。オプションのパフォーマンスバッテリー プラスを選択すると、ワットアワー数を79kWhから93kWhに、航続距離は431kmから484kmにまで伸ばせるようだ。

どのタイカンを買おうか迷っている人たちは、クルマのスピードや燃費を左右するこれらの数字を見て後輪駆動の方が十分に速いと判断し、その節約分をバッテリーへの「投資」に回すだろうバッテリーのアップグレードがクルマにもたらせたパワーは計り知れないレベルだ。標準で380ps、「スポーツプラス」モードなら476psにもなる。

で、かなり速くなるの?
じつは…答えはノーだ。どちらの仕様も52mph(84km/h)になるまで5.4秒もかかる。よりパワフルなスペックには、より重いバッテリーが必要だからだ。つまり最も遅いタイカンは、0-100km/h加速までターボ Sと比べて2倍の時間がかかるということになる。

発生するGは、少なくともノーマルモードでは笑ってしまうレベルだ。ダッシュボードには何もないけれど。だからと言って、スポーツプラスで走ろうものなら、あなたの感想が「いい速さだね」から「後ろにいたのがパトカーじゃなかったことを祈る」に変わるまで、そう時間はかからないだろう。

トルクがあるのに後輪駆動なのは、ちょっとゴリゴリしすぎじゃないかな?
答えはそうとも言い切れない。640Nmのトルクが、見事に抑え込んでくれるんだ。つまり、こういうこと。レンジローバー スポーツと同じくらいの重さなんだ。もし、ぬかるんだラウンドアバウトをリスのようにスイスイと運転できるかが心配で4Sのほうが良いと思うのなら、それは余計な心配だよ。雪国に住んでいるか、スキーリフト帝国かなにかの後継者なら話は別だが。

電気自動車ってロケット発射のソリみたいにドライバーの頬を裏返しにしてしまうほど加速するんでしょ?
私は、タイカンのターボ Sで、エンジン全開にしながら地平線に向かって走るのが好きだ。かつて、瞬時にパンチを顔面に食らったような感覚を味わったことがあるかもしれないが、ここではもっとスムーズだ。

このクルマでの加速は、そんなに激しくなく、必死に絞り出している感じ。2.1トンのリチウムと革をなんとか抑止しようと、ブレーキペダルに二足とびで勇んで乗り込んだものの、凄まじい首へのジャブを数発食らうなんていうものじゃない。

結局663kmの航続距離で、0-100km/hを3.2秒で走れる、1,070万円のテスラ モデルS ロングレンジという答えにたどり着くんじゃ?
これは反論のしようがない。そして、テスラの今現在のスペックの凄さについて正面切って対決できる答えを持っているものは誰もいない。ポルシェさえもわかっていない。しかし少なくとも、ハンドリングの良さや車内の高級感などの点については、テスラはポルシェの4ドア電気自動車の足元にも及んでいないということは言えよう。

つまりは、タイカンについては、感情を持たないExcelシートに並べた数字だけで判断してはいけないということだ。数字に執着していては、クルマとしての正しい評価がなせないのだ。

賽は投げられた。結局、最も遅くて最も安いEVのポルシェに乗るってどんな感じ?

実際に走ると、遅くはないし、安っぽい乗り心地でもないよ。さらに、ポルシェは、このテスト車両がパフォーマンスバッテリープラスを搭載しているため、1月の寒い朝のキャビンに乗り込んだばかりの状態でも330kmの航続距離が出せることを宣言している。

テスト車はB級道路を進み、高速道路の追い越し車線側を走り、いくつかの街を通ったところで166kmを走行した。メーターは残りの走行が160km以上でき、1kWhで3.7kmの燃料消費量であることを示していた。

一方、私の同僚であるトム ハリソンがクリスマスにタイカン 4Sを借りたときの話だ。厳しい冬の真っ只中だったというのに、普通に運転して1kWh当たり4.3km走ったらしい。実際に400km以上走ることができるということだ。

ドライビングがどんな感じかについて。航続距離にキーキーうるさい輩はカンベン…

最も遅いタイカンと最も速いタイカンの両方を運転してみた。そして、ターボSよりもこの遅いタイカンのほうを気に入った。

フロントアクスルから来るどんなトルクにも屈しないそのステアリングは一級品だ。もし目隠しをして、水平対向6気筒のエンジン音が流されていたら、後輪駆動の911 カレラだと答えていたに違いない。重量配分、ターンイン、フィードバック、すべてがワールドクラスのできだ。このようなステアリングだと、クルマを実際よりも高品質なエンジニアリングで高額なクルマであるかのように思わせてしまう。

それだけでない。乗り心地、ボディコントロール、バランス感までも良いのだ。このモデルはタイカンの中で唯一のスチールスプリングが標準装備されているが、テスト車は一丁前にエアサスペンションを搭載している。これに投資する価値はあるのか?ある程度連続してテストをしないことにはなんとも言えないが、アダプティブシステムはリラックスできるようにしなやかでありながら、ガツンと踏み込むときには、命令を忠実に守ってくれる。

ブレーキは少々怖いものとなっている。「アナログ」な車両ストップほど自然な感じではない。しかし、ポルシェのは、どの会社のよりも反応のいい回生ブレーキペダルになっている。エンジニアたちは、この後輪駆動車にはキャリブレーション作業が何度も行われ、急ブレーキ時にジェネレーターとなるフロントモーターが必要なくなったと語ってくれた。

このタイカンこそが買うべきクルマなの?

1,171万円(それに加えて、なんやかんや170万円くらいは必要だろうけど)で、大きなバッテリーと車内の細々した装飾、そしてほかの電気自動車にないようなクオリティ、完成度の高さ、楽しいドライビングエクスペリエンスが手に入る。アウディ e-tronやジャガー I-Pace、テスラの詰め合わせでは車内がもっと広く、さらにたくさんのラインナップから選べるかもしれない。しかし、あなたが数字以上のなにかを持った電気自動車を求めているのなら、この電気自動車が最適だろう。

ほかのタイプのクルマだってある。最新型のポルシェには、純粋なクルマオタクの友達作りには一番向いているし、今では象徴になっているエバーグリーンの911を継承したものがある。

どちらのクルマにおいても、外れを買うというのは(不可能ではないが)、かなり至難の業だ。しかし、弾道ミサイル並みの911 ターボ Sに目移りするも、最終的にシンプルなカレラという答えにたどり着くのと同じで結局、一番安くて一番遅いタイカンというシンプルな電気自動車こそが、今のあなたに必要なものではないだろうか。

スコア:9/10
11,710,000 円
eモーター 1基, 後輪駆動, 408ps, 345Nm (ローンチコントロール時)
0-100km/h in 5.4秒, 230km/h
航続距離431km
2130kg

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