1984年製ディフェンダーを430hpにレストアするアルコニック

少し前に都内をクルマで走っていたところ、旧型ディフェンダーと10分のうちに2台遭遇した。たまたまではあるが、日本でも旧型のディフェンダーは根強い人気がある。今回は、イギリスのディフェンダー専門のレストアを行うショップ、アルコニックのディフェンダーをご紹介しよう。

「新しいディフェンダー」ではない

名前はUJO D110。このクルマに対して、「新しいディフェンダー」という表現は相応しくないだろう。これは新しいディフェンダーではなく、多くの目新しさを備えた1984年製のディフェンダーだ。実際ナットやワッシャーに至るまで全ての部品は、新品のものか、新品以上のものに変えられている。あるいは新しさとも違う、オーナーの好みに合わせてアップグレードされたものになっている場合もあるが、いずれにせよ近代化されている。

レストア-改造?

アルコニックはディフェンダーをレストアしてくれるのがメインであり、あまり改造してはいない。10万ポンド(1,330万円)ほどの費用がかかってくる。

ほとんどのバイヤーは、その上に改造プログラムを委託している。このクルマで本当に都会に行くようになる頃には、同じ金額を追加してしまっていることもある。この1台でも、起こったように。

どんなクルマ?

このクルマは、アルコニックの創設者、アンディ ヘイズ念願の作である。彼は2006年に、バイク事故による療養中の趣味として1980年代に作られたV8のLWBの、青いディフェンダーをレストアしたのが始まりだった。その趣味がビジネスに転じ、2006年以来270台もの車両を世に送り出している。そして彼は今、イギリス南西部にあるサマセット州の畑と車道に囲まれた軽工業用ユニットで、70人もの従業員を抱える経営者となっているのだ。

この青色のディフェンダーはヘイディが最初に作ったそのオリジナルへのオマージュだ。このクルマも同じような青色で、V8エンジンを積んでいる。しかしその青色は これまでにソリハルの工場で生産されていたような種類の青色ではなく、熱帯のラグーンのように非常に深くつややかな青色だ。V8エンジンも、ランドローバーのものではなく、シボレー LS3 6.2リッターで、430 hpを発揮するエンジンである。

アルコニックについてよく知らないのだが?

2009年から2010年にかけての不況により英国における需要は落ち込み、結果アルコニックはその北米に注力することとなった。米国では、生産されてから25年以上かつ相応の年数が経ったエンジンを搭載している中古車のみ販売することができるという条件がある。

そのためアルコニックは、より市場が活発なヨーロッパ全土に、ディーゼルあるいはV8エンジンに拘らず、中古のランドローバーのドナー車に目を光らせているスポッターを雇っていた。それら購入品をサマセットに持ち帰り、改修するのである。

アルコニックが販売する比較的標準的なモデルの車でさえ、シャシーは全面的に作り直され、リアボディはオリジナルよりも厚いアルミニウム製で一新されている。新品のワイヤリングハーネス プレミアムパーツを使用して自社製に変更され、エンジンは、ドナー車から流用したシリンダーブロック、シリンダーヘッドとクランクシャフトが使用され、完全に作り直されたものだ。

実際には、元の車両の1つのコンポーネントが生き残っている。VINコード付きのシャシープレートだ。それがなければ、このピカピカでありながら25年物のディフェンダーは、アメリカの厳しい輸入検査を通ることができなくなってしまう。アメリカに到着するとエンジン交換ができるが、アルコニックはそのエンジン交換を現地の職人を飛ばして、完璧にレストアされたTDIとLS3を交換することもある。さっきも言った通り、アルコニックの車は高額なのである。

なぜこの場所にいるのか?

ディフェンダーの急速な一般への普及に関心が集まっている今、ヘイズはアルコニックがここで販売を開始することに大きな可能性を見出している。ボディの青色が特徴的なこのランドローバーは市場を賑わすためのものとして作られ、実際話題になっている。

どこに特徴がある?

このクルマの最も注目すべき変化は、シボレーのLS3エンジンと6L80Eの6速オートマチックトランスミッションであり、この2つはランドローバー4WDのシステムとハイ/ロートランスファーボックスと適合できるようにリビルドされている。エグゾーストノートは、マグナフローのステンレス製パイプシステムの礼儀に沿って生み出される。

クソ速い?

1984年に作られた際は135hp程度だったものが、今430bhpになって生まれ変わっているることについて、あなたはどう感じるだろう。重さは約2トンにもなるが、後ろから突っ込んできて、龍のような雄叫びをあげる能力に長けている。不謹慎なことは言えないが、まあ、相当なパワーを発揮してくれるのだ。

新しいトランスミッションは時々操作に手こずるが、電子機器によって、そのうち改善されていくだろう。

ノーマルの110のシャシーじゃないよね?

その通り、これは通常のシャシーではない。そのバランスを全て調整しているのは、ビルシュタインとアイバッハのスプリングとダンパーである。車高は低くなるが、今想像しているものよりかは高いだろう。もちろんアンチロールバーは堅く、ブッシュはスーパープロのポリウレタンである。そしてクーパーのオールテレイン265/65 18タイヤが地面と接地している。

そしてその推進力を食い止めているのがタロックスの6ピストンブレーキだ。このピストンブレーキは頑丈で、非常に前向きな働きをしている。

道路ではどんな挙動を?

サスペンションは非常にしなやかで、快適である。この車のように足回りの硬い古いチューニングカーによく見られるような雑然とした感じはない。バンプの衝撃を和らげ、ディフェンダーが極端にコースアウトするのを防いでくれる。

このサスペンションは、ヘビーメタルのライブのようなアクスルの役割をすることはできないが、これのおかげで突然道を外れてカンガルーをびっくりさせるようなことはない。この車への最も良いアプローチは、ただ慎重に運転する事だ。始めはなかなか能力を最大限に発揮できなくても、じきにマッシブなV8エンジンによって自然とパフォーマンスは上がっていく。

そして、ハンドルは小さいサイズのものをおすすめする。ステアリングの性能をはるかに超えた速度でコーナーに入ることになるため、ハンドルを素早くたくさん回して速く走る必要があるからだ。ハンドルが小さければ小さいほど感覚が研ぎ澄まされ、肘と膝のスペースも広くなる。

どんな装飾が施されている?

外観については、シャーシにも芸術的なグラフィティーアートが施されており、足元は青いLEDで照らされている。自分の好みの範囲が広げられていくのが楽しみになるような仕上がりだ。ヘッドライトはLEDで、ドアの取手はビレットアルミニウムでできている。

内装は茶色のレザーとツイードで、8人乗りシートがあり、そのほとんどがシートヒーター付き。もちろんICEはアップグレードされ、よく効くエアコンが付いている。そして最も印象的なのが、特注の新しいインストルメントパネルだ。これは1970年代のフェイスリフトの名残だったチープなダイヤルゲージに代わって取り付けられたものである。

旧型ディフェンダーがもたらすもの

アンディに、なぜこの仕事を続けてきたのかを聞いた。そうだね、それに対する答えとしては、私がアルコニックを仕事に選ぶ理由となった、決定的な精神的な問題にたどり着く。私はそのままのベーシックなランドローバーが好きだし、そこから運転も学んだ。それでいてとても使いやすく、仕事にも合っている愛すべきツールだった。だがしかし、狭くてドライビングポジションが調整しにくい点、乱雑なコントロールユニット、音のうるささ、粗さ、使えない側面衝突保護や他の全ての点において、私はランドローバーを評価していなかった。

ディフェンダーを改造する危険性は、改造すればするほど、改造を施した部分とオリジナルの部分が衝突するようになってしまうことだ。ここでもそれがある程度当てはまるが、少なくともオリジナルの部分は美しく洗練されている。

しかしそれでも、アンディは情にもろく、その180,000ポンド(2,400万円)もする古いトラックの魅力を詩的でスピリチュアルな物語にして表現する。彼はディフェンダーを愛しているのだ。しかし盲目的にというわけではない。彼はそのディフェンダーの欠点を、欠陥のある人間である自分に例えている。

そして、それは彼の従業員に対する考え方と同じなのである。彼は従業員を個人として育て、最高のパフォーマンスを引き出す。結果的に、本当に良い、素晴らしいものができ上がるのだ。アルコニックのワークショップツアーでは、驚くほど高い品質で一貫したクラフトマンシップを見ることができる。

どこへでも行けて、なんでも運べて、負けず嫌いなクルマ。心と魂のこもったクルマ。そしてそれを造った人の心と魂をも運んでいるのだ。あなたのためだけに造ったクルマで。

 

トラックバックURL: https://topgear.tokyo/2020/04/22113/trackback

コメントを残す

名前およびメールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ピックアップ

トップギア・ジャパン 064

アーカイブ