SUV計画はないマクラーレンが600LTから構築する未来





スポーツシリーズに初めてLTが冠された

7月に英国のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでワールドデビューを果たしたマクラーレン600LTが、東京でアジアプレミアとなった。日本では2999.9万円で現在注文を受け付けている。600LTクーペは、2018年10月より、およそ12か月間にわたり生産予定で、既存のスポーツシリーズとスーパーシリーズ、ならびに全車オーナーが決まっているセナ、セナ GTRおよびBP23の生産スケジュールを調和させ生産が行われていくという。生産台数は厳密に制限される可能性もあるので、希望者は、早めの申し込みが吉となりそうだ。

マクラーレン・オートモーティブ アジア 日本代表の正本嘉宏氏

マクラーレン・オートモーティブ アジア 日本代表の正本嘉宏氏

2010年に設立されたマクラーレン・オートモーティブ。F1の活躍でその名を知られているが、意外や最近だ、という印象の方もいるかもしれない。マクラーレン・グループは、マクラーレン・オートモーティブ、マクラーレン・レーシングおよびマクラーレン・アプライド・テクノロジーズという3つの中核企業で構成されているのである。車両は、英国サリー州ウォーキングのマクラーレン・テクノロジー・センター(MPC)で、手作業で組み立てられている。製品は、スポーツシリーズ、スーパーシリーズおよびアルティメットシリーズの3つのカテゴリーから成り、全世界31のマーケット、86のリテーラーで販売されている。

1981年、マクラーレンは、マクラーレン MP4/1を通じて、軽量かつ強固なカーボンファイバー製シャシーを初めてF1に導入した。1993年には、ロードカーのマクラーレン F1を設計・製作。以来、製造する車両全てにカーボンファイバー・シャシーが採用されている。また、アルティメットシリーズのモデルとして、マクラーレンは、ハイブリッド・ハイパーカーであるマクラーレン P1(TM)を業界に先がけて投入した。

今回の600LTはスポーツシリーズの中で最も軽く、最もパワフルで、最も速いモデルだ。もちろん、公道走行ができる。600LTという名前が示す通り、ロングテール(LT)ストーリーを継承し、発展させていくモデルだ。LTは、マクラーレンの中で性能が極限まで追求されたもので、20年ぶりに復活し、この600LTで4番目となる。なお、スポーツシリーズにLTが冠されたのは、はじめてだ。

マクラーレン 600LTマクラーレン 600LTマクラーレン 600LTマクラーレン 600LT

トップエグジットタイプのエグゾースト・システムや、2種類の新しい超軽量アロイホイールのデザインなど、マクラーレン 600LTでは、マクラーレン 570Sクーペと比べて、約4分の1の部品を刷新している。また、マクラーレン・スーパーシリーズで導入された、鍛造アルミニウム製ダブルウィッシュボーン式サスペンションとともに、より強固なアンチロール・バーを採用。さらに最低地上高を8mm低くしたことで、ダイナミックパフォーマンスが向上し、ドライバーとマシンとの一体感が高まった。

ビスポークによる特別仕様のピレリ Pゼロ トロフェオ Rタイヤもダウンフォースの増大に貢献しており、サーキットでのコーナリング・スピードはマクラーレン 675LT以上を達成している。

最新世代ブレーキの軽量キャリパー、カーボン・セラミック製ディスク、およびマクラーレン セナで採用されたブレーキ・ブースターが、正確なペダルの感触と驚異的な制動力を実現し、200km/hから停止状態までの制動距離はわずか117mだ。

3.8リッターV8ツインターボ・エンジンを最適化するエンジンマネジメントシステム、さらにエンジンがより効率よく吸気できるようにするために、マクラーレン セナよりも短く、より大胆なデザインになったトップエグジット型のエキゾースト・システムを採用。これによる背圧低下により、600LTの最高出力は7,500rpmで600PS、5,500-6,500rpmでの最大トルクは620Nmを達成している。

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0-100 km/h加速はわずか2.9秒で、高い評価を受けているスーパーシリーズ・モデルのマクラーレン 675LTに匹敵する加速力となっている。0-200km/hは8.2秒という驚異的な数字で、最高速度の328km/hまで加速を維持させることができる。

マクラーレン 675LTモデルと、レースにおけるパイオニアである「ロングテール」マクラーレン F1 GTRの流れを汲む、LTファミリーの今回の新モデルは、拡大されたフロント・スプリッターやリア・ディフューザー、固定式のリア・ウィング、スリムなシルエットといった、マクラーレン「ロングテール」の物理的特徴をすべて備えていて、全長はマクラーレン 570Sクーペより74mm長くなっている。

このユニークなボディによってエアロダイナミクス性能が最適化され、さらに600LTのフラットなカーボン・ファイバーのフラットボトムとの相互作用により、250km/hで走行時のダウンフォースが100kg増大し、グリップと高速での安定性が向上している。これは、サーキットで優れた性能を発揮するための重要なファクターとなる。

同様のアルミニウム製シャシーに比べて剛性が25パーセント程度向上しているモノコック・シャシーや、新たなエアロダイナミクス装備でのカーボン・ファイバーの積極的な採用、ならびにサーキット指向のコックピット全体にわたる軽量素材の装備により、マクラーレン 600LTは、乾燥重量が1,247kgまで削減されており、その際のパワー・ウェイト・レシオは2.08Kg/PS となっている。

また、マクラーレン セナ用に改良されたオプションの超軽量のカーボン・ファイバー製レーシング・シートを装着した場合の600LTの重量は、570Sクーペに比べて100kg軽くなっており、この重量削減は600LTのあらゆるパフォーマンスの向上をもたらしている。

2016年に発表された、「トラック22」に続いて、12億ポンド(1,730億円)を投資するビジネスプラン「トラック25」が、600LTと同時にグッドウッドで発表された。2025年までに、18の新モデルを導入すること、2025年までに、マクラーレンのスポーツカーおよびスーパーカーシリーズ全てをハイブリット化すること、マクラーレン P1(TM)の後継となる、アルティメットシリーズのニューモデルを導入すること、ドライビング・エクスペリエンスの飛躍的向上に向けた「拡張」技術を検討すること、新たなマーケットへの参入を検討すること、ミッドエンジンのスポーツカーおよびスーパーカーの生産台数を年間6,000台にすることなどが盛り込まれた。どれもマクラーレンファンにとっては、見逃すことのできない、明るい未来を指し示すものである。

マクラーレンが日本で成功を収めた理由

コマーシャル オペレーションズ ディレクターである、アレックス ロング氏

コマーシャル オペレーションズ ディレクターである、アレックス ロング氏

600LTの発表時には、英国からコマーシャル オペレーションズ ディレクターである、アレックス ロング氏が来日し、日本代表の正本嘉宏氏と一緒にプレゼンを行った。終了後、アレックス ロング氏にインタビューさせていただいた。以下、その内容をお伝えする。

――トップギアについてご存知ですか。

「もちろん。よく知っていますよ。マクラーレンと似ている部分があるとも感じています。トップギアという媒体はブランドを確立していますよね。ドライビングについて徹底的に追求していると思います。ドライビングには、ホビーの側面、レジャーの側面、そして楽しむためのスキルとしての側面があると思っています。マクラーレンも同じスピリッツで車を作っています。ドライビングを楽しむための道具や技術を提供しているのです。

イギリス人というのは、勇気があり、ユニークで大胆、そしてアイデンティティーを強く持っていて方向性も明確です。イギリス人は他人と違っていても構わないし、また、違うことを厭わない人種なのです。そのDNAがマクラーレンにも流れていると思っています。そしてここは日本人ともよく似ている部分であると思うのですが、クルマや運転やスポーツカーに対する造詣や愛情が、長い歴史を持っていますね」

――アレックスさんは、トヨタや日産での勤務経験がありますが、それを踏まえて、日本市場に関してはどのように感じていますか。

「日本は、スポーツシリーズの販売台数が、アメリカ、UKに続いて世界第3位ということで、私達にとってもたいへん重要な市場です。ですから、600LTの価格も競争力のあるものに設定しました。日本の方々は、自動車文化に対する情熱や知識に深いものがあり、とくに細部にこだわるという印象です。エンジニアリングや自動車ブランドのバッググラウンドについて重視しているのではないでしょうか。そして本物を求める真正性へのこだわりも感じています。商品を選ぶ時に、これは本物なのかどうかをとても重要視するのが日本の市場なのではないかと思っています。そして、このことがマクラーレンが日本で成功した理由だと分析しています」

コマーシャル オペレーションズ ディレクターである、アレックス ロング氏――600LTにお乗りになられたそうですが、印象をお聞かせください。

「今まで乗った中で一番高揚感を得られたクルマでした。アジリティ、ダイレクトなスポーツフィーリング、パワー、ダウンフォースの向上、そして100kgの軽マクラーレン 600LT量化などがエキサイティングに感じた要因でしょう。そしてなによりも、遊び心を感じさせる1台でした。運転席に乗ると肌の下でこのクルマが息づいているのを感じることができるのです。そういう意味でエモーショナルなクルマだと思っています。エンジン、キャビン、シート、ハンドルのつながりと一体感が強く、『ああ、今生きているんだ』っていう思いが湧いてきました。中でもエグゾーストノートは興奮しますね。エグゾーストの長さが短いので、ピュアなサウンドが楽しめます。熱を帯びてくるとエグゾーストから炎が上がることもあって、それがリアビューミラーに写るんです。この時の高揚感ときたら!ドラマティックな一瞬でした。クレイジーなスーパーカーだと思いましたね」

――中国のマーケットについては、どのようにお考えですか。

「確かに中国はとても成長の早い国です。でもまだスーパーカーマーケットは小さいというのが現実です。中国では、ロングホイールベース、サルーンカーやショーファーカーが俄然人気であり、私達の作っているようなスーパーカーはメインストリームではありません。中国の方は、レジャーの時にドライブで山へ行くというようなことも多いようなので、ポルシェやベントレー、マセラティ、ランボルギーニでもSUVが人気があるようです。中国の市場と日本の市場とは全く違っていると認識しています」

――そのSUVですが、マクラーレンが今後SUVを作る可能性はありますか。

「これは明確にないと言えます。トラック25の予定にも入っていません。私達はミッションにひたむきに打ち込むのが仕事です。そして、マクラーレンの存在意義は何かと自問自答し、結論として出たのは、ベストドライビングカーを作ることだということでした。だからSUVを作ることはありません」

――トラック25で今後、派生を含めて18モデル作っていくことが発表されました。

「具体的にまだ発表はできないのですが、これまでもクーペ、スパイダー、LT(軽量化)モデルの順番でクルマを発表してきたので、そのサイクルに準ずることになるでしょう。

例えば570は2015年にクーペが出て2017年にスパイダーが出て、最後にLTが出てくるといった具合です。スーパーカーの保有期間というのは短くて、だいたい1年半から2年程度なのです。そうするとこのようなサイクルですと、お客様が、常に最先端の商品を期待できるようにしているわけです。

――ハイブリッドについてはいかがですか。

「過去、マクラーレン P1で示したように、高揚感のあるハイブリッドスーパーカーが作れるということを証明しました。マクラーレンのグループにはF1やアプライドテクノロジーなど専門の部門が多数存在しています。アプライドテクノロジーでは、バッテリーやソフトウェアの制御の専門職が勤務しています。この部門を中心にハイブリッドのシステムを構築していきますが、一つの仕組みではだけではなく様々な種類を生み出していく予定があります。そうです、次世代のスーパーカーを、マクラーレンが生み出していくのです」

マクラーレンは日本で前年比受注ベース78%アップ、累計保有台数は800台を超えている。さらに今年は5番目の店舗、マクラーレン麻布もオープンした。この600LTも、日本でのさらなる躍進を約束するだろう。












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