熾烈な軽自動車BATTLE!ダイハツ ウェイクとホンダ N-BOXの差はどこに?

――制約が厳しい中で、極限の工夫が必要ということですね。
広さを実現するその他の方法として、ルーフの 高さを上げることもありますが、ルーフの高さを高くしていくと重心が高くなり操縦安定性を保つのが難しくなるという技術的な課題があります。

また、今のスーパーハイトの車でも、「頭の上があまりにもスカスカ過ぎて無駄な感じがする」というユーザーの否定的な意見もあります。

作り手が、競合より広くしたいと言うことだけを目指すあまり、ユーザーがどう感じるか、またどのように使われるか、というユーザーの本質価値観を考慮せずに、全高をあげることにばかり注力してしまうと、ユーザーにそっぽを向かれる可能性があるということです。
つまり、ユーザーの価値観で見ると、ダイハツウエイクほどの全高は不要なはずです。ダイハツウエイクを大きく広くしたのはレジャー用途をコンセプトにしているようですが、N-BOXではレジャーに行けないのかというと決してそうことはありませんしね。このダイハツウエイクの登場は、N-BOXを封じ込める戦略的な意図があったものと想像できます。
つまり、タントの独壇場のスーパーハイト領域に、N-BOXがセンタータンクレイアウトを生かした広さと、オール新作でやりきったパッケージング、さらに軽を超えたスタイリング等で、参入してきて「王者」ダイハツは今的に言うと「ヤバイ」と感じたのだと思います。

――メーカー同士の争いから抜きん出るために、他社と同じことをしていてはならない、と。たしかにウェイクは衝撃的でした。
ダイハツウェイクの車作りをパッケージングの視点で見てみましょう。
ダイハツウェイクのパッケージングのカタログ写真をコピーして、これも公表されている範囲のN-BOXの寸法と重ねてみました。
もちろん、これは正確なものではありませんが、おおざっぱに見てもその車作りにたいする考え方が異なることはわかると思います。

wake

カタログのコピーがウエイクで黄色い線で表現したのがN-BOXです。また、上側のブルー文字がウエイクで下のグレー文字がN-BOXです。
全長は3395mmで同じですから、全長のスケールをだいたい合わせて載せてみました。

――このように比較するとわかりやすいですね。
ホイールベースはウェイクが2455でN-BOXは2520です。この差が絵の中でもN-BOXの前輪と後輪が少しウェイクより外にいっていることで、わかります。ただ前輪の方がより前に行っているように見えますが、これはN-BOXが専用設計で出来るだけ前輪の位置を前に出して、室内長を確保した結果だと思います。
またスライドドアー開口は、ウエイクが595、N-BOXが640となっています。これは、N-BOXが、前輪を前にレイアウト出来たおかげで、図ではわかりにくいですが、ドライバー位置が少し前にいって、センターピラーを前にもっていけた結果に一因があるとおもいます。
ドライバー位置とセンターピラー位置は衝突性能で肩ベルトの張り具合での相関関係があります。センターピラーが前に行き過ぎると肩ベルトがドライバーの胸から離れ、衝突時の拘束性が落ちますから。
当然スライドドアーにも設計上の工夫が入っていると思われますが。

全高はウェイクが1835、N-BOXが1770で、うたい文句通り、ウェイクが65mmも高いです。ただ、アイポイント高さを見るとウエイクが1387、N-BOXが1360と27mmしか変わりません。
つまり、65-27=38mm ウエイクの方がドライバーの頭上空間が広いということになります。

また、荷室部の床は、テールゲートを開けた時の地上からの高さがウエイクで595、N-BOXで480とN-BOXが115mm低くなっていて、確かにこれもうたい文句通り、自転車を乗せる時にはこれだけ低いと相当楽そうです。
このように、最初のコンセプトからユーザーの使い勝手を考えてパッケージングされたN-BOXに比べて、ベース機種があってそれに対して高さをあげて大きくしたウエイクの車作りでは、パッケージ効率だけをみるとN-BOXまで至っていないということになります。
ただ、使うのはユーザーですから、この私が説明してきた両者の差がユーザーに実感できるか、ユーザーの価値観に響くかどうかという事が一番大切になります。
作り手がユーザーの実感する価値観をどう捉えて車作りをするのか?
こういうところに、各社寸法的に良い悪いではないクルマ作りに対する考え方や戦略があり、そこにクルマという商品としての違いが出てきます。

――ウェイクは、TVCMの効果も大きかったように思います。タレントを使う自動車のCMは多いですが、実際は印象に残らないものが多いのではないでしょうか。ああいうのは、無駄なお金のように思えますが、その点ウェイクは上手だったと思います。

宣伝の手法もあるかもしれません。しかし、ダイハツウエイクのスタイリングはN-BOXにどこか似ていますよね。ここに、ウエイク企画時のダイハツのホンダにヤラレタ感と慌てぶりが私には見えます。
いずれにしても、私は、背の高いダイハツウエイクが出る前から、軽における「広さ」というわかりやすいハードの競争は、ほぼやり尽くされた感があると考えていました。

つまりユーザーにとってタントに代表されるスーパーハイト系の広さがありさえすれば、ユーザー価値観的には十分であると。
ユーザーの価値観は広さから、クルマが与えてくれる楽しさや情緒感に変化してきていると考えています。

広さの先にある軽自動車の売れる戦略

――広さ競争は終焉を迎えたということですか。難しいですね。
今後の軽自動車の方向性として一義的な「広さ」というハードの競争でなくなるとしたら、 作り手側の考え方も変わる必要があると言うことになります。つまり、今まではユーザーの価値観と信じて「広さ」「燃費」「走り」等の性能面を主体に開発・商品企画を行ってきましたが、これからは 「本当の顧客の価値観」を先回りして見極め、本質を追求することが求められると思います。また、それをどこまで商品に具体化できるかが、競争力になってくると考えます。

昨年から、ダイハツコペンやホンダS660、スズキのアルトターボRSなど、いわゆるスポーツ仕様のクルマがマーケットを賑わしていますが、これらは一般的な軽ユーザーの価値観的に見るとあまり関係ないと言うか、好きな人向けというか、メジャーであるという意味での「本当の顧客の価値観」とは異なります。
昔から、こう言う走りに特化したスポーツタイプの車は「派生」で、決してマーケットのメインにはなりません。

――繁さんはよくそう仰っておられますね。確かに、販売台数は大した数ではありません。
「本当の顧客の価値観」を先回りして見極め、本質を追求すると言う事は、机に座っていてもできません。自動車メーカーだけでなくどのものづくりでも同じですが、開発者自身が自ら出向いて頭だけでなく気持ちでユーザーと接して、その気持ちを肌で感じて、その想いを開発者同士で共有、議論し、「これからのユーザーは何に喜ぶのか?」というコンセプト化を図る企画手順が必要であるということです。
これが言わば私が唱えている「本質価値マーケティング」です。
ユーザーが喜ぶことを技術で具現化するのが技術者であることに変わりありませんが、その方向性を定める上で、ユーザーの喜ぶこと・価値観の本質を的確に掴むことが新たな競争になっていくと考えています。
結局、マーケティングのデータは参考にはなるものの、本質価値を探るのは、目利きでないとできないということだろう。それは、企業の風土にも関わってくることでもある。さて、どこの自動車メーカーがそれにいち早く気づき実行するのだろうか。熾烈な軽自動車競争はこれからが本番だ。

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