2.2トンの巨体が白煙を上げる日。ベントレー コンチネンタル GT Sの獰猛な走りと、スーパースポーツの爆煙ドリフト

内燃機関のノスタルジーに浸るのも悪くないが、モータースポーツの最前線は今、恐るべき速度で進化している。テレメトリーを封じられたドライバーが暗号を叫び、30秒の急速充電が勝敗を決する世界。フォーミュラE東京大会のガレージに潜入し、DSの2名のドライバーが語った「知的な駆け引き」をお届けする。


BENTLEY UNLEASHED:英国の気品に隠された、狂気のモータースポーツ魂
英国の最高級ラグジュアリーカーが、白煙を上げて横っ飛びする姿を想像できるだろうか? ベントレー大阪が主催したイベントは、まさに常軌を逸した「狂宴」だった。限定のスーパースポーツがタイヤの悲鳴と共にスモークに消え、コンチネンタル GT Sが牙を剥く。英国紳士の内に秘めた野性を解放する、至高の1日を徹底リポートする。

英国紳士の内に秘められた狂気
最高級のフルグレインレザー、寸分の狂いもなく鏡面のように仕上げられたウッドパネル、そして外界の喧騒を完全に遮断する圧倒的な静粛性。我々が「ベントレー」という名前から真っ先に連想するのは、歴史あるお城のような邸宅の車寄せに停まる、静かで威厳に満ちたクルマの姿だろう。車内ではクラシック音楽が静かに流れ、後部座席の乗員はシャンパンを傾けている……そんな優雅な情景だ。

しかし、彼らは時折、自らが長い年月をかけて作り上げたその「上品な殻」を、自らの手で粉々に打ち砕きたくなるらしい。大阪 舞洲スポーツアイランドで開催されたベントレー大阪主催のイベントは、まさにその破壊衝動の具現化だった。

トップギア ジャパン的に表現するなら、これは「完璧なタキシードを着こなしたジェームズ ボンドが、突然バーのテーブルをひっくり返して素手で乱闘を始める」ようなものだ。ベントレーの真の姿は、豪華な調度品を乗せただけの退屈な移動空間ではない。彼らのDNAの最も深い部分には、1920年代のル マン24時間レースを席巻した「ベントレー ボーイズ」たちの、血と汗とオイルに塗れたモータースポーツの歴史が深く刻まれているのだ。

伝説の女性レーサーの魂を受け継ぐ、世界限定710台の野獣
会場に足を踏み入れると、そこには異様なオーラを放つ1台のマシンが鎮座していた。世界限定わずか710台、日本にはたった10台しか上陸しておらず、すでに完売となっている「コンチネンタル スーパースポーツ」である。このクルマのインスピレーションの源流を辿ると、1人の偉大な女性に行き着くという。1895年生まれのミルドレッド メアリー ペトレ(Mildred Mary Petre)だ。

彼女はレーシングドライバーであり、パワーボートレーサーであり、パイロットでもあったという、当時の常識を打ち破る規格外の女性だった。1929年、彼女はフランスのモンレリー サーキットにおいて、ベントレー 4 1/2(フォー アンド ハーフ)リッターを駆り、なんと24時間ものあいだ単独で走り続けるという過酷な耐久記録を打ち立てた。平均時速は約90マイル(約145km/h)。現代の我々から見ても驚異的な記録であり、その挑戦への敬意を込めたプロジェクトから誕生したのが、現代の「スーパースポーツ」なのだ。

そんな歴史的背景を持つスーパースポーツが、なんと今日のイベントでは「ドリフト走行」を披露するという。車重2.2トンを超える巨大な四輪駆動の高級クーペがドリフト? 物理法則に対する挑戦状、あるいは悪い冗談としか思えない。

しかし、D1グランプリなどのトップカテゴリーで活躍するプロのドリフトドライバー、田野結希(たの ゆうき)選手の手によって解き放たれたその野獣は、信じられないほどの速度でコーナーに進入したかと思うと、次の瞬間、リアの極太タイヤから猛烈な白煙を吹き上げながら、信じられないほど美しいスライド状態に持ち込まれた。巨大な車体が真横を向きながら疾走する様は、大迫力などという言葉では陳腐に聞こえるほどのスペクタクルだ。飛散する熱いタイヤカスが顔に当たり、焦げたゴムの匂いが鼻を突く。そして視界を覆い尽くすスモークの壁。

その煙の晴れ間から、アイコニックな丸目4灯のヘッドライトがヌッと姿を現した瞬間、会場からは割れんばかりの大歓声が巻き起こった。過去にグッドウッド フェスティバル オブ スピードでも大観衆を熱狂させたというその走りは、ベントレーが単なる高級車メーカーではないことを、この暴力的なまでのパフォーマンスで証明してみせたのだ。

試乗:コンチネンタル GT Sが解き放つ「S」の真髄
白煙の嵐による興奮が冷めやらぬ中、いよいよ我々自身がステアリングを握る時間がやってきた。本日のメインイベントである「コンチネンタル GT S」の試乗だ。ベントレーといえばW12エンジンの圧倒的な滑らかさと重厚感も捨てがたいが、スポーツ走行を楽しむという文脈においてはこのV8ツインターボモデルこそが至高の選択となる。「S」のバッジは決して伊達ではない。

舞洲の広大な敷地に設けられた特設コースは、直線でのフル加速、そこからのフルブレーキング、そしてパイロンを縫うように駆け抜けるスラロームという、クルマの素性を丸裸にするための過酷なセッティングだった。分厚いドアを開けて運転席に乗り込み、ドアを閉めると、そこはいつものベントレーの静寂な世界。外界の音は見事に遮断され、最高級のレザーの香りが鼻腔をくすぐる。しかし、センターコンソールのダイヤルを回してスポーツモードに切り替え、アクセルペダルを床のカーペットの奥深くへと踏み込んだ瞬間、世界は一変した。

542馬力の最高出力と770Nmという強大なトルクが、高度な四輪駆動システムを通じて路面を強烈に蹴り上げ、2トンを超える車体をまるで砲弾のように前方に押し出す。標準装備されるスポーツエキゾーストからは、腹の底にビリビリと響くような、V8特有の猛々しく野蛮な咆哮が轟く。ターボラグなど微塵も感じさせない鋭いレスポンスで、あっという間にブレーキングポイントのパイロンが迫ってくる。そこからブレーキペダルを力一杯踏み込むと、車体はグッと沈み込むが、巨大なブレーキローターとキャリパーがこの膨大な運動エネルギーを事もなげに熱へと変換し、完璧な姿勢のまま車を制動してみせる。

さらに圧巻だったのは、その後に続くスラロームでの挙動だ。ここでベントレーダイナミックライド(48V電動アクティブロールコントロールシステム)が魔法のような仕事をする。左右への急激な荷重移動にもかかわらず、車体のロールは完璧に制御され、車体は常にフラットな姿勢を保とうとする。ステアリングを切った瞬間にスッとノーズが入り、重量級のグランドツアラーを運転しているとは到底思えないほど軽快にパイロンをクリアしていくのだ。直線の暴力的な加速、そしてスラロームでの軽快な挙動、そのどちらも申し分ない、極めてスポーティーな走りだ。限定モデルのスーパースポーツが完売して手に入らないと嘆く必要はどこにもない。この「GT S」は、パフォーマンスを求める熱狂的なドライバーの期待を1ミリたりとも裏切らない、現代における最高のドライバーズカーの一つである。

プロドライバー 坂本祐也氏が語る、ベントレーの新たなる野心
今回の試乗では、非常に幸運なことにレーシングドライバーの坂本祐也氏に助手席に乗っていただき、走り込みながら直接話を伺うことができた。極限の世界を知るプロの目には、現在のベントレーが向かっている方向性、そしてこのコンチネンタル GT Sの走りはどう映っているのだろうか。

「これまでのベントレーというブランドは、どちらかというと『ラグジュアリー』という確固たるポジションに腰を下ろし、そこを強みとしていましたよね」と坂本氏は語り始めた。「しかし、彼らの歴史を紐解けば、そこには常にモータースポーツへの情熱があります。そして今、彼らは再びそのモータースポーツ色を前面に押し出し、ブランドの未来を見せようとしています」

坂本氏の言葉は、今日目の前で繰り広げられたスーパースポーツの白煙のエンターテインメントと完全に合致する。
「このコンチネンタル GT Sや、先ほど圧倒的なパフォーマンスを見せたスーパースポーツは、まさにその新しいフェーズの象徴です。無駄な贅肉を削ぎ落とす徹底的な軽量化が図られ、内外装にはカーボンパーツが惜しげもなく使われている。単なる快適な移動空間ではなく、作り手側が明確な意志を持って『ドライバーズカー』として仕立て上げているのがよく分かります」

では、実際にステアリングを握り、このコースを走らせた感覚はどう評価するのか。2トンを超える巨体とスポーツ性能の両立について尋ねてみた。

「驚くべきは、その圧倒的なパワーを完全に手なずける四輪駆動システムの抜群の安定感です。どんなに荒々しくアクセルを踏んでも、四輪が確実に路面を捉えて離さない。それに加えて、V8エンジンならではのフロントノーズの『軽さ』が、ハンドリングに魔法をかけています。W12も素晴らしいですが、このV8のノーズの入り方は特筆ものです。2トン超えの車とは到底思えないほど、コーナリングが楽しい車に仕上がっていますよ」

しかし、忘れてはならないのは、これがベントレーであるということだ。ガチガチのサーキット専用マシンのような疲労感を強いることは、ブランドの哲学に反するのではないか。
「まさにそこが、この車の最大の魅力であり、ベントレーの凄みなんです。サーキットや特設コースをガンガン攻めるのもいいですが、この車の真骨頂は『エレガントに街を流せる』こと。普段は極めてジェントルで、乗り心地も信じられないほど良い。なのに、いざ鞭を入れればスポーツカー顔負けの走りを披露する。この『上品さ』『乗り心地』『圧倒的な走行性能』という3拍子が、極めて高い次元で完璧に揃っているんです」

坂本氏は笑顔でこう締めくくった。「ダンディな大人の男性に、余裕を持ってサラッと乗ってほしい車ですね。もちろん、ステアリングも素直で車両感覚も掴みやすいので、女性が運転しても非常にフレンドリーで扱いやすいはずです。他のブランドのスポーツカーや高級車と乗り比べてみれば、ベントレーならではのこの絶妙なバランス感覚と『懐の深さ』が、より一層際立つと思いますよ」

SUVの皮を被った猛獣:ベンテイガ スピード
会場のメインステージには、ベントレーが現在販売を強力に推し進めているという「ベンテイガ スピード」も展示されていた。今回はコース上での試乗こそ叶わなかったが、そのスペックシートを見るだけで背筋に冷や汗をかくような凄まじい代物だ。

ボンネットの下に収まるのは、もはや工芸品とも言える6.0リッターW12ツインターボエンジン。最高出力650馬力、最大トルク900Nmという途方もない数値を叩き出し、この巨大な城のようなSUVを、停止状態から時速100キロまでわずか3.6秒で引っ張り上げる。最高時速は306km/hに達するというから正気の沙汰ではない。さらに、ベンテイガとしては初となる23インチの巨大な専用ホイールを履き、オプションでアクラポビッチ製のチタンマフラーまで用意されているというのだから、その本気度が窺える。

家族や大切な友人を乗せて、最高級のレザーシートに身を沈めながら快適な長距離旅行を楽しむ。しかし、いざ右足に力を込めれば、アウトバーンで純血のスポーツカーたちをミラーの彼方へと置き去りにできる。カーボンセラミックブレーキを備え、空気を切り裂くようなエキゾーストノートを響かせるその姿は、まさにSUVの皮を被った猛獣そのものだ。実用性と極限のパフォーマンス、そして何人にも侵されない圧倒的なラグジュアリーを同時に手に入れたいと願う層にとって、これ以上の選択肢は世界中を探しても存在しないだろう。

紳士の狂気を愛せるか
今回のベントレー大阪による熱狂的なイベントを通して再確認したのは、ベントレーというブランドの深淵に潜む、圧倒的な「狂気と情熱」である。彼らは極上のラグジュアリーの裏側に、モータースポーツ由来の獰猛なパフォーマンスを周到に隠し持っている。スーパースポーツが巻き起こした白煙の嵐も、コンチネンタル GT Sの見せたカミソリのように鋭いスラロームも、すべては彼らのDNAに深く組み込まれた本能の爆発なのだ。

もしあなたが、ただの快適で高級な移動手段だけを求めているなら、他のブランドのカタログを眺めればいい。世の中には静かで優秀な車はいくらでもある。しかし、完璧に仕立てられたビスポークのスーツの下に、いつでも走り出せる鋼のような筋肉を隠し持っていたいと願うなら、あなたは迷わずベントレーのキーを受け取るべきだ。彼らはあなたの期待を裏切らないどころか、日常という名の退屈なコースに、最高にスリリングなスパイスを与えてくれるはずだ。

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