【TAS 2026】「GTI」は死なず、ただ電気になるだけだ。VWがID. GTI Conceptで見せた“赤いライン”への執念

「優等生」のフォルクスワーゲンが、少し羽目を外し始めたようだ。売上36%増の勢いに乗り、オートサロンに持ち込んだのは、82馬力も出力アップしたID.4と、真っ赤なラインを引いたEVの「GTI」だった。

ドイツの巨人が「面白さ」を思い出した日
フォルクスワーゲンのブースに足を踏み入れると、そこには奇妙な活気が満ちていた。
無理もない。彼らにとって2025年は、祝杯を挙げたくなるような一年だったからだ。日本国内での販売台数は前年比36%増。このご時世に3割増しというのは、単なる好調ではなく「爆発」に近い。その原動力となったのが、愛らしい顔をした電動ミニバン「ID. Buzz」だ。日本カー・オブ・ザ・イヤーで2冠を達成したこの車は、「EVは家電だ」と冷めた目で見ていた層さえも振り向かせた。

だが、フォルクスワーゲン ジャパンのブランドディレクター、マーティン ザーゲ氏がステージで語ったのは、単なる数字の自慢ではない。彼らが「ID. GTI Concept」という名の、我々の大好物を持ち込んできたことこそがニュースだ。

ID. GTI Concept:電気になっても「FF」にこだわる変態性
「GTI」という3文字は、自動車界における聖域の一つだ。1976年、初代ゴルフGTIが登場したとき、それは革命だった。1.6リッターのエンジンと軽量なボディで、アウトバーンを走る重厚な高級セダンたちをバックミラーの点に変えたのだ。以来、赤いラインとチェック柄のシートは、「庶民のためのスーパーカー」の象徴であり続けている。

そして2026年、GTIは50周年を迎える。その未来を示すのが、この「ID. GTI Concept」だ。
ベースとなっているのは、将来登場予定のコンパクトEV「ID. 2all」。驚くべきは、彼らがこの車を「前輪駆動(FF)」にするつもりだということだ。
EVのパッケージングを考えれば、リア駆動の方がトラクションも効率も良いに決まっている。だが、彼らはあえてフロントにモーターを積み、前輪を駆動させる。なぜか? それが「GTIの走り」だからだ。

さらに、EVとして初めて「電子制御フロントアクスル・デフロック」を搭載するという。内燃機関のGTIが磨き上げてきた、あの吸い付くようなコーナリングを、電子の力で再現しようとしているのだ。
デザインも秀逸だ。空力のために閉ざされたグリルには、それでも頑なに赤いラインが引かれている。ホイールやバンパーの造形も、ひと目でGTIとわかる文法で構成されている。

ザーゲ氏は「日本導入は未定だ」とじらしている。「皆さんのフィードバックが必要だ」と。
おいおい、ちょっと待てと言いたい。日本は世界で最もGTIが愛されている国の一つだ。導入しないという選択肢があるなら、ヴォルフスブルクの本社前でデモ行進が起きるだろう。我々にできることは、ブースで「Shut up and take my money(黙って金を受け取れ)」と叫ぶことだけだ。

ID.4 Pro:まるで別の車になった「中身の進化」
未来の話もいいが、現実的なニュースもある。電動SUV「ID.4」がマイナーチェンジを受けた。「マイナーチェンジ」という言葉には騙されないでほしい。中身は別物だ。

特に上級グレードの「ID.4 Pro」のスペック表を見たとき、私は思わず眼鏡を拭いた。最高出力286ps(210kW)、最大トルク545Nm。従来モデルが204ps、310Nmだったことを覚えているだろうか? なんと、パワーで82ps、トルクに至っては235Nmもの向上だ。ソフトウェアの書き換えでちょちょいと上げました、というレベルではない。リアモーター自体が刷新されている。トルク545Nmといえば、かつての大排気量V8エンジン並みの数値だ。それを、アクセルペダルに足を乗せた瞬間に発生させる。これまで「実用的だが、少し退屈」と評されることもあったID.4が、信号待ちからのスタートでスポーツカーをカモれる車に変貌したわけだ。

充電性能も強化された。バッテリー容量は77kWhのままだが、充電受け入れ能力が最大150kWに引き上げられた。これにより、急速充電器での待ち時間は短縮される。さらに、バッテリープレコンディショニング機能(充電前にバッテリー温度を最適化する機能)も追加された。地味だが、EV乗りにとっては出力向上以上に嬉しい進化かもしれない。

インテリアでは、インフォテインメントシステムが12.9インチに大型化され、ソフトウェアも刷新された。以前のシステムの、あの「もっさり」とした反応速度にイライラしていたオーナーには朗報だ。タッチスライダーがようやくバックライト付きになり、夜間の操作で見えないというコントのような欠点も解消された。シフトレバーの位置もステアリングコラムに移設され、ワイパー操作と間違えることもなくなるだろう。VWは時々、ユーザーインターフェースで迷走するが、ようやく正解にたどり着いたようだ。

「2ピラー戦略」の正しさ
今回のVWの展示を見て感じるのは、彼らの戦略の巧みさだ。彼らはこれを「2ピラー(2本の柱)戦略」と呼んでいる。つまり、最新のBEV(電気自動車)を推し進めつつ、従来のICE(内燃機関)もしっかりと磨き上げるという方針だ。

ラインナップには「ゴルフ R」もある。333psを誇るこの4輪駆動のモンスターは、ガソリンエンジンの完成形とも言える一台だ。年内には特別な限定車も出るという。「EV一辺倒」で突っ走り、足元をすくわれるメーカーが多い中、VWは現実を見ている。ID. Buzzで新しいファンを獲得し、ID.4で実用性を高め、GTIで夢を見せつつ、ゴルフやティグアンで既存のユーザーを繋ぎ止める。36%増という数字は、このバランス感覚の勝利だろう。

結論:VWは「退屈」を卒業した
かつて、フォルクスワーゲンは「質実剛健」の代名詞だった。それは「間違いのない選択」ではあったが、必ずしも「胸が高鳴る選択」ではなかったかもしれない。

しかし、今回のオートサロンで見せた彼らの姿は少し違う。ワーゲンバスを現代に蘇らせ、SUVにスポーツカー並みのトルクを与え、EVになっても「FFハッチバック」の走りに固執する。

今のフォルクスワーゲンには、かつての空冷ビートルや初代GTIが持っていたような、ある種の「愛嬌」と「頑固さ」が戻ってきている。
ID.4のステアリングを握れば、その進化に驚くはずだ。そして、ID. GTI Conceptの前に立てば、EV時代の車選びが決して悲観すべきものではないと感じられるだろう。

もしあなたが「EVなんて家電だろ」と食わず嫌いをしているなら、一度このブースを訪れるべきだ。ただし、GTIの日本導入を嘆願する署名用紙(があればだが)へのサインを忘れずに。
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