【TAS 2026】ロータス:運転席だけが赤い理由。2,359.5万円の「エミーラ・クラーク エディション」は、現代に残された最後のアナログ時計だ

ロータスがまたやった。1965年の栄光を現代に蘇らせた「エミーラ・クラーク エディション」。日本割当4台のうち、残るはあと1台。昨日空港に到着したばかりのこの車は、単なる限定車ではない。英国の魂そのものだ。

前日、成田に着いたばかりの「英国の魂」
東京オートサロンの会場には、二種類の車がある。「これから未来をどうするか」を必死に語る車と、「過去の栄光を食いつぶす」車だ。だが、ロータスブースにあるその車は、どちらとも違う。それは「過去の偉大なる魂を、現代の肉体に憑依させた」車だ。その名は「エミーラ・クラーク エディション」。

まず、驚くべき事実をお伝えしよう。この車、昨日の今日でここにいる。比喩ではない。本当に昨日、日本に到着し、通関を抜け、そのまま幕張メッセに運び込まれたのだ。展示のライティング調整などしている暇などなかっただろう。その「泥縄」感がいかにも英国的であり、また、それほどまでにロータスジャパンが日本のファンに見せたかった一台だという証拠でもある。

1965年、ジム クラークという名の「怪物」
なぜ、この車が作られたのか。時計の針を61年前に戻そう。
1965年。ビートルズが「Help!」をリリースしたこの年、モータースポーツ界では一人のスコットランド人と、コーリン・チャップマン率いるチーム・ロータスが、信じられないような暴れ方をしていた。

ジム クラーク。彼はこのたった1年の間に、F1世界選手権を制覇し、F2選手権を制し、オセアニアのタスマンシリーズで優勝し、あろうことかアメリカのインディ500までも制覇した。現代のF1ドライバーが、シーズンの合間にインディ500に出て優勝し、ついでにF2でも勝つところを想像してみてほしい。不可能だ。だが、クラークはそれをやってのけた。特にインディ500での勝利は歴史的だった。当時のアメリカンレースは重厚なフロントエンジンのロードスターが支配していたが、ロータスはそこに軽量なミッドシップの「タイプ38」を持ち込んだ。フォード製V8エンジンを積み、アルコール燃料を燃やし、左回りのオーバルコースに特化した左右非対称サスペンションを備えたそのマシンは、平均時速240km以上で駆け抜け、アメリカのレース史を永久に変えてしまった。

この「エミーラ・クラーク エディション」は、そんな奇跡の1年を祝うために、世界でわずか60台だけ生産されたタイムカプセルだ。

運転席だけが赤い、という「エゴイズム」
実車を見てみよう。ボディカラーは「インディ グリーン」。英国のレーシンググリーンよりも少し明るく、しかし深みのある色だ。そこに鮮烈な「ヘセル イエロー」のストライプが走る。これは1965年のインディ500を制した「タイプ38」への直接的なオマージュだ。Cピラーには、ユニオンジャックとスコットランド国旗を組み合わせた専用バッジが輝く。

だが、真の「狂気」はインテリアにある。ドアを開けると、思わず二度見することになるだろう。運転席だけが赤いのだ。助手席は黒いままなのに、ドライバーズシートだけが、かつてのタイプ38のコクピットを模した鮮烈なレッドレザーとアルカンターラで覆われている。

これは何を意味するか? 「この車の主役はドライバーだ。助手席の人間など知ったことではない」という、清々しいまでのエゴイズムだ。

シフトノブを見てほしい。現代的なアルミやカーボンではない。木製だ。かつてジム・クラークが握りしめ、数々の勝利をもぎ取ったあの感触を再現するために、あえてウッドノブを採用している。最新のデジタルメーターと、アナログな木のシフトノブ。この不協和音こそが、エンスージアストの琴線に触れる。

V6スーパーチャージャー+MTという「絶滅危惧種」
パワートレインは、トヨタ由来の3.5リッターV6エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせたものだ。最高出力は405ps。トランスミッションはもちろん、6速マニュアルである。

電動化、自動化、効率化が叫ばれる2026年のオートサロンにおいて、大排気量のV6エンジンを自分の手で操り、スーパーチャージャーの機械的な唸り声を聞くこと以上の贅沢があるだろうか?

23,595,000円。安くはない。だが、この車は単なる移動手段ではない。ジム・クラークの魂と、最後の純内燃機関スポーツカーという「歴史」を買うのだと考えれば、バーゲンセールかもしれない。

日本への割り当てはわずか4台。そして、この原稿を書いている時点で既に3台が売約済みだという。会場にあるこの一台が、日本に残された最後のチャンスだ。

代役が主役を食う? 「ロータス 41」の存在感
さて、クラーク エディションの隣には、もう一台、異様なオーラを放つ葉巻型のフォーミュラカーが鎮座している。「ロータス41」だ。

正直に言おう。ロータスジャパンは本来、インディ500を制した「タイプ38」を並べたかったはずだ。しかし、あれは博物館級の国宝であり、そう簡単に持ってこられるものではない。そこで彼らは、タイプ38の直系であるフォーミュラ3マシン、タイプ41(1968年製)を持ってきた。

「なんだ、代役か」と侮るなかれ。この展示車両、なんと日本の個人オーナーの所有車だ。しかも、飾っておくだけの盆栽ではない。先日の富士スピードウェイのイベントでは、雨の中を全開で走行していたという現役の実動車だ。

ゼッケン「82」は、1965年にジム クラークがインディ500で勝った時の番号を、オーナーにお願いして貼らせてもらったものだという。メーカーの博物館から借りてきたピカピカの展示車よりも、個人のガレージから引っ張り出され、オイルとガソリンの匂いを漂わせるこのタイプ41の方が、よほどロータスらしいではないか。

「STOP WATCHING, START DRIVING(見るだけで終わるな。走り出せ)」という今回のキャンペーンコピーを、地で行く展示だ。

2026年のロータスは「中身」で勝負する
ロータスは今年、派手な新型車の発表を予定していない。その代わり、彼らが掲げた戦略は非常に興味深い。「オーナーへの回帰」だ。

彼らは「サービスクリニック」なるものを計画している。これは、オーナーをディーラーのリフトの下に招き入れ、自分の車のアンダーパネルを剥がし、サスペンションアームの造形や、普段は見えない溶接の跡を、エンジニアと共に愛でるという変態的(もちろん最大の褒め言葉だ)なイベントだ。

また、本国からデザイナーを招き、デザインの意図を直接講義する「デザインマスタークラス」も予定しているという。
車を売って終わりではない。売った後からが、本当の「ロータス・ライフ」の始まりだ。
故障したらどうする? 直せばいい。パーツがない? 作ればいい。そんなバックヤードビルダーの精神は、巨大なグローバル企業となった今でも、ヘセルの黄色いバッジの裏側に脈々と息づいている。

エミーラ・クラーク エディション。この車は、ロータスがどこから来て、どこへ行こうとしているのかを示す羅針盤だ。
もしあなたが、幸運にも最後の1台のキーを手に入れることができたなら、どうかガレージに飾らないでほしい。ジム・クラークがそうしたように、タイヤが悲鳴を上げ、エンジンが咆哮するまで、徹底的に使い倒してほしいのだ。それが、この車に対する最大の敬意なのだから。
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インタビュー
「日本導入4台、残り1台」—その舞台裏
この貴重なモデルと今後の展望について、ロータスのHead of Operationsである寺嶋正一氏に、直撃した。
— ブースの主役、「エミーラ・クラーク エディション」ですが、非常にただならぬオーラを放っていますね
寺嶋氏: ありがとうございます。実はこの車、昨日日本に到着したばかりなんです。通関を通して、そのまま幕張メッセに持ち込みました。本当にギリギリのタイミングでの披露となりました。これは世界限定60台のモデルで、1965年にジム・クラークが「F1」「インディ500」「F2」「タスマンシリーズ」という4つのカテゴリーを1年ですべて制覇した偉業を称えるものです。
— あのインテリア、運転席だけ赤いというのは強烈です
寺嶋氏: ええ、そこが最大のこだわりです。モチーフとなったインディ500優勝車「タイプ38」のシートが赤だったことに由来しています。ドライバーズシートだけを赤にし、シフトノブも当時を彷彿とさせるウッド仕様にしました。さらに、シート間のプレートには1965年に勝利した全レースのリストが刻まれています。まさにジム・クラークになりきるためのコックピットです。
— 気になる日本の割り当て台数と、現在の販売状況は?
寺嶋氏: 日本への導入はわずか4台です。そしてありがたいことに、すでに3台は売約済みとなっています。つまり、今ここに展示してあるこの1台が、日本で購入できる最後のエミーラ・クラーク エディションです。価格は2,359万5,000円と安くはありませんが、それだけのストーリーと希少価値を持った一台だと自負しています。
— 隣に展示されているクラシックなフォーミュラカーについても教えてください
寺嶋氏: これは1968年式の「ロータス41」です。本来ならインディで勝ったタイプ38を並べたかったのですが、さすがにそれは叶いませんでした。そこで、ストーリーを繋げるという意味で、その後のモデルであるタイプ41を展示しました。実はこれ、日本のオーナー様からお借りした車両なんです。先日も雨の富士スピードウェイを元気に走っていた個体ですよ。ゼッケンの「82」は、クラークがインディで勝った時の番号を、今回のためにオーナー様にお願いして貼らせていただいたものです。
— 2026年、ロータスはどのような展開を考えていますか?
寺嶋氏: 今年は新型車の投入予定はありません。だからこそ、既存のオーナー様にフォーカスした活動を強化します。例えば、リフトアップして自分の車の下回りをエンジニアと一緒に見る「サービスクリニック」や、デザイナーから直接話を聞く「デザインマスタークラス」などを計画しています。単に走るだけでなく、「所有する喜び」や、ロータスのエンジニアリングの凄さをより深く知っていただく機会を増やしていきたいですね。
【TAS 2026】ロータス:運転席だけが赤い理由。2,359.5万円の「エミーラ・クラーク エディション」は、現代に残された最後のアナログ時計だ

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