今年の3月から、ベントレー モーターズ ジャパンの代表が、22年務めたティム マッキンレイ氏から、牛尾裕幸(うしお ひろゆき)氏へと変更された。コロナ禍にあって、どの自動車メーカーも販売減に苦しむ中、代表を引き受けることになった牛尾氏。だが、聞けば、2021年は過去最高の販売台数も見えてきているという。ベントレーブランドを日本市場での成功へと導いている牛尾代表にインタビューを行った。
-代表のご就任、おめでとうございます。とはいえコロナ禍の中、たいへんな時期にお引き受けすることになりましたね。
ありがとうございます。私自身も、最初に話を聞いた時には驚きましたがコロナ渦で難しい舵取りを迫られる中、自分が引き継ぐことが社内もディーラーに対しても最もスムーズにビジネスを継続できると考え、最後はやるしかないという覚悟を決めてお引き受けしました。
-牛尾さんのこれまでの経歴を教えてください。
1964年広島県出身です。慶應義塾大学を卒業した後にマツダに入社し、東京本社で主にアフターセールスビジネス拡大に関するディーラー担当の責任者を務めていました。ベントレー モーターズ ジャパンへの入社は2003年です。日本担当のリージョナルマネージャーとして、いかにベントレーの良さをお客様に伝えていくかという課題をディーラーさんと一緒に協力しながら進めていくという仕事でした。お客様が最初に接するのはディーラーのセールス担当者ですので、そこでベントレーブランドの良さを上手に伝えられるかというのは、たいへん重要なポイントです。そう言った意味でもディーラーのご協力なくして私どものビジネスの拡大はありえません。それは昔も今も変わらぬ思いです。
-ベントレー モーターズ ジャパンのような新しい会社になぜ入られたのですか?
私の前任者であり、22年間ベントレー モーターズ ジャパンの代表を務めていたティム マッキンレイさんにお会いしたことがきっかけです。非常に魅力的な方でした。当時ベントレーの販売数は年間で50台ぐらいだったのです。近い将来に、2,000万円を切る初代コンチネンタルGTが導入されるということを熱心に語られ、チャレンジのし甲斐のある会社だと思い、大きな可能性を感じて入社いたしました。
-同じ自動車業界からの転職ではありますが、ビジネスの違いはありますか?
ベントレーというのは非常に高額な商品ですが、私はベントレーモーターズジャパンの設立当時のビジネスプランが富裕層マーケティングのケーススタディになるのではないかと思っています。マーケティング用語に4Pというのがあります。『Product(製品・商品)、Price(価格)、Promotion(プロモーション)、Place(流通)』の4つが両立することで販売に結び付くという指標ですが、例えば先ほどの話で言えば、「プロダクト」に関しては非常に魅力的な初代コンチネンタル GTが導入され、「プライス」はこれまでのベントレーでは見られない2,000万円を切るという価格設定、「プロモーション」としてはマスではなくニッチなターゲットに絞り込む、「プレイス」には、当時3つだけでしたが、主要マーケットに的を絞ってディーラーネットワークを構築しました。このマーケティングの理論をベースに、実践で販売台数やディーラー網を増やしてきたということがベントレー モーターズ ジャパンの自信にも繋がって来たのではないかと自負しています。…なんてちょっと偉そうに言ってますが、今の立場から振り返ってみるとそうだったのではないかなという風に感じたまでです。実際のところ、当時はうまくいかないこともたくさんありましたし、目の前のことをこなすので精一杯で、なかなかじっくり落ち着いて考える余裕もなかったというのが正直なところですけれども(笑)。
-ベントレー モーターズ ジャパンの創設期のメンバーとして入社されましたが、苦労したところはありますか?
社内は数名のメンバーで、チームワークよく動けていたと思います。マッキンレイさんのリーダーシップのもとで、ディーラーとも強固な信頼関係を結ぶことができました。マッキンレイさんは、現場の話にとても耳を傾ける方で、私も、そこは見習うべき点として、今も実践しています。
2008年にリーマンショック、2011年東日本大震災で、日本市場は打撃を受けました。この時はUKの本社ももちろんサポートをしてくれましたが、当時の難局もディーラーと力を合わせて一つ一つ課題に向き合ったことで乗り越えられたと思います。そこから今10年が経ちますが、販売台数は順調に伸びてきて2019年には再び500台を超えました。昨年はコロナで販売が少し落ち込みましたが、おかげさまでだいぶ販売は戻ってきており、今年は過去最高台数が見えてきているところです。
-いまでこそベントレーは良く知られるブランドになりましたが、なにかターニングポイントはあったのでしょうか?
入社した当時はお客様の年齢層も高く、運転手付きのオーナーの方も多くいらっしゃいました。初代コンチネンタルGTが出てからは、自分でドライビングを楽しむ方も出てきましたが、とはいえほとんどは年齢層が高めの男性というのがお客様の中心でした。ところが2016年にベントレー初のSUVであるベンテイガが発売され、ここでかなり新しいお客様を迎えることになったのです。当時はラグジュアリーブランドで初めてのSUVが、このベンテイガでした。まずお客様の年齢層が40代ぐらいの方まで下がってきました。そして、お子さんや奥様を連れて来店される方が出てきたのです。奥様が乗るためにベンテイガを選ばれる方もいらっしゃいました。これは、過去全くない現象で、私どもも驚きました。それまでは、ご家族でご来店という形がベントレーのディーラーでは、ほとんど見られることがなかったからです。ベントレーというブランドが女性にも親しんでいただけるようになったきっかけが、このベンテイガです。年内にはベンテイガのハイブリッドの発表を予定していますが、この時点でハイブリッドについて女性からの問い合わせが増えてきています。それはとても新鮮でした。女性はどちらかというと街乗り中心で、優雅に生活の中でベントレーを楽しむという方が多く、そのうえ環境にも優しいというところに惹かれているようです。特に様々なオプションやカラーをお選びいただくことで、お客様にとって「私だけの1台」という感覚が持てるのも要因かもしれません。もちろんコンチネンタルGTやフライングスパーを中心に、既存のお客様を大事にしつつ、これからベントレーも電動化に舵を切って行きますから、私たちも環境への意識が高いお客様にもフォーカスを当てて行きたいと思っています。
-UKを始めとしたグローバルでの顧客層はどのようなものですか?
日本だけでなくグローバルでも顧客は若返って来ているというレポートがあります。12気筒が中心だったベントレーですが、8気筒を取り入れたことも寄与していると思います。もう少し正確に言うと、若い層も捉えることで、客層のレンジが広くなったという風に見ています。ラインナップの拡充とともに20代から80代の方まで乗って頂けるようなブランドになってきました。
ベントレーというブランド自身も今変革の時を迎えていまおります。昔だとベントレーは人生の最後に乗るクルマというイメージもあったかもしれませんが、今は充実した人生を送られているアクティブでチャレンジ精神の旺盛な方々が乗るクルマというイメージに変わりつつあります。
-日本市場で安定した販売実績を上げているように見えますが、どんなことに取り組まれてきた結果ですか?
インポーターであるベントレー モーターズ ジャパンとディーラーとの関係というのがとても大きいと思っています。日本市場で次第にお客様の信頼を得られてきていてベントレーブランドへのロイヤリティが高くなっているというのはもちろんありますが、売上を伸ばした大きな原動力は、ディーラーの努力にあると思っています。お客様からの要望を吸い上げ、こちらからの要望もすり合わせながら、着実に販売伸長を実現させてきました。マッキンレイさんも私もディーラーさんとのお付き合いはとても長かったものですから、山あり谷ありを乗り越えて、信頼も生まれてきたのだと思っています。
-ベントレーは次の100年を見据えた戦略を発表しました。日本ではどのように取り組まれて行きますか?
電動化ということひとつとっても課題は多いですね。私たち1ブランドだけが取り組もうとしても、それだけでは前に進みません。各家庭の充電環境や、インフラの整備に依る部分も大きいのでクルマだけが先行しても意味がありません。しかしながら私たちは同じグループに、ポルシェやアウディなど積極的に電動化を進めているブランドもありますので、情報共有ができるということは大きなメリットだと考えています。ここ5年くらいの間に本社の戦略を基に日本市場での独自の戦略を展開してゆく予定です。
また、ベントレーでは、クルーの工場をはじめとしてカーボンニュートラルの推進、あるいは雇用、教育、貧困の問題、女性活用あるいはLGBTなど積極的に取り組んでいます。ラグジュアリーメーカーとして自動車そのものだけではなく、企業姿勢についての情報発信は日本でも絶えず行っていかないといけません。それがベントレーというブランド価値を高めることにも繋がっていくのだと思っています。
-日本におけるベントレーの今後の目標や達成したいことはありますか?
お客様一人一人が「ベントレーを買って良かった」と感じていただけき、そのようなお客様の数を一人でも多く増やしてゆきたいです。
-牛尾さんが感じたベントレーのここがスゴイ!というポイントを教えてください。
常に新しいことをやろうというチャレンジ精神です。古くはレース活動への積極的な参加ですとか、コンチネンタルGTやベンテイガの例で見られるように新しい市場の開拓、そして今は電動化に向けて新しいラグジュアリーモビリティを定義しようとしています。クルマに関してはベントレーの真骨頂である「クラフトマンシップ」がすごいと感じるポイントです。、あなただけのためのクルマづくりができる。そして乗り込むと、室内は、乗員だけの特別な空間になるのです。
-ベントレーに興味のある方へメッセージをお願いします。
ベントレーは101年前に、創始者のW.O.ベントレー氏の「良い車、速い車、クラス最高の車を作る」という志によって生まれた自動車メーカーです。彼の情熱は100年後のいまも各モデルに受け継がれており、きっと皆様にもお感じいただけることでしょう。
ぜひショールームに足をお運びいただき、そのベントレーの世界観を味わってください。経験豊富なスタッフが皆様方の車選びのお手伝いをさせていただきます。コロナの感染防止対策を万全にし、お待ち申し上げております。