アルファ ロメオ=赤の固定観念を覆す、白き限定車「ジュニア Ibrida Edizione Bianco」。排気量1199ccのコンパクトSUVは、急勾配の箱根で「人馬一体」の魂を証明できるか。MHEVのエンジニアリングの真価を試す。
白き異端児と、アジア市場の熱狂
アルファ ロメオといえば「ロッソ(赤)」である。もしあなたがパブで「白い、しかも1.2リッターの3気筒ハイブリッドのアルファを買ったんだ」と意気揚々と宣言すれば、血の気の多い生粋のアルフィスタ(熱狂的ファン)から冷えたビールを浴びせられるかもしれない。しかし、時代は変わるのだ。過去の栄光にすがりつくブランドは滅びるのみであり、イタリアの伊達男たちはそのことを誰よりもよく理解している。
濃霧が這うターンパイク箱根の頂上、車好きたちの聖地「バイカーズパラダイス」。冷たい風が吹き抜ける駐車場で、我々を待ち受けていたのは、全国でわずか120台のみが販売されるという日本企画の限定車「アルファ ロメオ ジュニア Ibrida Edizione Bianco(イブリダ エディツィオーネ ビアンコ)」だった。
そのボディカラーは「センピオーネホワイト」。ミラノの歴史ある地区に建つ“平和の門(Arco della Pace)”の大理石から着想を得たという、ただの純白ではない、奥深い凄みと陰影を秘めた白だ。ブラックルーフとのツートーン、そして要所に配されたカーボン調パーツのコントラストを見れば、ビールを振り上げたアルフィスタも静かにジョッキを下ろし、その造形美に見惚れるに違いない。
試乗前のブリーフィングで、ブランドの担当者は誇らしげな表情で語り始めた。
「アルファ ロメオ全体として、グローバルで販売台数が20%伸びています。そしてここアジア地域においては、なんと43.8%もの上昇を記録しました。この数字を強力に牽引しているのが、このコンパクトモデル『ジュニア』なのです。発売から1年弱ですが、400万円台からという戦略的な価格設定もあり、非常に高い評価をいただいています」
アジアで43.8%増。驚異的、いや破壊的な数字だ。かつて「雨の日に電装系がショートしても、それはラテンの情熱だ」などという狂気じみた免罪符で少数の好事家だけを喜ばせていたブランドが、今やグローバルで真っ当なビジネスを大成功させているのである。
さらに担当者は、確信に満ちた声で言葉を続ける。
「我々が掲げるのは『アンチ・コモディティ(反汎用品)』という哲学です。情報が溢れ、他人の評価や星の数ばかりが基準になる現代において、車を単に快適で安全に移動するだけの『道具』とは捉えません。自分の感性を信じ、乗って楽しいと感じる部分を大切にする。正解を探すのではなく、ご自身の感覚で選んでいただける方々に寄り添うブランドでありたいのです」
白物家電と化した現代の自動車産業への、痛烈なアンチテーゼである。しかし、哲学や美しい言葉だけでは車は走らない。この全長4195mm、全幅1780mmというコンパクトなBセグメントSUVが、本当に我々ペトロールヘッド(車バカ)に「アンチ・コモディティ」の歓びを与えてくれるのか。一切の誤魔化しが利かない箱根の急勾配が、そのエンジニアリングの真価を冷酷にジャッジするはずだ。
1199ccと48Vが奏でる奇妙で熱快な舞踏会
小気味よい音を立てるドアを開け、運転席に滑り込む。インテリアはコンパクトながらも、メーターカウルやステアリングの意匠に、アルファ ロメオらしいドライバー中心のタイトでスポーティな空間が広がっている。
ダッシュボードに置かれたスペックシートを改めて確認してみる。心臓部に収まるのは、直列3気筒DOHCターボチャージャーエンジン。総排気量はわずか1199ccだ。これに、フロントに搭載された16kW(約21PS) / 51Nmを発生する交流同期電動機(モーター)を組み合わせた、48Vのマイルドハイブリッド(MHEV)システムである。最高出力はエンジン単体で100kW(136PS相当)、最大トルクは230Nm。トランスミッションは電子制御式6速デュアルクラッチ(DCT)が担う。
正直に言おう。カタログスペックの数字だけを見れば、「少し気の利いたエコで退屈なシティコミューター」である。しかし、ここはアルファ ロメオだ。スーパーの買い物にしか使えない実用エンジンをそのまま載せて「はい、どうぞ」と差し出すような無粋な真似は絶対にしない。
スタートボタンを押し、ターンパイクのヒルクライムへとコースインする。車重1330kgという、バッテリーを積みすぎてメタボリックに肥大化した現代のSUVたちをせせら笑うかのような軽いボディが、アクセルのひと踏みでスッと滑らかに前に出る。
なるほど、この出足の軽快さは、間違いなく電気モーターの恩恵だ。通常、小排気量のターボエンジンは、タービンが排気ガスで回って過給が立ち上がるまでに、どうしても「ラグ(遅れ)」が生じる。しかしジュニアは、そのトルクの谷間を48Vモーターが絶妙なタイミングで補完し、見事に埋めてみせるのだ。
結果として、右足のミリ単位の動きに対して極めてリニアに、淀みなく車体が押し出されていく。エンジンの回転が上がれば、3気筒特有のビート感が心地よいエキゾーストノートに変わり、キャビンに適度な「やる気」を注入してくる。一般的なハイブリッド車にありがちな、エンジン回転数と加速感が一致しないゴムひものようなCVTの悪癖とは無縁だ。DCTが瞬時にギアを繋ぎ、ダイレクトな駆動力をフロントタイヤに叩きつける。エコなハイブリッドであるはずなのに、どこか血の気の多さを隠しきれていない。これぞイタリアン・エンジニアリングが仕組んだ、奇妙で熱快な舞踏会だ。
箱根ヒルクライムをねじ伏せる「軽さ」の正義
料金所を越え、本格的な急勾配が連続するセクションへと突入する。排気量1.2LのコンパクトSUVで箱根の過酷な登りを攻めるなど、少し前の自動車の常識なら、エンジンが悲鳴を上げ、息継ぎをして失速するだけの苦行だったはずだ。
しかし、ジュニアはまったく違う。
「峠道を苦もなく登っていく」
事前の説明は謙遜でもなんでもなかった。急な上り坂でも、DCTが的確なギアを選択し、1750rpmという低回転から発生する230Nmの最大トルクとモーターのアシストが、車体を軽々と上へと引っ張っていく。苦しい素振りなど微塵も見せない。いつしかSUVに乗っていることを忘れ、まるで小粋なイタリアン・ホットハッチを操っているかのような錯覚に陥る。
そして、コーナーが迫る。ターンパイク特有の、回り込みのきつい高速カーブだ。
ブレーキを残しながら、ステアリングを切り込む。ここで、ジュニアの「サイズ感」と「シャシーの優秀さ」が完全に牙を剥いた。全幅1780mm。最近の車がどれも際限なく肥大化していく中で、この絶妙な幅は、日本の狭いワインディングロードにおいて絶対的な正義である。対向車を過剰に意識することなく、車線の枠内でクリッピングポイントを自在に選べる安心感が、ドライバーの心理的なリミッターを容易に解除する。
「急カーブでも、滑らかさは損なわない」
その通りだ。1330kgという軽さが圧倒的に効いている。ステアリング操作に対してノーズは呆れるほど素直にインを向き、サスペンションが路面のうねりをしなやかに吸収しながら、四輪がしっかりとアスファルトを掴んで離さない。コンパクトSUV特有の不快な腰高感や、グラグラと揺れるロール時の不安感は皆無だ。
「アルファ ロメオの『人馬一体』は、単なるメカとの対話ではなく、車に意思があるような『人間』との対話に近い感覚です。車側の意思にドライバーが寄り添い、調和した時に生まれる快感こそがDNAの本質なのです」
開発陣の熱いメッセージが、ステアリングのフィードバックを通じて手のひらにビリビリと伝わってくる。コーナーの出口に向けてアクセルを踏み込むと、フロントタイヤがグイグイと車体を引っ張り、美しい弧を描いてコーナーを脱出していく。なんという痛快で、胸のすくようなコーナリングマシンだろうか。
空力ホイールと日本独自の「ローカルアレンジ」
広々としたパーキングエリアで車を停め、この「エディツィオーネ ビアンコ」のエクステリアディテールを改めて観察する。
このモデルのハイライトの一つが、足元を引き締める「18インチ エアロ アルミホイール(5つ葉デザイン)」だ。アルファ伝統の梅ホイール(テレフォンダイヤル)を現代的に再解釈したようなデザインだが、これは単なる過去へのノスタルジーではない。
「エクステリアには、スポーティさを強調する特別装備を採用しました。空力抵抗を削減しエアロダイナミクスの向上を目的に設計された『エアロ ホイール』です」
エンジニアリングの観点から見ても、このフラットな面を強調したホイール形状は、高速走行時にホイールハウス内で発生する乱流を効果的に抑制し、車体側面の整流効果を高める役割を果たしている。コンパクトカーでありながら、高速域でのスタビリティや燃費性能(WLTCモード 23.1km/L)に直結する、理にかなった機能美である。
さらに、この限定車は「日本独自の取り組み」として企画された点も非常に興味深い。
「日本のユーザーから、白のボディカラーを求める声に応えて設定しました。また、本国の仕様をそのまま販売するだけでなく、日本国内(ローカル)でカーボン製アクセサリーなどを装着し、よりスポーティーな印象に仕立て上げています。日本におけるブランドの定着と飛躍を目指す、戦略的な意図が込められています」
カーボン調デカール仕上げの精悍なフロントリップスポイラー、そしてカーボン調のミラーハウジング。これらは、車両が日本に上陸し、ディーラーに届いてからローカル・アレンジとして一つひとつ装着されるという。イタリアのサルトリア(仕立て屋)が丹精込めて作った上質なプレタポルテ(既製服)に、日本の職人がちょっとした「スパイス」を振りかけたようなものだ。この限定車専用のカーボンキーケースまで付属するというのだから、彼らは我々の所有欲の満たし方を実によく分かっている。
ウェルビーイングへの最も危険な入門チケット
大観山から穏やかな芦ノ湖を見下ろしながら、私はこの車の価格について改めて考えていた。
車両本体価格、4,990,000円。
500万円を切るこのプライスタグは、すべてのモノが値上がりを続ける現在の輸入車市場において、そして何よりアルファ ロメオという由緒正しきプレミアムブランドにおいて、破格とも言える戦略的な設定だ。「お買い得」などというスーパーの特売チラシのような安い言葉は、トップギアの辞書にはそぐわないかもしれない。しかし、この価格で手に入る体験の質とエンジニアリングの完成度を考えれば、そう言わざるを得ない。
試乗を終えて車から降りた時、不思議と頭の中がクリアになっていることに気づいた。原稿の過酷な締め切りも、ロンドンの曇り空のような気鬱も、すべてが箱根の冷たい風と共に吹き飛んでいたのだ。
「アルファ ロメオを運転している時は、仕事や家庭のことを忘れ、運転そのものに没頭できます。この没頭によって、運転後にポジティブな気持ちになれることこそが、我々が提供する『ウェルビーイング』の価値です」
まさにその通りだ。1.2Lの3気筒エンジンとモーターを必死に協調させ、1330kgの軽いボディを武器にステアリングと格闘し、あるいは深く対話する。そのプロセス自体が極上のエンターテインメントであり、車を単なる移動手段とする「コモディティ化」への鮮やかな反逆なのだ。
アルファ ロメオ ジュニア Ibrida Edizione Bianco。
それは、扱いやすいコンパクトなサイズ感と戦略的な価格で、あなたを「こちら側」の世界へと誘う、最も危険で魅力的なエントリー・チケットである。初めてアルファ ロメオを手にする人にも、私は絶対的な自信を持ってこの車をおすすめする。ただし、一度この「人間との対話」のような運転の虜になってしまえば、もう二度と退屈な白物家電のステアリングを握ることはできなくなるだろう。
理性を狂わせる白き小悪魔。その誘惑に抗うのは、至難の業である。
写真:上野和秀
トップギア・ジャパン 072:トヨタが放つV8スーパーカーの衝撃と、2026年を支配する18台
アルファ ロメオが気になった方へ
中古車相場をチェックする在庫車多数ガリバー
![]()
今の愛車の買取価格を調べる カーセンサーで最大30社から一括査定
![]()
新車にリースで乗る 【KINTO】





