【試乗】新型アルファ ロメオ トナーレを箱根ターンパイクで試す。13.6:1のクイックネスと「アンチ・コモディティ」の真髄

「車は白物家電ではない」。アルファ ロメオが放つ新型トナーレを箱根ターンパイクに連れ出した。13.6:1の異常なクイックネスと、たった8mmのトレッド拡大がもたらす魔法。峠道で露わになったエンジニアリングの真価と「人馬一体」の毒を暴く。


バイカーズパラダイスと「アンチ・コモディティ」の誓い

濃霧が晴れかけ、湿ったアスファルトが朝日を反射するターンパイク箱根。ペトロールヘッドたちの聖地とも言える「バイカーズパラダイス」の駐車場に、1台の真紅のSUVが獰猛な気配を漂わせて鎮座していた。アルファ ロメオの新型トナーレである。

以前、私はこのクルマを一般道で連れ回した。その時は、イタリア人がついに品質管理の概念を理解したことに驚愕しつつも、ストップ&ゴーの続く街中での極太ステアリングと、つま先立ちのバレリーナのような繊細さを要求するブレーキに少々の戸惑いを覚えたものだ。しかし、アルファ ロメオという名の猛獣は、スーパーの駐車場や退屈な通勤渋滞で評価を下すべき存在ではない。彼らの本籍地はいつだって、タイヤのスキール音が木霊するワインディングロードなのだ。

試乗前のブリーフィングで、アルファ ロメオの担当者は我々に熱っぽく語りかけてきた。

「我々が目指しているのは『アンチ・コモディティ(反汎用品)』です。単に目的地まで安全・快適に移動するだけの『道具』としての車ではなく、見た瞬間に魅了されるデザインや、乗ること自体の楽しさといった『感性』を大切にする姿勢です。周囲の評価や星の数に惑わされず、自分の感性で選ぶ人々に寄り添うブランドでありたいと考えています」

アンチ・コモディティ。素晴らしい響きだ。A地点からB地点へ行くためだけなら、退屈極まりない冷蔵庫にタイヤを取り付けたようなモビリティで事足りる。だが、我々は冷蔵庫を運転したいわけではない。血の通った機械と対話し、心拍数を上げたいのだ。

ブラックのアクセントが効いた真紅のボディが、冷涼な箱根の空気の中で妖しく光る。足元には、伝説の名車「33 ストラダーレ」から着想を得たという、中が透けて見える「三葉(クローバー)」デザインのホイールが装着されている。この造形美は単なる装飾ではなく、フロントから取り込んだ空気をサイドへ逃がす空力デバイスでもある。レッドキャリパーが覗くその足元は、既存のアルファファンの心を一瞬で串刺しにするだろう。

テクノロジーという名の新たな武器

運転席に滑り込み、極太のステアリングを握りしめる。今回、インテリアにも特筆すべきエンジニアリングの進化がある。センターコンソールから伝統的なシフトノブが消え去り、現代的な「ロータリーシフト」が採用されているのだ。

「ダイヤル式のため、直感的に回しやすく操作が容易である点がメリットです。さらに、ステアリングにあるパドルスイッチの右側(プラス)を長押しするだけで、瞬時にマニュアルモードへ切り替えることが可能になります。伝統に縛られすぎず、使い勝手を追求した技術的な進歩として導入しました」

イタリアの伝統主義者たちは「シフトレバーをガチャガチャ言わせてこそアルファだ!」と抗議のデモを起こすかもしれないが、私はこの進化を歓迎する。なぜなら、峠道においてステアリングから手を離す時間は1ミリ秒でも短い方が良いからだ。パドルシフトの右長押しで即座に戦闘態勢(マニュアルモード)に入れるのは、極めて理にかなったテクノロジーである。

さらに、彼らは品質管理においても最新のテクノロジーで武装している。パネルの組み付け段差の閾値を厳格化する「ギャップフラッシュ」や、360度カメラによる塗料の塗りムラスキャン「E-glare(E-Grey)」を導入しているという。イタリア人が定規とスキャナーを持って真面目に働いている姿を想像すると少し微笑ましいが、結果として組み上げられたボディは、ドイツ車のごとき冷徹なまでの剛性感と精度を放っている。

エンジンを目覚めさせ、D(ダイナミック)モードを選択する。料金所を抜け、ターンパイクのヒルクライムへと、この真紅の獣を解き放った。

ヒルクライムと「0.3秒」の執念

急勾配の上り坂でアクセルペダルを深く踏み込む。1.5リッターのマイルドハイブリッド(MHEV)システムが、瞬時にトルクを路面に叩きつけた。一般道の試乗でも感じたが、このパワートレインは本当に奇妙なほど自然だ。電気モーター特有の唐突な介入や、回生による不自然な減速感がまったくと言っていいほど存在しない。純粋なガソリンエンジン至上主義者である私でさえ、何食わぬ顔で自然に乗りこなせてしまう。

今回のフェイスリフトにおいて、彼らはエンジンハードウェアそのものを新造したわけではない。だが、ECU(エンジンコントロールユニット)の緻密な再チューニングにより、0-100km/h加速を8.8秒から8.5秒へと「0.3秒」も短縮してみせたのだ。

「アクセルを踏み込むほど、より早いタイミングでシフトアップするように設定を変更しています。ハイブリッドシステムの制御も見直し、効率とパフォーマンスの向上を図りました」

担当者の言葉通り、パドルシフトを弾くたびに、乾いたエキゾーストノートと共に矢継ぎ早にギアが繋がっていく。もたつきは一切ない。ハイブリッドでありながら、どこまでも内燃機関の躍動感を前面に押し出してくるセッティングは、まさにペトロールヘッドのためのエンジニアリングだ。

13.6:1の異常なクイックネスと、8mmの踏ん張り

ターンパイクの連続する中・高速コーナーが迫ってくる。ここで、新型トナーレに搭載された驚るべきシャシーテクノロジーが牙を剥いた。

コーナー手前でブレーキングし、あの極太のステアリングをほんのわずかに切り込む。その瞬間、車重1.5トン超のSUVとは思えないほど、ノーズが「すっ」と鋭利な刃物のようにイン側へと吸い込まれていったのだ。

「トナーレのステアリングギア比は13.6:1です。同セグメントの競合他社が約15:1であることを考えると、この数値は非常にクイックです。一般車よりも抑えられたロール角と相まって、コーナー進入時の応答性が極めて高まっています」

13.6:1。この狂気じみたギア比は、ライバル車が観光バスのステアリングだと錯覚させるほどの切れ味を持っている。通常、背の高いSUVでここまでクイックにすると挙動が破綻し恐怖感を生むものだが、トナーレにはそれがない。

なぜか。それは今回の改良で、トレッド幅(左右のタイヤの間隔)が4mmずつ、合計8mm拡大されたからだ。「たった8ミリ?」と鼻で笑うかもしれない。イタリアのエスプレッソのクレマほどの厚みでしかない。しかし、この数ミリのエンジニアリングが、コーナリング中に決定的な違いを生み出す。

コーナーの頂点(エイペックス)を捉え、早めにアクセルを開けていく。電子制御のLSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャル)が瞬時に演算を行い、コーナーでの加速時に左右の駆動輪へ最適なトルクを配分する。拡大されたトレッドが路面をわしづかみにし、強烈な「踏ん張り」を効かせているのが腰のあたりからビリビリと伝わってくる。

背の高い車に乗っているはずなのに、体のバランスが崩れない。ロールは完全に計算された範囲内に収まり、外側のタイヤが悲鳴を上げることもなく、オン・ザ・レールの感覚でコーナーをクリアしていく。恐怖感など微塵もない。そこにあるのは、圧倒的な全能感と快楽だけである。

ダウンヒルと「対話するブレーキ」の真実

大観山を越え、今度は下り(ダウンヒル)のセクションへと突入する。ここで私は、以前の一般道試乗で残していた「宿題」の答え合わせをすることになった。ブレーキである。

街中でのストップ&ゴーにおいて、トナーレのブレーキは立ち上がりが鋭すぎ、油断すると「カックンブレーキ」になりがちだった。滑らかに止まるには、ペダルをミリ単位で薄くコントロールする技術を要求されたのだ。

しかし、急勾配のダウンヒルを猛烈なスピードで駆け下りている今、その評価は完全に逆転した。

コーナーが迫り、強烈な重力(G)がフロントにかかる状況でブレーキペダルを強く踏み込む。その瞬間、巨大なブレンボ製のキャリパーがローターを万力のように挟み込み、車体を路面に縫い付けるような絶対的なストッピングパワーを発揮したのだ。

街中では気難しく感じたその鋭い立ち上がりが、峠道においては「踏めば必ず減速する」という絶大な安心感へと変わった。スピードに乗った状態からでも、ドライバーの右足の踏力に対して、一切の曖昧さなくリニアに制動力が立ち上がる。

「アルファ ロメオの『人馬一体』は、単なるメカとの対話ではなく、どこか『人間(ヒューマン)』との対話に近い感覚を持っています。車側に確かな意思があり、ドライバーがそこに寄り添って調和できた瞬間に、格別の気持ちよさが生まれるのです」

プレゼンでのこの言葉の意味が、今なら痛いほどよく分かる。このブレーキは、漫然と運転するドライバーを拒絶しているのだ。「お前は今、真剣に走る気があるのか?」と車側から問いかけられている。その問いに対し、ドライバーが正しい踏力と繊細なリリースで応えた時、トナーレは完璧な姿勢制御でコーナーへと飛び込んでいく。

冷徹なコンピューターがすべてを丸め込んでしまう現代のクルマにおいて、ここまで濃密な「ヒューマンな対話」を要求してくる機械が他にあるだろうか。

ウェルビーイングという名の到達点

撮影の許可が下りている湯河原パークウェイのスペースにトナーレを停め、チリチリと熱を帯びたエキゾースト周辺の音を聞きながら、私は大きく息を吐き出した。

気づけば、極太のステアリングを握っていた手のひらにはじっとりと汗をかいていた。だが、不思議なほど疲労感はない。むしろ、頭の中は異様にクリアで、心地よい高揚感と爽快感に満たされていた。

「トナーレでのドライビングは、日常の雑事を忘れて『運転そのものに没頭』させてくれる体験です。感性に訴えかける走りに集中することで、運転後にはポジティブな気持ちになれる。これこそが『ウェルビーイング』の価値なのです」

なるほど、その通りだ。私はこのターンパイクでの数十キロの間、締め切りの迫った原稿のことも、溜まったメールの返信のことも、昨晩の夕食が少し塩っぱかったことも、完全に忘却の彼方へと追いやってしまっていた。13.6:1のクイックなステアリングと対話し、エンジンからのトルクを感じ取り、ブレーキのリリースポイントを探る。ただそれだけのことに、全神経を集中させていたのだ。

これは単なる移動ではない。ある種の精神的な浄化(カタルシス)である。

新型アルファ ロメオ トナーレは、燃費やトランクの容量、あるいはカタログスペックの星の数だけで語るべき車ではない。徹底的な品質管理や最新のハイブリッドシステムといった論理的なエンジニアリングを武器にしながらも、その魂の中心には「クルマを操る狂おしいほどの喜び」が未だに手付かずのまま鎮座している。

自動車がコモディティ化し、退屈な白物家電へと成り下がっていく現代において、トナーレの存在は強烈なアンチテーゼだ。「アンチ・コモディティ」を掲げるイタリアの情熱は、箱根の峠道において見事なまでに結実していた。

もしあなたが、日々の退屈なルーティンに辟易しており、心拍数を跳ね上げるような「ヒューマンな対話」を求めているのなら、今すぐこのクルマのステアリングを握るべきだ。アルファ ロメオの猛毒は、あなたの乾いた日常を、極上のウェルビーイングへと塗り替えてくれるはずである。
写真:上野和秀

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