窪田氏のミニマリズムと愛車
建築家窪田勝文が監修したミニマリズムのオリジナルブランド「MONOLITH(モノリス)」の時計が発表され、実機を見る機会が設けられた。これまでブランド時計のOEM制作や物作りに携わってきた群馬精密が、建築家との異色のコラボレーションを通じて生み出したこの時計は、チタニウムのケースにマットコーティングが施され、漆黒のダイアルが特徴的なデザインとなっている。その圧倒的な存在感から、映画「2001年宇宙の旅」に登場する漆黒の物体「モノリス」に由来すると語られている。価格は550,000 円で、詳細は下記ホームページをご確認いただきたい。
窪田勝文は、「MONOLITH」について、覚醒を促す存在を目指したミニマリズムを追求したと述べている。「〈MONOLITH〉で私が⽬指したミニマリズムとは、ただ無駄を省いてシンプルにすることではない。今まで私が訪れた名建築は、そのミニマルな空間に⾝を置くと⼼が安らぎ、チカラが湧いてくるような感覚があった。特に簡素とも⾔える⽇本の伝統建築には、⼈間の内⾯と⾃然を寄り添わせる美しさがある。それこそがミニマリズムのチカラだと思う。
こうした経験を通じて、私が建築家として培ってきたものは、時計のデザインにも活かすことができる。無の境地をきわめたとき、⼈知を超えたものが⽣まれるのだ。
〈MONOLITH〉もまた、ふと⽬にするたびに精神を活気づける存在でありたい。それが豊かな⽣活を送るきっかけになると、私は信じている」
会場には、窪田勝文氏も訪れ、お話を伺うことができた。
「建築には長年の歴史があり、建築家には一種の哲学があります。建築が人間にどのように関わるかが重要です。建築は実際にこれらの人々に何らかの影響を与えていることは間違いありません。それを良い方向に持っていくことが重要です」
―最近の時計について感じることはありますか。
「時計を見ていると、個人的に思う哲学的な気分とは合わないと感じます。時計はますますデザイン化されており、デザインが主導して時計が作られているように感じます。僕は違う考え方をしています」
―建築と時計との関わりについて教えてください。
「建築も時計も、人間が常に関わっている存在であると感じます。時計が触れることで覚醒するとすれば、建築も同様に人々に影響を与えることができます。時計は時を示すものであり、時を見ることができれば、機能としてはそれで十分です。時計が心を落ち着かせる存在であり、一瞬で問題や心配事を忘れることができるようなデザインであるべきです。ですから、デザインは存在感を示すのではなく、むしろデザインを消していくべきです。外から見るとオブジェのように見えれば良いと思います。デザインをする際には、デザインをどのようになくすかを考えます」
―ゴージャスとはどういうものでしょうか。
「ゴージャスな状態とは、何もなくて自分がすっきりとした状態が一番ゴージャスだと感じています。大金持ちになった場合、一般的にはレストランで美味しいものを食べたり、ゴージャスな家やクルマを買ったりすることが頭に浮かぶかもしれませんが、本当のゴージャスさはそこには感じられません。世界的な金持ちになればリゾート地で裸になって写真を撮ったり、プールの向こうに海を眺めたりすることが共通のイメージですね。本当のゴージャスさとは、何もしないで自然との関係を楽しんだり、ぼーっとしたりする瞬間にあると感じるのです」
―世間で流行しているミニマリズムと、今回の時計についてお聞かせください。
「ミニマリズムの大きな問題は、機能が制約されることで、うまく機能しなくなることがあるということなのです。よりミニマルにするには、全ての機能を削っていくことがミニマルさの本質であります。ただし、機能が本来何のためにあるのかを考え、それを生かさないようなミニマルさではいけません。全てを消し去るということではないのです。本当のミニマルさとは、他人からは理解されないような存在であり、機能を満たしながらも適切に機能していることが重要です。時計や建築においても、同様の考え方が成り立つと思っています」
じつは、窪田氏は大の車好きでもあり、ジウジアーロのデザインに惚れ込んで、アルファロメオ ブレラを所有しているという。「ジウジアーロだったらなんでも良いというわけではありません…あっ、今日は時計の話だったね」と話してくださった。いつか、自動車について聞いてみたい。