750psでベントレー最強のW12を積んだバトゥールの使命とは?


ガソリン時代のベントレーのクライマックスかつデザイン再生のスタート地点

ベントレーが、電動化時代にマッチさせた新しいデザイン言語を発表した。それもこれまでで最もパワフルな12気筒ガソリン式バーナーを使って。250年以上の歴史を誇る世界最古のコーチビルダー「マリナー」がコーチビルディングを手掛けたモデルが、このバトゥールである。バトゥールのショーカーが新しくなったベントレー東京 芝ショールームに置かれていたので、じっくりと撮影する機会に恵まれた。過去UKで行ったインタビュー記事とともに、バトゥールについて解き明かしていこう。

バトゥールもマリナーが手掛けるコレクター向けのベントレーで、完売したバカラルの後継だ。だが、クーペスタイルという点でも、見た目は全く違っている。製造されるのは18台のみで、ベントレーの上得意客には極秘で事前にデザインを見せていた。2022年8月下旬のモントレーカーウィークで一般公開される何週間も前に、売り切れていたのだから、これは成功といえるだろう。価格は1台165万ポンド(2.75億円)。

バトゥールは、コンチネンタルGT スピードのボディを徹底的に、しかし驚くほど繊細にマリナーによって作り直されたものだ。スピードは素晴らしいクルマではある。だが、さらに馬力やハンドリングの力強さが加わったところで、益はあっても、害はないだろう。W12エンジンの最高出力は750psに、最大トルクは1,000Nmにまで引き上げられたんだ。バトゥールは極めて重要な車として記憶されるかもしれない。過去を振り返ってみると、搭載したW12はベントレー最後にして過去最強のエンジンだし、ガソリン時代のベントレーのクライマックスといってもいい。そして、未来を向いてみると、ここが、デザイン再生のスタート地点だ。現存するすべてのラグジュアリーカーやスーパーカーメーカーが直面してる問題に対する、ベントレーが出した電動化への答えの第一段階だといえるだろう。超マンモス級のエンジンを中心に目に見える形の車を作ってきた歴史(ベントレーの場合は1世紀以上)を経て、急に電気自動車を作らないっていけないとなったら、デザインはどうなるだろうか?

ベントレーは2021年、アンドレアス ミント氏を新しいデザインディレクターとして迎えた。今後数年間、ベントレーで何をしたいかを考えた彼は、何もない状態からバトゥールを生み出し、わずか1年でお披露目できるまでに成長させるという、見事なスタートダッシュをみせた。それが可能なのは、少量生産であるため、通常の遅い工業プロセスを回避することができたからだ。なお、ミント氏は現在、フォルクスワーゲンに移籍している。

カーデザインは、大きなレバーを引くだけでは成し遂げられない。ごく些細な変更でさえも、最終的な仕上がりに大きな影響を与えることがあるのだから。ミント氏は、バトゥールの印象に大きく影響するだけでなく、未来のすべてのベントレーの象徴となるであろうキー要素を考え付いたのである。例えば、チタンカラーのトリムバーは、ボンネットの前縁に近い船体のようなラインから始まり、ウィンドスクリーンのピラーとミラーを経て、クルマの後方に向かってスイープしている。その効果は、クルマのフロントエンドを光学の力を使って長くすることであり、ミントはこれを「エンドレスボンネット」と呼んでいる。

過去のベントレーは最大8リッターの直列6気筒エンジンをフロントに搭載しており、これは歴史に残る強いしるしだ。電気自動車のプロポーションは、フロントモーターが物理的に非常に小さいので、キャビンが長くなるため、まったく異なっている。しかし、この新しいラインはだまし絵のようなもので、フロントの面積を実際よりも大きく見せているのだ。

ミント氏は、EVの顔は一般的なものが多すぎると言うが、バトゥールのフロントグラフィックは、将来的にEVであったとしても、その個性を際立たせることができている。グリルはコンチネンタルよりも低く、より直立しており、「自信に満ちている」と彼は言う。マトリックスが浮いていて、周囲のパネルに束縛されていないように見える。バトゥールのグリルは、冷却風を取り込むために複雑なパターンを持っている。EVではテクスチャーをつけることもできるものの、ここにはほとんど何もない状態だ。

バカラルと同様、ヘッドライトはベントレーの従来の4灯式ではなく、2つのメインユニットが採用されている。内部の模様は、ベントレーが最近採用している「クリスタルタンブラー」スタイルとは異なり、LEDの複雑なストリングによるテクスチャーが特徴だ。「高級志向のお客様は、伝統的なものからモダンなものへと移行しており、装飾やクロームを少なくすることを望んでいます。これからは、光がクロームの役割を果たすのです」とミント氏は言う。確かに、背面には、新たにスリム化されたライトクラスターが見られる。

ミント氏は、テールのロワーパネルを暗くすることで、クルマの重さを感じさせず、緊張感を持たせていると言う。将来、ベントレーのキャビンは、太陽熱の上昇を最小限に抑えるために、比較的小さな直立したガラス張りのエリアとなるため、ボディの見かけ上の大きさを減らすことが重要だ。ボディ全体のフォルムはシンプルになり、表面はわずかに膨らんでいる。「まるでスーパーチャージャーがボディに息を吹き込み、パネルを外側に押し出すようなイメージです」チタン製のバーがボンネットのシャットラインを隠し、フロントエンドががっしりと見えるのもそのためだ。バトゥールはコンチネンタルスピードよりもワイドで、見た目とトラクションのためにリアのトレッドが拡大されている。

キャビンでは、トランスミッションノブやベントコントロールなどのジュエリーエレメントに3Dプリントのゴールドが施され、ホールマークが刻まれている。インテリアのステッチパターンは、ラジエーターグリルと同じ、ブラックとレッドのダイヤモンドテクスチュアを採用している。後部座席はプラットフォームに交換され、このクルマが描く壮大なグランドツアーのラゲッジを担っているのだ。

そして、悲しい事実をお伝えしよう。ベントレーによると、バトゥールのエンジンはW12の最終発展型であり、生産台数ではこれまでで最も成功した12気筒エンジンをベースにしている。だが、スピードのエンジンとは異なっているので、単なる片手間の仕事ではない。吸気システム、インタークーラー、ターボチャージャーのコンプレッサー、オイル冷却の改善、チタン製エグゾーストシステムなど、パッケージの一部として新しいソフトウェアが導入されているのだ。たった18台のために、かなりのアップグレードのリストが並んでいる。特別な顧客であれば、自分のスピードに装着してくれるかもしれない。シャシーは、48Vアンチロールシステムと4輪ステアリング、電子制御リミテッドスリップ・リアデフをスピードから受け継いでいる。スピードは本当に特別なクルマだが、バトゥールはさらに上を行くことを約束する。

フェラーリは、コーチビルドカーを100台単位で製造している。新しいデイトナSP3は599台だ。アストンマーティンも同様。そこで、ベントレーのマリナーコーチビルド部門のボス、ポールウィリアムズに、なぜバトゥールは18台しか作れないのか、バカラルはなぜ12台しか作れないのかを聞いてみた。「正直なところ、50台でも問題なく売れますよ」と彼はニヤリと笑った。でも、今すぐ売れてしまえば、長期的な戦略に支障をきたす。コーチビルドの価値を高めるためには、常に品薄であることが重要なのだ。「私たちは、バイヤーとの関係を優先しています。お客様の嗜好について、よく理解しています」価値が上がれば、リピーターが増える。だが、マクラーレンとアストンマーティンは、過去3年間、一部の特別仕様車を過剰に供給して苦境に立たされたということを、彼は言わなかったが、私たちは皆知っている。ウィリアムズはこう付け加えた。「また、フェラーリには1950年代から1960年代にかけての名車があり、そこからインスピレーションを得ることができます。そのころ我々は、厳しい時代でした」バトゥールのデザインは、後ろよりも前を見据えているのだ。

PR マネージャーの横倉 典氏にお話を伺った。
「バトゥールは、今後の電動化するベントレーを見据えた画期的なデザインです。コンチネンタルGTスピードをベースに、マリナーが仕上げています。通常は659馬力をチューンして、750馬力にした、最後で、最強の12気筒になります。発表されたときには完売していました。今回展示したバトゥールはショーカーになります。韓国の新しいショールームでの展示の後、日本のベントレー東京 芝ショールームのオープンに合わせて運ばれました。
ベントレーはこれまで3世代がキープコンセプトで、例えるなら911みたいな変化が好ましいという方針で、あまり大きく大胆に何かを変えたことがなかったんです。でも、このバトゥールはガラッと変わったので、新しいお客様に対してしっかりアピールしていきたいなという意図は感じられます。
ただ、きちんとグリルも残されており、いわゆるEVっぽくないとも感じています。ですから、仮にこれがEVになったとしても、そういう意味では既存のベントレーのお客様にも受け入れてもらえるんじゃないかなと思います。
ベントレーのスペシャライズドカーは、バカラル、バトゥールのみならず、コンティニュエーションシリーズも20台いかない、超少量の限定数でした。希少性を保つには、このくらいの数量が適正だと判断したのだと思います。日本のお客様には、このバトゥールでマリナーというブランドを知っていただくということが重要だと考えています。マリナーでは、こういった超希少車だけではなく、ベンテイガなど通常のクルマのオプションやパッケージとしてさまざまな可能性があるということを知っていただけるチャンスだと思います。マリナーそのものを訴求するための一番強力な武器が、今回のこのバトゥールの展示となりました。このバトゥールをきっかけに、日本のお客様にマリナーの秀逸さを認知していただければ嬉しいです」




トラックバックURL: https://topgear.tokyo/2023/04/59098/trackback

コメントを残す

名前およびメールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

HP Directplus -HP公式オンラインストア-

ピックアップ

トップギア・ジャパン 060

アーカイブ