ジープ ウェイアウトでデトロイトからGoogleマップ圏外へ







ビッグサイズのジープ ウェイアウトでキャンプ

世界の終末がやってくる。インターネット上の憂うつな書き込みによれば、そいつは「もし」どころではない。後は「いつ」その日が来るかだけなのだという。そのせいでパラノイアたちは興奮し、「運命の日」をネタにした妄想で楽しんでいるのだ。その想像には、もれなくゾンビも登場する。都市伝説の掲示板では、ウィルス攻撃や核爆弾、エイリアンの侵略、巨大隕石やリアリティTVによる集団洗脳も、世界の終末に関係していることになっている。だが、直近で最も起きそうなことは、株価の暴落による株式市場の崩壊や、テクノロジーの大規模な破綻による社会基盤の崩壊である。とにかく社会が機能しなくなれば、大抵の人がおかしくなってしまう。こうした書き込みへのレスポンスは、刺激的な妄想で満ち溢れている。パラノイアたちは「終末の日」の様子を事細かに描写するからだ。大抵は、自殺級のコレステロールを摂取し、ドラッグやセックスにふける姿が描かれている。他の者は、キーボードを駆使して自らの信仰を盛んに書き立てている。陰謀は数億万あるだろうが、その対策として、自給自足するための島や隠れ家が用意されているそうだ。一見ボーっとしているように見える普通の人々でさえ、防災セットや緊急避難用の乗り物を用意している。冒険家ベア グリルズのサバイバル番組も、インターネット上に書き込まれる世界の終末対策のテンションを上げることに貢献しているに違いない。

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だが、世界の終末へのまともな対策は、家庭でできる飲料水醸成用フィルターから新政府の起ち上げ方まで、どれもきちんとしすぎていてつまらない。ゾンビ対策研究家の狂った頭脳は、今はやりのオフグリッドを自らの妄想に取り込んだ。隠れ家でデジタルデトックスして、ちょっとだけ自給自足で生活しようというのだ。言い方を変えると、グランピング的なおしゃれな野外キャンプである。彼らは、世界の終末に向けた準備をしながらも、自らの隠れ家をインスタ映えさせることも忘れていないのだ。

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緊急時、乗って逃げるのに一番適しているクルマとは何だろうか?インターネット上でこの質問をすると、何のページを見ていても、サバイバリストのホームページの広告がやたらと表示される。今や、私のブラウザーの履歴は、普段よりも怪しげなものになってしまった。だって、急いでいるときに最適なクルマがダッジ、って出てくるのはどう見ても異常だろう。と言っても、もう結論は出ている。ジープ ウェイアウトだ。もっとも、このクルマは現実のものではない。説明しよう。写真のクルマは本物のジープ グラディエイターである。だが、このクルマは、ユタ州モアブで行われた「イースター ジープ サファリ」というイベントのために、メーカーが新たなパーツを追加して作り上げた特別なコンセプトカーなのだ。このウェイアウトは、一般に発売されているピックアップトラックよりも「こうあってほしい」というデザインに仕上げてあり、誰もこのクルマを駆ってジープのコンセプトの一つである、冒険の旅に出ることはできなかったのだ。そこで、我々は実際にこのクルマで走ってみることにしたのである。

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正直言って、私はクルマ自体には何の心配もない。ウェイアウトは、「グラディエイター-プラス」といったところだからだ。このクルマは、フルデフロックシステムを装備したローレンジ4WDである。排気量3.6リッターで、280psくらいは発生させられるであろうV型6気筒ガソリンエンジン「ペンタスター」を搭載し、トランスミッションは8速ATである。でも、何と言っても楽しみなのは、37インチのマッドテレインタイヤと、ストロークわずか5cmのサスペンション、そしてカスタムキャンプ仕様であること。大陸横断仕様をイメージして作り込まれていて、完璧かつ究極の防災セットを装備しているのだ。そこで、今回の企画としては大惨事を想定し、実際に都市を離れ、そう、略奪を企むギャングなんかからできるだけ遠く離れ、スマートに代替の本拠地を設置するにはどうするかということを立案してみた。

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まずは、デトロイトから旅を始めることにする。ここは路上で刺されることなく、都会らしい風景を撮影したいときに便利な街だ。映画やニュースのせいで、デトロイトというと、郊外に立ち並ぶ、打ち捨てられた空っぽの自動車工場が頭に浮かぶ。ブルース スプリングスティーンが思い描き、曲を作り、ガラガラ声で叙情詩のように歌い上げた寂れた場所を想像してしまう。だが実際には、確固たるセンスで起ち上げられた経済活動が、この街で胎動を始めている。街はまだ本来あるべき姿には程遠いものの、所々で景気のよい音が鳴り響いていて、都会の騒音が、ビジネスマンのために建てられた高層ビル群にこだましている。メディアが無理に信じ込ませようとしているような、恐ろしい街ではないのだ。今や、デトロイトは投資対象となり、成長を始めている。かつてひどく傷ついていた街は今、生き生きとしている。イースタンマーケット地区も、見事な落書きアートはあるものの、落ち着きを取り戻している。新しい建物が幾重にも重なってケーキの層のように連なり、街の古い部分を覆うように建てられている。

この街はまさに、前向きに立ち直ろうとしているところである。そして、ウェイアウトは穏やかで、巨大だ。ピカピカのままで明らかに使っていないアウトドアグッズを満載し、最新のナイトスポットをドライブしているのが、次第にバカバカしくなってきた。ウェイアウトは驚くほどよく考え抜かれたクルマなのだが、なんだかインチキくさく思えてくる。このクルマは、4WD車でキャンプする人々の「大きければ大きいほど良い」という考えに賛同したとみえて、やたらと大きい。ライト、ラック、ソーラーパネル、文字通りのキッチンシンクまでもが付いていて、なんでもこなせそうな万能カーである。まるで、工業用接着剤で張り付けた山小屋をドライブしているようだ。本来野外キャンプというものは、大抵ちょっと不便だと思う。それはわかっている。だが、野外に現代生活の便利さをすべて持ち込みたいわけではないが、キャンプするときでも、もう少し便利さがほしいというのが本音だ。野外キャンプとは、現代生活の便利さが、12V程度のものになってしまうことなのだ。

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ウェイアウトには、左右のリアウィングに予備の燃料タンクが付いている。これは見た目にもはっきりと分かるし、使いやすい。そのうえ、ベッドラックにうまく組み入れられたハシゴを使えば、広くてとてもシンプルな、巻き上げ式のルーフテントに上がることもできる。それから、片側に270度広がる巻き取り式の日よけも付いていて、これはロックもできるので使いやすい。スライド式のベッド型ストレージもいい。5トンまで耐えられる、屈強なウォーン社製ウィンチも付いている。運転席にはルーフラックが付いていて、開ければ雨風を浴びることができる…、まあ、もちろん、浴びたければだけど。牽引フックは頑強だ。工業用並の強度だが、スリムなロックレールも付いている。ウィングには、タイヤや工具にエアを供給できるエアコンプレッサーと、小電力で作動するライトも付いている。これはとても実用的だ。おっ、シュノーケルも付いているじゃないか。シュノーケルは何よりも大事だよね。ゲイターグリーン/サンドのボディカラーや、超タフなペイント仕上げもいい。

内装を見ていこう。サドルレザーで覆われたシートには、モアブの地形図が描かれている。それからダッシュボードには、デザイナーお気に入りのワイルドな場所が描かれたステッカーが貼ってあるのだが、実はこれが標準仕様なのだ。面食らうような花綱模様というわけではないが、街中ではちょっと場違いな感じ。翌朝は、特別な準備をすることなく、社会が内部崩壊を起こした、なんて想定しながら街を出た。そして、あらかじめ決めておいた、オフグリッドに向いてそうな避難場所に向かう。その場所は北にある。目的地はアッパー半島だ。

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しばらくは、ただまっすぐに走った。あくまでも想像上の大惨事から逃げているだけなので、逃げ惑う群衆に道路をふさがれることはない。私は、75号線をただひたすら走った。フリント、サギノー、ゲイロード、ウルヴァリン(そう、本当にこういう名前なのだ)、シボイガンを通った。そして、アッパー半島に通じるマキナック橋にたどり着く。たいしたことのない通行料を払い、ヒューロン湖とミシガン湖の間の狭い運河を見下ろしながら、我々は最も手近な自然へと分け入っていった。橋を渡ってすぐに、どこまでも続く森に入っていく。立ち並ぶ家々はみな頑丈そうだ。数時間ドライブするうちに、なんだか都会での出来事が遠いものに思えてくる。街の名前はどれも素晴らしいものばかりだった。フィブルを過ぎて…、うーん、ディック(※ペニスの意味もある)を通ったな。それにしても、ここは空気がおいしい。松の匂いを好きなだけ楽しむことができる。もっとも、かぎすぎると発酵した腐葉土のにおいもしてくるけれど。

その後なんと、ハイアワサ国立森林公園で道に迷ってしまった。それでも、ようやくガソリンスタンドを見つけたのだが、そこは、驚いたことに、自分で給油してレジで給油量を申告するスタイルだったのだ。我々はそのスタイルに従い、給油を済ませてレジに向かう。そして、そこでORV(オフロードヴィークル)タグを買った。これがあれば、この公園内を自由に走り回れるのだ。それから数時間、公園内を走り回ったのだが、アメリカは本当に大きいと実感した。

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ようやく、我々はパラダイスに到着した。偉大なアメリカの偉大な湖であるスペリオル湖の、ホワイトフィッシュ湾沿いにある小さな町である。もう少し大きな町がよかったのだが、ここでしかできないことがあると気が付いたのだ。それは、ミクロポリスの建設である。ログハウスと一緒に、本通り沿いにプレハブを建てれば、小さくても便利な街を作ることができる。空にそびえるようなビルを建設するよりも、現実的だ。地元の人々はすばらしい。きっと、半独立状態であることに誇りを持っているのだろう。そして心が広く、包容力があり、有能で、ソウルフルで、地元にも誇りを持っている。フラッペラテの作り方なんかに興味はないが、もし過酷な冬でも生き延びたいと思ったら、バリスタよりも木こりのほうが頼りになるのは、誰しもが分かっている。そうやって何キロも走っているうちに、そろそろキャンプ場所を見つけないとならない時間になった。

この辺りは、オフロードばかりで、舗装路はほとんどない。誰もGoogleマップでの検索に挑戦しようとは思わなかった。ここは携帯の圏外であり、地図を読み込む能力は著しく低下しているからだ。そして、ウェイアウトは大柄である。突如、そのことを実感するはめになる事態に陥った。走っているうちにある森にさまよいこんだのだが、その森には、このクルマの、羊でも運搬できそうな車格は、いかにも大きすぎた。ガリガリと木を引っかきながら、ヒヤヒヤしながらどうにか森を走り抜ける。木に傷跡を残しながらも、砂にハマるとデフロックシステムを駆使して切り抜け、1時間以上かかってその森を乗り切ったのである。そのとき、スタッフたちが私に過大な期待を寄せていることに気が付いた。彼らは、オフロードでの走り方を何も知らなかったのだ。でも、ちょっと待て。私は確かに空洞レンガで家を建てたことがあるとは言ったが、勘違いしてモルタルでレンガを接合してしまうようなレベルなんだよ。そんなに能力は高くないんだ。…だが、心配しつつビーチに到着すると、我々は呆然となった。なぜなら、そこは完璧な場所だったから。

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そう、祖先から受け継いできた、最高の避難場所だったのだ。スペリオル湖に夕日が沈むころ、キャンプの設営が完了した。テントを巻き上げて開くと、日よけを張って、車上カクテルバーをオープンした。ウェイアウト唯一の豪華装備である。私はグラスを湖で洗い、お酒を注いで、ふぅ、とため息をついた。

断崖の上には灯台がある。風は穏やかだ。眺望があまりにも美しいので、一気にすべてを自分の心に無理やり詰め込みたくなる気持ちに駆られる。だが、そんなことは到底無理だ。いま、幸せな気分が穏やかに満ちている。これなのだ。これこそが、社会から離れるという意味なのだ。雑音も、電話も、デジタル機器もない。このクルマは確かにやりすぎなのかもしれない。だが、ここでは目的に合っている。形状記憶マットレスはソフトで、ライトは無音だ。よく考えてみると、横になって湖を眺めているときが、この1年で一番平和な時だったようだ。雑念が消えて、ぐっすりとよく眠ることができた。

翌朝、放浪癖という病気をいやすにはアブが一番だと分かった。あと、蚊も効果絶大だ。だが、アブが一番最悪なヤツだ。サイズは馬ほどもあるんじゃないかっていうくらいでっかくて、体のどこだろうと、その悪魔のような小さな下アゴでかみつき、クサビ形の跡を残すのだから。ヤツらから解放されるためなら、すぐにヒルトンに予約を入れ、非人間的なプラスチック製品に囲まれていたほうがましだと思えるレベル。だが、「我慢」という万能薬を手に入れ、どうにか思いとどまり、その後、アッパー半島を2日間走り回った。ピクチャード・ロックス・ナショナルレイクショア、ミューニシングを通過する。南へと向かってさらにたくさんの森を抜け、ラピッドリバーやエンサインを通った。我々はできるだけ舗装路を使わず、オフロードを走るようにした。解放感は格別である。森は、湖へと注ぎ込むオイルのように続いている。私は、エキゾーストマニホールドの上に金属製の箱を乗せ、中に、温めるだけでできるファストフード「ホットポケッツ」を入れて“料理”した。パンケースは、排気ガスに当てて程よく温めておいた。私はどこでも寝ることができる。完全に自主独立できていることが、何よりうれしかった。

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だが、我々はまもなく文明生活に戻らなくてはならない。マキナック橋は、野生生活から文明社会に戻る分岐点である。大急ぎで戻らなくてはならないことが残念だった。少しの間、文明社会を離れてみるのはいいことだ。世界的規模の核戦争なんか、想定しなくても構わない。そんなとき、ウェイアウトのようなクルマは素敵なパートナーとなってくれる。最も過酷な冒険に必要とされる装備を50%以上備えているので、どんな冒険でも快適なものにしてくれる。ジープは、アメリカ人の「どこにでも行きたい」という気持ちを、イギリスのランドローバーと同じ方法で具現化したクルマなのだ。自然の中に分け入り、静かな時間を快適に過ごせるようになっている。だが、それ以上に自由と独立を味わうことができる。許容力があり、自給自足も可能なのだ。ここでアドバイスを一つ。世界が終末を迎えるのを待つことはない。自然の中に分け入ってみよう。そんなものを待つには、あまりにも美しすぎる世界があるのだと気づくはずだから。









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