ハーレーダビッドソンジャパンが、3輪バイクである「トライク」のメディア向け試乗会を開催した。以前からその存在自体は知っていたものの、正直に言うとそれは「ラクでハデで大きなバイク」という、どこか自分とは遠い世界にある乗り物だった。たまに街で見かけるトライクは悠然と車線の真ん中を進み、エンジンから放たれる乾いた咆哮はいかにもその道を支配している王者のような雰囲気さえ漂わせている。バイク乗りからすれば「なぜあえて3輪バイクに?」、クルマ乗りからすれば「なんでそんな雨風もしのげない不便な乗り物に?」と思うことだろう。私も実際にトライクに乗るまでは、どちらの気持ちも持っていた。しかしながら、試乗から戻ってきたメディアの顔には、この未知なる「ノリモノ」を体験できた興奮と喜びの笑顔があふれている。そして1時間後、私もその気持ちを共有することとなる。
人は思い込みに支配されている
ハーレーダビッドソンに乗ることの大きな魅力のひとつは、「自由な生き方」を常に提案してくれることであろう。ハーレーを持つことをきっかけにファッションが変わり、聴く音楽が変わり、食べるものが変わり、休日の過ごし方や仲間との関わり方が変わり、これまでの自分では決して選ばなかったであろう別の人生をハーレーとともに歩みだした人も多くいるのではないだろうか。
そして、もう一つの魅力は、男性にとって本質的な欲求である「オトコらしさ」を表現できることかもしれない。このご時世にこのような言葉をメーカーは積極的には発信できないと思うが、荒馬を乗りこなすがごとく大きなバイクをコントロールできる自分、あるいは常識的で社会的な日常の鎧を脱ぎ捨て、意識の底にある本来の野性的な自分を呼び起こせる時間に満足感を覚える人も多くいるだろう。
多少の危うさを抱えながらも、それでもバイクがもたらす風とスリルに惹かれることが「オトコらしさ」だとどこかで思い込んでいた自分にとって、転倒の恐れのないトライクは、野性味を失った乗り物と感じていたのも確かだった。
これは一体どういう乗り物?
スタッフからレクチャーを受け、スタートさせようとする。ギアを1速に落としクラッチをゆっくりつなぎ、アクセルを開けていく。しかし私の乗った CVO STREET GLIDE 3 LIMITED は唸りを上げるだけでビクとも動かない。なるほど、パーキングブレーキが掛かったままだった。582kgもの車重があれば、バイクにパーキングブレーキが付いていて当然だろう。まずこれが一つ目の衝撃。
そして試乗会場内を数周走って驚いたことは、当たり前だがバイクがバンクしないことだ。以前ハーレーダビッドソンのライダーズトレーニングに参加した際、S字や8の字走行で視線とニーグリップの重要性を徹底して学習し、重たいバイクでもヒラヒラとコントロールできることに驚いた。しかしトライクは、曲がりたい方向と逆のハンドルをスッと軽く押し込むことで、静かに、そして確かな意志をもって曲がっていく。大きな体重移動も必要ない。バイクのようにバンクせず、クルマのようにロールしないトライクを完全に乗りこなすには少し時間が足りなかったが、バイクと同じような“乗り物と対話する”感覚と楽しさを十分に味わうことができた。これが二つ目の衝撃。
操作に慣れたあとに、幅2m、長さ50m程度のS字コースに入ってみる。トライクは車幅が広いので、できるだけコースの真ん中をトレースしてみる。数回のチャレンジのあと、少しスピードを上げて挑むが、いつもの癖でややインコースからアプローチしたところ、やはりパイロンの角を踏んづけてしまった。なるほど、トライク乗りがなぜ車線の真ん中を走るのかがよく分かった。私が見たのは自己顕示欲の高いライダーではなく、車両感覚をきちんと自覚している優良なライダーだったのだ。
最後のセクションは波状路である。2026年モデルの最大の特徴は、リアサスペンションのトラベル量がこれまでの2.3インチから5.0インチに増加したこと。そしてディファレンシャルギアをボディそのものに固定したことで30kgのバネ下重量が軽減され、特に後席のパッセンジャーの快適性が劇的に向上しているということである。私が試した10km/h前後のスピードでは、わずかに旧モデルよりも衝撃のしなやかさを感じるに留まったが、勇気を出してもう少しスピードを上げれば、おそらくその違いは前席でも実感できたのであろう。このようなメカニカルな進化は、快適性だけでなく安全性にも直結する。
誰にもチャンスはある。そして誰もが乗っていないのも魅力
トライクは2014年に初めて日本に上陸したモデルである。そこからおよそ12年が経過しているが、まだ多くの人には知られていないというのが現状だ。昨年のトライクの販売台数は約250台ということで、販売比率でいうとわずか3%程度に留まる。
また、ハーレーと言えば「大型二輪免許」を持っていなければ乗れないと思うのが普通だが、このモデルは普通自動車MT免許さえ持っていれば乗ることができる。大型二輪免許がハードルとなってあきらめた人たちの受け皿としても、このトライクに期待しているとハーレーダビッドソンジャパンの玉木代表は語る。
バイクのようにエンジンの上にまたがり、その鼓動と風を感じながら走る爽快感をもつトライクの本当の楽しみ方を知る人はまだまだ少ない。近年はAT限定免許が主流となり、MT免許の取得比率は30%程度と言われているが、その30%の人にはぜひクルマ以外の楽しい乗り物に乗れる特権があることを知ってほしい。その権利を使わずにいるのは何ともったいないことだろう。ステアリングは少し遠くなるが、身体が小さくてハーレーをあきらめていた人や女性ドライバーにもその楽しみが広がるということに、このモデルのポテンシャルの高さを感じた。
転ばないメリットと「優しいオトコらしさ」
バイクでありながら転ばないということは、トライクの最大のメリットである。現状では、これまでバイクを何台も乗り継ぎ、その楽しみを十分に味わい尽くしたベテランライダーの購入が多いと玉木代表は語る。昨年は120周年を記念して19台のトライクの限定車が販売されたが、これも即日完売の人気を誇った。
抽選に当選した方の中には、長年親の介護に尽力してくれた奥様の労をねぎらうため、トライクでの旅行を思いつき購入に至った方がいたという。2輪だと転倒の怖さからタンデムツーリングを拒んでいた奥様も、「3輪のトライクでなら…」と購入を後押ししてくれたらしい。ご主人がこれまでハーレーで味わってきた素晴らしい風景を、奥様にもプレゼントしてあげたかったのであろう。いかにもマッチョでワイルドな「オトコらしさ」ではないが、家族を想い、家族とともに喜びを分かち合いたいという、優しい「オトコらしさ」の形もハーレーは叶えてくれる。
現在、ハーレーダビッドソンジャパンでは3種類のトライクモデルを販売している。モダンなシャークノーズフェアリングをもつ Road Glide 3 はスポーティなスタイリングが魅力的である。価格はカラーによって異なるが 5,535,200円から 5,639,700円となる。Street Glide 3 Limited は大型のフェアリングとヒーテッドライダー&パッセンジャーシートが装備されたグランドツアラーモデルで、価格は 5,739,800円から 6,156,700円となる。さらにフラッグシップモデルで究極のカスタムが施された CVO Street Glide 3 Limited では専用のペイント&フィニッシュが施され、その特別感に所有すること自体の喜びも感じることができるであろう。価格は 8,005,800円から 9,022,200円となる。
今回のトライクの試乗では、久しぶりに新しい感覚を味わえるノリモノに出会ったという新鮮な驚きを味わうことができた。いくつになっても新しいものとの出会いは楽しい。価格は決して安くはないが、乗り出すまでのハードルはライダーにとってもドライバーにとっても高くない。そして3輪になろうとも、それはハーレーそのものだった。
ハーレーらしい力強さ、モダンでありながら野性味あふれるスタイリング、エンジンの鼓動やバイクらしい爽快感を継承しつつ、さらなる快適性や安全性、高いグランドツーリング性能や乗りやすさを追求したモデルがトライクと言える。ぜひ、大事な人と旅に出てほしい。トライクが広げるタンデムの時間は、走るほどに二人の距離を縮め、絆を静かに深めていくのではないだろうか。
【編集後記】
試乗を終えて、果たして今の自分のライフスタイルの中にトライクが入り込む余地があるか考えてみた。結論は「アリ」だ。理由はいくつかある。
一つ目は、周りで乗っている人がいないこと。今風の言葉でいえばアーリーアダプターということになるのだろうが、未知の世界をいち早く体験でき、その体験を皆に共有することには大きな喜びがある。
二つ目は、先に紹介したご夫婦のように妻と出かける時間の質が変わる気がしたこと。週末のツーリングなどでなくても、ちょっとした買い物やお出かけにトライクを使うことで、それ自体がイベントとなり、見える風景が変わってくるのではないかという期待がある。夫は運転、妻はスマホという車内でのいつもの移動からは大きな変化である。
三つ目は、男女問わず、何歳の人が乗ってもカッコいいということ。自分が70歳になったときにもしトライクに乗れていたらなんて素晴らしいのだろうと思う。若者が憧れるカッコいい大人であり続けたい。
最後に、やはり転ばない安全性である。年齢を重ねると家族の理解という部分で購入に時間がかかるものだ。「3輪で転ばない」というエクスキューズは最大の武器になり、説得時間を最短化してくれる。
約600万円という値段は決して安くない。しかしながら、これから訪れるであろう豊かな時間の価値がそれを上回ると感じれば、その価格にあまり意味がないようにも感じた。そしてトライクは、その時間を確実に与えてくれる気がする。
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