新型シトロエン C3 エアクロス ハイブリッド:ACCを捨てて「魔法の絨毯」を手に入れたフランスの異端児

自動運転やスペック競争に血道を上げる現代の自動車業界にあって、フランス人はまたしても我々の常識を嘲笑うかのような車を作った。新型シトロエン C3 エアクロス ハイブリッド。彼らは「日常で5%しか使われない」追従クルコンをあっさりと投げ捨て、そのコストの全てを極上のシートとサスペンションに注ぎ込んだのだ。Bセグメントのボディに7座を押し込むという狂気的なパッケージングがもたらすのは、窮屈な我慢大会か、それとも新たな自由の形か。「魔法の絨毯」の再来を謳うこのフレンチSUVの発表会に向かい、その真価を徹底解剖することにした。


東京の芝浦に位置するHi-NODE。照りつける太陽がアスファルトを焦がし、遠くで霞む蜃気楼が現実と非現実の境界を曖昧にするような、容赦のない日本の夏の日。我々トップギア ジャパンの取材班は、フランスから送り込まれた新たな刺客、新型シトロエン C3 エアクロス ハイブリッドの全貌を目撃すべく、この地へと足を運んだ。

本来であれば、この灼熱のステージの中央には、シトロエン本国CEOであるグザビエ シャルドン氏が堂々と立ち、フランス仕込みの洗練されたジョークを交えながら誇らしげにアンベールを行うはずだった。しかし、人生とはタキシードを着た乱闘のようなもので、予測不可能な事態が常に付き纏う。同社レーシングチーム代表の急逝という悲報に接し、シャルドンCEOは急遽来日を見送ることとなったのだ。代わりに巨大なスクリーンに映し出されたビデオメッセージの中で、彼は「残念ながら日本での発表会に参加できず申し訳ない」と語り、パリオリンピックの喧騒を背に、数年ぶりに新しいC3エアクロスを日本の皆様に披露できる喜びを述べていた。彼の不在は誠に残念であったが、スクリーンの前に鎮座する新型C3 エアクロス ハイブリッドは、そんな感傷を吹き飛ばすほどの圧倒的な存在感を放っていた。

現代に蘇る「魔法の絨毯」と、巨大帝国の戦略

発表会の口火を切ったのは、ステランティスジャパンの代表取締役社長、成田仁氏である。彼は、プジョー、フィアット、ジープなど14ものブランドを擁する巨大帝国ステランティスの戦略を紐解き始めた。彼らが日本市場に持ち込んだのは、決して「EV一辺倒」という退屈な教条主義ではない。日本のハイブリッド需要の高さという現実を直視し、PHEV、マイルドハイブリッド、ガソリン車といった多様なパワートレインを用意する「マルチエネルギー戦略」だ。顧客一人ひとりのライフスタイルに合わせた選択肢を提供するというこのアプローチは、実に理にかなっている。

だが、自動車愛好家たる我々にとってより興味深かったのは、成田社長自身の個人的な「シトロエン愛」の吐露であった。若い頃、彼はシトロエンがもたらす「魔法の絨毯」と呼ばれる伝説的な乗り心地に憧憬を抱きつつも、「故障や整備が大変」という当時の(そして英国のパブでよく耳にするような)悪名高きイメージが先行し、手を出せずにいたという。ハイドロニューマチックの緑色のオイルがガレージの床に染み出す悪夢に怯える気持ちは、痛いほどよくわかる。

しかし、時代は変わった。昨年ステランティスに入社した成田社長が現代のシトロエンのステアリングを握ったとき、その偏見は粉々に打ち砕かれたという。「プラットフォームはグループ内で共通化したとしても、シトロエンはシトロエンです。魔法の絨毯の心地であり、乗ると不思議と落ち着く空間があります」。コスト最適化のためにプラットフォームや部品を共有しても、ブランドの魂は決して死なない。その言葉には、経営者としての計算だけでなく、一人の車好きとしての偽らざる興奮が宿っていた。

ヨーロッパの5%の真実:ACCを捨て、コンフォートへ全振りする狂気

続いてマイクを握ったフレンチブランド統括の小川隼平氏、そしてラウンドテーブルで熱弁を振るったプロダクトマネージャーの鈴木氏らの言葉から明らかになったのは、新型C3 エアクロスの異常なまでの「割り切り」であった。

現代の新型車発表会といえば、いかに自車の運転支援システムが優れているか、レーダーが何個ついているかというカタログスペックの羅列になりがちだ。しかし、新型C3 エアクロスには、現代のクルマの常識とも言える「ACC(アダプティブクルーズコントロール=追従型クルーズコントロール)」が搭載されていない。冗談ではない、本当だ。

その理由は、ヨーロッパにおける冷酷なデータに基づく。本国の調査によると、日常的にACCを使っているドライバーはわずか5%に過ぎなかったのだ。フランス人はここで考えた。「誰も使わない電子ガジェットに大枚をはたくくらいなら、そのコストを我々のアイデンティティである『コンフォート(快適性)』に全振りすべきだ」と。なんという潔さだろうか。何でもそつなくこなす優等生を作ろうとして無個性な鉄の箱を生み出すのではなく、一部の機能をあっさりと切り捨ててでも、シトロエンならではの「疲れにくさ」を極限まで高める道を選んだのだ。

その結晶が、全車に標準装備された「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)」 と「アドバンストコンフォートシート」 である。ダンパー内にセカンダリーダンパーを設けるPHCは、路面からの衝撃をまるでマシュマロのプールに飛び込んだかのように吸収する。そして「板チョコパッド」と愛称が付けられたシートは、1クラス上のC4と同等の15mmの厚み(MAXグレードの場合)を持たせ、乗員の身体を優しく包み込む。ラウンドテーブルに同席したフリージャーナリストの中山氏は、これを「着るだけで疲れが取れる『リカバリーパジャマ』のよう」と絶妙に表現した。まさにその通りだ。車はもはや単なる移動の道具ではなく、日々のストレスから解放されるための動くオアシスへと昇華しているのだ。

BセグメントSUVで7人乗り? 物理法則への優雅な反逆

新型C3 エアクロスのもう一つのハイライトは、BセグメントSUVでありながら「7人乗り(3列シート)」を採用したことだ。全長は従来比プラス250mmの4410mm。全幅は1790mm と、日本の狭い路地や駐車パレットにも完璧にフィットするサイズに収めながら、その内部には驚くべき空間が広がっている。

だが、誤解しないでほしい。この3列目シートは、屈強なラグビー選手が快適にロンドンからエディンバラまで旅するためのものではない。鈴木氏が正直に「若干足元は狭い」と認めた通り、足元のスペースには物理的な限界がある。しかし、座面の長さは2列目とほぼ同等の45cmを確保し、決しておざなりなエマージェンシーシートにはしていない。

小川氏が「セブンシーター(7人乗り)はスペックではなく、人が考える自由の形でございます」と語ったように、このパッケージングの真髄は「自由度の高さ」にある。普段は広大なラゲッジスペースを持つ5人乗りのSUVとして優雅に使いこなし、いざという時、例えば子供の友人を乗せてサッカーの試合に向かう時や、祖父母が急に遊びに来た時だけ、パッと3列目を引き出してワイワイと出かける。

独立したキャプテンシートで孤立して乗る巨大な国産ミニバンに対する、シトロエンからの痛快な「アンチテーゼ」だ。小さな車体に肩を寄せ合い、ギューギューになりながらも全員で移動の時間を楽しむ。そこには、技術を見せびらかすのではなく、乗る人全員の時間を豊かにするというシトロエンの哲学「ケアリング」と「クレバーさ」が息づいている。

アジアから吹く新しい風:為替の波を乗りこなす航海術

さて、価格の話をしよう。これだけの快適装備と3列シートを詰め込みながら、新型C3 エアクロス ハイブリッドは、ベーシックな「PLUS」グレードが399万9000円、「MAX」が435万円という、ライバルたちが冷や汗を流すような戦略的な価格設定を実現している。

この魔法の裏にあるのは、ステランティスという巨大グループのスケールメリットだけではない。成田社長は、現在の日本市場における最大の課題が「ユーロ高などの為替変動リスク」であることを包み隠さず語った。そのリスクを回避するため、彼らは2030年に向けた長期戦略として、インドや中国などのアジア圏での現地生産を強化し、日本への導入を進めているのだ。

「中国メーカーと提携したら、ただバッジを付け替えただけの車になるのでは?」という意地悪な質問に対し、成田社長は首を横に振った。テクノロジーは効率的に共有しても、各ブランドが長年築き上げてきた「デザイン」や「哲学」は決して妥協せず車に反映させる、と。つまり、どこで作られようとも「シトロエンはシトロエン」なのだ。品質とブランドアイデンティティを守り抜きながら、政治経済の荒波に左右されない安定した価格で我々に車を届ける。これは単なるコストダウンではなく、極めてクレバーな生存戦略である。

走りの質への期待:48Vマイルドハイブリッドが奏でる静かなる咆哮

ボンネットの下に収められているのは、1.2L直列3気筒ガソリンターボエンジンと電動モーター、そして6速デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせた新世代の48Vマイルドハイブリッドシステムである。システム合計最高出力は136psを発揮し、燃費は19.6km/L(WLTCモード)という優秀な数値を叩き出す。

しかし、トップギア ジャパンの読者ならお分かりの通り、我々が気にするのは退屈な燃費の数値ではない。重要なのは、このシステムが「どのように走るか」だ。シトロエンはこのモーターアシストを、単なるエコのための免罪符としてではなく、低速時の静粛性向上やスムーズな発進という「快適性を高めるための武器」として利用している。

きっと、こんな感じなのではないかと期待される。発進時、モーターの静かなアシストによって車体は滑るように前へと進み、3気筒特有の振動は巧みに隠蔽される。そこからアクセルを踏み込めば、ターボチャージャーが息を吹き返し、心地よいトルクの波に乗って速度を上げていく。デュアルクラッチトランスミッションの変速は俊敏でありながら、ショックは徹底的に丸め込まれている。Gを感じさせず、ただ景色だけが後ろへと飛び去っていくその感覚が得られるのであれば、まさに魔法の絨毯となる。

「ベールモンタナ(自然の緑)」 と名付けられた新色の深いグリーンのボディが、東京のコンクリートジャングルを滑らかに泳ぐ姿を想像してみてほしい。そこには、ゲルマン的な機能主義の冷たさも、ラテン的な過剰な熱苦しさもない。ただひたすらに、乗る者を癒やし、日常の移動を特別なリラクゼーションの旅へと変えてしまうフランスの魔法があるだけだ。

フランスらしさがあふれる最高の相棒

新型シトロエン C3 エアクロス ハイブリッド。この車は、万人受けを狙った妥協の産物ではない。誰もが「必須」だと信じて疑わないACCを切り捨て、その分の弾薬をすべて「コンフォート」と「3列シートの自由度」という一転突破の局地戦に投入した、極めて勇敢で偏執狂的なSUVである。

もしあなたが、車のスペック表を眺めて数字の大小でマウントを取り合いたいのであれば、他のショールームへ行くべきだ。だが、もしあなたが日々の移動に「疲れにくさ」を求め、家族や友人たちと肩を寄せ合ってワイワイ出かける自由を愛し、なおかつフランスのちょっとした狂気とエスプリを理解できる粋なドライバーであるならば、この車は最高の相棒となるだろう。

ステランティスは「ここから爆発的に台数を上げる」と息巻いている。その自信は決してハッタリではない。新型C3 エアクロス ハイブリッドは、没個性化が進む現代の自動車市場において、シトロエンらしさという強烈なスパイスを効かせた、最高に美味しい一皿に仕上がっているのだから。

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