モーターサイクルを売らないハーレーダビッドソンの店が新宿に誕生した。エンジンの匂いがしない空間で、彼らは何を売るのか? その哲学と珠玉のカスタムバイク、最新の装いを徹底解剖する。
もしあなたが「ハーレーダビッドソンの新しいショップがオープンする」と聞いて、オイルの匂いとクロームメッキの輝き、そして鼓膜を揺らすVツインエンジンの咆哮を期待して新宿マルイ メンの1階に足を踏み入れたなら、いささか面食らうことだろう。なんと、そこではモーターサイクルは展示としてしか置かれていないのだ。ジェレミー クラークソンなら「アメリカ人はついに内燃機関を捨てることにしたのかい?」と大げさに眉をひそめるかもしれない。
しかし、落ち着いてほしい。彼らが白旗を揚げたわけではない。むしろ、彼らのアイデンティティである「自由」という概念を、より広範な層へアピールするための極めて巧妙な戦略なのだ。2026年3月20日にグランドオープンを迎えた「ハーレーダビッドソン STYLE 新宿」は、アパレルや雑貨の販売に特化した、国内唯一のライフスタイルストアである。
「人生の選択肢」としてのファッション
オープニングセレモニーに登壇したハーレーダビッドソン ジャパン代表取締役の玉木一史氏は、我々にその哲学をこう語りかけた。
「ハーレーはバイクを売るブランドではありません。人々が自分の人生をどう生きるかを選ぶ瞬間に寄り添うブランドなのです。ファッションを入り口として、バイクに乗る・乗らないに関わらず、自分らしいスタイルを見つけて生きるきっかけとなる場所を目指しています」
なるほど。モーターサイクルメーカーが服を売ることに違和感を覚えるかもしれないが、彼らの歴史を紐解けば、1903年の創業からわずか数年後の1910年代には、すでにレーシング用ジャージの製作を始めているのだ。現在では毎年約500種類ものアパレル新商品を展開しており、日本の正規ディーラー全87店舗で取り扱われている。彼らのファッションにかける情熱は、空冷エンジンの冷却フィン並みに熱を帯びているというわけだ。
世界を狙う「極東の拠点」
店長を務める宗 浩子氏は、新宿という立地の重要性と、秘めた野心を隠さない。
「新宿は世界中から非常に多くのインバウンド客が訪れる場所です。私はこれまで担当したショップをすべて日本一にしてきたという自負があります。この『スタイル新宿』は、単なる日本一の店にとどめず、世界を狙えるお店にしたいと考えています」
店舗の中には「TOKYO(新宿)」のロゴが刻まれたTシャツも鎮座している。世界中のハーレーフリークにとって、各国の拠点を巡ってご当地Tシャツを収集することは、英国人がパブのコースターを集めるのと同じくらい神聖な儀式なのだ。この店は、極東の島国における新たな巡礼地となるだろう。
日常というハイウェイを走るための装甲(アーマー)
売場面積184.3平方メートルの店内には、メンズ・ウィメンズあわせて常時1,000アイテム以上が並ぶ。そのコーディネートの提案も、単なるライダーウェアの域を遥かに超えている。
例えば「メカニック・フロントマン・スタイル」。ガレージで自らの手でキャブレターを調整するような、機能美と男らしさを兼ね備えた整備士風のスタイルだ。また、無骨なレザージャケットにあえて対照的なフェミニンなワンピースを合わせる「甘辛ミックス」や、アウターを脱いでもブランドの世界観を損なわない「インナー主役スタイル」なども提案されている。これらは、日常という名のハイウェイをクルージングするための、新しい装甲(アーマー)の提案と言える。
究極のパーソナライゼーションと「可変式マフラー」の音響工学
だが、トップギアの読者諸兄が最も興味を惹かれるのは、3月29日までの期間限定で店内に展示されている一台のモーターサイクルだろう。5人組男性アーティスト「Da-iCE」のボーカル兼パフォーマーであり、筋金入りのハーレーオーナーである花村想太氏の愛車、ブレイクアウトだ。
数年をかけてブラッシュアップを重ねたというこのマシンは、まさに「走る芸術品」である。「純正パーツを見つけるのが難しい」ほどに細部まで手が入っており、外装は徹底的な全塗装が施されている。車体には彼自身の直筆サインが入っているが、私たちが最も強く共感したのは、走行中に付いた「小傷」がそのまま残されていることだ。ガレージの肥やしではなく、実際にアスファルトを噛み締めてきた「勲章」である。これこそが、本物のモーターヘッズの証だ。
そして、このマシンのハイライトは、なんといっても「可変式マフラー」である。手元のボタン一つで、排気音の音量を切り替えることができる画期的なシステムだ。
住宅街を抜けるときは、バルブを閉じて英国の図書館のように静粛に振る舞う。しかし、ひとたび高速道路のランプウェイに差し掛かれば、ボタンを押してバルブを開き、Vツインの「ドコドコ」という雄叫びを解き放つ。これは単なる自己主張のツールではない。高速走行中においては、自らの存在を周囲のドライバーに知らしめるための、極めて理にかなった安全装置(アクティブ・セーフティ)なのだ。しかも、これほど劇的に音響特性を変化させながらも、日本の厳格な車検制度を完全にクリアしているというから驚きだ。ライダーの渇望と社会のルールを見事に両立させた、エンジニアリングの勝利である。
花村想太氏に訊く「ハーレーと共にあるライフスタイル」
見事なマシンを披露してくれたゲストの花村想太氏が、ハーレーへの愛とファッションへのこだわりを訊くトークショーが開催された。彼はこの日、ベースボールシャツにバンダナをあしらった、ドレッシーかつカジュアルな見事な出で立ちで登場した。
ー本日は素晴らしいコーディネートですね。日常でもハーレーのアパレルを愛用されているそうですが
「ありがとうございます。本来はカジュアルなベースボールシャツをインナーに使って、バンダナをスカーフ代わりにすることでドレスアップさせています。バイクに乗らない日でも、チャンピオン等とのコラボ商品など、日常に馴染みやすいアイテムが多いので重宝していますね。普段はオーバーサイズのTシャツや太めのパンツといったラフな格好が好きなんですが、ハーレーのオレンジ色のロゴを見るだけで、ワクワクして幸せな気分になるんです」
ーそのロゴが、コミュニケーションのきっかけにもなっているとか
「そうなんです。多くのアーティストやダンサーもハーレーのTシャツを着ていて、それを見かけると『ハーレー乗ってるんですか?』って話しかける最高のアイスブレイクになります。僕自身のバンド『Natural Lag』のライブでも、ファンの方がハーレーのウェアを着てくれているのを見ると、強い親近感や仲間意識を感じますね」
ー展示されている愛車のカスタマイズ、特にあの可変式マフラーのシステムには我々も唸らされました
「あれは本当に素晴らしいシステムで、めちゃくちゃおすすめです。住宅街では静かに走れますし、高速道路ではあえて音を大きくすることで、自分の存在を周囲の車に知らせて安全を確保できます。音が小さすぎると自分の存在がかき消されてしまって、バイク乗りとしては不安なんですよ。それに、音を大きくした時のハーレー特有の『ドコドコ感』が最高なんです。しっかりした良い音なのに車検に通る仕様だというのも、本当に素晴らしいポイントです」
ーハーレーに乗るようになって、ご自身のライフスタイルに変化はありましたか?
「以前はインドア派だったんですが、約4年前にハーレーを買ってからは、演出家のMASAOさんと一緒に走るようになって、日帰りで新潟や大阪まで行くほどのアウトドア派に転身しました。長年一つのものを愛し続ける人を尊敬していて、メンバーの工藤大輝さんや、ハーレー乗りとして憧れる木村拓哉さんのように、自分らしいスタイルを持っていたいですね。ファッションを入り口にハーレーのブランドを身につけて、いつか皆さんと一緒に走れたら嬉しいです」
「ハーレーダビッドソン STYLE 新宿」は、単なる服屋ではない。内燃機関の咆哮を愛し、自由を渇望する大人たちのための、極めて洗練された「クラブハウス」なのだ。もしあなたが新宿を訪れる機会があるなら、ぜひこの店に立ち寄ってみてほしい。モーターサイクルは売っていないが、そこには間違いなく、我々が愛してやまない「エンジンの魂」が宿っている。
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