ドリキン土屋圭市が語る「6億円のブレーキ」 パガーニイベントの隣で行われた、もう一つの超絶走行会

「安い車でも6,000万円から」という狂気の世界。香港SPSの走行会で、ドリキン土屋圭市は6億円のパガーニをどう走らせたのか?彼が語る本音と苦悩。

「6億円の車で全開? 無理無理!」ドリキンが語る、ハイパーカーオーナーとの正しい付き合い方
パガーニ「Arte in Pista」の取材中、我々はピットレーンで奇妙な光景を目撃した。
イタリアの至宝たちが芸術的なエキゾーストノートを奏でるそのすぐ隣のピットから、聞き慣れた、いや、日本のサーキットで育った者なら誰でも知っているであろう「あの笑い声」が聞こえてきたのだ。
声の主は、ドリキンこと土屋圭市。
そしてその横には、織戸学と谷口信輝の姿もある。
まるでシリーズ動画の撮影現場のような豪華な布陣だが、彼らが着ているのはいつものレーシングスーツではない。彼らの背後には、香港のハイパーカーディーラー「SPS Automotive Performance」のバナーが掲げられ、ピットにはオーナー所有の極上車がずらりと並んでいる。

そう、ここはもう一つの「非日常」だ。
パガーニ公式イベントの横で、香港の正規ディーラーであるSPSが顧客向けに開催したプライベート走行会。そこで、日本のレジェンドドライバーたちが「ゲストインストラクター兼デモドライバー」として招かれていたのだ。
SPS Automotive Performance Hong Kongは、ただのクルマ屋ではない。パガーニの香港正規ディーラーであるだけでなく、デ・トマソ、アポロ、ギュンター・ワークスといった「一筋縄ではいかない」ブランドを一手に引き受ける、ハイパーカー界の梁山泊だ。
彼らが香港の顧客を連れて富士へやってくる。それだけで事件だが、そこに土屋圭市らが絡むとなれば、トップギアとして話を聞かないわけにはいかない。

「安くても6億円」の世界線
「いやあ、面白いイベントだよ。日本人にはない発想だよね」
ピット裏でトップギアに少し時間を割いてくれた土屋氏は、開口一番そう言って笑った。
彼の言う「発想の違い」とは、その規模感と金銭感覚の欠如(あるいは超越)にある。
SPSの顧客たちが持ち込んだ車たちは、我々庶民が一生働いてもタイヤ一本買えるかどうか怪しいレベルの代物ばかりだ。
「香港で別の走行会(SPS主催)にも行ったことがあるけどさ、向こうだとポルシェのGT3 RSとか、6,000万円級の車がゴロゴロいるわけ。でもさ、ここにあるパガーニなんかは、安くても6億円とかの世界じゃない?もう笑っちゃうしかないよね」
土屋氏ほどのキャリアを持つ人間が「笑っちゃうしかない」と言うのだから、事態は深刻(?)なのである。通常の走行会であれば、ポルシェ 911 GT3 RSはサーキットの王様として君臨する。だが、このパドックにおいては、それは単なる「入門車」か、あるいは「普段履きのスニーカー」のような扱いを受けている。
「同じお金持ちでも、6,000万円の車に乗る人と、6億円の車をポンと買える人では、やっぱり世界観が違うんだなって感じるよ」

プロドライバーの苦悩:6億円を預かるということ
しかし、いくら「面白い」と言っても、ステアリングを握ればプロフェッショナルとしての仕事が待っている。今回の彼らの任務は、オーナーの愛車をドライブし、同乗走行でポテンシャルを体験させたり、セッティングのアドバイスをしたりすることだ。

ここで一つ、重大な問題が生じる。相手は、絶対に壊してはいけない6億円の美術品だ。しかも、オーナーが横に乗っている。
「やっぱりオーナーの車だからさ、本気で攻めることなんてできないよ」
土屋氏は苦笑いを浮かべながら、その絶妙な「手加減の美学」を明かしてくれた。
「ストレートだけは全開にするよ。エンジン音も加速も味わいたいだろうからね。でも、コーナーは無理。タイヤを減らさないように、クルマを傷めないように、だいたい75%から80%くらいで走るのが精一杯」

これが、レーシングドライバーの隠れた高等技術だ。単にゆっくり走るのではない。オーナーに「速い!」と感じさせるようなGを出しつつ、車両には一切の無理をさせず、タイヤの角も丸めず、安全マージンをたっぷりと残してラップをまとめる。ある意味で、予選アタックよりも神経を使う作業かもしれない。

そして走行後には、オーナーからの「無邪気な質問」が待っている。
「降りてくるとさ、みんな聞いてくるんだよ。『俺のクルマどうだった?』って(笑)」
彼らは評価を求めているのだ。自分の選んだ車が、そして自分が仕上げたセッティングが、プロから見てどうなのかを。
「ポルシェのオーナーなんかは、コンピュータとか足回りを弄ってる人が多いね。逆にマクラーレンのオーナーはノーマルで乗ってる人が多い印象かな」
さらに今回のイベントでは、そんなハイパーカーたちに加え、オーナー所有のポルシェ 911 GT3 RSなどの「新旧乗り比べ」も行われていたという。
「そういう乗り比べができるのも、この走行会のすごく面白いところだよ」と土屋氏は語る。オーナーにとっては、自分のガレージにあるコレクションをプロに評価してもらい、違いを語り合うことこそが、最高の贅沢なのだろう。

アジアにおける「ドリキン」という共通言語
取材中、SPSのスタッフや香港からの参加者たちが、目を輝かせて土屋氏にサインを求めたり、写真を撮ったりする姿が印象的だった。
言葉や文化が違っても、「DORIKIN」の名は共通言語だ。
「ありがたいことに、アジアのファンは本当に多いんだよね」
そう言ってファンサービスに応じる土屋氏の周りには、常に人だかりができている。
織戸学や谷口信輝も同様だ。日本の自動車文化、特にチューニングカーやドリフト文化が、ハイパーカー市場の最前線にいる香港の富裕層にも深く浸透している証拠である。
SPSのようなディーラーが、イタリア製の超高級車を売るだけでなく、日本のサーキットで日本のレジェンドドライバーと交流する機会を作る。これは、車そのものの価値だけでなく、「体験」と「ストーリー」を売っているということだ。

結論:トップギア的視点
隣のパガーニ公式ピットが「レオナルド・ダ・ヴィンチの芸術と科学」を追求する静謐な聖域だとしたら、こちらのSPSと土屋氏たちのピットは、よりエネルギッシュで、生々しい「車好きの熱狂」が渦巻く場所だった。

SPS Automotive Performance Hong Kongの凄みは、単に高価な車を右から左へ流すブローカーではなく、こうした濃密なイベントを自前でプロデュースできる点にある。レーシングコンストラクターJAS Motorsportのアジアパートナーでもある彼らは、車の売り方を心得ている。富裕層が真に欲しているのは、6億円のカーボンファイバーの塊そのものよりも、それをドリキンに運転させ、横で「すげえ!」と叫ぶ、あの瞬間なのかもしれない。

秋晴れの富士スピードウェイ。
パガーニ創始者オラチオ氏が哲学的な笑みを浮かべる横で、土屋圭市が「いやあ、高すぎて笑っちゃうよ」とガハハと笑う。
金額の桁が2つ違おうが、使う言語が違おうが、結局のところ、ここにあるのは「車が好きでたまらない」という純粋な魂だけだ。

ただし、もしあなたが次にパガーニを買う機会があったとしても、土屋氏に「全開で!」と頼むのはやめておいた方がいい。彼は優しく笑いながら、心の中で「勘弁してくれよ」と叫びつつ、きっちりタイヤを労わって80%で走ってくれるだろうから。
ドリキン土屋圭市が語る「6億円のブレーキ」 パガーニイベントの隣で行われた、もう一つの超絶走行会

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