新型ディフェンダーに試乗
ようやく、日本でも新型ディフェンダーに乗る機会を得ることができた。結論を先に言ってしまえば、聖書ではないが「おそるることなかれ」である。初代ディフェンダーが登場したのは1948年「ランドローバー シリーズ Ⅰ」として登場した。1990年にディスカバリーが登場したのと同時にディフェンダーという名前に変わり、初代から70年以上を経てようやくフルモデルチェンジを行なったのである。
そもそもランドローバーは世界で唯一4WD に特化したプレミアム SUV の専業メーカーである。今でこそ 空前のSUV ブームとなり、軽自動車からスーパーカーのメーカーまで、猫も杓子も SUV を出しているご時世だが、この点でランドローバーはかなり筋金入りなのである。今回の新型も丸目のライト形状、グリルデザイン、ボンネットなど旧型からデザインモチーフが流用され、現代風な解釈が加えられている。ただし、新型となった姿を目の当たりにして、賛否両論が起きるのも理解できる。否定的なものの代表例としては、旧型の無骨さが消えてしまったというものだ。おそらく、そういった意見というのは、自分だけの昔と変わらないディフェンダーでいてほしい、という、ディフェンダー愛から出ているものに違いない。それでも新型ディフェンダーは好評で、日本でも最初の導入モデルは数日で完売してしまったほどである。
旧型は確かにスクエアを中心としたデザインで、男気に溢れており、かっこいい。どんな荒野でもガンガン走り抜けられそうである。だが、言っても30年前の設計だ。ノイズはひどいだろうし、取り回しは悪く、運転はしにくいだろう。実は少し前のトップギア・ジャパンの雑誌で、当時のUKの編集長が、この旧型のディフェンダーを所有しているということで乗り比べて見る記事を掲載した。それを読むと、慣れてない人が乗りこなすのは、なかなかハードな様子が伺える。最もこのことは、昔のクルマ全般にも言えるが、「この不便さがいいんだよ」とか「ディフェンダーを乗りこなせてこそ、オフロードを扱える人間として一人前だ」などという人がいて、選ばれし者のみがディフェンダーの真髄を享受できるという、狭い世界が作られがちだ。この場合、クルマはユーザーに歩み寄って来ず、ユーザーが車に合わせるべきだという考えである。
だが、新型ディフェンダーは、明らかに方向性が違う。きちんとクルマからユーザーに歩み寄っているのだ。旧型の雰囲気は残しつつも丸みを帯びた親しみのわくデザイン。そして最新のテクノロジーが満載され、 誰にとっても乗りやすいのである。街乗りを含めたオンロード、そしてかなり過酷なオフロードまでこなせる一台だ。
ディフェンダー、007映画で空を飛ぶ
新型ディフェンダーといえば、次回の007映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」での活躍が、注目される。当初2020年の4月に公開予定だった映画だが、コロナウイルスの影響で、11月に公開が延期となっている。その予告編の動画を見て、驚いたのは筆者だけではあるまい。野原を疾走するディフェンダーが次々と宙を飛んでいくのだ。最初見たときは正直なところ「もはや、笑かしに来てるよね?」と思ったほど。前作の007映画「スペクター」では、悪役の乗るジャガー C-X75 がボンドの乗るアストンマーティン DB10とローマの街中で激しいカーチェイスをするというシーンで、ジャガー・ランドローバーが活躍した。大変迫力があり、前作の中では最も印象に残っているシーンであったが、007映画にふさわしい、正統派のカーチェイスシーンであった。だが次作に登場するディフェンダーは、良い意味でボンド映画らしくない。まず 、SUV というスタイルが、これまでクーペやボランテのスポーツカーがほとんどだったボンド映画の中でも、とても異色である。その SUV であるディフェンダーが、目を疑うスピードで疾走し、そしてかなりの高さから飛び、着地した後も、平然と走り抜けていく。その身のこなしは、ディフェンダーの能力を自然な形で映画の観客に見せ、惹き込ませるはずだ。この映画への出演が、大きな販売促進効果となるだろう。
静粛性と安定感のオンロード
オンロードでは、安定した乗り心地と車内の静粛性が際立っていた。実はオフロードタイヤを履いていたということだったが、路面の凹凸を拾うことなく、車内では同乗者と落ち着いて話ができるほど。300馬力のインジニウム2.0 リッター4気筒ガソリンエンジンを搭載しているが、きちんとスペック表で確認するまで4気筒の2.0 Lとは信じがたいほどの加速力であった。 ステアリングはあまり軽すぎず、ボディを行きたい方向に自然に向けてくれる。 これなら、高速道路での走行も、とても安定感がありそうだ。
オンロードで試乗したタスマンブルーのディフェンダーには、エクスプローラーパックが装着されていたので嬉しかった。これは新型ディフェンダーで かなり目玉といえるアクセサリーパックのうちのひとつだ。防水仕様でロックができる、エクステリアサイドマウントギアキャリア、最大積載重量132kgというエクスペディションルーフラック、ボンネットデカールなどがついた、探検向けのパックだ。中でもA ピラーの部分についたレイズドエアインテークは、埃や砂の多い路面を走行する際に、不純物の少ない空気をエンジンに取り込むというもので、本当はそんな場所にあまり行かなくても、ディフェンダーらしく、とても気分が上がるパッケージとなっている。他にもアドベンチャー、カントリー、アーバンのアクセサリーパックがあり、どれもバランスが良いので、興味のある人は、見てみると良いだろう。
ディフェンダーの真骨頂、オフロード
その後、オフロード走行に移る。オフロード走行では、狭く起伏の激しいオフロードコースを走った。乾いた土と砂の道には所々急カーブやくぼみがあり、最初の一周目はこんなところ走れるのかと思ったが、ディフェンダーは、走り出しから全く問題なく左右の高低差を超えていってくれる。
短いオーバーハングで、アプローチアングル38度、デパーチャーアングル40度となっている。このくらいの道であれば朝飯前という感じだった。なんでも、最大傾斜角は45°だという。試す前に、こちらの勇気がディフェンダーに負けてしまいそうだけれど。確認したところ、エンジン、ギアボックス、センターデフ、シャシーシステムなどの設定をするテレインレスポンスは「泥 / 轍」モードということだったので、「岩場」モードなんかを使ったら、もっと高低差のある場所もクリアできそうだ。
前輪と後輪へのトルク配分を調整してくれるので、トラクションの面でも問題ない。優れたAWDシステムがエレクトロニックトラクションコントロール(ETC)と連動し、恐怖感を減らしてくれるところは、オフロード初心者にとってもありがたい。
コースには途中で急な下り坂も用意されていたが、一定速度を維持し、各ホイールに個別にブレーキをかけてくれる、ヒルディセントコントロールも頼もしい。
新型ディフェンダーはD7xという独自のモノコック構造を採用し、フレームにボディを載せた構造に比べ、3倍のねじり剛性を確保している。やはり、筋金入りが作るSUVは、格が違うのだ。
今回試乗したディフェンダーは110で、全長4,500 mm 全幅1,900 mm 全高1,700 mm とかなり大きい。車体が左右どちらかに傾いている場合はボンネットの下がどうなっているのかは、普通なら見ることができないので、自分なりに予測を立てて進まねばならない。だが、こういったオフロードの場合には、ClearSightグラウンドビューが役立つ。目の前のパネルのモードをオフロードに変更すれば良いのだ。ボンネットが透けるように見え、左右の前輪の状態や進む先がどうなっているのかを、目で確認することができる。
オフロードコースは、もうもうと砂埃がたち、リアウィンドウ越しに後方が確認できなかったが、ClearSightインテリアリアビューミラーに映し出されるライブ映像で、後続車などを確認できた。カメラ機能がもう一つ。3Dサラウンドカメラだ。360度のビューが、3Dで車両の周りを確認できる。タッチパネルで操作できるので、使い方も簡単だ。このように、最先端のテクノロジーが詰め込まれた新型ディフェンダーは、オフロードでも「おそるることなかれ」なクルマであった。
新型ディフェンダーは、オンロードはもちろん、オフロードであっても、誰が乗っても安全に楽しめる、真の意味での全方向型 SUV だ。特にオフロードの場合は、自分があたかも荒野を走るエキスパートなのではないかと錯覚してしまうほどである。そしてその過信の遥か彼方の延長線上には、007で空中を飛ぶディフェンダーの姿を重ねることができ、カースタントになる夢を一瞬見せてくれる道具でもあるのである。もちろん、想像だけで、やりゃしないし、そもそもできるわけないけど。だが、この時代にあって、夢を見せてくれるクルマは貴重だ。夢を見せてくれないクルマが増えたせいで、クルマ離れが起きているということもいえるのではないだろうか。
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