サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ…ベントレー ミュルザンヌ、そしてフライングスパーへ

サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ…と、日曜洋画劇場で昭和のお茶の間を明るくしてくれた淀川長治氏にも、最後の回は訪れた。そして、いま、10年以上の生産を続けた、ベントレーのミュルザンヌも、ついに最終生産車が完成し、輝かしく並外れたモデルの終焉を迎える。これまでに7,300台以上生産されたこのモデルは、すべてチェシャ―州クルーのベントレーの本拠で手作りされ、究極のラグジュアリーセダンを生み出してきたベントレーの実力を体現してきた。
新型コロナウイルスの蔓延の影響下での恒例の生産終了を祝う式は、ベントレーの従業員たちがソーシャルディスタンスを保ちながら行われ、最後の1台と一緒に写真を撮り、カメラの中にベントレーのフラッグシップへの思いを共有することでミュルザンヌの旅立ちを祝った。
ミュルザンヌスピード '6.75 エディション バイ マリナー'は、タングステンの上にローズゴールドで仕上げられ、アメリカの幸運な顧客の元へと向かう。極めて特別な最後のミュルザンヌは、後ろにもう一台あるが、その車両の行き先は、厳重に秘密とされている。
ミュルザンヌの系譜は、当時のベントレーの中で最もラグジュアリーなコーチビルドのクルマとして、1930年にW.O.ベントレー自身が設計・開発した最後の車である初代8リッターに遡り、ベントレーの歴史を辿ることができる。
ベントレーの会長兼最高経営責任者であるエイドリアン ホールマークのコメントは以下の通り。
「ミュルザンヌは、ベントレーが世界最高のラグジュアリーカーを生産してきた最初の100年の間に学んだすべてのことの集大成です。10年以上にわたりベントレーのモデルレンジのフラッグシップとして、ミュルザンヌはベントレーの歴史の中で真のアイコンとしての地位を確固たるものにしてきました。過去10年間にミュルザンヌに命を吹き込んだ何百人ものデザイナー、エンジニア、職人の方々を、私は大変誇りに思っています。今、ビヨンド100戦略を通じて持続可能なラグジュアリーモビリティの未来を定義するためのベントレーの新たな旅を始めるにあたり、ベントレーのフラッグシップの役割は新しいフライングスパーに引き継がれました。
過去11年間で700人以上の人々が、ベントレーの超高級セダンの製作に300万時間近くを費やしてきました。ミュルザンヌのボディの製作には約4,200万箇所のスポット溶接が必要で、豪華なレザーインテリアの製作だけでも100万時間以上を要しました。合計400万時間以上の個別の品質チェックを行う前に、9万時間近くもの時間が車の研磨に費やされました。
ミュルザンヌは愛の結晶なのです」

2009年にペブルビーチで世界に向けて公開された新型ミュルザンヌは、クルーにあるベントレーの本拠地で一から開発され、ユニークなエクステリアとインテリアのデザイン、シャシー、象徴的な6.75リッターV8ツインターボエンジンの新しいバリエーションを採用した。
ミュルザンヌの最初のアップグレードとして、非常に特徴的なマリナー ドライビング スぺシフィケーションが2012年に導入された。特徴的な21インチアロイホイールをはじめとする、印象的な新デザインの数々。ベントレー フライング 'B' ウイングベントとダイヤモンドキルトレザーのトリミングが施されたキャビン。傾斜して開く大きなティルトガラスのサンルーフと、絶妙なデザインの電動ボトルクーラーとの相性は抜群であった。
3つのMulsanne派生モデルの第2弾は2015年に発表された、スピード。最速のウルトララグジュアリーなドライビング体験を実現したミュルザンヌスピードには、6.75リッターV8エンジンのアップグレード版が搭載され、537PSの馬力と1,100Nmのトルクを発揮し、選択可能なドライバー重視のスポーツサスペンションとステアリングを備えている。新しく現代的なスタイリングはミュルザンヌスピードが英国のラグジュアリーカーの真髄であることを表現している。
2016年のジュネーブモーターショーでは、世界最高峰のラグジュアリーセダンに提供されるラグジュアリーの水準をさらに高めるために、多くのアップグレードが施された新型ミュルザンヌファミリーが披露された。エレガントに実行された一連のスタイリングの修正により、新型ミュルザンヌは先代モデルとは一線を画している。その際は、フロントエンド(Aピラー前方)のスタイル全体が一新された。フェンダー、ボンネット、ラジエターシェル、グリル、ライト、そして前後のバンパーなど、すべてが刷新され、よりモダンで一体感のある外観となりった。
内装では、新型ミュルザンヌは、シート、ドアトリムとアームレストのデザインを一新し、ユニークなガラス製のスイッチギアを採用した。新型ミュルザンヌは、クラスをリードするナビゲーション技術を搭載した全く新しいインフォテインメントシステムを採用した。また、移動中のオーディオ・ビジュアル・エンターテイメントのレベルを向上させるために、選りすぐりのオンボードインフォテイメントシステムを搭載している。
さらに、ミュルザンヌの3番目のバリエーションであるミュルザンヌ エクステンディット ホイールベースは、後席乗員のことを考えて開発された。ミュルザンヌのホイールベースを250mm延長(3,266mmから3,516mmまで)したのは、すべて後席乗員の足元のスペースを確保するためだった。この大幅な室内空間の拡大により、ミュルザンヌ エクステンディット ホイールベースは、世界で最もゆったりとしたプロポーションを持つ最上級・ラグジュアリー・リムジンであり、4輪での移動の中で最も快適なものとなった。2つのリアシートを仕切るための美しいコンソール、エアラインスタイルの電子式レッグレスト、プライバシーカーテン、豪華なフォールディングテーブルなどが、他の追随を許さないラグジュアリーな環境をさらに引き立てている。
2020年には、最終シリーズの生産車が「6.75 エディション バイ マリナー」という特別なモデルとされ、ミュルサンヌの君臨の終焉を告げた。今年、60年以上の歳月を経て生産終了となった伝説の6.75リッターエンジンにちなんで名付けられた「6.75 エディション」は、30台のみの限定生産となる。
エンジンへのオマージュは、車内のいたるところに見られる。オルガンストップのベンチレーションコントロールは、エンジンオイルキャップのミニチュア版に置き換えられている。時計やマイナーメーターのフェイスには、エンジンの模式図が描かれている。
フライングBのボンネットマスコット、マリナー セレニティー ラジエーターグリルとエキゾーストフィニッシャーに施されたダークティント処理が車のフロントを際立たせ、21インチ5本スポークのミュルザンヌスピードホイールには、グロスブラックにペイントされた部分を持つ独自のブライトマシン加工が施されている。
ボンネット下のエンジンインテークマニホールドは、伝統的なシルバーの代わりにブラックで仕上げられ、伝統的にエンジンを製作した職人のサインが入ったエンジンナンバープレートには、エイドリアン・ホールマーク本人のサインが入っている。
そして、サヨナラ…を告げたミュルザンヌの役割は、正常進化を遂げながら、新型フライングスパーに受け継がれ、ベントレーの価値を上げていくのだ。

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