SUV一辺倒の自動車業界に究極のセダンで挑むベントレー
「3代目となるフライングスパーが、セダンを魅力的に感じてもらえる一台になることを願っています」そう語るのは、ベントレーモーターズジャパンでマーケティング&PRを担当する横倉典氏だ。「世界的にSUVブームが続いています。弊社でもベンテイガにたくさんのファンがいますし、それはもちろん素晴らしいことではあるのですが、セダンの存在が薄くなってしまっていると感じています。そういった状況を、このフライングスパーが打破してくれることを期待しています」と、力強く続けてくれた。
新型フライングスパーの価格は26,674,000円で、2020年第2四半期からデリバリーが予定されている。
ティム マッキンレイ代表からは、フライングスパーの歴史について解説があった。1952年にJ.B.ブラッチェリーとイヴァン エヴァーデンによる、グランドツアラーの頂点を作るという非公式なプロジェクトから、Rタイプ コンチネンタルが誕生した。こちらは、100mph(160km/h)で一日中走ることができる性能の高さで、名車として語り継がれている。その後、1957年にS1コンチネンタル フライングスパーが誕生し、当時の価格は8,034ポンド(120万円)だったという。
そのような歴史をもつフライングスパーだが、日本には、2005年から導入がはじまり、2013年の2代目を通じて、1,400台以上が販売されている。今回、大きな特徴となったのが、ホイールベースが130mm伸びて重量バランスが改善されたことと、エレクトロニック・オールホイール・ステアリングが採用されたことだろう。一見すると2代目より大型化されたと感じる人も多いかと思うが、全長+21mm、全高-4mm、全幅+2mmと、数値的にはさして変わりがない。だが、フロントマスクのバーチカルベーンなどによって、重厚感があり、実際よりも大きくなったように感じるのだろう。逆に、重量は38kg軽量化が図られており、AWSと相まって、日常的に扱いやすい一台と仕上がっているのだ。なお、このバーチカルベーンは、S1コンチネンタル フライングスパー、そしてミュルザンヌでおなじみのスタイルだが、さらに遡れば、1930年代に創設者W.O. ベントレーが手掛けた最後のクルマである、8リッターに採用されており、今回の新型フライングスパーは、このようなベントレーの100年にわたる歴史を貴重な遺産として、現代に受け継いでいるのだ。細かいところでは、ボンネットについている、フライングBのマスコットが電動格納式となり、デザインがスクエアなタイプに一新された。ドライバーがクルマに近づくと、マスコットが自動でせり上がり、ライトが点灯する。
内装は、ベントレーならではの安定感のある豪華さだ。コンチネンタルGTで初採用されたローテーションディスプレイもつくが、さらに、ウッドパネルのまま走行もできるようになったという。もちろん、便利な機能というのは重宝するのだが、時としてドライバーは、余計な情報が不要なときがある。そう、いちいちウザいっていうか…。設定変えればいいんだろうけど、めんどくさい。そんなときは、ウッドパネルにして一人静かにドライビングに集中しよう。
パフォーマンス面を見てみよう。6.0リッターツインターボチャージドW12エンジンの強化バージョンを搭載し、8速デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせている。この新設計のTSIエンジンは635PS、900Nm、0-100km/h加速3.8秒、最高速度333km/hという必要十二分な性能だ。そしてコンチネンタル GTからZF製8速デュアルクラッチトランスミッションを受け継ぎ、スムーズで洗練された加速と素早いシフトチェンジ、そして優れた燃費を実現している。次のギアを前もって選択することで迅速なシフトチェンジを可能とし、ホイールへのトルク伝達が中断される時間を短縮することでパフォーマンスの向上が図られた。6速で最高速に達し、7速と8速は燃費のよいグランドツーリングにぴったりなオーバードライブギアとなっている。
先代のフライングスパーでは常時AWDが採用され、前後トルク配分が60対40に固定されていたが、新型の場合は通常、リアアクスルにトルクが伝達される2WD走行となる。路面状況の変化やスリップの発生を検知すると、自動的にアクティブAWDに切り替わり、フロントアクスルにもトルクが伝達され、コーナリングレスポンスも大きく向上した。フロントエンドの軽やかさが増したおかげで、ストレスなく方向転換できる。常時AWDで発生していたアンダーステアは解消され、全体のバランス感が改善された。
トルク配分は選択したドライブダイナミクスモードに応じて変化する。COMFORTモードとベントレーモードでは、フロントアクスルに最大で480Nmのトルクが伝達され、優れたグリップ力とドライバビリティをもたらす。SPORTモードでは、フロントアクスルへのトルク配分が280Nmに制限され、リアに十分なトルクが伝達されるため、ダイナミックな走りとなる。前後アクスルのトルクは、トルクベクタリング・バイブレーキシステムでも制御される。
さらに完全新設計となるエレクトロニックオールホイールステアリングは、高速走行時の安定性と市街地走行時の操縦性を向上させるシステムだ。低速走行時は、このシステムにより後輪は前輪と逆方向に操舵され、それによりホイールベースの短縮効果が生まれ、回転半径が小さくなって敏捷性が向上し、驚くほど楽に駐車できる。最小回転半径は12.10mだったが、新型では11.05mと進化している。高速走行時には前輪と同じ方向に後輪が操舵され、追い越しや車線変更の際に安定した走行が可能だ。
また、先代モデルより空気量を60%も多く確保できる3チャンバーエアスプリングが採用されている。このエアスプリングは、ドライバーが選択したモードに応じ、スポーツ走行向きの硬めのバネ設定から贅沢なリムジンのような洗練された乗り心地まで、幅広く対応する。エアサスペンションシステムのダンパーを絶えず制御するCDC(連続ダンピングコントロール)も採用されている。アクスルとボディとの距離は4個の車高センサーで常時測定している。ノーマル車高との差異が検出されると、スプリング内の空気量が調整され、ノーマル車高に復帰する。
ベントレーダイナミックライドは、ハンドリングと乗り心地を向上させるシステムで、48Vのシステムが電子アクチュエーターユニットをコントロールし、そのユニットがアンチロールバーの硬さを制御する。状況に応じて硬さを変化させることでコーナリングフォースを抑え、ボディを水平に保ってくれる。
新型フライングスパーはコンチネンタル GTと同じく、世界最大サイズの鉄製ブレーキを装備している。エンジン性能の強化に伴い、フロントブレーキの直径を420mmに拡大した。前後キャリパーはベントレーのロゴ入りで、標準キャリパーはグロスブラックだが、オプションでグロスレッドも選ぶことができる。
なお、最新号のトップギア・ジャパン031号 で、大谷達也氏がいち早く新型フライングスパーのインプレッションを行っているので、そちらもぜひご参考に。
会場に飾られていた1964年のベントレー S3 コンチネンタル フライングスパーが持つ美しさをベースに、現代の文脈で解釈された新型フライングスパー。セダン市場を活性化させる一台となりそうだ。
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