シチズンから、狂気的なまでの技術力で「中秋の名月」を表現した『エクシード』の限定モデルが登場した。電波で月齢を自動計算する過剰品質なプログラムと、チタンや黒染め貝が織りなす工芸美が見事に融合。世界限定400本、275,000円という価格設定の裏に隠された、日本の時計職人たちの偏執的なこだわりを徹底解剖する。
我々はこの時計について全力で語らねばならない。なぜなら、シチズンが新たに発表したこのタイムピースには、最高速記録を1km/h更新するためだけに人生を賭ける狂気の自動車エンジニアたちと全く同じ、いい意味で「病的な」過剰品質と偏執的なテクノロジーへの執着がプンプンと漂っているからだ。
今回紹介するのは、シチズン『エクシード』のエコ ドライブ電波時計から登場した限定モデル(BY1025-17E)である。この時計が掲げるテーマは、古来より日本人が愛してやまない「中秋の名月」だ。旧暦の8月15日(2026年においては9月25日にあたる)の夜空に浮かぶ、あの丸くて明るい月を腕元に再現しようという、なんとも風流で詩的なアプローチである。
本来、時計におけるムーンフェイズ(月齢表示)というものは、極めてアナログでロマンチックな機構だ。かつての船乗りたちが潮の満ち引きを知るために重宝した機能だが、現代社会においては、空を見上げれば済む話である。普通の時計メーカーであれば、文字盤の端に可愛らしい月の絵を描き、金色の塗料でも塗ってお茶を濁すところだろう。しかし、技術立国ニッポンを代表するマニュファクチュールであるシチズンは、そんな妥協を一切許さなかった。彼らはロマンチックな月見草の隣に、突如として冷徹なスーパーコンピューターを設置するような凶行に及んだのだ。それが、このモデルに搭載された「ルナプログラム」である。
このシステムは、時計が受信した電波の標準時刻や日付情報から、なんと内部の機構で勝手にその日の「月齢」を計算し、6時位置にあるムーンフェイズ部分に現在の月の満ち欠けを自動表示するという代物だ。ちょっと待ってほしい。我々はただ、風流な月を眺めたいだけなのだ。それなのに、この時計は見えない電波を宇宙空間から捕捉し、冷徹な計算式を用いて月齢を弾き出しているのである。
これは例えるならば、キャブレター時代の優雅でクラシカルな英国製GTカーのトランク奥深くに、F1のピットウォールで稼働しているような最新鋭の電子テレメトリーシステムを隠し積み、ミリ秒単位で点火タイミングや空燃比を自動補正させているようなものである。完全にオーバーテクノロジーであり、呆れるほどに過剰なスペックだ。だが、その無駄なまでの圧倒的なオーバースペックに、メカニズムを愛する我々はどうしようもなく惹かれてしまう。さらにご丁寧なことに、この時計は北半球と南半球での月の見え方の違いまで切り替えられる月齢表示切替機能を備えている。一体どれほどの頻度で、中秋の名月を愛でるためだけに赤道を越える日本人がいるというのだろうか? シチズンのエンジニアたちは、本気でそれを心配しているに違いない。
この狂気的な頭脳を包み込むのは、極めてシックで落ち着いた外装である。しかし、ここにも偏執的な素材へのこだわりが隠されている。ケース素材はシチズンの十八番とも言える「スーパーチタニウム」だ。それに「デュラテクトプラチナ」と「デュラテクトアンバーイエロー」という2種類の表面硬化技術を施したツートン仕様となっている。落ち着きの中に華やかさを演出しているというが、要するに日常使いで絶対に傷をつけたくないという執念の塊である。ケース径は41.0mm、厚みは11.9mm(設計値)と、絶妙なサイズ感に収められている。
さらにベゼルに目を向けてほしい。三連リングのベゼルは、あえてすべてをオールミラー(鏡面)仕上げにしている。硬いチタンをここまで磨き上げる労力は想像を絶するが、これは夜空に煌びやかに輝く満月のシルエットを表現するためだという。そして極めつけはサブダイヤルである。ここには「黒染め貝」を採用し、月の光に照らされた夜空の奥行きを見事に表現しているのだ。シックなブラックのワニ革バンドと相まって、一見すると銀座の高級バーに似合う静謐なドレスウォッチの顔をしている。
だが、そのエレガントな中身(Cal.H874)は、光発電の「エコ ドライブ」によってフル充電時にはパワーセーブ作動時で約2.5年も可動し続ける。「パーフェックスマルチ3000」や「パーペチュアルカレンダー」、さらには日中欧米での電波受信機能や24時差のワールドタイム機能まで詰め込まれている。10気圧の防水性能と1種耐磁性能まで備えており、サバイバルツール並みのスタミナと計算能力を秘めているのだ。
この、ロマンと狂気の計算式が見事に融合した『エクシード』限定モデルは、世界でわずか400本しか生産されない。価格は275,000円(税抜価格250,000円)である。
この金額をどう捉えるかは読者次第だ。最新のカーボン製エアロパーツ一式を買うのと同じくらいかもしれない。しかし、考えてもみてほしい。空を見上げればタダで見える月を、わざわざ腕元で電波計算させるためだけに作られた、この精巧極まりないチタンの塊。そこには、数ミリのパーツと見えない電波に異常なまでの情熱を注ぎ込む、日本の時計職人たちの執念が詰まっている。V12エンジンのような爆発的なページビューは稼げないかもしれない。だが、真のメカニズム愛好家であれば、この時計に込められた「不必要なまでの完璧主義」に、不本意ながらもひれ伏さざるを得ないだろう。
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