新型シトロエンC3の公道インプレッション。「最高の快適性」の裏にあるトレードオフとは?SUV風デザインと「魔法の絨毯」の乗り心地は本物だろうか?
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Bセグメントに吹く、コンフォートの新しい風
いつの時代も、シトロエンというブランドは自動車界における「快適性」の定義を問い直し、革新し続けてきた。伝説的なDSのハイドロニューマチック・サスペンションから、質実剛健な2CVの柔らかな乗り心地まで、彼らは常に独創的なアプローチでドライバーと乗員を路面の不快さから解放してきた。その哲学は、現代の電動化とSUV化が渦巻くBセグメント市場においても、決して揺らぐことはない。むしろ、その価値は増すばかりだ。
先代C3は、そのユニークなデザインとクラスを超えた快適性で、日本市場においても多くのファンを獲得した。そして2025年、満を持して登場した第4世代の新型「C3 HYBRID」は、その成功の本質を受け継ぎながら、あらゆる面で大胆な進化を遂げている。発表会でデザイナーが繰り返し口にした「Feel Good」というコンセプトは、単なるキャッチフレーズなのか、それともシトロエンが示す未来のコンパクトカーの姿なのか。お台場の喧騒と静寂が交差する道を舞台に、上級グレード「CITROËN C3 MAX HYBRID」の実力をじっくりと味わった。
デザイン:合理性と遊び心が同居する、移動するリビング
まず対峙して感じるのは、その存在感の変化だ。先代から全高を95mm、最低地上高も高められたボディは、もはや単なるハッチバックではない。黒いホイールアーチや前後のスキッドプレート風デザインが与えられ、力強いクロスオーバーSUVの佇まいを醸し出している。しかし、これは単なるデザイントレンドへの迎合ではない。乗降時に腰を大きくかがめる必要がなく、運転席からの視界は格段に向上している。この視覚的な安心感こそ、シトロエンが考える現代的な「快適性」の第一歩なのである。
デザインの核心は、2022年のコンセプトカー「Oli」から受け継いだフロントマスクにある。垂直に切り立ったフェイスの中央には、創業時のロゴをモダンに再解釈した新しい「ダブルシェブロン」が鎮座し、そこから左右のLEDヘッドライトへと繋がる“シェブロンライン”が、ブランドのアイデンティティを力強く主張する。退屈なデザインが溢れる市場に対する、明確なアンチテーゼだ。
その哲学はインテリアでさらに昇華される。ドアを開けると、水平基調のダッシュボードが迎えてくれる。その大部分は「ソファー」と開発陣が呼ぶ、柔らかなファブリックで覆われており、冷たい工業製品ではなく、温かみのある家具に触れているような感覚を覚える。これはデザイナーの柳沢知恵氏が語った「質感のコントラスト」という哲学の具現化だ。硬質なプラスチックの隣に意図的に柔らかな素材を配置することで、互いの質感が際立ち、空間全体にリズムと深みを与えている。
シートは、このクルマの快適性を象徴する玉座だ。「アドバンスド・コンフォート」の名を冠するそれは、開発陣がサプライヤーと交渉を重ねて実現したという10mm厚のウレタンフォームのおかげで、まるで誂えのアームチェアのように身体を優しく、しかし確実に支える。
そして、シトロエンならではの「エスプリ(遊び心)」が、乗る者の心をとらえる。ドアアームレストには「Be Happy」「Feel Good」といったメッセージが縫い付けられたタグ。グローブボックスを開ければ歴代の名車のシルエットが描かれ、ふとリアウィンドウを見れば鶏のシルエットが隠れている。こうした「イースターエッグ」は、移動の合間に発見する小さな喜びを与えてくれる。これらはクルマの本質的な性能とは無関係かもしれない。しかし、無味乾燥な移動時間を、愛着の湧く豊かな時間へと変える魔法なのだ。
もちろん、冷静に見れば、限られたコストの中で優先順位をつけた痕跡も見受けられる。ドアトリムなどには硬質なプラスチックが多用されており、質感の面では同じステランティスグループのプジョー・208に一歩譲る部分もある。だが、物理スイッチが残されたエアコンパネルや、シンプルで見やすいヘッドアップディスプレイなど、実用性への配慮は徹底されている。この割り切りこそ、C3が「特別な一台」ではなく「最高の日常のパートナー」を目指している証左であろう。
走り:すべては「心地よさ」のために
走り出してすぐに、このクルマの動的性能のすべてが「快適性」という一点に収斂していくことを悟る。ステアリング、アクセル、ブレーキといったあらゆる操作系は羽根のように軽く、お台場周辺の複雑な交差点や駐車場での取り回しにおいて、ドライバーに一切の緊張を強いない。
パワートレインは、1.2L 3気筒ターボエンジンに48Vバッテリーと28馬力のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドだ。システム最高出力110psという数値から想像するほどの俊敏さはない。0-100km/h加速は9.8秒と、むしろ穏やかな部類だ。アクセルを深く踏み込めば、3気筒特有のやや唸るようなサウンドを伴って加速するが、その過程は常にジェントルだ。
このシステムの真価は、街中での振る舞いにある。信号からの再発進や時速30km以下の低速走行など、メーカーが「都市部走行の最大50%」と主張する領域では、モーターが積極的に介入し、エンジンを始動させることなく滑るようにクルマを前に進める。エンジンが始動する際のショックも巧みに抑えられており、ハイブリッドシステム特有の違和感はほとんどない。6速DCTの変速もスムーズで、日常域で不満を感じることは皆無だ。
そして、このクルマの核心、シトロエン独自の「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)」がもたらす乗り心地は、やはり特筆すべきものだった。ダンパーの両端にセカンダリーの油圧クッションを追加するというこの仕組みは、路面の細かな凹凸やアスファルトの継ぎ目を、まるで上質な絨毯を一枚敷いたかのように滑らかにいなしていく。臨海副都心の石畳の区間を通過した際も、一般的なコンパクトカーのような突き上げは皆無で、車体は常にフラットな姿勢を保ち続ける。
もちろん、この足回りは万能ではない。「魔法の絨毯」も、大きな窪みやうねりの前ではその魔法が少しだけ解ける。首都高速の段差を越える際には、一瞬、ボディが揺り戻されるような挙動を見せることもあった。また、快適性と引き換えに、コーナリング時のボディロールは比較的大きい。ステアリングを切ると、高められた重心と相まって、車体はゆったりと外側に傾く。これは不安を覚える類のものではなく、あくまで穏やかな挙動だが、キビキビとしたハンドリングを求めるドライバーには物足りなく映るだろう。
高速巡航では、このクルマがシティコミューターとしての性格を色濃く持つことがわかる。直進安定性は十分だが、ロードノイズや風切り音の侵入はBセグメントの平均レベル。これは、限られたコストを防音材よりもPHCやアドバンスド・コンフォート・シートといった快適装備に優先的に投じた、シトロエンの明確な哲学の表れである。長距離移動が不得意なわけではないが、その真価はやはり、日常の速度域で最も輝く。
総評:シトロエンにしか作れない、日常のパートナー
試乗を終え、新型シトロエン C3 HYBRIDは、スペックシートの数値を追い求めるのではなく、ドライバーと乗員が過ごす「時間」の質をいかに高めるか、という問いに対するシトロエン流の回答なのだと確信した。
それは、サーキットやワインディングでタイムを削るためのクルマではない。むしろ、通勤や買い物、子供の送り迎えといった、ともすれば退屈になりがちな日常の移動を、心安らぐ「Feel Good」なひとときに変えるためのパートナーである。
確かに、内装の細かな質感や高速走行時の静粛性、そして絶対的な動力性能といった点では、競合するルノー・クリオやトヨタ・ヤリス、あるいは同じグループのプジョー・208に分がある部分もあるだろう。しかし、それらと引き換えにC3が手に入れた、圧倒的な乗り心地と見るたびに心が和むデザイン、そして随所に散りばめられた遊び心は、他のどのクルマにもない唯一無二の価値だ。
今回試乗したMAXグレードで364万円という価格は、このセグメントにおいて決して安価ではない。だが、毎日触れるものがもたらす心地よさや、ふとした瞬間に笑みがこぼれるような楽しさを考慮すれば、それは十分に価値のある投資と言えるのではないか。新型C3 HYBRIDは、効率や速さだけではない、クルマがもたらす豊かさの本質を、静かに、しかし雄弁に我々に語りかけてくる。シトロエンにしか作れない、新たな時代のBセグメントが、ここにある。
写真:上野和秀
400号記念:UK400マイルロードトリップ/フェラーリ F80/フェラーリハイパーカー:トップギア・ジャパン 069
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