ガソリン車のアバルトオーナーにABARTH 500eに乗ってもらった感想とは?

ABARTH DRIVING ACADEMY 2024が富士スピードウェイで開催された。3つのクラス別にインストラクターから指導を受ける。EVのアバルト 500eにも試乗したが、アバルトオーナーの反応はいかに?

「そういえば、今日は’笑点’が見られないな…」そんなことを考えながら、6月2日の早朝、富士スピードウェイに向かう。ABARTH DRIVING ACADEMY 2024が開催されるのだ。アバルトオーナーから参加を募り、TECNICO(テクニコ)、BASE(バーゼ)、⼥性限定プログラムのSCORPIONNA(スコーピオンナ)のコースに分け、座学、ブレーキング、コーナリング、スラローム、500e試乗、同乗レッスン、パレードランを行う。テクニコでは、先導走行やフリー⾛⾏のプログラムが設けられている。テクニコは参加者27名、同伴者10名、バーゼは参加者46名、同伴者18名、スコーピオンナは参加者16名、同伴者13名、合計で参加者89名、同伴者41名となり、北は盛岡から南は北九州まで、総計89台、130名が参加した。筆者もテクニコのコースに参加させてもらい、その内容を体験してきた。

今日の相棒はフィアット 500X SPORT(4,350,000円)。151ps、270Nmを発揮するパワフルな1.3Lターボエンジンを搭載。6速デュアルクラッチ オートマチックトランスミッションは中高速の走りが得意で、富士スピードウェイまでの高速道路はストレスなくドライバーを運んでくれた。全高1,610mmと高い車高は見晴らしもよく、運転しやすい。

座学の冒頭はステランティスジャパンの打越 晋代表取締役社長から挨拶があった。「ステランティスでは7つのブランドの車を扱っていますが、私自身もアバルト 124 スパイダーを所有していた経験もありまして、アバルトに魅了されてまいりました。軽快さや五感に響いてくるサウンドの魅力について熱く語りたくなります。今回は、4年ぶりのアバルトアカデミー開催ですが、参加のみなさまにアバルトの魅力を再確認してもらいたいという期待もあります。そして、今回は、電気自動車のアバルトの試乗も用意しております。ガソリンエンジンの車とは異なりますが、アバルトらしい楽しみが体験できると思っております」

テクニコインストラクターの蘇武氏、海⽼澤氏、加藤氏、⼭⽥氏から座学レッスンを受けたあとはCGパークに移動し、ブレーキングプログラムから開始。日常では使うことがまずないフルブレーキングは、こういう場所でしか経験できず、万が一のときにも役立つことが予想される。コーナリング、スラロームプログラムではブレーキを使うことにより前に荷重がかかり、ステアリングコントロールが楽になるという感覚が学べた。アクセル、ブレーキ調整と荷重移動を意識して普段も運転することが安全運転にもつながりそうだ。その後は、アバルト 500eの体験試乗。EVらしからぬレコードモンツァのサウンドジェネレーター搭載で、発進時の加速がスムーズ。いつもはガソリン車に乗っているアバルトオーナーたちも、新しい経験に驚いていた。

午前中は雨が降らずなんとか持ちこたえたが、午後からは、残念ながら強い雨が降り始める。ランチタイムは、打越社長がメディアのインタビューにじっくりと時間を割いてくれた。

―アバルトが日本で人気の理由について
やはり、手頃なサイズで自分でパフォーマンスを最大限に引き出せるクルマだからだと思います。もちろんアバルトよりももっと速いとか、馬力があるクルマもあるとは思うんですけど、日本の道で、自分の車のパフォーマンスを楽しめて、人馬一体感を味わえるという、一般的な日本のお客様が楽しめる車としては、アバルトがやはり一番合ってるんじゃないかなというふうに思います。

―アバルトに憧れている人に背中を押すポイント
アバルトは人に見せびらかすようなクルマじゃないし、そういうオーナーさんもあまりいらっしゃらないのですが、アバルトの楽しさをもっと発信していただけると嬉しいですね。今日のイベントもその一つです。

―アバルトの電動化と今日の500e体験試乗について
ほとんどのオーナーさんはICEのアバルトでしたが、EVに乗られて満足していたのではないかと思います。ICEにはICEの良さがありますし、どちらかというとちょっとアナログなフィーリングです。そこから電動化しても、つまらない電気ではないのです。電気自動車が出た時に、私が言ったのは、正常進化です。アバルトの正常進化こそが、電気バージョンだというふうに思っているので、それは多分皆さんも体感してご理解いただけたんじゃないかなというふうに思っています。

―フィアット 500の国内販売が終了したが、ガソリン車を手に入れられる状況は
電動化に向けてガソリン車が廃止になるという噂も流れているせいで、最終生産分が世界中で争奪戦になっています。でも、日本は重要視されている市場ですから、なんとか需要にお応えできるよう、確保していますので、今のところは店舗に来ていただければご用意できる状態にあります。本日もガソリン車を愛する方々がたくさんおられるので、その方々のためにも、努力してまいります。ただし、段々と入手は難しくなってくると思いますので、お早めの購入をおすすめします。

―HVも含めたプラットフォームについて
1年ぐらい前にステラMとかステラLとか発表したときには、やはり全体の風潮が電気自動車でしたので、電気自動車用のプラットフォームという展開をしていただいていましたけれども、そうではなく、バッテリーEVだけではなくて、ICEとのハイブリッドに対してもしっかりとフレキシブルな対応ができているということのようです。本社では最初からそれを狙っていたみたいな感じに言い出していますけれど。バッテリーEV専用ではなくて、HV、PHEVを含めたICEエンジンとバッテリーの併用もフレキシブルに対応できるということのようです。
また、ステランティスっていろんな車があるじゃないですか。だから同じプラットフォームでも違った味付けにしていかないとなりません。フレキシブルにかつトレンドも含めて変えていかなきゃいけない中で、エンジンはどんなものも乗せられるというのを考えていたんじゃないかなと私は推測はしています。

―ランチアやオペルについて
ランチアの導入は今のところ考えておりません。もちろん、新しい数年前のオペルや今回のランチのようなブランドを導入する、あるいは再導入するというのは、話題性として非常に良いと思います。しかし、日本のお客様がその車を本当に欲しているか、またはその車を楽しめるかという点をしっかり考えないと、長い目で見て「買ってみたけどステランティスのフォローが足りない」となってしまうのはよろしくないと考えています。
私の意見ですが、今回のイベントに関しても、新しいブランドの導入についても同じです。我々は、ジープの時と同様に、購入いただいたお客様にその車の楽しさをより体験してもらうことを目指しています。だからこそ、ジープキャンプのようなイベントを通じて、お客様に提供できる価値を考えています。
例えば、ランチアやオペルを導入した場合、それを持続的にサポートし続けることができるかという点で難しさがあります。もしそれができないとなると、「売ったら終わり」という状況になってしまいます。我々のようなニッチな商品を多く扱うブランドにとって、それは避けなければならないことです。
そのため、導入に関しては慎重に考えなければなりません。一方で、こうした取り組みを通じて、お客様により良い体験を提供することが我々の目標であり、その点を大切にしていきたいと考えています。

―新型ジープ ラングラーについて
ジープに関してですが、カスタマーエクスペリエンスのイベントを開催した際、若者の方々が情報を発信し、その結果若者の人気が高まりました。これをきっかけに、ますます若者のお客様が増えてきています。
具体的には、4月と5月のリード(お問い合わせ)の年代を調べたところ、なんと20代のリードが10ポイントも上昇しました。このように、我々が情報を発信することで、それを見た方がさらに情報を発信し、興味を持って我々にお問い合わせをいただくという流れが生まれています。これがまさに我々が目指すべきことだと考えています。
今回アバルトのイベントを開催した理由も同じです。アバルトの魅力はドライブの楽しさにあると再確認しました。お客様にこの楽しさを伝えることが、最も効果的だと感じています。アバルトのお客様が一番楽しめるのは、自分の車でドライブを楽しむことです。そのため、ドライブアカデミーを通じてお客様にその楽しさを提供し、参加された方々がSNSなどでその経験をシェアすることで、「すごくかっこいい」「楽しそう」という感想が広がり、さらに興味を持つ方々が増えることを期待しています。この取り組みは、先ほどの「どうやったらもうちょっと押せるか」という課題解決にもつながると思います。

―他のブランドでの展開は
今回はアバルトのイベントですが、実は昨日、神戸でアルファロメオのイベントも開催されました。そして、6月29日には再びアルファロメオのイベントを同様に開催する予定です。アルファロメオのお客様の中には、このような場所で自分の車を走らせたいという方が多く、特にクアドリフォリオのようなモデルに興味を持っている方々に向けてイベントを計画しています。
一方で、プジョーのお客様向けには「ライオンキャンペーン」と称して、サファリパークで楽しんでいただくイベントを企画しました。プジョーのブランドイメージとライオンを結びつけて、お客様に新しい体験を提供したいと考えています。
また、シトロエンについては、ジープほどヘビーではないものの、キャンプをテーマにしたイベントを毎週つま恋で開催しています。これも大規模ではないものの、お客様に参加いただき、シトロエンの楽しさを体験してもらうための試みです。
このように、各ブランドのマネージャーがそれぞれのブランドに合ったイベントを企画し、お客様がどのように車を楽しめるかを考えて実行しています。これにより、ジープのイベントで見られるようなポジティブな効果が他のブランドでも期待できると考えています。若年層というよりは、年齢を問わず、若い心を持った方々へのアプローチ強化ですね。

―ヘリテージに関して
ステランティスはアバルトだけでなく、シトロエンやプジョーなど、古い車を大切に乗り続けているお客様も多くいらっしゃいます。そういったお客様を大切にしたいと考えています。

アバルトに関しても、今回のイベントでは走りへのフォーカスなので、ヘリテージの方々はあまりいませんでしたが、今後は例えば「アバルトのコーヒーブレイク」のような、もう少し緩やかな集まりを通じて、ヘリテージの方々にも参加していただきたいと思います。その場でアバルトのブランドの歴史や伝統を共有し合うことができればと思います。

また、部品やパーツについても、お客様からの声を集め、本国からの支援を得たり、ローカルでサポートしたりすることで対応していきたいと考えています。こういった取り組みを通じて、ステランティス全体としてお客様との関係を深め、大切にしていきたいと思っています。

―モータースポーツに関して
プジョーはWEC(世界耐久選手権)に参加しており、昨年も良い結果を残しました。今年も引き続き参加します。モータースポーツの支援は全ブランドに対してではありませんが、必要なものについては積極的にサポートします。

昨年はお客様やメディアの方々にもWECを見に来ていただきました。今年もぜひ多くの方にご参加いただきたいです。面白いことに、トヨタからの提案で、我々が六本木にWECのマシンを展示した際にトヨタの車も一緒に展示し、共に盛り上げました。トヨタの社長ともお話しする機会があり、このように競技を超えて協力する姿勢に感謝しています。

今年も同じように、トヨタと協力してWECを盛り上げられればと思っています。皆さんもぜひWECを応援しに足を運んでください。

―モータースポーツと販売の関係
個人的には、私はモータースポーツが好きです。モータースポーツに積極的に参加することで、すぐに販売に直結するわけではありません。しかし、ブランドの認知度や好感度、つまり、アッパーパネルを増やし、将来的な購買につながるような顧客層を拡大していくことが重要だと考えています。

―ディーラーネットワークについて
ステランティスでは、これからもネットワークを拡大していく計画があります。以前はジープ単体で200平方メートルの店舗を展開していましたが、現在はステランティスブランドハウスという形で、一つの建物に複数のブランドを収める方針を取っています。この新しい形態では、各ブランドの店舗が小さくなり、バックオフィスを共有することで、ディーラーの投資リスクを軽減しつつ、利便性を提供します。

例えば、ジープとシトロエンの店舗が同じ建物内にあり、それぞれのブランドの特色を持ちながら、運営面では統一されています。このモデルはイタリアで成功しており、日本でも導入を進めています。

国内のディーラーさんも興味を示しており、実際に見学に行った結果、多くの要望が寄せられています。ステランティスブランドハウスは、ジープとフレンチブランドを併設する形で今年から展開が始まります。これにより、ブランドごとの顧客がライフスタイルに応じて異なるブランドを選びやすくなります。

日本では、特にブランドの垣根が低く、一つのディーラーが複数のブランドを扱うことで、顧客に柔軟な選択肢を提供します。ディーラーも今後、イタリアンやフレンチといったブランドにとらわれず、複数のブランドを取り扱うことで、よりステランティスブランドハウスの形態に適応しやすくなるよう進めています。

雨は降り続けていたが、レーシングコースに出て、同乗レッスン、先導走行、パレード、フリー走行のプログラムを続行。基本はステアリングの切角が最も小さいアウトインアウトを、インストラクターが丁寧に解説し、実践を行っていく。ただし、当日の路面は超ウエット。タイヤグリップの限界値が低いので、自分の力を過信せず、慎重に練習を重ねていた。その練習の成果もあって、フリー走行では豪雨の中、かなりのスピードでストレートを走っていくアバルトはさっそうとしていて、かっこよかった。
空き時間に、テクニコに参加したアバルトオーナーに今日の感想を聞いてみた。写真は左から695 トリブート フェラーリの安積さん、124 スパイダーの今野さん、595 コンペティツィオーネ PP3 (Performance Package 3)の谷岡さんだ。
谷岡さん:「前回はバーゼだったので、そのときに教わった内容を思い出しながら、ブレーキングやスラロームをこなしました。徐々に慣れてきまして、なおかつクイックに動くようになると、インストラクターの方に褒められて、自分に自信が持てました。ちょっと成長したんじゃないか?と思えたんです」
今野さん:「4年ぶりだったので、前回を思い出しながらレッスンに参加しました。だんだん体が慣れてくると、インストラクターの方がいいじゃないですか!と、声をかけてくださるから、気分も乗ってきます」
安積さん:「私は10年ほど前から毎回参加しています。以前はブートキャンプというハードなプログラムもありました。インストラクターの方がものすごく褒めてくださるんで、テンション爆上げになります」
EVの500eはいかがでしたか?
安積さん:「低重心だと聞いていたんで、そこを体感できるかな?と思って参加したんですけど、まさにその通りの動きでした。すごく安定してて、思っていたよりもよくできてましたね。アクセル限界で走らしてみたのですが、トラクションコントロールが、ドライバーの気がつかないレベルで上手く働いてるんですよね。アンダーが出てるにも関わらず、そこはしっかり制御されてて、誰にでも速いスピードで楽しめるクルマだという印象です」
今野さん:「もうちょっとおとなしいかと思ってたんですけど、思ったよりクイックで驚きました。サウンドジェネレーターは、おまけみたいな存在ですけれど、でもあったらあったで楽しい演出っていう感じでした」
谷岡さん:「バッテリーが下にあるしホイールベースも短いので、かなりクイックに動いてくれました。自分が上手くなったんじゃないかって、勘違いするくらいにとても制御が効いていて、楽しい車です」
三名とも、500eには、良い意味で裏切られたと話してくれた。電動化を進めていくアバルトにとって、ガソリン車オーナーに経験してもらえたことはとてもポジティブに働くだろう。

最後は修了式。ステランティスの熊崎氏の挨拶の後、打越社長から一人ひとりに修了証が手渡された。そして、じゃんけん大会によるグッドイヤー EAGLE F1 アシンメトリック 6は、会場に歓声が起こった。このドライビングアカデミー限定のTシャツなど記念品を手に、それぞれが、満足げな表情で会場を後にしていく。一日を終えて、ドライビングスキルの向上と、スポーティなEV走行の体験、そして同じコースを走った仲間との交流という何ものにも代えがたいものを手に入れた参加者の皆さんの笑顔がとても印象的だった。都合がつけば、きっと次の機会にも参加をしてくれるだろう。家で’笑点’見てる場合じゃない。

ブガッティ ボリード/ケータハム プロジェクトVの真実/日本のDAMD/プリウス:トップギア・ジャパン 061





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