新型コロナウイルスの感染拡大は、自動車業界にも大きな影響を与えている。世界的な自動車業界の調査会社であるJATO Dynamicsによる調査報告をお伝えする。2020年3月の世界の自動車販売台数は、昨年同月比39%減となる555万台にとどまった。
この数字は、2008年11月の世界金融危機の時の25%減をも上回り、JATO Dynamicsが調査を始めた1980年以来、対前年比で最も大きな減少となった。
世界中に新型コロナウイルスが広がり、主要国で厳戒なロックダウンが布かれ、消費者の困惑と経済への不透明感が合わさり、当月の販売台数は大きな減少を示すこととなった。
「この減少傾向は、ただ単に自由な行動が制限されたからではない。産業は将来への見通しが不透明であることに大きな影響を受けており、この問題は感染拡大が支配するよりも前から生まれている」と、JATOのグローバルアナリストであるFelipe Munozは述べている。「昨年の年末時点ですでに、業界は困難な状態の中で運営していたことを忘れてはならない。貿易戦争、低い経済成長率、より厳しくなった排出規制は、新型コロナウイルスよりももっと前から存在している課題だ。そして、前回の不景気とは異なり、人々の不安や、購買の遅れに対処すればいいだけではない。現状は、消費者が自宅を離れることがそもそもできない、ということを考慮しなければならないからだ」と彼は続ける。
2020年の第一四半期の世界販売台数は、昨年同期比26%減となる1742万台となった。
最も痛手を受けたのは欧州
中国、欧州、米国のすべてが、当月2桁となる減少を記録した。しかしながら、最も大きな影響を受けたのは欧州で、過去38年間の3月期として最低となる販売台数であった。欧州27カ国における乗用車の販売台数は昨年同月比52%減となる848,800台となった。1月、2月と減少が続いたため、第一四半期の台数は304万台へと下落している。
販売台数は欧州の主要27カ国すべてで減少したが、要因は様々である。フィンランドは、外出自粛を政府から指示されているが、強制ではないこと、リトアニアはディーラーへ行く必要なく新車を購入でき、納車も3~7営業日で行われることから、変動はわずかだった。フィンランドとリトアニアに続き、減少が3番目に少なかったスウェーデン(9%減)も、外出規制令を出していないことが原因だ。
対照的に、イタリア、フランス、スペイン、オーストリア、アイルランド、スロベニア、ギリシャ、ポルトガルは多大な影響を受け、合計した販売台数は、昨年3月が634,600台であったところが、当月は161,800台まで減少した。新型コロナウイルスの影響は、これらの国では3月にピークを迎えていたため、大部分の国が厳格なロックダウンを実施していた。
想定通り、欧州ではすべてのセグメントがロックダウン政策によって販売を落とした。最も影響を受けたのは、シティーカー、MPV、サブコンパクトである。これは、イタリアとフランスといった、スモールカーの売上に大きく依存している市場が崩壊してしまったためだ。2019年において、欧州市場でのAセグメント、Bセグメントの販売台数の38%は、イタリアとフランスで発生している。最も販売減少が少なかったのはミッドサイズカー(D セグメント)であり、当月モデル別販売で2位となったテスラ モデル3の好調な結果のおかげである。
SUVの販売台数は、昨年同月比48%減となる338,300台となったが、マーケットシェアは反対に、ほぼ40%へと拡大した。中国の上海汽車集団(SAIC)傘下のMGは、昨年の1,327台から当月は2,592台と、唯一販売を伸ばしたメーカーであった。いくつかのモデルは、他車を引き離す結果を残している。例として、ボルボ XC40は当月プレミアムSUVの最多販売モデルとなったが、昨年同月比で5%減となったのみで、レンジローバー イヴォークも3%減となる5,700台であった。アウディとメルセデスは、e-tron(86%増)とGLE(213%増)が好調であった。
燃料タイプ別では、電動車が15%増となる147,500台を売り上げており、2019年3月から10.1%ポイント多い、過去最大となる17.4%のマーケットシェアを獲得した。昨年と異なるのは、この成長がテスラによるものではないということだ。中でも、メルセデス(44%増)、フォルクスワーゲン(240%増)、BMW(15%増)、ヒュンダイ(25%増)、ボルボ(79%増)、スズキが多くの電動車を発表してきたことの結果である。
しかしながら、パワートレインを詳しく見てみると、ピュアEV(BEV)とプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)の台数が増えているのに対し、ハイブリッド車(HEV)の台数は11%減少している。事実、ピュアEV(BEV)とハイブリッド車(HEV)の台数差は、1万台以内に収まった。当月に印象的な結果を残したピュアEV(BEV)は、フォルクスワーゲン e-Golf、アウディ e-tron、フォルクスワーゲン e-Upであった。最新モデルである、ミニ エレクトリック(MINI Electric)、プジョー e-208、MG ZSなどが、ピュアEV(BEV)全体の17%を占めている。
時系列で見て、中国、韓国に続き、欧州は新型コロナウイルスから深刻な影響を受けた2番目の地域だった。欧州で当月見られた結果は、2月に中国で目にしたものとよく似ている。しかしながら、中国とは異なり、欧州の回復はV字型とはならず、U字型となるだろう。
米国
米国の当月の販売台数は、昨年同月比で38%減となる100万台であり、中国と欧州よりも小さな減少となった。新型コロナウイルスが米国で拡大し始めたのがこれらの国よりも後になってからであったため、3月の時点では、外出規制は特定の地域でしか実施されていなかった。Munozは「米国自動車市場は、複数年に渡る強力な成長の後、昨年は鈍化していた。今年の年初には、停滞と向き合うことになるだろうと予想していたが、今になってみれば、世界的な感染拡大の影響で、より早いペースでの後退となると考えられる」と説明した。
インド
世界で5番目に大きな自動車市場であるインドは、3月の中旬からロックダウンが布かれているが、新型コロナウイルスよりも前から、複雑な環境に翻弄されてきた。2020年4月1日より実施された、排出規制バーラト・ステージ6の影響である。この規制はすでに生産現場へ影響しており、最高裁判所の期限に即し、ステージ4からステージ6へ一気に移行しなければならない。つまりは、ステージ4に適合した車種を登録することはもう不可能であり、たくさんの自動車会社が未発売の車両を工場とディーラーに抱えている、ということだ。
インドでは、多くのディーゼル車が売れるので、とりわけ業界にとって難しい決断であったが、すべての自動車会社が小型ディーゼルエンジンの生産を終了した。マルチ・スズキは、以前販売の20%がディーゼルであった時に、ガソリン車と天然ガス自動車(CNG)へ切り替えた。結果として、消費者需要は影響を受け、新しい改良されたモデルが投入されているが、バーラト・ステージ6に準拠した車種は高額だと誰もが考えており、潜在的な購入者を思い留まらせている。4月1日の期限が近づくにつれ、多くの消費者が車両値引きを期待して待っていた。しかしながら、購入を当てにしていたところで、新型コロナウイルスが業界を打撃し、購買力をふいにしてしまった。
世界のその他の地域での結果は様々である。日本、韓国、CIS諸国(独立国家共同体)はとても緩やかな減少を記録している。ラテンアメリカでの販売台数は、昨年同月比で30%減となる318,000台であった。この台数は、この地域で3番目に大きい市場であるアルゼンチンで経済危機が起きていることも影響した。アルゼンチン、コロンビア、チリ、ペルーに続き、最近ではブラジル、メキシコで外出規制が行われている。
中国
中国では、昨年比79%減となった2月から、状況は改善した。職場の再開に加え、3月は製造にも、販売にも顕著な改善が見られた。中国汽車工業協会(CAAM)から発行された統計によれば、生産台数は2019年の年間平均の75%の水準まで回復している。感染拡大は完全に収束したわけではないため、市場の需要はまだいくぶん抑圧されているが。
2月から3月にかけて、急速な回復が見られる。乗用車の自動車交通事故責任強制保険(交強険)加入台数は、前月比で427%増となる、108万台まで戻っている。JATOで中国のカントリーマネージャーを務めるBo Yuは「交強険加入台数は、ディーラーに在庫として存在している車両数の影響を受けないため、実際の販売台数において増加があることを示している」と説明する。一方で、2月の減少が昨年比で78%であったのに対して、当月は1年前からわずか30%の減少に留まった。4月には、ウイルスの影響が減少を続けていることと、中央および地方政府による自動車市場の支援のおかげで、もっと良い結果を期待できるだろう。
Yuは以下の様に述べた。「中国の自動車業界の先行きは前向きにとらえている。販売台数は上向きで、在宅勤務体制も解かれていることから、ビジネスも通常通りに戻りつつある。新型コロナウイルスは実社会と、世界中の人々の移動の手段に引き続き影響を与えるだろう。社会距離拡大戦略が続き、消費者がパーソナルスペースへ大きな価値を持つようになったため、個人所有車両の販売が増えると予想している。我々はこれからも状況を注視していくが、新型コロナウイルス以降の時代へ移る際、自動車会社の潜在的な復活の兆しを、世界に先駆けて中国市場から示すことができるだろう」