ホンダの電気自動車 ホンダ e 試乗で見えてきた、手に入れるべきグレード

2 ドライビング

道路ではどんな感じ?

最初に135psと154ps どちらを選ぶぼうか。どちらも航続距離は220km、トルクも同じ315Nm(ちょっと前のBAC MONOオタクがびっくりしそう)なので、0-100km/h加速9.0秒と8.3秒の差は確定したものではない。だが、実際の生活の中で、人口が密集した町をクルマで走ることを考えると100km/hを出すのは遠い夢になるだろう。公式な数値はないが、0-50km/hくらいがもっと有用な数値となるため、ここでは「おもしろくすばしっこい」と評しておこう。
停止からのスタートはビュッという音を立てながら進み、スロットルのチューニングは、ホンダに称賛を贈りたい。決して急にかたむいたり、急に引っ張られるたりするようなこともなく、しきりに前に進ませるのだが、とてもスムーズ。右足が、0か1かの二進法になる感覚がするけれど。この後輪駆動(ホンダ曰くこれは50:50の重量配分とドライビングダイナミクスのカギ)は、あなたの心のなかに潜んでいる、ラリードライバーのアリ ヴァタネンを喜ばせそうだ。そしてヴァレンシアで、雨で濡れた小石のラウンドアバウトを走ると、緩いオーバーステアが発生して、ボディの下が軽く汚れてしまった。この時、トラクションコントロールシステムは作動していたけれど。
ホンダ eが得意な市街走行に戻る。楽々と、そして平和に都市の交通網を走り抜けていく姿は、人の目をくぎ付けにさせる。ホンダ eの可変式ステアリングシステム(ロックトゥロックが3.1回転)はフィアット500のようにクルクルとまとまりがない回転はせず、軽くて、進行方向がわかりやすい。このホンダ eの隠し芸のようなものは、ばかばかしいほど大きなハンドル回転量と4.3メートルの最小回転半径であり、この数値は黒いロンドンタクシーより少し上なだけだ。これなら、通るのは不可能に思える細い道に入り込んでいったり、Wazeアプリの気が変わったときに大胆なUターンをしたりするときなど、無限大に使えそうだ。
コンパクトな割には1,500㎏を超える重いクルマだが、外から見ていたのでは、全く想像できないだろう。トルクが瞬時に勢いよく力を伝えるし、重心が低いために、コーナーでもマンガみたいにロールなどせず、優しくスライドしていくだけだ。この車にはアジリティと人を熱狂的にさせるものがあると感じていたが、正直にいえば、ここまで洗練されて円熟したものだとは、予想していなかった。

完全な独立サスペンションは、道路を何か大きなもので覆うような感じがあり、室内はとても静かだ。とくに100km/hを超えたあたりから、その特性が顕著になる。人々の記憶に残るようなクルマは、いつも高い技術を搭載しており、それが世界のニーズであることを、ホンダはよく理解している。
良いロードテストがしたいという名目でヴァレンシアの外に出て、整備されたBロードでホンダ eを走らせ、その共感できない右足の動きを探ってみた。ホンダ eは理解できないということを拒んでいるように感じ、コーナーにぴったりと張り付き、人をとりこにさせるような瞬間的な推力を発揮した。そして見事に高速道路の走行もこなした。100kmあたり走って、バッテリーの80%を消費させようという目論見だったが、その通りの結果になったのである。走行時間は1時間くらい。だがこれは極端なやり方で、日常的にはする必要がない、危険で乱暴な電費走行であるが、我々が朝やった紳士的なケチケチ走行でのテストなら、現実的に160kmはカンタンに到達できるということが証明されただろう。もし、もっと距離を伸ばしたいなら、エアコンをつけないで走ればいい。この場合、25%走行距離が延びるのだ。
ドライブモード用のボタンには、ノーマルモードとスポーツモードがある。後者は単純にスロットルがシャープになるが、ほとんどは余分なものに思える。より便利なのは、ブレーキを踏むことなく減速できるように、ペダルを離すときに強く回生させる、ワンペダルモードである。ホイールの後ろのプラスとマイナスのパドルを使用して、3つの回生レベルを選択できる。
手放しで喜べることばかりではないのだが、理論上では、ドアミラーをカメラにするのは、車幅を小さくして空気抵抗を4%近く削減するので、とてもいいアイデアである。見える範囲を広げ、どんな天候でも見通しが良い。しかし実際には、良くないことも起きる。低い位置に取り付けられており、角度も低すぎる(いろいろと試したが、調整する方法がわからず、できなかった)。おかげでリアのホイールアーチはくっきりと見えるが、運転するうえでは不必要だ。ノーマルモードからワイドモードまで切り替えられて、ワイドモードは外側3分の1までカメラを向けることができるが、見やすさはあまり改善されない。
もう一つの欠点は、バックミラーの代わりにつけられたスクリーンとカメラについてである。カメラ機能をオフにして通常のミラーとしても使用できるが、適切な画像ではない。ミラーをスクリーンとして利用していると、視野角を調整するのにかなり時間がかかる。そのせいであおり運転をされるケースが増えるかもしれないので、ホンダ eを買うと、運転時にイライラするかもしれない。
しかし実際はこのクルマの周りで、怒っている人はいなかった。ヴァレンシアの古い街の狭い道を、だいたいは合法的に運転していると、人々の笑顔や手を振られているところをカメラに収めた。ホンダ eのは、静かで、キュートで、クリーンだが、印象は強くない。親しみやすい、現代らしいクルマである。

トラックバックURL: https://topgear.tokyo/2020/03/21534/trackback

コメントを残す

名前およびメールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

HP Directplus -HP公式オンラインストア-

ピックアップ

トップギア・ジャパン 060

アーカイブ