4,000万円の「動く現代建築」。静電スピーカーとチタンシルバーの狂気を纏ったレンジローバー「SV ULTRA」が東京に降臨

銀座の頭上を走る旧高速道路の跡地に、世界最高峰のSUVが舞い降りた。乗用車初となる静電型スピーカーを搭載し、価格は4,000万円に達する2027年モデルの頂点「RANGE ROVER SV ULTRA」だ。泥臭いルーツを持つ英国のオフローダーがいかにして「移動する現代建築」へと昇華したのか。わずか5日間の限定展示で明らかになった、その狂気的なこだわりを紐解く。


銀座の空に浮かぶ究極のサンクチュアリ
銀座の頭上を縫うように走っていたかつての動脈、KK線(旧東京高速道路)。その料金所跡地という奇妙に静まり返った都市の空白地帯に、世界最高峰のSUVが舞い降りた。我々が愛してやまない泥臭いオフローダーの末裔は、今や完全なる「移動する現代建築」へと変貌を遂げている。2026年5月20日に受注が開始されたレンジローバー2027年モデルの頂点、「RANGE ROVER SV ULTRA」の実車特別展示である。その脇には、ヴェラール Belgravia Edition Satin Curated For Japan P400e(12,980.000円)も置かれていた。

自動車の発表会といえば、シャンパンとけばけばしい照明、あるいはサーキットの焦げたゴムの匂いが相場だが、DESIGNART TOKYO 2026のメイン会場「AUTOBAHN」に漂う空気は異様だった。高架上を吹き抜ける東京の秋風と、遠くで響く都市の低周波ノイズ。そこにぽつんと鎮座する1台のクルマは、プロモーションのための工業製品というよりも、前衛的なインスタレーション アートそのものである。

なぜ今、我々はこの高架上の吹きさらしの空間まで足を運ばなければならないのか? その答えは明白だ。自動車が単なる移動手段から、所有者の美意識やライフスタイルを投影する究極のパーソナル スペースへと移行しつつある現代において、この「SV ULTRA」が提示する回答があまりにも過激で、そして美しいからだ。単に「一番高いモデルが出た」というような退屈な話ではない。英国の野性が生み出した究極のサンクチュアリ(正域)が、わずか5日間だけ東京の空に浮かぶ。知的好奇心を持つ大人にとって、これを見逃す手はないのだ。

静謐なる威圧感:削ぎ落とされたデザインと空間美
KK線のコンクリートに囲まれた空間でSV ULTRAと対峙した瞬間、まず脳を混乱させるのはその異常なまでの「肌の質感」だ。ボディを覆うのは「SV ULTRA」専用色として新たに設定された「チタンシルバー(グロスフィニッシュ)」である。本物のアルミニウムフレークを用いた先進の塗装技術により生み出されたこの塗料は、光を吸い込み、そして強烈に反射する。虹色に輝く鏡面のような深みのある艶は、高架上の自然光を浴びるとまるでターミネーターに登場する液体金属のような「ぬめり感」を放つ。

この静謐でありながら圧倒的な威圧感は、過剰な装飾を削ぎ落とした「引き算の美学」の賜物だ。足元にはサテンプラチナアトラスのインサートを備えた23インチの専用アロイホイール(鍛造)を履き、シルバークロームのアクセントとともにエクステリアの完成度を極限まで高めている。

会場の演出を手掛けた建築設計事務所、クライン ダイサム アーキテクツ(KDa)は、今年のテーマ「響き(HIBIKI)」に対し、無数のオブジェを用いた「野性的な風鈴」を吊るした。風に揺れる不規則な響きと、チタンシルバーの冷徹なボディが都市の遺構で見事に共鳴している。それは車を展示しているのではなく、空間全体でひとつの巨大な彫刻作品を成立させているかのようだ。

五感を揺さぶるクラフトマンシップと新技術
分厚いドアを開け、キャビンに足を踏み入れると、外界の喧騒は一瞬にして遮断される。SV ULTRAは、高級車=本革という使い古されたヒエラルキーを鼻で笑う。シートに採用されているのは、オーキッドホワイトとシンダーグレイのデュオトーンで仕立てられた、環境負荷の少ないサステナブルな高級素材「Ultrafabrics™」だ。表面には精巧なモザイク調パーフォレーション(微細な穴)とレーザーエッチングが施され、プリントでは決して表現できない立体的な陰影を生み出している。ナチュラルライトウッドパネルと相まって、そこにあるのは和のテイストすら感じさせる静謐な室内空間である。

そして、このクルマを「移動するコンサートホール」たらしめている最大の狂気が、オーディオシステムだ。英国のWARWICK ACOUSTICS社と共同開発した「SV エレクトロスタティックサウンド(静電型スピーカー)」を、なんと乗用車として世界で初めてオプション採用したのである。従来型の磁気コイルを用いたコーン型とは異なり、極薄の静電膜を振動させるこの仕組みは、音の歪みが非常に小さいという特性を持つ。実際のスピーカー位置よりも遠くから音が聴こえるような感覚を生み出し、車内を物理的な寸法以上に広く感じさせるのだ。

さらに、低周波を身体に直接伝えるボディ&ソールシートに加え、各乗員の足元フロアマット下に4つのトランスデューサーを配置した世界初の「センサリーフロア」も搭載している。触覚フィードバックを伴う没入感のあるフルボディオーディオ体験は、もはやロードノイズすらも壮大な交響曲のベースラインに変えてしまうほどの破壊力を持っている。

圧倒的な走破性と過剰なるパワートレイン
どれほどインテリアが現代美術館のように洗練されていようとも、ひとたびアクセルを踏み込めば、そこには英国の野性が牙を剥く。SV ULTRAの心臓部に収まるのは、4.4リッターV型8気筒ツインスクロールターボチャージドガソリンエンジン(MHEV)だ。最高出力452kW/615PS、最大トルク750Nmというスーパーカー顔負けの暴力を発生させる。

価格は「RANGE ROVER SV ULTRA P615」のショートホイールベース(SWB)が36,070,000円、ロングホイールベース(LWB)に至っては40,040,000円という、文字通りのウルトラなプライスタグを掲げている。

我々が惹かれるのは、この極端な二面性だ。最高級のオーディオルームで静電型スピーカーの極上の音色を響かせながら、いざとなればV8エンジンの咆哮とともにアウトバーンをかっ飛び、道なき泥濘地や渡河すらも涼しい顔で走破してしまう。サヴィル ロウで仕立てたスーツの裏地に、防弾チョッキを仕込んでいるようなものだ。これほどまでに無駄で過剰な(もちろん最高の賛辞である)エンジニアリングの結晶を、世界は他に持たない。

プレゼンテーションが語った「英国ラグジュアリーの真髄」
会場でのプレゼンテーションにおいて、ジャガー ランドローバー ジャパンのレンジローバー部門グランドマネージャー生野氏が語った言葉が印象的だった。このクルマは、単なるトップグレードの追加ではなく、「ラグジュアリーの限界をさらに超えられないか」という果てしない挑戦から生まれたものだという。贅を尽くしながらも決して自己主張しすぎない、英国らしい絶妙な「引き算の美学」が随所に貫かれている。

さらに興味深いのは、空間演出を手掛けたKDaの代表、マーク ダイソン氏の熱狂ぶりだ。英国出身の建築家である彼は、なんと20年前からレンジローバーしか乗っていないヘビーユーザーだという。彼曰く、「大きな建築模型も積める実用性と、このスタイリッシュさを兼ね備えた唯一の車」なのだそうだ。

ダイソン氏自身もSVビスポークプログラムに参加しているという事実が、このクルマの懐の深さを物語っている。高架上の旧料金所が持つ都市の静けさと高揚感は、SV ULTRAのキャビンが提供する「サンクチュアリ(正域)」の概念と完璧にリンクしていた。作り手の異常な執念と、乗り手の熱狂が交差するこの場所は、まさに奇跡の空間だった。

日常の延長線上で至高の美学に触れる
この4,000万円級の「RANGE ROVER SV ULTRA」をガレージに収めるのは、一体どんな人物だろうか。間違いなく言えるのは、他人の目を気にしてわかりやすいステータスシンボルを欲しがるような層ではない、ということだ。

週末の夜、美しく整頓されたガレージに置かれたイームズのラウンジチェアに深く腰掛け、液体金属のように妖しく光るチタンシルバーのボディを眺める。片手にはアイラ島のシングルモルト。静電型スピーカーという狂気じみた車載オーディオの裏側にあるエンジニアたちの苦闘や、微細な穴だけでモザイクを描き出した職人の偏執的なこだわりに思いを馳せ、一人密かに微笑む。あるいは、誰もいない早朝のワインディングへと繰り出し、フロアから伝わるセンサリーフロアの鼓動を感じながら、圧倒的なV8のトルクで非日常を駆け抜ける。自らの美意識に絶対の自信を持つ、知的な大人にしか乗りこなせない一台だ。

この至高の空間芸術を体感できる「DESIGNART TOKYO 2026」の特別展示は、2026年10月30日(金)から11月3日(火 祝)までのわずか5日間限定である(10:00〜19:00、初日は12:00開場、最終日は17:00閉場)。場所はメイン会場「AUTOBAHN」(KK線 旧料金所跡地)。入場には公式WEBサイトでのチケット購入が必要だ。日常の延長線上にある東京の空き地で、この常軌を逸した英国ラグジュアリーの真髄に触れてみてほしい。この体験は、あなたのガレージライフに対する価値観を、根底から覆すかもしれない。
写真:上野和秀

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