自動車誕生から140年。伝統を重んじるメルセデス・ベンツが、東京のストリートカルチャーを牽引するグラフィックアーティスト・VERDY氏と異色のコラボレーションを果たした。「Mercedes-Benz STUDIO TOKYO」で開催された発表会へ足を運ぶと、そこにはポップなキャラクターとカモフラ柄に飲み込まれたGクラスと新型CLAの姿が。熱狂必至の限定アイテムや現地の熱気をレポートする。
カール・ベンツが世界初の自動車の特許を取得してから、今年で140年。140年である。もしあなたがドイツの歴史ある自動車メーカーの重役なら、この記念すべきアニバーサリーイヤーをどう祝うだろうか? きっと、仕立ての良い黒いスーツを着込んで、シュトゥットガルトの本社でクラシックな葉巻をくゆらせながら、過去の栄光に満ちたモトキャリッジ(四輪自動車) の傍らで厳粛なスピーチをするはずだ。それが正しい伝統の守り方というものだからだ。
しかし、メルセデス・ベンツは我々の予想を少しばかり裏切ってきた。彼らは由緒正しいスリーポインテッドスターを、東京のストリートカルチャーのど真ん中に放り込むことを選んだのである。
先日、筆者は「Mercedes-Benz STUDIO TOKYO(メルセデス・ベンツ ストゥーディオ トウキョウ)」 で開催されたある発表会に足を運んできた。会場に入った瞬間、そこは厳粛なドイツの自動車ショールームではなく、まるで裏原宿のストリートブランドの旗艦店か、最新のポップアート・ギャラリーのようだった。店内には色鮮やかなアパレルが並び、なんと驚くべきことにプリクラ機まで設置されているのだ。「メルセデスのショールームで、限定Tシャツを着てピースサインをしながらプリクラを撮る」なんて、ゴットリープ・ダイムラーが聞いたら、腰を抜かしてアウトバーンを逆走し始めるかもしれない。
このハッピーで混沌とした空間の正体は、「VERDY meets Mercedes-Benz STUDIO TOKYO」と銘打たれた、グラフィックアーティストVERDY(ヴェルディ)氏とのアートプロジェクトである。ストリートカルチャーを起点に、自身のプロジェクト「Girls Don't Cry」などで世界中の若者を熱狂させている彼が、天下のメルセデス・ベンツと手を組んだのだ。
会場の中心で異彩を放っていたのは、本プロジェクトの世界観を表現した特別なアートカーである。次世代のメルセデスを担う流麗な新型CLAと、我々がお馴染みの、あの四角い金庫のようなGクラスが、完全に様変わりしていた。VERDY氏のオリジナルキャラクターである「VICK(ヴィック)」や「VISTY(ヴィスティ)」をあしらった、特製のカモフラージュ柄でフルラッピングされているのである。
考えてもみてほしい。Gクラスといえば、元々は軍用車である「ゲレンデヴァーゲン」をルーツに持つ、泥と硝煙が似合う無骨なオフローダーだ。強靭なラダーフレームを備え、本来なら道なきジャングルや砂漠の悪路を走破するためのクルマである。それが今や、パステル調のポップなキャラクターに包まれ、通りを歩く東京の人々の視線を完全に釘付けにしているのだ。私が現地でカメラのシャッターを切りながら感じたのは、このカラフルでポップなGクラスとCLAが、これまでの「近寄りがたい高級車」というメルセデスのイメージを、非常に良い意味で見事にぶち壊しているということだ。キャブレター時代の英国製GTカーばかりを後生大事に磨いているような懐古主義者や、電子制御ゼロのスパルタンなトラックツールこそ至高だと信じる原理主義的なエンスージアストは眉をひそめるかもしれないが、たまにはこういう息抜きも必要だろう。
この特別なアート展示と店内装飾を楽しめる期間限定ポップアップは、9月12日から27日まで開催される。そして初日からは、カプセルコレクション第1弾として、豊富に揃ったオリジナルTシャツやキーリングなどの限定アイテムが発売される。たとえば「VICK × G-Class Tシャツ」は、VICKがGクラスのルーフに腰掛けてピースしているデザインなのだが、これがなんと全10色展開である。黒地にブルー、白地にピンク、さらにはホワイト・オン・ホワイトまで。メルセデスのロゴが、まるで最新のスケートボード・ブランドのアイコンのように鎮座している。
プレスリリースにはこれらの商品の価格は一切記載されていない。しかし、数千万円するGクラス本体を買うことに比べれば、Tシャツの価格など誤差のようなものだ。我々にとっての本当の問題は価格ではない。9月12日の販売は「事前の店頭での抽選方式」であり、各商品は「数量限定のため、なくなり次第販売終了」と残酷なまでに明記されていることだ。つまり、我々が悠長に値段を気にしている間に、熱狂的なファンたちによって瞬く間に棚が空にされ、ストリートウェアの冷酷な二次流通市場へと旅立ってしまうのだ。欲しいなら、今すぐ運を天に任せて抽選に申し込むしかない。
VERDY氏本人によれば、彼が初めて買ったクルマはGクラスだったという。「憧れていたストリートカルチャーの先輩たちが乗っていた存在」として、メルセデス・ベンツはずっと特別なブランドだと感じていたそうだ。たしかに、近年メルセデスはNIGO氏や、故ヴァージル アブロー氏(彼が手掛けたマイバッハやGクラスの途方もないプロジェクトを思い出してほしい)など、ファッション界の重鎮たちとのコラボレーションを積極的に行ってきた。VERDY氏はその輝かしい系譜を受け継ぎ、自身の頭の中にあったイメージを、初めて車のラッピングという形で現実の鉄の塊に投影したのである。
140年前、世界初の自動車を発明したメルセデス・ベンツは、今もなお「Welcome home」という唯一無二の感覚を生み出すために革新を続けているという。今回のプロジェクトは、まさにその「革新」のベクトルが、馬力や空力といったエンジニアリングだけでなく、カルチャーやクリエイティビティの領域にも向けられていることの強力な証明だ。
もしあなたが期間中に東京にいるなら、ぜひMercedes-Benz STUDIO TOKYOを覗いてみてほしい。ポップなカモフラージュ柄に包まれたGクラスの写真を撮り、豊富なグッズを物色し、ついでに店内のプリクラ機で記念撮影をしてみるのもいいだろう。クルマという枠を超えた新しいカルチャーの交差点が、そこには確かに存在している。ガソリンの匂いこそしないかもしれないが、ここには間違いなく、現代の自動車文化の最前線があるのだ。



