メルセデス・ベンツが、その140年にわたる歴史の粋を集め、全く新しい骨格「MMA」を与えた新型CLA。我々は南青山で開催された発表会およびテックデイに潜入し、その全貌を目撃した。世間ではCd値0.21、航続距離771kmという電気自動車(EV)としてのセンセーショナルなスペックばかりが先行しているが、日本市場にまず上陸するのは、新開発の1.5Lガソリンエンジンを搭載した内燃機関(ICE)モデルだ。「なんだ、まだガソリンか」と肩を落とすのは早計である。午前中のジャパンCEOらによるプレゼンテーションから、午後のドイツ本社の精鋭エンジニア陣によるディープな技術解説まで、丸一日をかけて次世代メルセデスの真髄を丸裸にする。
Sensual Purityの具現化と、日本市場への「ICE先行」という戦略
南青山にあるMercedes-Benz STUDIO TOKYO。イベントは午前中のプレス発表会から幕を開けた。登壇したのは、メルセデス・ベンツ日本合同会社の社長兼CEOであるゲルティンガー 剛氏と、CLAプロダクトマネージャーの石田京太郎氏だ。彼らが誇らしげにアンベールした新型CLAおよびCLAシューティングブレークは、「Sensual Purity(官能的純粋)」というデザイン哲学を、デジタル時代に向けて研ぎ澄ませたものだ。
フロントグリルには、クローム仕上げのスターパターンを採用したイルミネーテッドラジエターグリルが輝いている。夜のディスコのようだと思うかもしれないが、これは周囲に「私が新しいメルセデスだ」と知らしめるための、最も洗練された威嚇行為だ。ヘッドライトとリアコンビネーションランプにもスリーポインテッドスターのモチーフが刻まれ、CLAとして初採用となるシームレスドアハンドルやフレームレスドアが、ただならぬ滑らかさを演出している。
冒頭でも触れた通り、世界中のメディアが騒いでいる「WLTP航続距離771km」を誇るEVモデルの日本導入は少し先になる。我々の元に最初に届けられるのは、ガソリンエンジンモデルだ。しかし、午後に行われたドイツ本社からのエキスパート陣による「技術説明会」を聞けば、この新しい「Mercedes-Benz Modular Architecture(MMA)」プラットフォームが、いかに内燃機関とEVの垣根を越えた狂気的な完成度を誇るかが理解できるはずだ。ここからは、各セクション30分ずつ、計90分にわたって行われた濃密なテックデイの全貌をお伝えしよう。
セクション1(安全性):見えない天使たちと、「命を救うこと以上の目的はない」という哲学
最初のセクションは、メルセデス・ベンツが最も誇りとする「安全性」だ。パッシブセーフティー シニアエンジニアのクリスティアン・グルーグラー(Prof. Dr. Christian Gloggler)氏が熱弁を振るった。
「このクラスで最も安全な自動車」を標榜する新型CLAは、ユーロNCAPで最高評価の5つ星を獲得し、2025年にテストされた全ブランド・全モデルの中で最高評価となる「Best Performer」に選出されている。グルーグラー氏によれば、車内にはこのセグメントで初となるセンターエアバッグが標準装備され、側面衝突時に前席乗員同士の激突を防ぐという。
さらに、EVモデルを念頭に置いた設計として、高電圧バッテリーのハウジングを車体構造の一部としてクラッシュコンセプトに統合している。8つの要素から構成される多段階の高電圧保護コンセプトが導入されており、万一の事故後にも乗員や救助作業者に危険が生じないよう設計されている。進化したバッテリー早期警告システムは、異常を検知すると乗員に警告するだけでなく、側面ウインドウや換気フラップを自動的に閉じるなど、車両側で追加の保護動作を実行する。
安全思想はパッシブにとどまらない。新世代の安全運転支援システム「MB.DRIVE」は、8つのカメラ、5基のレーダー、12個の超音波センサーを駆使し、全方位の危険を常に監視している。高速道路でのレーンチェンジアシストや、自動駐車支援機能「MB.DRIVE PARKING ASSIST」など、フラッグシップのSクラスに匹敵する機能が惜しげもなく詰め込まれている。メルセデスのクルマづくりにおける、安全に対する冷徹なまでの執念が伺える。
セクション2(ドライブトレイン):ガソリンエンジンの究極の洗練と、背後に控えるEVの圧倒的ポテンシャル
最初の技術セクションは、Drivetrain and Efficiency担当のアレクサンダー・アスバッハー(Alexander Aspacher)氏による解説だ。MMAプラットフォームは、EVファーストでゼロから設計されながらも、高効率な内燃機関にも完璧に対応するという驚異的な柔軟性を持っている。
今回日本にまず上陸するガソリンモデルには、新開発の「M 252」1.5リッター直列4気筒エンジンが搭載される。「CLA 180」には最高出力100kW、「CLA 220」には最高出力140kWの仕様が用意される。特筆すべきは、このエンジンに組み合わされる新設計の8速デュアルクラッチトランスミッション(8F-eDCT)だ。極めてコンパクトに設計されたこのトランスミッション内には最高出力22kWの電気モーターが統合されており、単なるマイルドハイブリッドを超えた力強いトラクションとシームレスな変速を提供する。セグメント型タービンを採用したターボチャージャーや、F1由来のNANOSLIDEテクノロジーが施されたオールアルミ製クランクケースなど、内燃機関の熟成を諦めないメルセデスの執念がひしひしと伝わってくる。
一方で、将来的な日本導入が待ち遠しいEVモデルのポテンシャルも規格外だ。リアアクスルに搭載される最高出力200kWの永久磁石同期モーター(PSM)には、なんと電気自動車でありながら「2速EVトランスミッション」が組み合わされる。資料によれば、110km/hを境に2速へと切り替わることで高速巡航時の快適性を飛躍的に高め、バッテリーからホイールまでの駆動効率は最大93%に達するという。
そして、ガソリンとEV双方に絶大な恩恵をもたらすのが、狂気的とも言える空力性能である。フロントのホイールスポイラーから始まり、サスペンションリンク周辺を覆う4分割式アンダーボディカバーに至るまで、徹底的な空気抵抗の低減が図られ、Cd値は驚異の「0.21」を達成した。この風洞実験室での果てしない格闘の結果が、内燃機関の燃費向上と、EVの771kmという航続距離を支えているのだ。
セクション3(MB.OS):車輪のついたスーパーコンピューターの誕生
続いての30分間は、研究開発部門 チーフソフトウェアオフィサー エグゼクティブ アシスタントのミヒャエル・ヴォルヴェーバー(Michael Wollweber)氏による、デジタル頭脳「MB.OS(Mercedes-Benz Operating System)」についてのセクションだ。
車内に乗り込むと、物理スイッチが極限まで削ぎ落とされた空間に、ダッシュボード全幅に広がる「MBUXスーパースクリーン」が鎮座している。まるでIMAXシアターを車内に持ち込んだかのようだが、真の革命はその裏側にある。MB.OSは、ハードウェアとソフトウェアを完全に分離したチップ・トゥ・クラウドアーキテクチャを採用し、「インフォテインメント」「自動運転」「ボディ&コンフォート」「ドライビング&チャージング」という4つの主要ドメインを統合的に制御する。自動運転を支えるコンピューターは、毎秒最大254兆回という人間の理解を超えた演算処理能力を持つ。
ヴォルヴェーバー氏が強調したのは、「マルチエージェント・アプローチ」を採用した新しいMBUXバーチャルアシスタントだ。Googleの地図データとメルセデス独自のUI/UXが統合されたナビゲーションシステムは、MicrosoftのAI技術とも密接に連携している。3種類のアバターから選べるAIは、単なる音声コマンドの域を脱し、会話の文脈を理解する短期記憶機能を備えているという。車が単なる移動手段から、有能な執事へと進化した瞬間だ。OTA(Over-the-Air)アップデートにより、購入後も車は常に最新の状態に保たれる。スマートフォンが車輪を持ったと言うと陳腐に聞こえるが、MB.OSがもたらすのは、機械と人間とのシームレスな対話という新しい次元のラグジュアリーである。
もしあなたが、流麗なクーペスタイルよりもさらなる実用性を重んじるのであれば、「CLA Shooting Brake」という選択肢がある。荷室容量は最大1,295Lまで拡大し、週末にアンティーク家具を買い込み、そのままハイウェイを駆け抜けることだって可能だ。
モデルラインナップと価格:1.5Lガソリンモデルと、限定車「Launch Edition」
さて、気になる日本市場でのモデルラインナップと価格だ。今回発表され、すでに発売が開始されているのは以下の1.5L直列4気筒エンジン+48Vハイブリッドシステムを搭載したガソリンモデルである。
* CLA 180:5,980,000円
* CLA 220:6,870,000円
* CLA 180 Shooting Brake:6,210,000円
* CLA 220 Shooting Brake:7,100,000円
さらに、新型CLAの登場を記念した特別仕様車「Launch Edition」が設定された。CLA 180 Launch Edition(6,990,000円)は、通常モデルにはないゴールドアクセントの専用19インチAMGアルミホイールや、AMGラインプラス、ナイトパッケージを装備。MBUXスーパースクリーンも標準で奢られており、350台の限定販売となる。
なお、すでに予約注文の受付が開始されたEVモデル(CLA with EQ Technology)のメーカー希望小売価格は以下の通りだ。
* CLA 200 with EQ Technology:6,680,000円
* CLA 250+ with EQ Technology:7,750,000円
* CLA 200 Shooting Brake with EQ Technology:6,910,000円
* CLA 250+ Shooting Brake with EQ Technology:7,980,000円
驚異的な航続距離とパフォーマンスを誇るこれらのEVモデルには、最大98万円のクリーンエネルギー自動車導入促進補助金が適用可能となっている。
ガソリンから始まる、メルセデスの新たな黄金時代
南青山での丸一日にわたる発表会と技術説明会を経て確信したのは、新型CLAが単なるフルモデルチェンジではなく、メルセデス・ベンツの次の140年を決定づけるマイルストーンだということだ。
確かに、航続距離771kmを誇るEVモデルが最初から日本に導入されないことは、電動化の波を待ち望んでいた層には少しばかり焦らされる展開かもしれない。しかし、裏を返せば、新開発の1.5Lガソリンエンジン「M 252」と電気モーター内蔵の8F-eDCTがもたらす極めて洗練された内燃機関の走りを、誰よりも早く味わえる特権を与えられたということだ。
「Sensual Purity」を体現した息を呑むようなデザイン、スーパーコンピューター並みの知性を持つMB.OS、そして鉄壁の安全性。これらはすべて、パワートレインがガソリンであろうとEVであろうと、等しく享受できる新型CLAの真価である。まずはこのガソリンモデルのステアリングを握り、メルセデスが持てる技術のすべてを注ぎ込んだ「MMAプラットフォーム」の仕上がりを徹底的に味わい尽くすことにしよう。公道での試乗が叶い次第、そのドライブフィールの真髄を真っ先にお届けするつもりだ。
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