ファッション界の巨匠ジョルジオ・アルマーニと、イタリアの国民的愛好車フィアット 500eが奇跡の融合を果たした。「ジョルジオ アルマーニ コレクターズ エディション」は、単なる移動手段を超えた走るオートクチュールだ。都内から房総の絶景へ向かう高速&ワインディングで、その洗練された走りとワンペダルドライブの真価を解き明かす。
走る仕立て服――ミラノのランウェイから首都高へ
世の中には、不釣り合いに見えて完璧な組み合わせというものが存在する。たとえば、エスプレッソとグラッパ、あるいはタキシードを着た街頭の乱闘だ。そして今、目の前にあるこの小粋なイタリアンEVもまた、そのリストに名を連ねるべき存在かもしれない。
フィアット 500e ジョルジオ アルマーニ コレクターズ エディション。
車名を聞いただけで、思わず背筋を伸ばし、ジャケットのラペルを整えたくなる。イタリアが誇るファッション界の帝王「ジョルジオ アルマーニ」と、トリノの路上を何世代にもわたって支配してきた国民的アイコン「フィアット 500」が手を組んだのだ。価格は6,759,950円。この小柄なボディに600万円オーバーのプライスタグが付いていると聞けば、英国の意地悪な評論家なら「服に金をかけすぎて中身を買うのを忘れたのか?」と毒を吐くかもしれない。
だが、現車を一目見た瞬間、その皮肉は喉の奥で氷解する。
光の当たり方で深みを変えるダークグリーンやセラミックグレージュのマット塗装は、まるで上質なシルクウールのようにボディラインを包み込んでいる。17インチの専用アルミホイールには「GA」のイニシャルが整然と刻まれ、まるで極上のカフリンクスのように足元を引き締める。ドアを開ければ、繊細なステッチが施されたエコレザーシートが広がり、キャビン全体が「上質なテーラーのサロン」そのものの香りと空気を放っているのだ。
だが、我々はファッション誌の編集者ではない。「トップギア ジャパン」のステアリングを握る者として確かめたいのはただ一つ――この美しいスーツを着たダンディは、路上の現実において本物の走りを披露してくれるのか、ということだ。
東京のコンクリートジャングルを抜け出し、東京湾アクアラインを渡って千葉県かずさアカデミアホール周辺の起伏に富んだコースを目指す。試乗の火ぶたは切って落とされた。
都会の喧騒を切り裂く「静かなるスプリント」
東京の街中は、ドライバーにとって精神の訓練場のようなものだ。無謀なタクシー、急に飛び出してくる配達の自転車、そして永遠に終わらない工事現場。しかし、フィアット 500eのコックピットに身を沈めると、外界の狂気が嘘のように遠のく。
エンジンを始動する——いや、正しくはシステムを起動する——と、そこには静寂だけが横たわっている。アクセルペダルを軽く踏み込んだ瞬間、内燃機関(ICE)が経験したことのない質の「力」が立ち上がる。
最高出力87kW(118ps)、最大トルク220Nm。
数値だけを見れば、現代の超ハイパワーEVに慣れきった頭には地味に映るかもしれない。しかし、わずか1,330kgの軽量な車体に、踏み込んだ瞬間から最大トルク220Nmが立ち上がる電動モーターのレスポンスが組み合わさると、話は別だ。信号が青に変わると同時に、まるで巨大なパチンコ玉のようにスーッと滑らかに、かつ強烈にダッシュする。
全長3,630mm、全幅1,685mmというコンパクトなサイズ感は、都内の狭い路地や複雑な交差点で無敵の強さを発揮する。最小回転半径はわずか5.1m。少しでも隙間があればスイスイと泳ぐようにすり抜けられる。この小回りの良さと、瞬時に立ち上がるトルクの組み合わせは、まさに都会のサバイバルナイフだ。
そして、街乗りにおいて何より魅力的なのが、この車のドライブモード設定の「シンプルさ」である。
近頃の高級EVと来たら、どうだ。サブメニューの奥底に隠された「サスペンションの減衰力」だの「ステアリングの重さ」だの「擬似エンジン音の種類」だのを10段階で調整させようとする。ドライバーは運転する前にITエンジニアの資格を取らなければならないのかと思うほどだ。
しかし、500eは違う。用意されたモードは「Normal」「Range」「Sherpa」のわずか3つ。この潔さ、これこそがイタリアン・エレガンスの真骨頂である。複雑な設定など不要、走りたいように走ればいいのだ。
アクアラインでの高速巡航――安定感とワンペダルの愉悦
首都高を抜け、東京湾アクアラインへと滑り込む。海底トンネルから海上へと抜けるストレートで、500eの高速スタビリティを試す機会が訪れた。
床下にバッテリーをぎっしりと敷き詰めた低重心構造と、2,320mmという短いホイールベース。このレイアウトは、高速道路において独特の走り心地を生み出す。トレッドに対して低重心であるため、横風にあおられやすいアクアラインの橋の上でも、地面に吸い付くようなドッシリとした安定感を見せるのだ。
100km/hでの巡航時も、静粛性は極めて高い。もちろん、エンジン音が一切存在しないため、わずかなロードノイズや風切り音は耳に届くが、それは心地よいクージングのBGMに過ぎない。キャビンを覆う高級感のある素材が、余計な不快音を優しく吸い取っている印象だ。
ここで、ドライブモードを試してみよう。
一般道から高速に至るまで、筆者が最も感銘を受け、かつ「これぞEVの醍醐味」と確信したのが「Range(レンジ)」モードだ。
このモードを選択すると、回生ブレーキが強力に働き、完全なワンペダルドライブが可能になる。アクセルペダルから力を抜くだけで、まるで目に見えない巨大な手がリヤバンパーを優しく、しかし確実に引っ張るかのように减速していく。首都高の入り組んだコーナーや、アクアラインでの車間距離調整において、ブレーキペダルに足を付け替える回数が激減するのだ。
アクセルペダルの微妙な踏み加減ひとつで、加減速をミリ単位でコントロールできる感触。これは単なる省エネ機能ではない。車とドライバーの意思がダイレクトに同期する、極上のドライビングプレジャーなのだ。アルマーニのテーラードスーツが体に吸い付くようにfitするように、ペダルワークが走りと完璧に一体化する。
一方で、「Normal(ノーマル)」モードに切り替えると、ガソリン車から乗り換えても一切違和感のない、自然なコースティング(空転走行)感覚が得られる。アクセルを離してもスーッと伸びやかに転がっていくため、高速道路で一定のペースを保ちたい時には非常に快適だ。
そして、もう一つのモードが「Sherpa(シェルパ)」である。
このモードのネーミングセンスには脱帽するしかない。ヒマラヤの過酷な山道をガイドするシェルパの名を冠したこのモードは、まさに「危機的状況を生き残るための最終兵器」だ。航続距離が残り少なくなり、次の充電スポットまで何としても辿り着かなければならない時に起動する。
システムを「Sherpa」に入れると、最高速度は80km/hに制限され、アクセルレスポンスは穏やかになり、エアコンやシートヒーターまでもが容赦なく強制停止される。要するに、「快適性はすべて捨てろ、とにかく生きて目的地に辿り着け」というスパルタンなモードなのだ。
真夏の猛暑日にこのモードを入れるのは少し勇気が要るが、この極限の省エネ思想すらも、どこか愛おしく思えてくる。無駄なモードを排し、「普段使いのノーマル」「官能的なワンペダルのレンジ」「生還のためのシェルパ」という明確な役割分担。このシンプルさこそ、ドライバーに対する最高の親切設計と言えるだろう。
かずさのワインディングで見せた、イタリアン・スポーティの血脈
木更津タワーを越え、目的地である千葉県かずさアカデミアホール周辺の丘陵地帯へと足を進める。ここには、適度な高低差と緩急が織りなすワインディングロードが広がっている。
「アルマーニの服を着たEVが、ワインディングで何をするんだ?」
そう思うかもしれない。しかし、忘れてはならない。どれほど高級ブランドを羽織っていようと、この車のルーツはイタリアなのだ。イタリア人が作る車が、曲がりくねった道で退屈なはずがない。
コーナーの手前で「Range」モードの強烈な回生ブレーキを利用して荷重をフロントに乗せ、ステアリングを切り込む。205/45 R17のタイヤがしっかりと路面を捉え、ノーズがクイッとコーナーの内側を向く。
重いバッテリーを床下に積んでいるおかげで、ロールは驚くほど最小限に抑えられている。短いホイールベース特有のクイックな挙動と、低重心による高い限界性能。まるで、良質なゴーカートに乗っているかのような錯覚に陥る。
コーナーのクリッピングポイントを過ぎ、立ち上がりでアクセルを踏み込む。間髪入れずに220Nmのトルクが立ち上がり、後ろから背中を押されるように加速していく。ガソリン車のようにギアチェンジのタイムラグもなければ、エンジンの回転数が上がるのを待つ必要もない。踏んだ瞬間に、欲しいだけのパワーが手に入る。
この感覚は、まさに「タキシードを着たスポーツ選手」だ。外見はどこまでも優雅で高貴でありながら、一歩コーナーに飛び込めば、身軽なフットワークで路面を蹴り上げていく。
もちろん、サーキットを爆走するようなスーパーカーではない。限界を超えればタイヤが「キュキュッ」と悲鳴を上げ、アンダーステアが顔を出す。しかし、日常のスピード域でこれほどまでに軽快で、ドライバーを笑顔にしてくれるホットハッチ的な要素を秘めているEVが、果たして他にどれだけあるだろうか。
街に溶け込み、日常を特別に変える魔法
かずさアカデミアホールのモダンな建築の前に、フィアット 500e ジョルジオ アルマーニ コレクターズ エディションを停めてみる。
ガラス張りの建物と、独特のマットカラーを纏ったボディラインが見事に調和している。単に移動の道具としてそこにあるのではなく、まるで設置された現代アートのようだ。
車内に戻り、改めて細部を観察する。
ダッシュボードに配された木目調の緻密なパターン、シート背面に刻まれたアルマーニのロゴ、そしてドアを開けた時に足元を照らす専用のウエルカムライト。それらすべてが、「この車に乗っている」という事実だけで所有者の満足感を満たしてくれる。
実用性の観点から言えば、後席は大人2人が長距離を過ごすには少し狭いし、荷室容量も旅行用スーツケースを何個も飲み込めるわけではない。急速充電のCHAdeMOアダプターを介した充電プロセスには、少しばかりの儀式的な作法(正しい順番で接続しないとエラーが出るなど)も必要だ。
だが、そんな細かい指摘は、この車の前では野暮というものだろう。
フィアット 500という車は、半世紀以上にわたって「サイズは小さくとも、人生を豊かに彩る」ことを証明し続けてきた。そして、そのスピリットはEVになっても、アルマーニの魔法がかかっても、何一つ失われていない。
むしろ、電動化されたことによって「静けさ」と「瞬発力」という新たな武器を手に入れ、都市型モビリティとしての完成度は極限に達したと言える。
単なるプレミアムEVではない、所有する「美学」
フィアット 500e ジョルジオ アルマーニ コレクターズ エディションは、万人向けの車ではない。
676万円という価格を出せば、もっと大きくて、航続距離が長くて、家族全員がゆったり乗れるSUVのEVが買えるかもしれない。合理性とコストパフォーマンスだけを電卓で弾く人間なら、迷わずそちらを選ぶだろう。
だが、この車を選ぶ人は、スペックシートの数字を買うのではない。
ミラノの洗練されたセンス、イタリアの伝統的なクラフトマンシップ、そしてEVという未来のテクノロジーが織りなす「特別な時間」を買うのだ。
都内の狭い路地をスイスイと走り抜け、高速道路ではワンペダルドライブで優雅にクルージングし、週末には郊外の美しいワインディングでちょっとしたスポーティな走りを楽しむ。そして何より、駐車場に停めた我が子を振り返った時、その美しさに思わず微笑んでしまう。
効率主義が支配する現代の自動車界において、これほどまでに「粋(いき)」を感じさせる車が他にあるだろうか。
フィアット 500e アルマーニは、単なる移動手段としての電気自動車ではない。あなたの日々をエレガントに仕立て直してくれる、最高の「走るオートクチュール」なのだ。
写真:上野和秀
フィアットが気になった方へ
中古車相場をチェックする在庫車多数ガリバー
![]()
今の愛車の買取価格を調べる カーセンサーで最大30社から一括査定
![]()
新車にリースで乗る 【KINTO】



