ゲルマン的合理性が支配するプレミアムコンパクト市場に、フランスから一石が投じられた。「移動を芸術にする」と豪語するDS N°4 ETOILE HYBRIDの、華麗なドレスの下に隠された真の実力を剥がしていく。
ゲルマン的合理性への華麗なる反逆
Cセグメントのハッチバック市場は、いつからこれほどまでに退屈で予測可能な場所になってしまったのだろうか。駐車場を見渡せば、アウディA3、BMW 1シリーズ、メルセデス・ベンツ Aクラスといった、定規で引いたように隙のないドイツ勢がずらりと並んでいる。彼らは確かに優秀な工業製品だが、そこには血の通った情熱や、振り返って二度見したくなるような色気が欠けている。
そこにフランスから、一台のアバンギャルドな刺客が送り込まれた。「DS N°4 ETOILE HYBRID」(6,250,000円)である。興味深いことに、DSオートモビルはこのモデルから、名称を単なる「DS 4」から、本質的な美しさや秩序、品格を意味する「N°(ナンバー)」を冠した「N°4」へとアイデンティティを刷新した 。彼らが声高に掲げる「French Art of Travel(フレンチ・アート・オブ・トラベル)」という理念は、移動という行為を単なるA地点からB地点への空間移動ではなく、「芸術の域」にまで高めるという大それた宣言である。
派手なドレスの下に隠された、したたかな実力
このファッショナブルで自意識過剰なほどフランス的な外観の奥底に、彼らがいかなる内臓を隠し持っているのかを見てみよう。
かつての主力であった1.5Lディーゼルエンジンは静かに退役した。新たにその心臓部に収まったのは、1.2L直列3気筒ガソリンターボエンジンに、15kWの小型電動モーターと0.9kWhの48V駆動用バッテリーを組み合わせた新世代のマイルドハイブリッドシステムである。6速デュアルクラッチトランスミッションに内蔵されたこのモーターは、システム合計145psという出力を叩き出し、発進や加速時に的確なアシストを行う。
結果として、ゼロから100km/hまでの加速タイムはディーゼル時代の10.9秒から9.5秒へと劇的に短縮され、高速道路の合流で必要となる中間加速も格段に鋭さを増した。しかし、真に驚くべきはパフォーマンスではない。このシステムの恩恵により、WLTCモードで20.1km/Lという、ドイツのプレミアムライバルたちを涼しい顔で出し抜くクラストップレベルの燃費性能を手に入れたのだ。
足元に目を向けると、このフレンチ・ロジックのしたたかさがさらに理解できる。装着されているのは、深みのある光沢をまとった新デザインの19インチ “LIMA” アロイホイールだ 。しかし、そこに組み合わされるタイヤは205/55 R19という、大径ホイールに対してあえて「細身」のサイズが選ばれている 。必要なグリップを確保しつつ、空力性能の向上と転がり抵抗の低減を狙うという、実に理にかなったアプローチである。
「サヴォア・フェール」と共有パーツのジレンマ
重厚なドアを開け、ブラックのアルカンターラ素材で仕立てられた高密度フォームのフロントシートに腰を下ろす。ドアトリムやエアベントに施されたピラミッド型の「クル・ド・パリ」パターンの金属装飾を撫でてみると、フランスの伝統的な匠の技である「サヴォア・フェール」の美学が、この車内に見事に息づいていることがわかる。
実際に走り出してみると、先代モデル以上にモダンに洗練された空間と、外界のノイズをきっちりと遮断する際立った静粛性の高さに驚かされる。モーターのアシストによる出足の滑らかさも相まって、市街地での振る舞いは極めてエレガントだ。
だが、トップギアの編集者として、少しばかり意地悪な視点を持たせてもらおう。この華やかなドレスを少しめくってみると、実はプジョー308やヴォクスホール・アストラと同じプラットフォームが隠れているという事実が、ふとした瞬間に透けて見えてしまうのだ。ステアリングスイッチなどの一部の部品に触れた際、価格に見合わない大衆車の骨格を感じてしまうのは惜しい。
完璧なアシと引き換えに得たもの
高速道路を降りて少し荒れた一般道に入ると、N°4は先ほどの優雅なクルージングから一転し、少しばかり落ち着きのない挙動を見せ始めた。大径ホイールを履いている影響もあるが、何よりも先代モデルで絶賛されていたカメラベースの路面検知システム「Active Scan Suspension」が採用されていないことが悔やまれる。路面のうねりを完全にフラットにいなす魔法の足回りは、失われてしまったようだ。
しかし、その少しばかりの硬さを補って余りある実用的なサプライズがリアに用意されている。このクーペのように流麗で短いオーバーハングを持つボディからは想像もつかないが、トランクを開けるとそこには430リットルという広大な荷室が広がっているのだ。デザインを優先したハッチバックでありながら、積載性においてアウディA3やBMW 1シリーズを凌駕しているという事実は、なんとも痛快ではないか。
機能美ではなく「美機能」を選ぶという知的な選択
DS N°4 ETOILE HYBRIDは、完璧な車ではない。ドイツ車のようにニュルブルクリンクで鍛え上げられた足回りを持っているわけでもなければ、すべてのスイッチ類が工芸品のように設えられているわけでもない。
だが、この車は自意識過剰なほどフランス的であることを決して恐れていない。機能からデザインを導き出す「機能美」の退屈さに対し、美しさそのものが機能となる「美機能」という新たな価値観を、Cセグメント市場に強烈に提示しているのだ。駐車場に停めた後、思わず振り返ってその姿を眺めたくなるプレミアムコンパクトが、今の時代にどれだけあるだろうか。
そして、我々は忘れてはならない。DSオートモビルの真の野心は、このN°4のさらに先にあるということを。ステランティスグループの最新技術の粋を集めた、完全電動の真の王者「N°8」が、まもなくその全貌を現そうとしている。
N°4が我々に提示した「フレンチ・アート・オブ・トラベル」の片鱗は、次なるフラッグシップがもたらすであろう究極のラグジュアリーに向けた、見事なプレリュードに過ぎないのかもしれないのだ。
写真:上野和秀
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