英国本国のトップギア誌において「2025年 ファミリーカー・オブ・ザ・イヤー」の称号をやすやすと掻っ攫ったKia PV5が、ついに日本上陸を果たした。絶対的王者のVW ID. Buzzを過去の遺物へと追いやったこの革新的なモジュラーEVバンは、保守的な日本の市場をどう切り拓くのか。その野心的な販売戦略と、自動車工学の粋を集めた車両の全貌に迫る。
英国が震撼した「ゲームチェンジャー」の正体
商用バンについて語ることは、往々にして、イギリスのどんよりとした日曜日の午後のように退屈なものだ。ただの四角い箱に車輪が生えただけの、純粋な実用主義の産物。しかし、時折その退屈な箱の中に、自動車業界のヒエラルキーを根本からひっくり返すような傑作が誕生することがある。Kiaの「PV5」は、まさにその稀有な例だ。
本国イギリスのTop Gear本誌において 、このKia PV5は「ファミリーカーオブザイヤー」の栄誉に輝いている。日本では、2026/1/31発売のトップギア・ジャパン 071で同様の記事を展開した。担当したジャック スカーレットの原稿を読んだとき、私は思わず口に含んだアールグレイを吹き出しそうになった。なにせ、我々が愛してやまなかった2022年のEVオブザイヤー獲得車 、あのVW ID. Buzzを指して、「今あえてVWを買うのは、公平に見て、少しどうかしている」とまで言い放ったのだから。
ジャックによれば、PV5最大の武器はその「レゴブロックのようなモジュール構造」にあるという。無限の可能性を秘めており、冷蔵ユニットにも、ピックアップベッドにも、あるいはアイスクリームバンにさえ姿を変えられる。しかし、最も我々の関心を惹くのは5席、6席、あるいは7席を備えるパッセンジャー仕様だ。デザインはレトロクールなBuzzに対し、「フューチャーフレッシュ」な造形で拮抗しつつ、効率性で上回り、そして何より価格設定でドイツ勢を完全に粉砕している。その価格差は実に2万ポンド以上(400万円!)にも及ぶのだ。
走らせても素晴らしい。51.5kWhのバッテリーに120bhpのモーター、あるいは71kWhに160bhpのモーターという前輪駆動の構成は 、巨大なグラスハウスと、ふかふかのキャプテンシートが備わる最前列を特別な空間に仕立て上げている。まるで船の舵を握るかのような見晴らしの良いドライビングポジションと 、豪華な乗り心地が備わっているのだ。もちろん、インテリアの素材は高級というより実用的で、ハードに使い倒せてサッと拭き取れる類のものだが 、シリアスな仕事もこなすバンとしての素性を考えれば、極めて真っ当な選択だ。
唯一の弱点は、他の電動Kia車に見られる800Vではなく400Vプラットフォームに留められた結果、急速充電が150kWに制限されていることだが 、その信じられないほどの低価格を前にすれば些細な問題にすぎない。長距離モデルでさえ35,995ポンドという価格設定は 、VWの価格差を考えれば、週末用に別の「おかしな車」をもう一台買えてしまうほどだ。
徹底的な合理性と「多品種少量生産」の極意
さて、場面を東京に移そう。2026年5月13日。Kia PBVジャパンの設立と、この黒船の日本上陸を告げる発表会だ。
Kia Corporationのキム サンデ副社長が登壇し、彼らの恐るべき野望、もとい「PBV(Platform Beyond Vehicle)」戦略の全貌を明らかにした。
「PBVは単なる移動手段を超え、B2Bのお客様のビジネスに具体的な価値を提供することに焦点を当てています。Kiaが今日発表するPBVは、日本におけるモビリティの未来を実現するプラットフォームです。我々は短期的な利益を追求するのではなく、今後30年以上にわたり、日本市場と長期的な関係・信頼を築くことに焦点を当てています」
彼らの本気度は、韓国に建設された世界初のPBV専用工場「EVOプラント」に表れている。イタリア車の電装系に運命を託すようなロマンティシズムはそこには一切ない。あるのは、冷徹なまでに洗練された最先端のロボティクス技術だ。従来の画一的なコンベア方式を捨て去り、顧客の多様なニーズに応える「多品種少量生産」に最適化されたセル生産方式を採用。これにより、年間最大25万台という途方もない生産能力を確保しつつ、多彩なボディバリエーションを効率よく生み出すエコシステムを完成させているのだ。さらに、将来的には「PV7」や「PV9」へとラインナップを拡大し、グローバルな物流業務から大規模輸送までをカバーしていくというから恐れ入る。
「SMART」がもたらす、日本の商用車革命
では、ここ日本ではどう戦うのか。双日株式会社との強力なパートナーシップのもと 、Kia PBVジャパンの田島靖也社長がマイクを握る。
「現在日本におけるEVの普及率は3%と、さらなる普及が求められております。とりわけPBVのような商用車の選択肢はさらに限られています。PBVが日本における『EVバンのデファクトスタンダード』となることを目指します。EVバンと言えばPBV、と広く認識いただけるよう、製品とサービスの品質に磨きをかけてまいります」
持ち込まれる第1弾「PV5」の価格設定も、欧州での衝撃そのままにアグレッシブだ。乗用モデルの「パッセンジャー」が679万円から、物流向けの「カーゴ」が619万円から。さらにカーゴは最大196万4,000円もの事業用補助金対象となるため、実質400万円台前半で手に入る計算だ。カーゴのロングレンジモデルなら一回の充電で528kmを走破するというから、日本の物流網における「航続距離の不安」など、見事に払拭されている。
彼らが掲げる車両のコアコンセプトは「SMART」だ。
Silent Mobility(静かな走行):EVならではの静粛性に加え、リアサスペンションにトーションビーム式コイルスプリングを採用。快適な乗り心地がドライバーの疲労を軽減し、早朝や夜間の市街地でも騒音を抑えた運行が可能だ。
Modular Expansion(架装・アクセサリーによる拡張性):国内の架装メーカーとの連携を推進し、用途に応じた最適な仕様構築を実現する。
Accessible Low Floor(アクセスが容易な低床構造):フラットな低床フロアが、荷物の積み下ろし負担を劇的に軽減し、子どもから高齢者までの乗降もスムーズにする。
Roomy Interior(広い車内空間):専用EVプラットフォームの恩恵で、乗用仕様では大人5人が快適に座れ、カーゴ仕様では大容量でフラットな荷室を確保。
Total Safety(総合的な安全性能):先進運転支援システム(ADAS)を標準装備し、多方向展開エアバッグと高剛性ボディが衝突時の乗員を保護する。
物流企業にとってのカーボンニュートラル解決策となるだけでなく 、個人ユースにおける車中泊やキャンピングカーへの架装など、その広大な室内空間はまさに「走るリビングルーム」としてのポテンシャルを秘めている。
黒船は西東京からやってくる
もちろん、自動車ビジネスにおいて製品が良いだけでは成功はおぼつかない。充実した後方支援が不可欠だ。その点において、彼らは抜かりない。
ロードサイドサービスはプライムアシスタンスと提携してすでに稼働済みであり、BSサミット事業協同組合との提携により、高度なEV対応設備を有する全国50拠点以上を指定サービス工場として認定する予定だ。横浜には専用の部品倉庫まで構えている。品質管理においても、韓国から愛知県・豊橋港に陸揚げされた後、日本国内でPDI(出荷前検査)を徹底して実施するという。一般保証は5年/10万km、高電圧バッテリーは8年/16万kmと、安心感も申し分ない。
質疑応答で特に興味深かったのは、第1号店である「Kia PBV 東京西」の立地戦略だ。なぜ西東京市なのか ?
田島社長はこう答えた。
「東京の中でも輸入車やEVの浸透率が高いエリアであり、充電設備と親和性の高い戸建てにお住まいの方が多いこと。さらに、我々がPBVをお届けしたい個人事業主の方の割合が非常に高いことから、最適だと判断いたしました」
2026年度中には直営ディーラーの東京西に加え、厚木、町田、名古屋、三重、岡山、福岡にディーラーを開設し、年間1,000台の販売を計画しているという。
欧州市場において「2026年 インターナショナル・バン・オブ・ザ・イヤー」をはじめとする主要なアワードを総なめにし 、小型商用EV市場の9.0%というシェアを獲得した実績は伊達ではない。欧州のシビアな目を持つジャーナリストやフリート業者が認めた実力は、ここ日本という特殊で保守的な市場においても、極めて強力な武器となるはずだ。
「EVに変えたいけれども、自分たちのニーズに合うものがない」
そんな切実な悩みを抱える日本の事業主たちにとって、そして週末の家族旅行を最高にスマートに演出したいガジェット好きのお父さんたちにとって、この韓国からやってきたモジュラー式EVバンは、完璧な最適解になるかもしれない。少なくとも、退屈だったバンの世界に、最高にエキサイティングな嵐が吹き荒れようとしていることだけは確かだ。
写真:上野和秀
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