タント、キャンバスと何が違う? 新型ムーヴが「スライドドア」で示す“軽の最適解” ダイハツ再起を懸けた一手、その戦略とは

ダイハツの基幹車種「ムーヴ」が、ついにフルモデルチェンジを果たした。最大の注目点は、利便性の高い「スライドドア」の初採用だ。スーパーハイト系が主流の市場で、タントやキャンバスも擁するダイハツは、なぜムーヴにスライドドアを搭載したのか。その答えは、“子離れ世代”に照準を合わせた「万能なバランス」の追求にある。DNGAで磨かれた走行性能とデザイン、戦略的な価格設定。認証不正問題からの再起を懸ける“軽の決定版”の実力に迫る。

外車限定の車買取サービス【外車バトン】
エンジニアファクトリー

ダイハツが軽乗用車のムーヴをフルモデルチェンジし、発表会が行われた。これまで340万台以上を売り上げてきた新型ムーヴは、どのように進化しているのだろうか。グレードはL(2WD 1,358,500円/4WD 1,485,000円)、X(2WD 1,490,500円/4WD 1,617,000円)、G(2WD 1,716,000円/4WD 1,842,500円)、RS(TC)(2WD 1,897,500円/4WD 2,024,000円)となる。

ムーヴは歴史が古く、30年前の1995年にこれまでにない広い室内のRV車として誕生し、軽ワゴンというマーケットを確立した。2代目は1998年に登場し、軽新規格に合わせ衝突安全性能を大きく進化させる。2002年の3代目では広さと内外装の質感を高め、世界初のインテリジェント触媒などを取り入れた。2006年の4代目は流麗なワンモーションシルエットに生まれ変わり、新エンジンとCVTを採用し、低燃費と運動性能を両立させた。2010年の5代目は「TNP27」というフレーズで登場し、2012年のマイナーチェンジで軽自動車に初めて予防安全装備スマートアシストを搭載。2014年の6代目では基本性能を大幅に進化させた。

ムーヴは基幹車種として30年にわたり、累計販売台数340万台を超え、多くのファンに愛されてきた。一方で、この30年で軽自動車を取り巻く環境は大きく変化してもいる。タントの登場以降、スーパーハイト系が主流になり、それに伴いスライドドアが定番アイテムとなった。また、ユーザー層も変化し、軽ファミリーカーの役割がスーパーハイト系へ移行し、ムーヴの主な購入層は子離れ世代にシフトした。

このような環境変化の中、ムーヴが長年愛されてきた理由は、「ちょうどいいサイズ感、性能、燃費、快適便利な機能装備、そして買い求めやすい価格」が高レベルでバランスしている点にあるとしている。フルモデルチェンジにあたり、このバランスの良さ、ムーヴらしさを継承・進化させながら、時代の変化に合わせて何を変えるべきかが開発スタートの大きな課題となった。

今回のターゲットは、多くの消費カルチャーを経験した目利きの世代、特に商品価値とコストのバランスに厳しく、合理性とこだわりのメリハリを持つ子離れ世代だと考えている。顧客の声の徹底調査と議論の結果導き出された答えは、「日常だけでなく、週末の遠出まで快適に楽しんで欲しい」という思いを込めた、「今の私にジャストフィット 毎日頼れる堅実スライドドアワゴン」である。

デザインコンセプトは「ムーヴらしく 動く姿が美しい」。端正で凛々しいデザインとし、機能とスタイルを両立させた質感高いデザインに徹底的にこだわった。エクステリアはフロントからリアに吹き抜けるキャラクターラインや特徴的なDピラーで躍動感を表現し、ムーヴらしい軽快さとスタイリッシュさにこだわった。フロント周りはグリルとヘッドランプをシームレスに組み合わせ、大胆かつ先進的に表現し、凛々しく単性な顔つきだ。インテリアはコックピット周りに見どころを凝縮し、小さい車らしい魅力を表現、安心して運転できるすっきりとした見晴らしの良さにこだわっている。素材やカラーリングで仕立ての良さにもこだわり、毎日を快適に過ごせる居心地の良い空間を実現した。RS、Gグレードでは落ち着いた質感の中に華やかさも表現している。カラーバリエーションは生活に馴染み長く使える定番色かつ、動く姿が美しく見える色を充実させ、2トーンカラーも加えた全13色を展開する。新色としてグレースブラウンクリスタルマイカを新たに加えた。さらに、個性引き立てるオプションを組み合わせたアナザースタイルとして、ダンディスポーツスタイルとノーブルシックスタイルも用意している。

走行性能も大きく進化させた。最新のDNGAを採用し、プラットフォームとパワートレーンを一新した。磨き上げたDNGAの高い基本性能をベースに、ムーヴ専用のチューニングにより、キビキビした加速感、安定した操縦性、優しい乗り心地で、街乗りから週末のお出かけまで快適にしてくれる軽快な走りを実現している。

また、最新の予防安全機能スマートアシストを搭載し、安心快適なドライブをサポートする。スタイリッシュなデザイン、優れた基本性能に加え、誰でも安全安心に乗り降りできるスライドドアを採用し、利便性も大きく向上させた。さらに、手の届きやすい収納や電動パーキングブレーキなども採用し、快適な移動をサポートしてくれる。

このように時代の変化に合わせ大きく進化させながら、売れ筋と考えているXグレードでは150万円を切る価格を実現し、多くの顧客に満足してもらえる車に仕上がったと自負している。

代表取締役社長の井上雅宏氏からは、ムーヴはダイハツにとって車作りを牽引する重要な車であり続けると述べた。定番となったスライドドアを採用した上で、顧客や時代が求める要素を凝縮し、お求めやすい価格で提供する新型ムーヴは、キャッチコピー「Move On」のように多くの人の心を動かす軽の決定版に仕上がったと考えている。ダイハツの原点である顧客ニーズに応える車作りを磨き込み、喜んでもらえる軽自動車を提供し続けていきたいと述べた。

質疑応答が行われた。
―今回の新型ムーヴが、認証不正問題を経てのダイハツ本格再スタートにおいて、事業全体にどういう影響を与えるのか?
(井上社長)「認証不正問題では皆様にご迷惑・ご心配をおかけしました。お客様、地域の皆様、仕入れ先、販売会社の皆様など、ステークホルダーの皆様に感謝申し上げます。今回の課題を通じ、ダイハツグループ、トヨタグループと助け合い、連携を密にしてワンチームで対応するベースができました。ダイハツは皆様の暮らしを豊かにできるよう、もっといい車を出すことが使命です。その意味で、本日の新型ムーヴはダイハツ再スタートの第一歩だと考えております。車作りに愚直に取り組み、正しい仕事を前提に、ダイハツらしい競争力を磨いていきたいです」
―今回スライドドアを採用されたが、軽自動車が多様化する中で、スライドドア採用はムーヴの販売台数増に向けた切り札となるか? また、キャンバスやタントなどスライドドア車がある中で、それらとの優位性や住み分けをどう考えているか?
(徳倉チーフエンジニア)「スライドドアが切り札になるかについて、現在の軽乗用車市場の保有台数は約1,000万台で大きく動いていません。スーパーハイト系へのシフトが進む中でも長期保有が進んでおり、この市場を大きく動かすために、今回のスライドドアが武器になると考えております。キャンバスとの住み分けについては、お客様のニーズが大きく違います。キャンバスはかわいらしいデザインが好評ですが、今回のムーヴは軽に求められる様々な要素を、販売価格も含めてバランスよく提供できる点で、お客様のニーズに応えられると考えております」

―売れ筋グレードはXとのことだが、RSやGグレードなど、グレード構成比の現状はどうか?(予約受注開始から1ヶ月の状況を踏まえて)
(福田営業CS本部長)「5月12日から先行受注を開始しています。想定ではXグレードが4割超を占めると見ていますが、現在足元の初期の受注状況では、上のGグレード、RSグレードが好調です。これは初期の動きかと思いますが、徐々にXグレードに落ちついていくと見ています。現在はRS、Gといったところが好評いただいている状況です。

―井上社長から「これからのダイハツに期待」との話があったが、どういったところにチャレンジしていきたいか? ムーヴに関して、リースや残価設定ローン等のサービスで新しい施策を行うか?
(福田営業CS本部長)「買い方、車の利活用が変化していますので、お客様のニーズに合わせたメニューで対応しようと考えています。ダイハツには「Wアップクレジット」という残価設定ローン商品があり、これを活用しながら、お客様の買い方に合わせた売り方でしっかり対応していくのが営業の責任です」
(井上社長)「世界の自動車産業を取り巻く環境は厳しくなっています。その中で、ダイハツが得意とする軽を起点とした小さな車は、中長期的に世界の時代のニーズに合っていると思います。カーボンニュートラルは待ったなしであり、脱炭素は進めざるを得ませんが、この小さな車を良品廉価で作れるダイハツの力、ポテンシャルを、特にこれからの新興国で強く感じています。日本がマザーマーケットとしてここでしっかりやるのは大前提ですが、それを起点にポテンシャルを発揮していきたいという強い思いがあり、「ご期待ください」という言葉にさせていただきました」

―今回初採用のスライドドアは利便性を増したが、一方でムーヴらしさであるスタイリッシュな部分も残されていると感じる。その辺りの思いを聞かせてほしい。
(徳倉チーフエンジニア)「スライドドアは利便性が高いと認識していますが、軽自動車の枠の中で設定するのはデザイン自由度に制約を与える装備です。ここは今回の企画で最も苦労した点です。歴代ムーヴは時代に合わせて流麗なスタイルへと進化してきており、多くのお客様からスタイリッシュさを評価いただいています。本当にデザイナーと設計で、1mmにこだわってかっこいいデザインを追求しました。開発中に「動く姿が美しい、単性で凛々しいデザイン」というキーワードが生まれた時、パッとピースがはまったと感じ、そこからは一気に開発が進みました。思いを伝えるのは難しいですが、そこは非常にこだわってやりました」

―競争が激化する軽自動車市場、特に中国からの参入もある中で、ダイハツこそを選んでもらうための価値、提供できるもの、体験価値のようなものは何か?
(井上社長)「ダイハツが提供できる価値は何かという質問ですね。ダイハツがこれまでに発売し、お客様に愛され、日本の景色を変えたと言える車として、ミゼット、初代ムーヴ、タントがあります。海外でも、インドネシアでトヨタと出したセニア・アバンザは新しいカテゴリーを作り、現地の景色を変えました。ダイハツは、お客様の声を聞き、失敗(試行錯誤)を繰り返しながらも、「これだ」という車を出せる力があります。これが強みだと考えております」

―新型ムーヴの魅力、特に力を入れた点(バランス以外で)は何か?
(徳倉チーフエンジニア)「ムーヴの魅力、力を入れた点ですね。バランスは一番大事にしていますが、特に見てほしいのはスタイリングです。これまでにないかっこいいスライドドア車ができたと自信を持っています。もう一つは走行性能です。今回DNGAを採用していますが、2019年のタントから導入後熟成を重ねており、今回のムーヴはDNGAの集大成と位置づけています。ぜひ実車にお乗りいただいて確認していただきたいです」

―軽EVについての考え方は? 認証不正問題で取り組みがストップした感があるが、中国BYDのような競合の動きをどう見ているか? ダイハツとしての投入準備や国内市場の今後の動きをどう考えているか?
(井上社長)「ダイハツはマルチパスウェイを進めていかねばならず、軽のEVは重要な選択肢の一つだと思っております。BYDの参入も報道されています。詳しいことは全て分かりませんが、お客様の視点で新たな選択肢が増えることは大変良いことだと思いますし、競争者が増えることは厳しいですが、切磋琢磨してより良いものを作っていくという100年以上の経験があります。軽は車が軽く小さく、炭素排出量が少なく物を運べるポテンシャルがあり、軽と電動車の組み合わせは相性が良いことは間違いありません。その選択肢は重要であり、開発を進めることに変わりはありません」

―電動化や知能化、自動運転、AI活用といった最新技術分野の開発・技術連携について、トヨタの協力がメインになるのか、ダイハツ独自で準備しているもの、今後のアライアンスで対応していくものはあるか?
(井上社長)「ご指摘の通り、ダイハツが軽で提供する良品廉価と、自動運転、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)といった領域はかなり距離があります。ですので、トヨタグループの中で、開発や研究が滞らないよう、領域を分けて情報共有しながら進めております。人材交流も進めており、トヨタからダイハツへエンジニアが来たり、ダイハツから派遣したりして、物作りの技術交流もできる連携を進めています。具体的には申し上げられませんが、1人や2人ではなく100人単位で交流が進められており、今後は国内だけでなく海外でも進めていくことになると思います。グループシナジーの最大化を追求していくということになるかと思います」

―6代目から7代目まで発売間隔が長かったこと、認証不正問題で開発がストップしたことの影響で、顧客が他社に流出した懸念はあるか? 7代目のムーヴ投入でどう顧客を取り戻し、拡大させていくか?
(井上社長)「届け出問題の時、製造販売数は2~3割減少し、シェアも下がりました。他社ブランドに流れたお客様もおられると思います。しかし、販売会社と連携し、お客様を大きく失った実感はあまりありません。「ムーヴ待ってるよ」というお客様の声をたくさん聞きました。大変お待たせしたお客様に心から感謝申し上げます。今回のムーヴ提供で、待っていただいたお客様に新商品を提供し、他社へ流れたお客様にもまた興味を持ってもらえると考えています。そういう活動をしていきます」
(福田営業CS本部長)「営業現場の具体的な声として、この期間、販売会社の皆様と連携してきました。お客様から「ムーヴ待ってるよ」という声を本当にたくさん聞きました。これはお客様を繋いでくれた販売会社の皆様のおかげです。先行受注は目標の2倍以上の実績をいただいており、これは営業部門にとってすごく元気になる情報でした。このお客様の期待にしっかり応え、一台一台丁寧に届けることで、もう一度信頼を取り戻していきたいと考えています。まずこのムーヴで、再出発の元気さをアピールできたらと思います」

―2025年3月期決算で最終赤字・特別損失が出ている状況で、2030年までの電動化目標がずれることはあるか?(以前全EV化といった話もあったが)
(井上社長)「財務詳細の細かい数字は公表部分と非公表部分があるため、ご容赦ください。今後、電動化に向けて車の原価は上がる方向になります。安全性能、環境性能、コネクテッドの世界などが入ってくると、電池やデバイスがたくさん必要になるからです。ダイハツの車をお買い求めいただくお客様は良品廉価を求められるため、原価が上がった分をそのまま価格転嫁すると、お買い求めいただけないのではないかと、いつも議論しています。原価を下げる良い設計と、お客様の要求に見合った車を作ることを常に考えています。売り方も、キャッシュ、ファイナンス、リース、中古車トレードインなど、様々な組み合わせの中で良い商品をお届けしたいです。ただ、全体としてはいろんな意味で原価が上がってまいりますし、ダイハツが届けるようなお車については、収益的には難しい方向にいく。だから競争力を磨かねばならない、だからダイハツを伸ばさねばならないというのが、今の我々の経営方針です」

【エレクトリック アワード 2025】ロータス エヴァイヤ/ルノー 4, 5/R32電動化計画:トップギア・ジャパン 067

【tooocycling DVR80】
箱バン.com



トラックバックURL: https://topgear.tokyo/2025/06/76844/trackback

コメントを残す

名前およびメールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ピックアップ

トップギア・ジャパン 067

アーカイブ