キャンバストートに27万円!? グローブ・トロッターの新作が放つ、オーバースペックという名の英国的ユーモア

英国の老舗ラゲッジブランド「グローブ・トロッター」から、ブランドを象徴するセンテナリーコレクションの意匠を受け継いだ新作「センテナリーキャンバストートコレクション」が登場した。キャンバスの柔軟性とヴァルカナイズド・ファイバーボードの堅牢性を融合させたこのバッグは、日常のドライブから週末の小旅行まで、あらゆるシーンで活躍する。エンスージアストの助手席にふさわしい、その魅力をお伝えする。


クルマ好きという人種は、往々にしてオーバースペックなものを愛してしまう悲しい性を持っている。水深300mまで潜れるダイバーズウォッチ(大抵の着用者は風呂にすらつけたまま入らないというのに)や、月面まで到達可能なチタン製のボールペンなど、その機能の1%も使い切らないと分かっていても、そこに込められた「偏執狂的な職人技」や「異常なまでの耐久性」に大枚を叩いてしまうのだ。

そんな我々の心を、またしてもざわつかせるアイテムが英国から上陸した。1897年の創業以来、約130年にわたり世界中の旅人を支え続けてきた名門ラゲッジブランド、GLOBE-TROTTER(グローブ・トロッター)が放つ新作、「センテナリーキャンバストートコレクション」である。

グローブ・トロッターといえば、南極探検家のロバート・スコットからエリザベス2世女王、さらにはエディ・レッドメインやケイト・モスに至るまで、錚々たる著名人が愛用してきたことで知られる。イギリスのハートフォードシャー州にある工場で、ヴィクトリア朝時代から続く伝統的な製法と当時の機械を未だに使い続け、熟練の職人がハンドメイドでラゲッジを組み上げているのだ。それはまるで、最新のカーボンモノコック全盛の時代に、あえて鋼管スペースフレームを手溶接で組み上げ、キャブレターの吸気音を楽しむクラシックカーのレストア工房のような、ある種の狂気を孕んだロマンである。

そんな彼らが、日常使いを意識したキャンバストートバッグを作ったという。だが、安心してほしい。彼らは「ちょっとそこまでの買い物に便利な、ペラペラのエコバッグ」など作る気は毛頭ない。このバッグの底面には、グローブ・トロッターを象徴する絶対的素材「ヴァルカナイズド・ファイバーボード」がしっかりと敷き詰められているのだ。

ヴァルカナイズド・ファイバーボードとは、いわば英国トラベルケース界のラダーフレーム(梯子型フレーム)である。アルミよりも軽く、レザーよりも頑丈と言われるこの素材が底面を支えることで、キャンバストートにありがちな「荷物を入れると底がだらしなく沈み込む」という現象を完全にシャットアウトしている。しっかりとしたマチと安定感のある設計は、まるで低重心化を極めたスポーツカーのように、置いた瞬間の姿勢をピタリと決めるのだ。

一方のボディは、柔らかなキャンバス素材で仕立てられている。これはつまり、強靭なシャシーの上に軽量なソフトトップを組み合わせたオープンスポーツカーのような構造だ。ブランドのアイデンティティである構築的なレザーディテール(ケースのストラップを想起させる意匠)が、キャンバス生地をしっかりと補強するロールケージのように機能し、端正なフォルムを保ちながらも、キャンバスならではの心地よい抜け感を与えている。ハードケースのように「トランクの隅にあと1センチが入らない!」とパドックで発狂することもなく、ある程度は柔軟に形を変えてくれるのだ。

さて、気になるラインナップは4つのシルエットで構成されている。

まずは最も小さな「ミニキャンバストート」(W23.5 x H18 x D12.5 cm)。財布やスマートフォン、あるいはドライビンググローブを放り込むのに最適なサイズ感だ。しかし、この小さな空間に設定された価格は154,000円(税込)である。高級スポーツカーのカーボン製オプションパーツと見紛うばかりの強気なプライスタグだが、ヴィクトリア朝時代の機械でプレスされたファイバーボードの切れ端を持ち歩けると考えれば、適正価格……なのかもしれない。収納スペースが皆無に等しいケータハム・セブンなどの助手席足元に転がしておくには、これ以上の相棒はいないだろう。



続いて、書類などを入れるのにちょうど良い縦長のプロポーションを持つ「ノース・サウストート」(W27 x H35 x D12.5 cm)は231,000円(税込)。さらに、移動の多い日に最適な万能フォルムの「トロッターバッグ」(W45 x H29 x D19.5 cm)が253,000円(税込)である。



そして極めつけは、横長でゆとりのあるシルエットを採用した「イースト・ウエスト トート」(W44 x H35 x D12.5 cm)である。こちらの価格は堂々の275,000円(税込)だ。キャンバス地のトートバッグに27万円。正気の沙汰とは思えないかもしれないが、ロールス・ロイスのビスポーク部門が手掛けたピクニックセットや、フェラーリの純正ラゲッジセットを買うと思えば、むしろバーゲンセールに見えてくるから不思議だ。人間の金銭感覚とは、かくも環境によって容易にバグを起こすものである。

カラー展開は、控えめでタイムレスな2色が用意されている。グローブ・トロッターのヘリテージカラーをモダンに捉え直した「ナチュラル&グリーン」と、深みのあるトーンに日常に寄り添うあたたかみを加えた「カーキ&コーヒーブラウン」だ。どちらも泥臭さを一切感じさせない、英国の深い森や伝統的なカントリーサイドを思わせる上品なアースカラーに仕上がっている。ランドローバー・ディフェンダーやレンジローバーといった英国産SUVのレザーシートには、これ以上ないほど見事に調和するはずだ。

2026年9月より、全国のグローブ・トロッター店舗および公式オンラインストアにて販売が開始されている。

週末の小旅行、思い立ったあてのないドライブ、そしてその間にある退屈な日常のひととき。サーキットへ向かう早朝の渋滞の中でイライラを鎮めたいとき、ふと助手席に目をやれば、130年の歴史と狂気じみた職人技が凝縮されたこのトートバッグが鎮座している。それだけで、あなたの日常的な移動は、冒険家たちが挑んだ壮大なエクスペディション(遠征)へと姿を変えるのだ。

少なくとも、底面のヴァルカナイズド・ファイバーボードがあなたの荷物を重力と衝撃から守り抜くことだけは、南極の過酷な環境に挑んだ先人たちが証明済みである。キャンバストートに最高27万円を支払う勇気さえあれば、あなたもその歴史の一部に名を連ねることができるのだ。

トラックバックURL: https://topgear.tokyo/2026/09/95922/trackback

コメントを残す

名前およびメールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ピックアップ

トップギア ジャパン 074

アーカイブ